urifuji
2021-04-08 22:59:59
14453文字
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龍も鳴かずば撃たれまい

陽→陰前提の陰6話ぐらいの話。
オールキャラ。見えないのに存在感のある女主人公





『う゛ぅ~……、ごんは、……ごんは反省できるいい子なのに…………救われないなんて嘘ですよね……?』

 未だにごんショックが続いている鈴菜はえぐえぐ泣きながら村をふらふら彷徨っていた。

『ごんはどうして幸せにならないのでしょうか……、うぅ……。桔梗さんに会いたい……

 実体の持たない彼女は涙をぬぐう布なんてものは持っていない。いつもなら文句を聞き流しつつ龍斗の上着で涙を拭っているが、彼のいない現在彼女の手甲は涙でべたべたに汚れていた。龍斗が目撃したらドン引き事項確定だが、よいのか悪いのか彼はここにいない。
 本日の龍斗は、天戒に相談を求められ屋敷にいる。長話になりそうだから鈴菜の好きなようにして来いと言って追いだしたのだ。
 鈴菜は今桔梗恋しさで彼女の氣を探している。
 何故桔梗に会いたいくなったのかというと、ごんに会いたい→ごん=狐→桔梗は女狐と呼ばれている→桔梗に会いたいというよく分かるような分からないような方程式を生み出し、優しい彼女に癒しを求めたからである。癒されるはずの御神槌に必殺を食らうとは思わなかった為ダメージは倍増しており、体は元気だが彼女は精神的に疲弊していた。
 涙でかすれている視界はあてにならず氣だけを頼りに探していたが、ふと屋敷の方で彼女の氣を感じた。
 はっと顔を上げ、急いで屋敷に向かうとそこに会いたくて会いたくてたまらなかった桔梗の姿が!
 困った様子の彼女に気が付かず、鈴菜は嬉しくて姿が見えない事も忘れ突撃する。

『桔梗さん~っ!昨日ぶりですっ、本当に会いたかった!ねえ、聞いてくださいごんが……ってあれ?』

 感激のあまり思わず彼女に抱き付こうとした鈴菜であったが、抱き付こうとした瞬間桔梗の口からため息が漏れたのを聞き、慌てて急停止する。

『どうしました、桔梗さん?何か困った様子ですが……
「ああ、猫の手も借りたいぐらい忙しいっていうのに、本当に困ったねえ……、なんでこんなに少ないんだか」
……何か足りないものがあるんですか?』

 先ほどは桔梗の姿しか見ていなかったが、周りをよく観察すると桔梗は部屋で薬草を確認している様だった。陰陽道の知識が深い彼女であるが、実は薬学も造詣がある様で簡単な薬は彼女が作り出している。その為なにかあった時は彼女に相談事をする人が多い。

「最近は街に出ることが多かったから、在庫を確認するのを忘れちまっていたよ。でも今日はまだ話し合いが続いているから取りに行くのは難しいし……。かといって明日は指令が入っちまっているし……、誰かに頼むにしても詳しい人もいない事だし、困ったねえ……

 どうやら村に備蓄している薬草が少なくなっており、桔梗はそれを悩んでいる様だった。まだ在庫はあるようだが確かに村の人数を考えると全体的に少ない。鈴菜は桔梗の後ろから手元にどんな薬草があるか確認し、四月のこの時期どんな薬草が生えているか考える。
 今の時期だとキランソウ、メギといったところか。小さい子供いるため癇癪を起した時の為に鎮静作用のあるカキドオシも多くあってもいいだろう。あとサイカズラの花を取り金銀花、コブシの蕾をとり辛夷をつくってもいいし、日差しが強くない今の時期にオオバコを多く取っておくのもいいかと思い、どの場所に行こうか大体の算段をつける。備蓄は多ければ多い程安心なのだから。
 善は急げ。鈴菜は未だに悩んでいる彼女の後ろからそっと移動する。

「しょうがないね。明後日にでも山に取りに行くとしようか。多分指令も入らないとは思うけど……
『大丈夫ですよ桔梗さん!今から取りに行ってくるので待っててくださいね』

 桔梗のため息交じりの言葉を背に部屋から出た鈴菜は、村の倉庫からあるものを取り出しそのまま空に飛び立った。
 本日は天気がよく風が気持ちいい。宙で持ってきた物品が落ちないようにくるりと一回転し体制を整えた後、目指すは近くにある双羅山である。




 双羅山に付いた鈴菜は周りを見渡しながら目当ての薬草・薬木を探す。
 キランソウとオオバコは根まで綺麗に、カキドオシは葉と茎を、メギは木の皮を持ってきた鎌で切り取り、サイカズラの花とコブシの蕾は手で摘み取った。しかし集められるだけ集めようと思ったのが裏目に出たのか思ったよりも取り分が多くなり、あっという間に持ってきた籠は薬草でいっぱいになってしまった。花や蕾が飛んでいかないようにそれらは小さな袋に振り分け、その袋の上にそれぞれの草木を詰め一息ついた時には落陽で木々は赤く染まり、カラスがカァカァ鳴いいているのが聞こえてきた。
 上を向くと夕日を柔らかに抱く春茜に、墨を一滴落としたようにぽつんと烏が一羽飛んでいる。そのすぐ後ろから後を追う様にもう一羽烏が飛んできて、その姿はあっという間に見えなくなった。
 あの子たちも、家に帰えるのかな。
 鈴菜はその様子を見送った後、自分も村に帰ろうと籠を背負って歩きだす。足取り軽く山道を下っている時にふと、視界の片隅で黄色見えたような気がした。
 なんとなく気になりそちらに向かって歩いていくと、少しひらけた場所に出た途端、たんぽぽの群衆が一面に現れる。少し開けた平地を全て染めたような黃一色。地面の黄色と空の赤の裾濃(すそご)の美しさは圧巻で、しばらく鈴菜は言葉も出さず立ち尽くした。
 体感的には一瞬、しかし実際にはもっと経過しており、気が付いた時には赤く染まっていたはずの空は残照を残すだけとなっている。彼女は先ほどの光景を思い出し、軽くため息をつく。

『は〜っ……、綺麗でした。たんぽぽもこんなにあるなんですごい……。あ、でもこんなに咲いていると、薬には出来ませんね。ちょっと残念』

 たんぽぽも生薬の一種だ。しかし薬としては花が咲く前のものを使用する為、今の状態では薬としては使用できない。しかし薬としては使用できなくても山菜として食べることが出来るため、花を愛でるため部屋に飾っていても、明日以降お浸しとして食べてもいい。
 薬として使えなくても、少し取っていくとみんなに喜ばれるかもしれない。そう思い最後の仕事として籠から鎌を取り出し、タンポポをザックザック切っている時だった。

「うわあああああっっっ‼‼」

 布を切り裂くような鋭い悲鳴が近くで上がったため、思わずタンポポを切るのを中止し腰を曲げていた体を引き上げた。
 声が聞こえた方に向くといつの間にか来ていた奥継がこちらを指さし、目を見開いて立ち竦んでいる。彼の上着は土で汚れ袴には葉っぱが付いているところを見ると、今まで山で修業をしていたらしい。

『あ、山で鍛錬していたんですかね?お疲れ様でした!……どうしました、奥継君。化け物を見たような顔で』

 相変わらず鈴菜の方を指さし、固まったままの奥継。声を出そうとしているが、パクパク開く口からは音を発っしておらず、指は微かに震えている。

「か、籠と鎌が……浮いてやがるっ……!」
……あっ』

 鈴菜自身は忘れていたが、彼女は氣を誰よりも上手く操る事が出来ており、氣の使い手としてはすでに達人の域にいる。古武術は体格差や男女差があるため威力は龍斗に到底及ばないが、氣を使う事なら龍斗よりも鈴菜の方が長けており龍斗自身もこれを認めている。そのため普段は空気の様に触れることも触られることもできないが(龍斗を除き)、いざというときは体内の気を操り部分的に氣を集中されることで物などを持つことが出来る事ができるのだ。
 しかし、あくまで部分的にだ。全身に氣をいきわたらせると体内の氣の消耗が激しく、一瞬で彼女の氣は枯渇するだろう。なので現在彼女は物を持つ部分のみ気を使っている。
 さて、現在の状況を振り返ろう。
 彼女の姿は奥継にはもちろん見えない。しかし彼女は現在鎌を掴み、籠を背負っている。彼女の姿は当然見えないので、彼の目には浮いている籠と鎌がみえている。
 彼の立場から考えると、山から修業を終えた帰り道ザシュザシュと何かを切る音が聞こえたため音の方に向かうと、夕暮れも過ぎ薄暗い中で空中で鎌が単独が浮いていた。鎌が動く度タンポポと土しぶきが周辺を舞い散らす。籠も宙に浮いているが、中は何かがびっしり詰め込まれている様で、鎌が左右に動くたび籠から何かが落ちる様子がうかがえた。遠くでよくわからないが落ちているものは黒くて、不規則。パラパラ……なのか、ぽたぽた……なのか分からない。分からないがなんとなく、本当になんとなく血が滴り落ちている様にも見える(実際に落ちているのは草についている土だが)。

 満足のいく修行の帰りがとんでもないサイコホラーになった瞬間である。

 彼の頭の中では以前御神槌が子供たちに話聞かせている物語の中で死神と呼ばれるものが出てきたことを思い出していた。確かその姿は鎌を持っており、宙に浮いているとの事。
 今まさに目の前にいる存在の様な……

『あの……奥継君……?』

 彼の顔色が目に見えて悪くなっていくのを見ていた鈴菜は、何か酷い誤解している彼に声を掛けようと奥継のいる方向に体を向けた。
 しかし、残念なことに未だに手に鎌を持っている事から、自然にその方角にも刃が向いてしまう。かすかに残る残照で、鎌の曲線の刃がギラりと光った。

「ち、近寄るなっ……!」

 一歩後ずさりする奥継。

『あの、何かとんでもない誤解をしていませんか?私はただ、タンポポを取ろうとしていただけで……

 それを追いかけ、にじり寄る空中の鎌と籠。

「っ、死神か知らねえが、俺は村に帰るんだ!くそっ、くらえっ!」

 日も少しずつ陰っていく中でじりじりとした攻防戦は続いていたが、先に耐えられなくなり声を上げたのは奥継。視線は鎌から反らさず、足元の石を足の指で持ちあげ器用に胸元へ上げると、その石を手にとり鎌に向かって指弾を放った。
 ひゅんっ!と空気を切り裂き、突風の様に迫る石は鎌に向かって一直線に向かっていたが、鎌に届く一瞬手前で何かに当たった様に急激に下に落ちていく。弾かれたような石はとん……と地面に当たる音がした後、草に紛れ行方が分からなくなった。

「な、なんだ?急に曲がりやがった……!何か変な術を使うぞ、こいつ!?」

 自分の武術が効かず不可思議な事に警戒を強める奥継だったが、なんてことはない。鈴菜が石の軌道を読み、鎌を持っている反対の手で弾いただけである。

『急に何するんですかっ!石ですよ、石!危なくて思わず反射的に弾いちゃったじゃないですか!』

 もうっ!と全身で抗議をしたため無意識に鎌を振ってしまう鈴菜であったが、それを見ている奥継は死神?が興奮状態になったと焦り、彼女の話の途中で急に進路を変え、山道を駆け出していく。その後ろ姿をみて、置いてかれたと思った鈴菜は荷物を抱え、思わず彼の背中を追いかけた。

『え、急に走ってどうしたの?誤解は解けましたか?いや絶対解けていないですよね!?』
「逃げてるんじゃねえぞっ!戦略的撤退だからなっ!」
『ほら~っ、解けていないじゃないですかっ!待って!一体何と勘違いしているんですか!?』

 駆け出した奥継を未だに追いかける鈴菜。
 走っていた奥継は妙な気配を感じなんとなく後ろを振りむくと、真後ろから迫りくる鎌と籠を見てぎゃーっ‼‼と叫んだ。

「何で死神が追いかけてくるんだよっ!ふざけんじゃねえっ!」
『えっ死神?奥継君、何言って……あ、やだ私ずっと鎌を持ち歩いてました!もしかしてこれの事?』

 ようやく鎌を持ち続けていた事に気が付く鈴菜。

「物理攻撃が効かねえなら、何か違う方法でお前を倒してやるからなっ!神だかなんだか知らねえが覚えておけよっ!」
『いや私は死神とかいう訳の分からないものじゃないですからねっ!ていうかもし本当に神様だったらこの仕打ちやばくないですか奥継君っ!いいのっ?!』

 このまま鎌を持ちながら村に入るとさすがに危ないため鈴菜が籠に入れ直している間に、魂を抜かれないよう必死な奥継は勢いもそのままに山道をかけ村に戻っていった。振り返った時にはすでに奥継の姿はなく鈴菜は途方に暮れる。

『どうしよう……何か騒ぎになっちゃいますかね……?死神って聞きなれない事を言っていましたし……。天戒様に報告するのかな……。いや、何か対策をするって言っていましたし、死神って聞いたことがない言葉は御神槌さんに教えてもらった気がするので彼に相談するかもしれませんね。楽しませてもらっているのに、迷惑かけちゃう……
 楽しく授業参観させてもらっている立場でありながら、今回の事で余計な心配事をかけてしまうかもしれない。
 ただでさえ悪夢で魘されるような繊細な彼だ。本来ならお礼をしなければならないぐらいなのにこれで胃が痛くなったらどうしよう……と、とぼとぼ山道を歩いていると、彼女の目になにかがゆらゆら揺れているのが飛び込んできた。