urifuji
2021-04-09 10:22:23
25395文字
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おかま騒動

誤解されまくった龍斗の怒りに巻き込まれる不運な仲間達。オールキャラです。息をするように双子主人公います。大体陰6話ぐらいの時の話。

 今思えば数日の平穏な日々は、嵐の前の静けさだったのだろう。
 
 山藤が咲き誇り、緑風が心地よく感じる季節。初夏の晴天が広がる本日は、大人も子供も外に出て仕事や遊びに精を出し日常を謳歌していた。
 その一方で晴れた天気など気にせず屋敷に籠り、話し合いをしているのは天戒、向雲、桔梗と、何やら幕府側の動きがありその調査結果を報告している嵐王の鬼道衆幹部達である。話を聞く終えた天戒は腕を組みなおし、顎に手を置き独り言のように唸った。

「ではやはり2通りの計画があるという事か……
「はい、若。どちらも秘密裏に計画されている様です」

 今回嵐王が仕入れた情報というのは幕府側が陸路、海路共に何かしらの大きな荷物を運ぶ予定があるという事だった。だが、どの経路を辿り、どこに行くのかということは分かったが、誰が、何の目的で、何を運ぶのかといった詳しい事は流石の嵐王でも分からなかったらしい。

「隠し事をしている上に、行く方法まで変えている事を考えると、何かそこまで重要なものが入っているのかね?」

 嵐王の話を聞き考え込む天戒の代わりに、桔梗が疑問に思ったことを話した。隣にいた向雲が深い息を吐き、坊主頭に手を添えトントンと軽く叩く。

「2通りということが何とも言えんな。どちらか囮か、はたまたどちらも重要なものなのか
「これだけの情報だと判断つかないねぇ」
「そうだな。だが、調べる必要はあるだろう」

 幹部たちが顔を見合わせ今後の事を話し合っていると、襖越し人の気配を感じた。声をかけようか悩んでいる様子から多分女中の一人だろうと判断し、桔梗は襖に向かって声をかける。

「誰だい?」
「お忙しい所申し訳ございません。桔梗様、弥勒様が屋敷に見えまして、頼まれたものを持ってきたので都合がいい時に言って欲しいとの事ですが……

 失礼しますと一言声を掛け襖を開けた女中は、部屋にいる鬼道衆幹部に向かって深々頭を下げた後桔梗に向かって言付けを伝えた。
 鬼道衆の中でも弥勒は一日の殆どの時間を自分の工房で過ごしており、九角屋敷に来ることは珍しい。稀な訪問客に桔梗は初めは不可解そうな顔を示したが、すぐに合点が言った様でポンっと手を叩く。

……ああ!あれの事だね」
「何だ?」
「いやなに、ちょいと頼まれごとさ。すまないね、もう少し後で取りに行くと言っておくれ。来てもらって申し訳ないけど」

 弥勒には悪いがこちらは未だ会議中のため断ろうと女中に声をかけると、他でもない天戒自身が待ったをかける。

「いや、せっかく屋敷に寄っているのだ。本日は報告だけだからもう終わりにするとしよう。嵐王、情報収集を引き続きたのむ。後、先ほど伝えたように夜にもう一度来るように」
「御意」
「弥勒には入ってもいい事伝えてくれ」
「はい、御屋形様」

 ひとまず本日の会議は終了となり、嵐王は引き続き情報収集を行うため、女中は弥勒に声をかけるため退室した。長らく座って話していたせいか首や肩が凝った向雲は、首に手を当て頭を左右に振った後桔梗に声をかける。

「珍しいな、弥勒に何か頼みごとをしたのか?」
「そうだよ、ちょっと……

 桔梗が向雲に説明をしようとしたその時、部屋に着いた弥勒から襖越しに「失礼する」と声がかかる。

「入れ」

 天戒の許可が下りてから襖があき、何やら木製の箱を抱えた弥勒が部屋に入ってきた。天戒達に軽く会釈を行うと箱を抱えたまま弥勒は室内を見渡す。部屋を半周したぐらいで目的の人物を見つけると、彼女の前まで歩き対面に座って持ってきた箱を開く。

「以前言っていたものだ。好きなものを選べ」
「ああ、すまないね。そうだねえ……、どれにしようか……

 前に置かれた品を一本一本手に取りながら楽し気に悩む桔梗。向雲はそんな彼女の様子を上から覗き込み、手に持っているものを見つめた。

「それは簪……か?」
「そうだよ。凜からの頼まれごとさ。禿の子が新造として今後やっていくらしいんだけど、人前に出るからおすすめの簪などないかといわれてね。以前弥勒が面以外に作っていると聞いた事があるから、見せてほしいと頼んだんだよ」
「そういうことだ。今日売りに行く予定だったから、その前の方がいいかと思ってな」

 箱の中には桜や梅、蓮、椿といった花の細工や鳥、ウサギ、蝶、猫、栗鼠等の動物の形を模したもの、扇、家紋などといった色々な種類の簪が所狭しと並んでいた。中には甘美な装飾は全くなく、先端が捻じっている様に彫られたものもある。
 それらを見ながら上機嫌でどれが似合いそうかと品を選ぶ桔梗と彼女を見て苦笑する天戒と困り顔の向雲。

「やれやれ。若、こうなると長くなりそうですよ。俺にはどれがいいのかさっぱり分からん」
「確かに。あんたには関係ないからねえ」
「そもそもまとめる毛がないからな。はっはっは!」

 自分の頭をぺちぺち叩き、大声で笑う向雲。そんな彼を横目でみていた弥勒だったが、桔梗が兎の簪を手に取り「これもいいかもね」といったのを聞くと、何かを思い出した様で突然彼女を制した。

「すまない。それが入っているとは思わなかった。申し訳ないがそれは渡せん」
「へえ、誰かの依頼かい?」
「そういうわけではないんだが
「?誰かにあげる予定があったのかい?」
「あげるというのか、……龍斗が欲しがっている様だったから渡そうかと」
「龍斗が?」

 今村の話題をさらう事が多い龍斗は普段ど派手な道着を着ているが、あまり装飾品を好む印象がなく、何より髪が短い。しかもこれは女物の簪だ。天戒は不思議そうに弥勒に聞き返したが、しかし何かにピンときた向雲ははっはっはと爽やか笑顔で笑った。

「なんだ、龍斗も隅に置けないな。一体どんな女性に渡すんだか」
「いや、自分に付けようとしていた」

 予想だにしていない返答を聞いた彼らは動作を止め、一瞬の静寂が訪れる。
 その後我に返った向雲が、みんなの疑念を代弁にするように弥勒に確認した。

……自分に?」
「ああ。龍斗は女性のものを着け、着飾る事が好きなのか?」



①弥勒の証言
 三日前の出来事だ。その日はたしか雨だったな。いつものように工房で面を彫っていた俺のところに龍斗が訪ねてきたんだ。
 以前鬼岩窟に行った時戦闘で使っていた俺の面に興味を持った様で、気になるなら見に来ていいと話していたからな。その事を覚えていたんだろう。特に急ぎの仕事もなかったから面一つ一つ説明を行い見ていた時だった。

「何度見ても弥勒の面は面白いな」
「面白い?」
「ああ、もともと精巧な作りであることは間違いないのだけど、素人の俺が言うのも何だが、こう、生きているようにも見える。魂が宿っているといいのか、今にも話し出しそうな感じがするな。まあ、戦闘を見ているから余計そう思うかもしれないが」
……そうだな。俺の面はその面の作られた思い自体を引き出してるからな」
「ふ~ん」

 龍斗はずいぶん楽し気な様子で俺の面をまじまじ見ていたな。面自体をこんな風に近くで見ることがなかったらしい。

「弥勒の作品を見ていると、面ってこういう意味だったのか?と感心することが多いんだよな。こんなに激しく情が感じられるような面を見たのはお前の面が初めてだよ。言葉もなく表情だけで色々な思いを察知できるものを作るなんて凄ぇよなあ……、本当に面も幸せだよな。弥勒に作ってもらえて」
……面が?」
「ああ。だって職人は自分の作品に魂を宿すんだろ?何もない物から命を与えて、そして魂を宿した作品を誰かが買い取り、知らない誰かの役に立つ……。いい循環じゃねえか。特に弥勒の面は生命力が漲っているし、見てて何かしらの力が湧く。俺でもそう思うんだ。これって凄いことだよ」

 もっと誇れよ、弥勒!といって歯を見せてにかっと笑っていた彼だったが、何故か笑いながら頷いていたな。その時は彼の言葉が嬉しかったため気にしていなかったが、今思えば不思議な動作だった。その後も壁に飾ってある面を見て感歎の声を上げてくれていたが、見ている内にちょうど部屋の隅にあった簪を入れていた箱を見つけた様でそうだ。今ここにあるこの箱の事だ。凄く真剣に見ていた。

「興味があるなら見るといい。手に取ってもいいぞ」
「「えっ!」本当ですか?うわ~、嬉しい!」

 俺の言葉に顔をパッと上げたと思ったら、少し切れ長の目を丸くして、顔全体で嬉しいって言うような満面な笑みを浮かべていた。先ほどのにかっと笑ったニヒルな笑顔とはまったく違い、なんていうかふにゃっとした柔らかな表情で顔の前で小さく拍手をしていたんだ。なんていうのか普段の余裕のある龍斗とは全然違う、どちらかというと物腰が柔らかく、少し幼げな感じの仕草をする龍斗は見た事がなかった。反応が出来ず呆然としてしまった俺を後にしてその龍斗は楽しそうに鼻歌を歌いそうな雰囲気で簪を見つめ笑っていた。

「店で見かけた時からずっと見たいと思っていたんですよね。この椿の花の簪なんて本当に精巧で華やかこれを着けたら映えるでしょうね~、美人さんが着けるのかなあ?」

 今の桔梗の様に一本一本簪を見ては可愛い可愛いと無邪気に笑っている龍斗が、鬼岩窟で戦っていた時の敵の返り血を浴びて不敵に笑っている龍斗とはあまりにもかけ離れており俺は戸惑っていたよ。

「あっ!これなんかすごく可愛い!兎がちょこんと、ちょこんって乗っていますよ!いいな~。可愛いなあこんなの着けると可愛いだろうな。……似合うと嬉しいだろうなあ……

 着けたら、似合ったら、だって!?
 目の前の情報量が多すぎる。
 情報量が多いと思考の暴力になることを今この場で知り頭を抱えた。しかし、楽しそうであったがどこか寂し気な彼が気になり、彼の横顔をみて先ほどの言葉を考える。
 確かに男である龍斗が女物の簪を着けるのはおかしいだろう。しかし、しかしだ。彼は意外と顔が整っており、短い髪でも案外似合わない事も無いんじゃないか、と思う。
 想像してみる。……ニヤッと笑う龍麻の上に兎の簪……似合う……とは言い難い。簪をさして今のふわふわした状態で「弥勒~」と手を振られてみろ、きゃっきゃっと笑いながら近づく龍斗か……。普段との違いで脳が混乱するな。
 だが、よく考えろ。龍斗は俺のこの腕をみても否定することがなかった。むしろお前の個性だと笑顔で肯定し、他の人と分け隔てなく接しているじゃないか。その彼を俺が否定するのか?
 俺は頭を振り、再度彼を見た。
 普段の状態を知っているから混乱するかもしれん。目の前にいる目元が下がった龍斗だけを考えろ。よく見るんだ。いい所を探せ。……うん、黙っていれば、似合わない事もない。……かもしれない。いや、ありかもしれん……?だんだん良く分からなくなってきた。言おうか言わないか少し悩んだが、龍斗が寂し気な顔をするのは似合わないため、思わず彼に告げる。

「いや……、その、案外似合うんじゃないか……?」

 彼に告げるとびくっと肩が跳ね、恐る恐るこちらを伺い見る。

「へっ……?私今変わって……?いや、あの、お、俺の話、聞いて……いた?」
「ああ」
「う、嘘……?似合う……?「訳ねぇじゃねえかっ‼‼‼」」

 俺が頷くと顔を蒼白に染めた龍斗は戸惑った様に声を上げていたが、突然戸惑いから一瞬で憤怒の表情に変わった。カラクリ人形も顔負けな華麗な変化のおかげで、少し汗ばむような初夏の暑さが急激に冬に逆戻したような寒さを感じる。体感的に。
 部屋に響き渡る程の大声を上げた為、彼の咆哮がびりびりと体中に伝わってきた。……尋常ではないあの怒りの顔は、次の面制作に使えそうだな。
 しかし、彼は急にどうしたのだろうか。あと、声が二重に聞こえたような……

「ああ、ああ、お褒めに預かり光栄だよっ畜生‼ありがとなっ‼‼」
……龍斗、今声が……?」
「悪いな弥勒!俺は今二重声音をしたい気分だったんだよ‼たまにあるよなそういう気分‼なっ‼」
……あるのか?」
「あるんだよっ‼くそっ‼」

 怒りを隠そうともせず、ドスドスドスと彼らしくなく足音荒く歩く。そのまま草鞋をはいてがらりと戸を開けてから、「急に調子が悪くなったから帰るわ、わりぃな」とこちらを振り向くこともせず走っていった。まだ雨は止んでいなかったんだが、彼のあまりな剣幕に追いかけることが出来なかった。



「という事なんだが、俺は他の言葉を言ったほうがよかったのだろうか?それとも言わなかったほうがよかったのか?それが気になってな。どう思う?」

 真剣に話す弥勒に対して、三人は三者三様の反応を示した。

「いや……、どう思うと言われてもなあ……。何をどう突っ込めばいいんだ?」
「何であんたは、新しい服を着てきた彼女に対して上手く褒めれなった男の様な反応をしているんだい」
「ふむ。なるほど。簪に興味があるのか……

 悩む向雲、ツッコむ桔梗、何故か納得する天戒。性格の違いが分かりやすく浮き彫りになっている。

「よく分かんないですねぇ……。あ、龍斗と言えば、忘れていたけどこんな事もあったね」


②桔梗の証言
 あれはまだ龍斗が来たばかりの頃だったかねぇ?寝る前に明日の吉原に行く時の着物をどうしようか考えていた時だったよ。夜分遅い時間なのに龍斗が訪ねてきたのさ。

「桔梗、いるか?夜間女性の部屋にくるのはどうかとは思ったが……ちょっといいか」

 流石に時間が時間だからねえ。声かけられたときに少し警戒したんだけど、あまりにも申し訳なさそうな声を出すからさ。出会った時とあまりにも違うしおらしい様子に不思議に思ったもんだよ。

「緋勇かい?いいよ、入りな」
「失礼する。あ、寝る前だったか?悪い……

 少ししておずおずと襖があけられた時には、私より高い背を丸くして所在なさげに龍斗が立っていたんだ。
 寝巻姿の私をみて、さらに眉をさげて困ったような顔をしてもじもじとしていたから、正直少し気持ち悪かったんだけど。

「いや、明日の準備をしていただけさ。しかし、どうしたんだい?」
「ちょっと気になることがあってな。……左腕」
「ん?なんだい?」
「桔梗さ……んん。いや、お前攻撃されたとき怪我しただろう。皆には隠しているようだったけど、左腕きちんと処置したのかと思って」

 彼が言っているのは日中浪人に絡まれたときの事をいっていたんだろうね。ちょっと油断したときに浪人の一人に切りかかられそうになったんだよ。……ああ、大丈夫。かすり傷さ。しかし坊やよりも龍斗が一番動き、浪人倒していたんだけどその状況下でよく見ていたもんだと感心したもんさ。

……知ってたのかい?」
「動かした時に少し痛そうな顔をしたからな。やっぱりそうか。じゃあ、これ」

 そういって渡されたのは陶器に入っていた小さな器だった。中を開くと薬草臭いがするどろっとしたものが入っていたから、きっと外用薬が入っているんだろうなと想像できたよ。

「薬かい?」
「そう。うちの故郷でよく使われていた傷薬だよ。傷に塗り込めば直りが早くなる。……桔梗は術が使えるから必要ないかとも思ったんだが、術に頼りすぎても気の巡りが偏るから」
「へえ……
「出来れは早めに使って欲しい。早めに使えば使うほど傷になりにくいんだ。女の人は傷が残ったら大変だ。特に桔梗はこんなに綺麗で珠の様な肌をもっているのに、傷を作るのはもったいないだろ?」
……そんなに褒めても何も出ないよ」
「褒める?どうして?桔梗が綺麗なのは周知の事実だろうに、何を言っているんだ?」

 本当に不思議そうな顔をして、肯定されたよ。今思えば凄い言葉だねえ。あの時は警戒していたんだけど、それを吹っ飛ばすほどの威力があったよ。
 ……まあ、今となってはあれは本当に龍斗にとっては何でもない日常会話だってわかったんだけど……。ねえ……

「わかった、わかったから!それ以上は言わないでおくれよ‼」 
「?うん、良くわかないけど分かった。……あれ?」

 照れている私に不思議そうな顔をして頷く龍斗。あまりに素直に言うから肩透かしをくらったけど、蠟燭で照らされている部屋の中が見えたんだろうね、頭越しに部屋の中を覗き込んで声を上げたんだよ。どうやら何かを見つけたらしい。おや?と思って顔を上げると目をキラキラさせた龍斗が目に入ってきたんだ。

「うわ~~っ!綺麗な着物!明日着ていくんですか?」
「あ、ああ。そうだよ」

 急に口調が変わった龍斗に少し……いや正直にいうよ。引いたさ。思いっきりね。思わず部屋の襖から後ろの方に下がってしまった事もあって、興奮の冷めやらない龍斗が部屋に入り、着物の前に座ったんだ。
「いいですね!いつもの服も黒色が大人っぽい雰囲気を醸し出して桔梗さんにとっても似合いますが、この猩々緋色もきっと似合うと思います!ああ、でもこの練色の淡い雰囲気も落ち着きがありつつ上品で素敵……。瑠璃色のこの着物もいいですね……。大人っぽくありつつ高貴な感じがして、きっとお似合いです……

 あった時からなんとなく違和感を感じていたんだけど、この口調が急に変化したことで目の前の龍斗に違和感しかなかったよ。
 だって考えてみな。あの龍斗が、あの龍斗だよ。にこ~って音が聞こえそうなぐらい無邪気に笑って女物の着物を楽しそうに見ているんだ。頭の上にルンルン♪と効果音が出ているようだったし。少しやせ型だが程よく締まっている男らしい龍斗が、目の前で、乙女座りをして手を畳についてみている姿を想像しておくれ。
 ……ちょっと、そこ、口に手を当てない。
 気持ち悪い?それを目の前でみた私の気持ちを考えておくれよ。そうそう。もっと労って。

「どれか悩みますよね!でも全て素敵ですからどれを選んでもきっとお似合いに……、あ」

 笑顔で話しかけてくれたんだけど、多分引いていた私の顔を見たんだね。確かに顔色悪い自覚はあったよ。
 そんな私にやばいと思ったのか、急に立ち上がりそそくさとした様子で部屋を出たんだ。そして無理やり作ったような引きつった笑いをこちらに向けて言ったよ。額に指を二本あて、片目を閉じてね。

「こんな夜更けに女性の部屋に入ったなんて知られたら、旦那さんに殺されてしまうな!いやいや龍斗失敗!桔梗も早く寝ないとお肌に悪いぜ☆今日の事は早く忘れてくれな‼じゃあなっ」

 びっくりするほど汗をかいていた龍斗は機微を返して去っていったね。あまりの衝撃に脳の処理が追い付かず、今の今までなかったことにしていったけどさ。




「本当にそういったのか?」
「本当にそういったんだよ。旦那って誰だって話なんだけどね
「いやそうじゃない。気にするところはそこじゃない。お前が突っ込みを放棄したら誰がこの事態をおさめるんだ」

 俺を置いていかないでくれと顔を振って話す九桐をみて、確かにこのメンツでは辛いだろうなと桔梗は漠然と思う。
 真面目ぼけの弥勒、天然を炸裂する天戒。これ以上ボケが増えたらボケ多発の飽和状態になってしまう……

「坊やは今どこにいるのかねえ。今日に限っていないなんて
「本当にな」

 突っ込み気質の末っ子を猛烈に求めてしまう彼等だった。ギャップのある龍斗の話は2つでもうすでにおなかいっぱいで、胸やけしたように気持ち悪い。しかしそんな二人の思考を他所に、天戒は手を顎において考え込む。

「実は俺も……
「天戒様もっ⁉」
「まだこの話は続くんですかっ、若⁉」

 二人の悲痛な声をああ、と聞き流した天戒は続けた。

「そうだ。といっても、今日の事なんだが」



③天戒の証言
 早朝の出来事だ。
 うん?嵐王の報告がある前だから、朝食が出来る前、確か……明け六つぐらいか?いつもの様に村を巡回していると前に龍斗が歩いているのが見えてな。
 珍しいなと思ったのだ。あいつはいつも朝食時に眠そうにしているし、奥継が起こしに行っている事が多い事から、俺はてっきり朝が弱いと思い込んでいた事もある。思ったよりしっかりとした足取りの龍斗に声をかけようとしたんだが、それよりも早く村の権兵衛(仮)に声をかけられてたから、思わず俺は近くの民家の陰に隠れた。
 いや、龍斗が普段村人とどんな会話をしているのか気になっていたから、少し様子をみたくてな。

「おはようございます、緋勇様。今日はお早いんですね」
「おう、おはようさん。あれから大丈夫だったのかよ?回復してきたと聞いてはいたが……
「はい、緋勇様のくれた薬のおかげですよ。助かりました。あの子もすっかり元気なりましたよ。緋勇様のおかけだと話したら早くお礼を言いたいと喚くぐらいには」
「ははっ、元気になったなら何よりだ。子供は元気が一番だからな」

 俺はその話を聞いて、権兵衛は幼い子供、ゆきと2人で暮らしていた事と数日前に子供が風邪をひいた事を思い出した。確か妻は……幕府の役人に殺されたはず。だから忘れ形見であるゆきを普段からそれはとても可愛がっており、大事にしている姿を何度も見たことがある。
 風邪をひいたと報告があった時に、彼の家を見に行ったらすでに龍斗が対応したみたいでな。薬を飲んで穏やかに休んでいたよ。俺は正直驚いた。古武術の強さだけではなく医学……どちらかというと薬学だろうが、その知識があった事にな。
 すぐに対応してくれた龍斗に権兵衛はとても感謝していてな。まあ、よく考えれば当然の事かもしれん。子供は7つまで神の子、と言われるだけあって7歳まではすぐに死んでしまう。権兵衛の子は今年で5つだ。苦しそうな子供を目の前にして、彼がどれだけ悲痛な思いを抱いたかは容易に想像がつく。 

「とにかく早く対応できてよかった。苦い薬も飲んでくれたから安心したよ」
「あの子は緋勇様が大好きですからね。好きな人に勧められれば多少いやでもきっと……
「それはありがたいな。食事は食べれているのか?」
「ええ、もちろん」
「それならいい。あ、これをやる」

 ふと思いついたような龍斗は、腰にある袋から掌ぐらいの小さな袋を取り出し彼に手渡す。

「何ですか?」
「昨日江戸に視察に行った際買った飴だよ。苦い薬を飲めた褒美にやってくれ」

 ずいっと差し出す龍斗に、権兵衛は顔を振り恐縮したように手を振っていた。

「いけません!これ以上よくしてもらうわけには……
「何を言っている、褒美だって言っただろう。薬を拒否して、体力がなくて、亡くなるなんて事溢れるぐらいあるんだ。あの子が頑張ったから今を生きている、その頑張りを褒めてやってくれ。受け取らなけばこれは捨てるだけだから、もったいないだろう?」
……あなたがそこまでいうならば……

 ぐいぐいと飴の入った袋を体に押し付けてくる龍斗に根負けした権兵衛は飴の入った袋を大事そうに受け取っていたな。その後権兵衛は飴を少し眺めてから表情を引き締め龍斗に詰めよっていた。

「せめて顔を見せてやってくれませんか?」
「いや、寝ているなら起こすのはかわいそうだろう。いいよ。また後で会いに来る」
「しかし……、せめてもう少し待ってくれませんか?もう少ししたら起きてくるので……
「いや、しかし……っていうか近っ!圧が強いんだけど、なんで?」

 今度は権兵衛か龍斗にぐいぐいと迫っており、それに引いている龍斗。
 何をやっているんだ……と俺は呆れていたが、家の前で大声で押し問答をしていたら誰でも何事かと思うだろう。家から権兵衛の子、ゆきが出てきたんだ。

「家の前でなにやってるの、父ちゃん?あ、緋勇様だっ!」

 目を擦り眠そうな彼女だったが龍斗の姿をみて嬉しそうに龍斗の足に抱き着いた。

「緋勇様が薬くれたから治ったって父ちゃんが言ってたよ!有難う‼」

 足にすり寄るゆきに龍斗は頭をぐりぐりと撫でまわし、少女の目線に合わせるため屈んだ。

「おいこら、子供に間違ったことを教えるんじゃねえ。いいか、ゆき。お前が病気から治ったのは俺のおかげじゃねえからな。お前が頑張ったからだよ。お前は病気に負けないぞ~と強く思っていたんだろう?」
「うん。父ちゃんの声と緋勇様の声が聞こえてきたもん」
「そうか、よくやったな。頑張ったご褒美に父ちゃんが飴を買ってきてくれたってよ。お礼を言ってやれ」
「え、父ちゃんが?」
「ひ、緋勇様っ⁉」

 戸惑う権兵衛に龍斗は口に一指しあて、「しっ」という仕草をする。
 ……そういう所が龍斗らしい。ゆきは父親の方に向き、はち切れんばかりの笑顔を向けた。この村では甘美なものは少ないし、村の財政から豊かな生活も送ってやれないからな。喜びも一入だろう。
 ……今度もう少し村人に娯楽を何か還元できないか考えなくてはな。
 ……なに?根を詰めるなと?ははっ、心配するな。

「いいから。よかったな、ゆき」
「うん!ありがとう父ちゃんっ!」
「い、いや……

 今度は父親に抱き着くゆきと、困った様子の権兵衛。そんな様子を満足げにみて笑った龍斗はすっと立ち上がり、小声で何かを話しているようだったが遠く離れた距離では流石に聞こえなかった。

「緋勇様~、何か言った?」
「いいや?まあ、元気な姿を見れたならいいや。じゃあな」
「あ、有難うございました!」

 背を向ける龍斗に父親にくっついていたゆきは、ぱっと離れ今度は龍斗の足を引っ張る。ぶすっとした表情で龍斗に文句を言っていた。

「え~!今来たとこじゃん、もういっちゃうの?なんでなんで!」
「これでも忙しいんだよ。わりいな」
「やだやだ!行っちゃヤダっ!」
「こら、ゆきっ!緋勇様に失礼だろう。我儘言うんじゃない」

 何処かへ行こうとする龍斗の足につかまり、全身で引き留めるゆき。多分父親は恩人に対し無礼だと思ったんだろうな。彼女の所に向かい、静かでしかし強い口調で叱っていた。叱られた悲しさから涙目になっていたゆきは、目を擦りながら父親に話す。

「だってぇ……、まだ、お礼言ってないもん……
「いや、聞いたけど……

 思わず突っ込む龍斗。

「言ってないもん……おかまの緋勇様にいってないもん……
「はっ⁉」
「ひ、緋勇様になんて事を……っ!すいませんすいませんっ‼」

 顔を蒼白にして必死に謝る権兵衛と本格的に泣いてしまうゆきに悪いとは思ったが、彼らの会話を聞いていた俺は思わず吹き出してしまった。声が漏れないように静かに耐える俺だったが、向こうは真剣な雰囲気が漂っており、それがまた笑いを誘った。
 本人を目の前におかまと話すゆきは将来大物になるだろうな。

「お、おかま…………俺が?」
「うん……薬くれた時の緋勇様……お姉ちゃんみたいだった。……お母さんみたいだったもん」
「そうか……。俺はおかまか……、ははっ……、おかま……
「すいません緋勇様すいませんどうかこの通りです許してくださいっ‼‼」

 龍斗も衝撃を受けている様で混乱状態の時に出てくる「?」が頭の周りに飛んでいた。権兵衛に至っては娘の失言に土下座を行い、先ほどまでは蒼白な顔を今度は土気色にして謝っていたな。あまりの必死加減に可哀そうなぐらいだったが……

「い、いや大丈夫だ。……なあゆき、お前が感謝しているのはちゃんと聞いてるさ。大丈夫だ」
……本当、緋勇様?」
「ああ、大丈夫だ」

 衝撃から立ち戻った龍斗は何とか笑顔を見せようと努力していた。

「おかまの緋勇様、なんて言ってるの?」
「お、かまの俺も嬉しいなって喜んでいるぞ……

 ……努力が無駄になりそうなぐらい、引きつっているが。

……うん、分かった。でも緋勇様、またお仕事が終わったら遊んでねっ!」
「わかったわかった。約束な」
「うんっ!」

 指切りげんまんっ!と約束をした後、大きく手を振る彼らに軽く手を振り彼らと別れた。その後龍斗は俺のいるほうに近づいてきたと思っていたらな、声をかけられた。

……おい、天戒。お前ずっと聞いていただろうが」

 親子に向けていた笑顔なんてかけらもない程の無表情な顔で俺に話しかける龍斗。すん……とした擬音が付きそうなぐらい、静かに切れている。

「気づいていたか」
「気づかないと思ったか、ボケ。おい、お前はいつから知っていた?俺が村人におかまと呼ばれている事に」
……、まあな」
「その様子だと大分前からだな……、くそっ……

 俺の言葉を聞いたとたん眉間にこれ以上ないぐらい皺を寄せ、イライラしている様子の龍斗。龍斗は何言われても飄々としていると思い込んていたから、驚きをもって見ていたんだが……

……何だよ」
「いや、何を言われても怒る事はないと思っていたから意外に思ってな」
「お前は他人におかま呼ばわりされても怒らないと?」
……すまん。失言だった」

 この発言は今でも悪いと思っている

「おい天戒。今日の夜までに鬼道衆に所属する者全て集めろ。幹部だけでいい。一人も残さずな。誰か一人でも来なかった場合、連帯責任としてお前に秘拳・黄龍ぶっぱなすから覚悟しろ」
「俺に八つ当たりか」
「ああ、そうだよ!悪いなっ‼」

 悪いか、じゃなく悪いな、が龍斗らしいな。
 うん?笑う所じゃない、怒るところだと?なに、あの龍斗が俺に感情をぶつけたんだ、そう悪い事じゃないだろう。……龍斗に甘い?そうか?

「じゃあな、夕飯時までに俺はあいつを説得するからまってろ」

 そう言って龍斗は双羅山の方にかけていった。走っていったときに足跡が濃く残っていたから怒りが収まらなかったんだろう。




「ということだ。今日の夕七つの鐘が鳴るまでに皆揃う様に」
「いやいやいや、おかしいでしょうっ!若っ!」
「何がだ?」
「おかしい所だらけですよっ!いくら龍斗といえど天戒様を脅すなんて……っ!」

 天戒は笑顔での話を終えたが、終えた途端昔から使えている二人から突っ込みが入る。今度は二人の怒りが収まらないようだった。

「しかしお前たちも不思議に思っていたんだろう?外でもない本人から今まで疑問を解決できるならいいではないか」
「しかしっ!」
「では個人的に聞くか?聞き方を間違えれは龍斗の逆鱗に触れることになるぞ?俺はあいつの手加減全くない攻撃を受けたくはないな。正直訳の分からん理由で死にたくはない」
「「……」」

 桔梗と向雲は天戒の言葉に絶句した。

「という訳だ。弥勒も今日売りに行くのはいいが、その時間までに帰ってこれるか?」
……今からだと帰ってくるだけになりそうだ。今日はやめておこう」
「すまんな。奈涸もよいな?」
……ああ」

 弥勒の返答後、天戒は急に天井に向かって話しかけたため疑問に思った三人であったが、やや遅れて返事があったことに驚く。九桐はうむ、と満足げに頷いている天戒に疑問を投げかけた。

「若、いつの間に気づいていましたか?」
「何、手紙で呼び出していたからな。こんなに早く着くとは思わなかったが」
……ということは後は坊やと御神槌だね。私が声をかけてくるよ」

 そう言って桔梗が立ち上がった為自然に解散の雰囲気になり、其々がそれまでの時間を思い思いに過ごすために立ち上がる。

「ああ、頼む。ではまた後でな」

 その天戒の言葉に軽く会釈し部屋を出た桔梗だったが、同時に出た向雲と顔を見渡しため息を吐いた。

「どんな集まりになるのかねぇ……?今は不安しかないけど」
「同感だ」