木蔦(キヅタ)
2019-09-27 01:27:35
1506文字
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※それはまだ恋ではない【ちょぎくに】

小説です。

「な、なんでここにいるんだ!」
国広は長義を視認し、驚き後ずさった。

太陽は少し高い位置にあり、既に暦は秋とは言えまだ暑い。ここは本丸の畑で、国広も長義もジャージだ。畑当番である。
国広が何を驚いているかと言うとずばりそのことだろう。今日の畑当番は長義ではない。国広とペアだった刀に長義が代わってもらったのだ。

国広は長義の事が苦手なようで、話す事を徹底的に避けている。内気な性格もあり、本丸内ではあまり目立つような事はしない。誰かと話す時もいつも恥ずかしそうに俯いている。だが相手が長義ともなると、オドオドと戸惑い、身体は徐々に後ずさっていく。長義だけには異常とも言える反応を見せる。国広の苦手意識が態度に表れていた。
そして先日、国広をからかってた時に長義は自分の性癖に気づいた。国広の追い詰められた顔やフルフルと震える仕草を見ると非常にぞくぞくする。もっと見たい、もっと困らせたいと思ってしまうのだ。
「なんでって代わってもらったからだよ」
国広のその顔が見たいがために、大嫌いな畑当番を代わってもらった。
案の定国広は、耐えるようにきゅっと引き結んだ口、狼狽えて泳いでいる目、ハの字の眉をしていて、内心長義はニヤニヤしてしまう。
「えっと……都合が悪い日に畑当番が入っていた、のか……?」
「いやそうじゃないよ」
「え……
「さあ、早く終わらせよう」
そう言って作業に取り掛かる。
何か言いたいことがありそうだが、長義に言うのは怖いのかチラチラ見るだけで何も言わない。国広は長義から少し距離を取って、作業を始めた。
今頭の中は長義のことでいっぱいだろう。長義が畑当番嫌いなことは周知の事実だ。だからなぜ代わってもらったのか、考えを巡らせているに違いない。まさかこれが嫌がらせで困った顔が見たいからなんて思いもしないだろう。
昼休憩を挟み、作業を続け、漸く夕方になった。当番自体は苦痛でしかないが、今国広が何を考えているのか想像するだけで楽しかった。ただ彼が長義のことなど忘れ、当番に没頭している様子が見受けられると、傍を通ったり話しかけたりして気を引くように仕向けた。そうするとまた国広はチラチラと長義の事を窺うようになる。
(お前は俺の事だけ考えてればいいんだよ)
国広の様子を見るたびに征服欲が満たされていく。国広はずっと長義に振り回されていればいいのだ。写しとはそうあるべきだ。

「じゃあこれを仕舞えば終わりだな」
そういうと国広はホッとした表情になる。ようやく解放されると思っているのだろう。農具を国広が抱える。長義もその辺にあった物を拾い上げた。そして農具入れの小屋までふたりで向かう。
小屋に入ると長義は扉を閉めた。小屋の中には明かりなどなく、薄暗くなる。しかし外から漏れる明かりでまったく見えないわけではないが、国広は急に視界が悪くなり驚いて振り返った。
「な、なんで閉め……!」
「さあ、なんでだろうね……?」
ふたりだけの密室は、追いつめられた良い顔をする。

(その顔が見たかったんだ)


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