木蔦(キヅタ)
2021-01-17 10:49:47
17765文字
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【サンプル】シールくんと本丸のちょぎくにたち【ちょぎくに】(ツイ民だけに多めに公開)



シールくんの受難(書き下ろし)



(前略)



三振り目の長義達が顕現してから数か月が経った。
初期刀と一振り目は相変わらず仲が悪い。あの夜の事は幻覚だったんじゃないかとたまに思う。
執務室で審神者を挟んで口論しているのはよくある風景だ。今も机上に新しい戦場の地図を広げて、ああでもない、こうでもないと話している。

「だから! ここはこちらに進軍した方が効率的だと言ってるんだ……!」
「いや、そっちは強力な敵がいるから、こっちに進む方がいい」
「うちの実力なら倒せるだろう、大丈夫だ」
「いや確実性を取る方が良い、万が一怪我したら……
「怪我を気にするなら尚更だ! 戦闘回数は少ない方がいい!」
「作戦の時点で怪我前提で考えてどうする!」
「分からず屋だな!」
「そっちこそ……!」
「ま、まあまあ! ふたりとも……
正反対の意見にキッと睨み合う。そしていつも審神者や他の刀に宥められている。傍から見れば一触即発、犬猿の仲、混ぜるな危険と思うだろう。その口論の激しさに三振り目の長義ですら、一振り目は失恋か喧嘩別れしたんじゃないかと思ったものだ。

あまりに日常化しすぎて『ああ、またやってるな』程度にしか思っていなかった。同位体と山姥切国広の問題に巻き込まれる厄介さは初日で嫌というほどわかっている。それに巻き込まれたくないので極力傍観者に徹していた。

しかしある日唐突に爆弾を落とされることになる。


それは暖かい昼下がり、非番であった国広と縁側で日向ぼっこをしていた時だった。国広はうとうとしていたため、自分の膝を貸してあげている。今はぐっすり寝入っていた。
その髪の毛を梳きながら、ああ平和だなぁと思っていた所でその爆弾はやってきた。

「シールくん、ちょっと相談があるんだけど」
「へ? 相談?」

いきなり一振り目から声を掛けられびっくりする。一振り目は基本的に何でもできるし、練度も高い。それなのに経験も浅く、練度が低い長義なんかに相談することなどあるだろうか。
その会話に反応してか国広が少し身動ぎする。起きてしまうかもしれないと慌てて声のトーンを落とし、問いかけた。

「な、なんなの突然。相談なんて」
「君、末っ子くんと仲良しだろ?」
「え? まあ」

『末っ子くん』というのは三振り目の国広のことだ。今いる三振りのうち、一番最後に顕現したから『末っ子くん』らしい。四振り目が来たらどうするんだろうとは思う。
この本丸では複数振りの顕現が当たり前だ。山姥切国広は初期からいる刀だが三振りしかおらず、少ない方である。
国広とは出陣や内番などがない限り常に一緒にいる。彼の世話係もまとめて初期刀がやっていたので、研修期間中もずっと一緒だった。今は研修は明けたが、顕現が同時期のため出陣部隊が一緒になることも多い。だからほぼ公私ともに一緒にいる。
それがどうしたのだろうと、不思議そうに一振り目を見つめ返した。

「あのさ、俺の国広の事なんだけど」
「『俺の国広』」

思わず反復してしまった。『俺の』で、しかも『国広』だ。驚かないわけがない。
恐らく初期刀の事を指していると思うが、彼が初期刀のことをそんな風に呼んだのは初めて聞いた。いつもは『偽物くん』である。そこから察するに、やはりふたりはあの後恋仲になったのだと推測できた。
まるで思考に答えるように一振り目が言う。

「うん、俺のだから手出しちゃだめだよ」

惚気られた。
砂を吐きたい気分にさせられる。ひくつきながらも話をさっさと終わらせようと用件を聞いた。

「そ、それで、何かな……
「実はさ、俺、もっと国広に甘えてほしいんだよ」
……はぁ」
いきなりなんなのか。あのしっかりした初期刀が甘える姿など長義には想像できない。山姥切長義たるもの、恋刀に甘えてほしい気持ちはわからなくもない。元より与えたがりのため、他でもない恋刀を存分に甘やかしたいだろう。しかし初期刀に甘えてもらおうというのは性格上無理では、と考える。
「あいつ、俺が何かしてやろうとしても、いらない、とか、いい、だとか言って遠慮するんだ。ほらこの前のお茶会だってそうだっただろう!」

お茶会、と言われてもピンと来なかったが、ああそういえばこの前の夕食後にお菓子を写し達に振る舞っていたなと思い出す。
あれはおやつどころか、夜食レベルの量だと思ったが、一振り目にとってはお茶会という認識のようだ。

『写しくん、まだ食べ足りないだろう、お菓子があるから部屋においで』
……! 行く!』
二振り目の国広は目を輝かせながら答えた。二振り目の長義は顔が引き攣っている。まだ一振り目が二振り目の国広に懸想していると誤解しているらしい。
『末っ子くんも来るだろう?』
『え……!? 俺……!?』
『そう、甘い洋菓子もあるよ』
『え、えと……その……ちょ、長義も行くなら……
三振り目の国広が長義の裾を引きながら答える。人見知りゆえに一振り目との会話が恥ずかしいらしい。
長義は国広の様子をこっそり伺う。「長義が行くなら」と答えたが、そわそわした態度からして行きたそうだ。やはり食いしん坊ゆえ菓子に興味があるのだろう。顕現初日こそひとりで行ったが、長義なしでは心細いらしい。
『シールくんも来るよね?』
『そうだね、別に予定もないし行こうかな』
『じゃあ決まりだ』
さあおいで、と一振り目が勧める。しかしふと思い出したかのように振り向いた。彼の視線の先にいたのは初期刀だ。
『おや、偽物くんじゃないか。君も来るかな? と言ってもお前なんかに食べさせる菓子はないけどね! 今日は良い菓子を取り寄せたんだ! とっても美味しいと評判のものでね! すぐ売り切れてしまうんだけど今回は奇跡的に手に入ったんだよ! お前になんか勿体ないけど、だけどどうしてもっていうなら少しくらい……!』
ペラペラと彼の反応も伺わず、早口でまくし上げる。山姥切長義は比較的口が回る方だ、高圧的な態度もよく見る光景である。一振り目とて例外ではないが、内情を知っている長義としては、好きな子を誘うのに動揺している山姥切長義としか見えない。
はてさて、初期刀の反応は、とチラリと目線だけで窺うといつもの無表情だ。彼は一振り目の言葉が終わるのを待たずに言った。

『いや、結構だ』

スパンと一刀両断だった。

『そ、そう……
一振り目の寂しげな後ろ姿を見て、切なさで胸がいっぱいになったのを覚えている。

招かれたのは数回目だが、あの日並べられたお菓子はいつもより量が多かった気がする。少し高そうな物も並んでいた。恐らく初期刀のために買い揃えた菓子だったのだ。意を決して誘ったのだろうが、空振りに終わったというわけだろう。

「俺は国広を甘やかしたいんだ……! なのに全然甘えてくれない……! もてあたしたい」
「一振り目」
「それにいつも素っ気ないんだ、イチャイチャしたいのに、なぜか避けられる」
「一振り目」
「それに俺が『好きだよ』って言っても『ああ』とか『そうか』とかだけで全然返してくれないんだ……!」
「一振り目……
はぁ、と頭を抱えた。

「お前ならどうすればいいかわかるだろ? お前は末っ子くんとこーんなにイチャイチャしてるんだ! それに偽物くんとも比較的仲がいいじゃないか、ただ単に世話係の関係だったくせに。くそが」
「相談しに来たのか、惚気に来たのか、暴言吐きに来たのか、どれかにしてくれないか」
「偽物くんはどうしたら甘えてくれるんだ!?」
「いやもう胸に手を当てて聞いてみなよ……

なぜ気付かない、と再び頭を抱えた。答えは明白だろう。

「山姥切国広は結構卑屈でしょ。例え極めていても、根っこは同じだと思うんだよね。お茶に誘った時も『俺なんかがいたら邪魔だろうな』とか思って断ったんじゃないかな」
「邪魔なわけないだろ!」
「本人に言って」
「言えたら苦労しない……!」
「まあそうだよね」

「山姥切は初期刀が好きなのか?」

下の方から声がしたのでそちらに目を向けると寝ていたはずの国広がきょとんとした顔で一振り目を見上げていた。起こしてしまったようだ。





「写しくん」

二振り目の国広は二振り目の長義に呼び止められた。
「あのさ、ジンギスカン、食べない?」
「じんぎすかん……?」
「肉だよ、肉。焼肉みたいなもん。珍しいのを手に入れたから……
現在は昼過ぎで、先程ご飯を食べたばかりである。しかし彼の胃袋は底知れない。それを長義も承知しての誘いだった。
「肉! 食べたい……!」
国広は目を輝かせる。珍しいなら尚更だ。
「皆には内緒だぞ。量がそんなにないから」
「い、いいのか……!? 俺なんかが……
「二振り目のよしみだ」
「いっつも意地悪で悪態ばっかで意地くそ悪くて我儘放題なのに、どうしたんだ?」
「お前俺のことそんな風に見てたのか……!」
自業自得だが、長義は彼からの認識を思い知らされて、プルプルと震える。行き場のない後悔と憤りが渦巻いていた。
しかし今は肉だ。気を取り直してパッと顔を上げた。
「じゃ、じゃあ、お前の部屋で良いかな」
「ああ!」
「後でコンロとか持ってくから」
「わかった! 机用意しとく!」
国広は一も二もなく了承した。早速準備を整えなくては、と部屋に戻った。


(続きは本でご覧ください)