三崎
2024-12-10 23:29:36
58248文字
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ハッピー♡メルティ♡トイボックス♡まとめ読み

2025/1/12 super comic city 関西30にて頒布予定「ハッピー♡メルティ♡トイボックス♡」収録話の公開済のお話+書きおろしサンプルまとめ読みです。
A6 164P 800円 カバー、ダイカットカードつき

※2話と3話の間でチャティに人型の体が出来た感じの流れです。
※ラミーとブルートゥが生きてたりでゆるふわ時空なのでそういうのが許せる人向け。
表紙イラスト:ひめり様(X:@chiyomomo25)
表紙デザイン:うぐ様(X:@sijinomix0343) いつもありがとうございます!!

   1.夜空を彩る


 花火……とは何だろう。カーラから送られてきたブリーフィングの映像記録を見て、621が最初に思ったのはそれだった。気にはなりつつ、しかし、すぐに見られるのなら調べなくても良いだろうと、深く考えることもなく、621は指定された場所へ向かった。
 そこで見ることになったのはRaD謹製の大型ミサイルによる大爆発で、どうやらこれをカーラたちは花火だと称しているらしかった。それは彼らなりのジョークであって、本物の花火はまた違うものだということは621にもわかる。だから本物のそれを見てみたいと、そう思った。どうしてそう思ったのかはわからない。その場にいた誰もが楽しげだったから、本物を見たらもっと楽しくて、感情が希薄だと言われる自分でも〝楽しい〟と感じることが出来るのではないか……そう無意識のうちに思ったのかも知れなかった。
 とはいえ、本物の花火とやらがルビコンに流通している訳もなく、エアに頼んで探してもらった古い映像記録を手に入れることしか出来なかった。
 火薬と金属の粉を混ぜた爆弾のようなものに火をつけて空に打ち上げると、金属が燃える時の反応により、色とりどりの火花が散る。それを楽しむものらしい。こんな娯楽を味わえるのは、よほど豊かな惑星の人間に限られるだろう。
(調べたところ、花火会場というのは恋人たちのデート場所に選ばれることが多いようです)
「そう、なんだ……
 あまり自分には縁のない話だな、と思いながら、621はエアに気のない返事をした。だとしたら、あれはRaDの面々と自分たちのデートという奴だったのだろうか。デートにしては物騒な時間だった。おそらく、世の恋人たちはあんなに鉄臭くて血生臭いデートはしない。
 そんなことをぼんやりと思っていると、あの仕事の後に送られてきたチャティのメッセージが思い出された。
『花火会場では世話になったな』
 デートの後に寄越すものにしては色気のないメッセージだが、621にはそういった色恋のことはわからない。チャティだってそういった意図はなかったはずだ。ただ、そんなメッセージを送ってくるくらいだから、チャティはきっと花火が好きなのだろう。であれば、この映像記録を見せたら喜ぶに違いない――621はそう考え、エアから渡された映像記録を再生せずに、チャティへとメッセージを送ることにした。
(レイヴン、再生しないのですか?)
「ん……チャティも誘って、一緒に、見よう……と思って」
 621の返事を聞いたエアは、チャティへ送るメッセージを一緒に考えてくれた。着弾地点を教えてくれるくらいですから、きっと喜んでくれますよ、と言って。


 ――こちらこそ世話になった。古い花火の映像記録を手に入れたから、今度、一緒に見よう。
 621からの突然のメッセージに、正直言ってチャティは驚いた。まさか、自分宛に連絡が来るとは思っていなかったのだ。しかも、こんなにも個人的なメッセージが来るなんて。
 621とは初対面という訳ではない。コヨーテスどもに花火を打ち込んだ後、ハンドラー・ウォルターと621は、拠点に戻る前に補給がてらグリッド086へと立ち寄った。技師たちが移動用カーゴに燃料を補給している間、フィーカの一杯でもどうだと、カーラが二人を作業場まで案内し、その時、施設内の大型コンピュータの中にいたチャティと、少しばかり会話をしたのだ。チャティがAIだと聞いても、621はそれほど驚く様子は見せなかった……と、チャティは記憶している。無関心……というより、当人の鈍さから、その事実をそのまま受け止めた、というのが正しい気がした。本心ではどう思っているのかはわからないが、少なくとも悪いようには思っていないだろうと判断し、世話になったな、とメッセージを送ったのだが……まさか返事が来るとは。
 メッセージを受け取ったチャティは、一先ず自身のボスへと報告をした。ビジターこと独立傭兵レイヴンからメッセージがあった、との腹心からの報告を受け、カーラはどんな内容かを尋ね、そして、その文面を見て大笑いした。
「アッハッハ! なんだい、デートのお誘いじゃないか」
「ボス、おそらくビジターにそんな意図はない」
「それはわかってるさ。冗談だよ。でも……
 せっかくのビジターのお誘いなんだ、受けてあげなよ。カーラはそう言って、チャティとの通信を切ってしまった。特に問題ないと判断したということだろう。チャティは少し考えて、これから先、長い付き合いになるかも知れない相手の誘いと考えれば断る理由もないと、その申し出を受けることにした。RaDに来てもらっても良いし、データを送ってもらって、通信を繋ぎながら同時に再生しても良い、そちらの都合に任せよう、と返すと、621からは少し待たせることになるけれど、直接RaDに行くからその時に見ようと返事があった。ついでに、カーラに都合の良い日を聞いて欲しいとも。チャティがカーラに尋ねると、一週間後なら構わないとのことで、それを伝えた621からも、それで問題ないと返事があった。
 ――待つ時間も花火のうち、とカーラが言っていた。一週間後、楽しみにしている。
 621からのメッセージはそう締めくくられていた。すぐに見た方が効率的ではないかと思ったが、ボスが言うように、わざと待った方が良いこともある。それを人は〝粋〟だとか、ボス流に言えば〝笑える〟などと言うのだ。ならば、それに従うのがRaDの腹心としてあるべき姿だろう。
 あの凄腕のビジターは第四世代の強化人間で、感情や情緒を取り戻すために外部からの刺激を必要としているらしい。そんな相手が自分の意思で一緒に映像記録を見ようと誘ってくれたのだから、それはきっと大きな意味があることだ。それくらいはAIであるチャティにも理解出来る。
 ビジターがどんな映像記録を持ってくるのかはわからないが、この接触が彼にとって有意義なものとなれば良い……チャティはそう思いながら、621の訪問に向けての準備を進めるのだった。


 花火を見る約束をしてから、二人は頻繁にメッセージをやり取りする仲になり、昨日は通話でお喋りまでした。621は発声が得意でなく、ゆっくりしか話せなかったが、スローテンポながら話は弾んだ。621はチャティがする話を興味深げに聴いてくれたし、元々聞き上手なチャティは621の考えていることをうまく引き出して、ついつい夜ふかしをしそうになった。
 ウォルターにそろそろ休むようにと注意され、会話は終わってしまったが、621もチャティも、それぞれ明日を待ち遠しく思いながら、その日を終えた。
 約束の日。621はハンドラー・ウォルターに連れられてグリッド086へとやって来た。 ウォルターはカーラと積もる話があるらしい。少しばかりの歓談の後、ACサーカスを小さくしたような機体にインストールされたチャティは、621と好きに遊んで来るようにと二人に言われ、グリッド086の案内がてら散歩をすることにした。あの映像記録を見るための場所までは、少しばかり距離がある。
「今日、は……体が、あるん、だな」
「ああ。体があった方が便利なこともある」
 きゅるきゅると履帯を鳴らして先導するチャティの後ろを、621がゆっくりとした足取りでついていく。その間、後方につけた小型カメラの映像を確認しつつ、時折速度を調整しながら、チャティは621にグリッド086の設備の話をしてやった。621はそれを珍しそうに聞き、あれはどうなっているのか、どこに繋がっているのか、そんな素朴な質問を投げかける。チャティが関わる相手はドーザーばかりだから、外部の誰かに自分たちの根城について質問されるという経験はない。新入りに説明するのとはまた違う、まさしくビジター向けの説明というのは難しくも面白く、621が興味深げに尋ねるせいで、ついつい喋り過ぎてしまう。
 ボスからは名前と違って無口な子に育ったと言われるのに、621と一緒にいると、不思議と饒舌になれる。でも、それが嫌ということもなく――自分にはこんな一面もあったのかと、チャティは少しばかり驚いていた。
 二人はお喋りをしながらグリッド086を見て回り、とある大部屋へとやって来た。大きなモニターが設置された、会議室として使われる部屋らしい。しかし会議をするのに適しているかと言われれば、一般的な感覚ではノーであり、いつからあるのかもわからない書類が机の上に置かれたままなのはまだしも、床には空の注射器やゴミが散乱していた。
 滅多に使われることのない部屋だから、サボり魔のドーザーがこっそりコーラルドラッグをやりに入り浸っているようだ。こういった部屋はおそらく他にもあるのだろう。後で確認しなければならないなと思いつつ、チャティは621に座るように促した。
「少しばかり散らかっているが……気にしないで座ってくれ、ビジター」
「わかった」
 様々な感覚や情動に鈍いせいか、621はこの荒れ果てた会議室を見ても特に思うところは無いらしい。それが良かったのか悪かったのかはさておき、クッションがへたれたパイプ椅子に腰を下ろした621は、きょろきょろと部屋を見回している。
「ここ、は……?」
 見たところ、この部屋はただの会議室で、大きなモニター以外に特別なものは何も無かった。621が不思議に思って尋ねると、チャティは壁から出ているケーブルと自身を接続しながら、621に言った。
「一緒に見るというなら、脳内デバイスで再生するより、こうして見た方がそれらしいだろう。今、事前に送ってもらった映像記録を転送中だ。少し待っていてくれ、ビジター」
……!」
 621は驚いたように目を見開くと、心なしか楽しそうな表情で、まだ何も映さないモニターを見つめた。始まる前から気が早いことだと思わないことも無かったが、待つ時間さえ楽しいというのなら――待つ時間も花火のうち、というカーラの言葉も良く理解出来る気がして、チャティもなんとなく浮ついた心地になってくる。
 準備が整うと、チャティは部屋の灯りを落として、始めるぞ、と621に声をかけた。こくりと頷く621の視線は、モニターに釘付けになっている。
 映像記録を再生すると、真っ暗な空が画面に映った。画面の下にぽつぽつと人工的な灯りが見える。どうやら川辺で撮影されたもののようだ。古いものらしく、画質はお世辞にも良いとは言えない。しかし、それもまた趣というものだろう。
……あ」
 真っ暗な空に、一筋の光が伸びていく。一瞬遅れて、何かが弾ける音が響いた。かと思うと、パッと空に三つの花が咲いた。続けて、いくつもの光の筋が空に伸び、最初のものとは違う、一層大きい花が空いっぱいに咲いていく。赤、青、緑……花の形や消え方も様々で、大きく弾けた後、複数の花が咲くもの、いくつもの円が重なったように咲くもの、光が降り注ぐように消えるもの、ふっと煙のように消えるもの……それらが複数組み合わされ、その色もまちまちなのだから、いつまで見ていても飽きそうに無い。普段、爆薬や硝煙に慣れ親しんだ自分たちでも、素直に美しいと思えた。
 自分たちはもっぱら破壊と人殺しに使っているが、使いようによってはこうして見て楽しむものにも転用出来る……それに思うことが無いではなかったが、そういったことをする技術も余裕もないのだから仕方ない。いつかコーラルを巡る戦いが終わって、ルビコンに平和が訪れたなら――人々がこうして本物の花火を楽しむ日が来るのかも知れない。
 それがいつになるのかも、そもそも、そんな日が来るかどうかさえ、誰にもわからない。
 それでも、そんな日が訪れるとしたら、その時は……こうしてまた一緒に花火を見られたら良いと、そうチャティは思った。古い映像記録でもこれだけ楽しめるのだから、本物を見たら、きっと素晴らしい体験になるはずだ、とも。
……きれい、だったな」
「ああ」
 十五分ほどの映像記録は、あっという間に見終わってしまった。再生を終えたモニターは、スタンバイ状態の青い画面を映すのみ。部屋の灯りをつけると、さっきまでの幻想的な光景とは一転、汚れた会議室が目の前に広がる。それも相まって、まるで夢の中の出来事のようだ。チャティはもちろん、621も夢なんて見たことは無かったが。
「火の色が、変わるの……不思議、だ」
「そうだな」
 火薬と金属の反応、という理屈はわかるが、それを美しい花火にすることの手間や試行錯誤を思えば、途方もない労力がかかるはずだ。そうして作り上げたものが夜空を彩り、そして、ほんの一瞬で消えてしまうというのは、とても贅沢な娯楽だと言えた。
「きみの、言う通り……暗くして、こうして、見たほうが……良い。楽しかった。ありがとう」
「礼には及ばない。お前が誘ってくれなかったら、わざわざ見ようとは思わなかった」
 知識としては知っていても、チャティもわざわざ本物の花火の映像を見たことは無かった。何事も本物を見るのは大事だ。それを理解出来ただけでも、十分過ぎるほど有意義な時間だったと言える。
「チャティも、楽しかった、かな」
……そうだな。お前のおかげだ、ビジター」
 621の質問にチャティは肯定した。自分の感じた感覚は、人で言う〝楽しい〟という感覚と言っても差し支えないだろうと思ったからだ。チャティの返事を聞いた621は、ほっとしたように微かに笑った。
「なら、良かった……きみは、きっと、花火が好き、だと思って……
 花火が好き。そんな自覚は無かったから、621のその言葉に、チャティは少しばかり戸惑ってしまった。好き嫌いといった志向が自分の中にあるとは思っていなかった。おそらく621は花火会場での自分の振る舞いからそう思ったのだろうが、本当に、そうだろうか。しかし、今、自分の中に生じた〝楽しい〟は、きっと……
……そう、なんだろうな。ありがとう、ビジター」
「?」
 爆発という意味の花火も、こうして見た花火も、きっと自分は好いている。それを気付かせてくれたのは――
 不思議そうな表情の621に、チャティはおかえしとばかりに〝提案〟をした。
「ついでだ、ビジター。俺のとっておきの花火の記録も見ていってくれ。風情は無いかも知れないが、きっと楽しめるはずだ」
「その……花火、って、いうのは……
 それはもちろん、621が持ってきたものとは違う〝花火〟の映像記録だ。もう一度、部屋が暗くなり、モニターにルビコンのどこかの風景が映し出される。それを見つめる二人の背中はどこか幼く、しかし楽しげで、まるで花火会場でデートする恋人たちのようだった。


 数時間後、拠点に戻った621は、今日のデートは楽しかったですか、とエアに尋ねられ、盛大にぽかんとした顔を晒すことになるのだが……それはまた、別の話。


おしまい