木蔦(キヅタ)
2021-02-08 16:26:06
4916文字
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神様がいる話【ちょぎくに】




まんばはその本丸の初期刀だった。何もかも手探りで、何とか本丸を運営していた。名剣名刀が揃う中、なぜか近侍・隊長はまんばだった。

審神者はすべてまんばに一任orまんばに意見を求める。これはどうすべきだろうかとよく悩むことが多かった。重責がのしかかっていた。


手入れに大量に資材を投入していたら、急に政府から期間限定の鍛刀の連絡が入った。慌てて遠征に向かった。
太刀を強化していたら、急に夜戦の戦場が現れた。短刀の育成に力を入れ、四苦八苦していた。

加州が遠征に出た時、遡行軍と交戦になり、髪を切られたことがあった。「主が黒くてツヤツヤって褒めてくれたのに」とかなりしょげていた。トリートメントしたり、椿オイル塗ったりと手入れしていたのを知っていたので、何とも慰めようがなかった。

秋田がお守りを無くしたことがあった。みんなで本丸中を探し回った。「主君にもらった大事な物なのに」と泣きそうな秋田を見ると居ても立ってもいられなかった。
夜も更け「みなさんに迷惑かけるわけには」と捜索は打ち切りになった。しかしまんばは探し続けた。暗い中で探すのは非効率だとわかってはいたが、秋田の顔を思い出すと眠れなかった。

お守りは縁の下にあった。おそらく五虎退の虎が持っていったのだろうと思う。
手渡すと嬉しそうに礼を言われた。

その日は寝不足で倒れた。

本歌である長義との関係は最悪だった。
夕食でまんばが配膳当番だったのだが、長義にだけ煮物を置き忘れた。偽物と呼んだ仕返しと思われたらしく、長義との仲は思わしくなかった。食べ物の恨みは怖い。




まんばは常に焦っていた。自分は近侍として努力が足りない。もっと頑張らなければ、もっとしっかりしなければ、強くならなければ、正しい判断をしなければ、と。

だから、その焦りがミスを呼び、あんなことが起こったのだと思う。

ある日、まんばは折れた。戦場で呆気なく。お守りはその日たまたま部屋に置き忘れていた。

ちゃんと隊長として引き際を見定めていれば、とか、自分の怪我の管理もできないのか、とかいろいろあるが、まんばはこれで解放されると思った。
自分の力不足でこんなことになって申し訳ないとも思いながら、本霊に還るはずだった。


目を開けると、見慣れた審神者が目の前にいた。静まり返った本丸、鍛刀部屋に少ししかない資材、真新しい道具たち。この景色は見覚えがある。

まんばは逆行していた。

本丸の設立時に戻っているようだった。
その後、まんばの記憶にあることとまったく同じことが起こる。同じ道を辿っていく。
このまま行けばまんばは折れるだろう。

まんばは思った。
これは神様による罰だと。

自分が隊長として判断を誤った所為で仲間を危険に晒した。もっと苦しむべきだと言われている気がした。

分不相応の役割だったのだ。


自分が折れることは変わらない。しかし少しでもみんなにとって良い隊長でありたい。まんばはその思いで頑張った。

そしてまんばは再び折れた。





目を開けると、審神者が目の前にいた。二度目の逆行となるともう驚かなかった。

まんばも三度目の体験となると慣れた物で、記憶により先回りして行動が取れるようになった。

歴史は変えてはならない。それは知っている。しかし本丸の刀が困っていて、自分は未来を知っているともなれば、手助けしないわけにはいかなかった。

別に生死が変わるわけではない。多少スムーズになるだけ。だから問題ないはず。

「偽物くん」
「え?」
いきなり長義に話しかけられた。内容は世間話程度のこと。最初と2回目はそんな出来事なかった。

そもそも長義とは疎遠だった。初回は第一印象が悪かったせいだが、2回目は煮物事件を回避したにも関わらず、まんばの好感度は地を這っていた。だから長義とは相容れない存在なのだと認識していた。

それから不思議と長義は何度か話しかけてくるようになった。彼と会話できるのはとても嬉しかった。仲良くなれたら、と思うがこれから自分は折れるんだ、仲良くなっても無駄だと思うと沈んだ。

長義は時折こちらを探るような目で見つめてくる。なんなのかわからないが、長義がまんばを知りたいと思ってくれることは少し嬉しかった。

ある日長義が部屋に訪ねてくる。まんばは慌てる。長義が来てくれるなんて思ってもなかった。いい茶葉も茶請けもない。

実は次の日はまんばの最期の日だった。だからこうして長義とふたりで話せて嬉しい。そして悲しい。

まんばは折れるのはこれで最後だろうか。それとも4回目があるのだろうか。神様はまだ許してくれないかもしれない。もっと苦しめと罰を与えるだろうか。気の遠くなる時をひとりで過ごすのは虚しい。

まだ努力が足りない、まだ未熟……。写しだから、無理なのかもしれない。

「お前、何を隠してるんだ」

長義が唐突に聞いてきた。


「お前はこの本丸の隊長で要だと思ってるかもしれない。ただの写しが偉そうに」
まあ確かに写しなのに傲慢にも。
「俺はお前の本歌だぞ、本歌の方が偉いに決まってる」
暴論では?しかし本歌の方が名刀なのは事実。
「俺にくらい頼ればいい。お前は俺の写しだ。面倒くらい見てやる」

それを聞いた瞬間、張り詰めていたまんばの何かがどっと溢れ出してくる。不安だったり、つらさだったり、弱音だったり。
気がついたら長義に全部しゃべっていた。逆行のことも全部。

長義は全部聞き終えた後、あっさりと言った。
「ああ、それでか」
何がそれでなのかわからないが、納得しているようだった。

「お前頭悪いな、本当に俺の写しか?」
失礼な。
「お前が言うように神様がいるとしたら、これは罰なんかじゃない」
「え……
「本当にお前バカだな。だから俺を」
?あんたを?」
「秘密だ」





まんばは次の日、普通に出陣した。まんばはこの後折れることになっている。

中傷になり、撤退すべきか迷った後、進軍し、仲間を庇って折れる予定だった。

その時は迫っていた。遡行軍が襲いかかってきて、交戦状態になった。
長義はまんばの様子を気にしていた。その所為で不意を突かれ、刺されそうになる。急にまんばが長義の前に出た。
「バカ!飛び出すな……!」
槍に刺される瞬間、咄嗟にまんばを突き飛ばすが、遅かったようで血飛沫が飛ぶ。
長義は先に敵の息の根を止めた。
まんばは少し離れた場所に吹っ飛んだ。
まんばに駆け寄る。
「折れないってわかってるのに、なんだその顔は」
ぐったりしながら茶化すようにまんばが言う。
「お前が無茶なことするからだろ」
ため息吐いて、まんばを担ぎ上げた。
「撤退しよう、隊長様が重傷だ」






あの夜長義がまんばに言った。
「折れると知っていながら、何も対策しないのは馬鹿のすることだ」
「ばか……
「お守りを忘れたなら縫い付けておけバカ。主に進言して明日は隊長で出陣するぞバカ。明日は中傷進軍ですらなしだバカ」
「バカバカ言うな!」
「お前が頭が悪いのが悪い」
長義の言う事は最もだ。しかし何かの補正が働いて、代わりに誰かが折れるかもしれない。それが怖くて折れる道以外選べない。そう伝えると長義は鼻で笑う。

「加州清光の髪は短いか?」
「へ?いや……
「秋田くんのお守りを探した次の日お前は寝込んだかな」
「いや……
「神様は補正する気はないようだ」
まんばはぽかんとする。まんばのしてきたことが、確認になっていたらしい。




「神様はお前に生きて欲しかったんだよ」






まんばは本丸に戻り、無事に手当てを受ける。

その後本丸の近侍は長い間まんばのままだった。ただ本丸の刀達からは「最近隊長の勘当たらないねぇ」などと言われたりしていた。
まんばに先見の才などない。

しかしまんばは近侍として長けていると評価される。
それはまんばの相談役が優秀だったこともあるが、ほとんどのものが知らない。

神様に推されていたまんばの話、おわり

お疲れ様でした!お読み頂きありがとうございました!ちょぎくにまで至らなかったけど、まんばは長義くんのこと唯一無二の存在認識してますし、長義くんも自分に頼って来る写しかわいいってなってますので近いうちにくっつきます!
お付き合いありがとうございました!


■どうでもいい設定
・神様はまんばに「生きたい」って思わせたかった。だから3回目では長義くんにも特別な力を与えた。
・まんばはこの先、自分がいなくても本丸が末長く続くようにと願って折れている。
・1回目2回目でまんばに庇われているのも長義くん。(それは長義くんは知らない)