さもゆ
2024-12-10 03:01:16
20516文字
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【悟チチ】神さまが見ている

昔チチさんに惚れた男が今になってチチさんにアタックをかける話。あるいは惚れ薬・媚薬ネタ。もしくはピンチには必ず駆けつけてくれるピッコロさん。
※メインはほぼチチとピッコロさん
※暴漢、捏造等あり
※たぶん超時空

2023.3.13 たべものpixiv投稿作品



 あれだけ体中を蝕んでいた痛みがふと消えたとき、チチの胸は確かな充足感で満たされた。
 はー、と息を吐く。正常に呼吸ができる。冷たい空気をゆっくり取り込み、また緩慢に吐き出す。そうやって息をするうちに痛みの取れた頭が穏やかな睡魔を受け入れようとしてしまう。そうしてたぶん、浅い眠りと自分の意識を行ったり来たりして、時間が流れた感覚があった。
 しばらくののち、ハッと明瞭な意識を取り戻す。だめだだめだ、チチは自分の瞼を擦り、疲労で力の入らない手足を叱咤して身を起こした。瞼はまだ開けない。
「ピッコロ。いるか」
 一晩中、痛みで朦朧としていたため確かではないが、あの元大魔王はしっかりとチチのそばについていたはずである。証拠に、部屋の中から返事が返ってくる。
「ああ」
「おら、勝ったぞ。見てたか」
「見ていた」
「今から目を開ける。おめえさの目を見て、ドキドキしなかったら、おらの完全勝利だ」
「ああ。一日ぶりに顔を合わす相手が俺とは、光栄だ」
「おらもだよ。この勝負、おめえさに見届けてもらって本当に良かっ――

 チチは目を開けた。
 見開いた。
 ドッ、心臓が凄まじい勢いで拍動を刻む。全身の血が沸騰して顔に集まった。

 目が合った相手はピッコロじゃなかった。

「な、な、な……

 ――目の前に、悟空がいる。
 そしてその後ろ、壁に背を預け腕を組んでいる緑の長躯を見つけ、チチは叫んだ。

「謀ったなピッコロ!!」

 キイン、金切り声を耳にやった手で防いだピッコロは、ニヤリと牙を見せて笑った。「人聞きの悪いことを言うな、俺は別にルールを破っちゃいない。お前は正真正銘、正攻法で勝ったんだぞ」
「何をぬけぬけと……! ならなして悟空さがいるだ! あれだけ呼ぶなと言ったのに……ッ」
 病気や怪我とは違えど、一日中苦痛に苛まれていた体で急に動けば不調にもなる。チチは眩暈に襲われベッドに突っ伏しかけたものの、何より安心する逞しい腕に抱き留められ、思わず涙腺が緩んだ。ずび、鼻を啜る。自分はいま絶対にひどい顔をしている。目は腫れぼったいし、肌はガサガサ、唇なんてひび割れている。風呂にも入っていない。こんな姿、到底見せられない。そう思うのに、顔を上げてしまう。黒目と視線がかち合う。
 本当はずっとずっと見たかった顔だった。そばにいてほしいひとだった。
「ご、悟空さ」
「チチ。おめえ怪我したんか」
 悟空はちょっと困った顔をしてチチの顔を覗き込み、唇を親指で擦って言った。ぴりりとした痛みを感じ眉を寄せると、さっと親指が離れてしまう。
「ん、んだ」
 しどろもどろに答えようとすると、奥からピッコロが声を投げてくる。
「さっきも言っただろう、孫。そいつはちょっと厄介な勝負事に巻き込まれて、今の今まで戦っていたんだ。歯を食いしばるほどのな。負けず嫌いがうるさく喚くもんだから、勝ちが確定するまでお前は呼ばなかった。だからそう不機嫌になるな」
「そ、そうだぞ、悟空さ」チチはピッコロの言わんとしていることが分かってこくこくと頷く。「悟空さも、しょっちゅうおらに隠して誰ぞと勝負するもんな。そのこと知らされんのは、いつも悟空さが勝ったあとだべ。な? おらのもそーいうやつだ。だ、だからな、あのな悟空さ、そんな怒んねえでけろ……」 
……怒ってるわけじゃあ、ねえけどさ」
 ぎゅむ。
 珍しいことに、ピッコロの見ている前で、悟空はチチを抱きしめた。額を寄せ、鼻が触れそうな距離で訊ねる。「オラの目ン玉、いま緑色になってっか?」
「な、なってねえ」
「髪は?」
「黒だ」
「だろ。オラ怒ってねえよ。けどさ、あー……」言葉を探す間のあと、そうやって悟空にしては長い間黙考していたかと思えば、結局ま、いっか、と清々しいまでに探していた言葉を放り出して、次いで悟空はこう言った。「勝ったんか? チチ。その面倒な勝負事ってやつに」

 どちらの瞳に星があるのかは分からないが、悟空と合わす視線はいつも引力があるようだった。
 そしてそれが答えだった。薬の効力は消えている。ならばこれは紛れもない本物だ。
 神さまに胸を張って言える。大魔王に正面切って断言できる。
 昔も今も変わらない、自分はこのひとのお嫁なんだ。

「おら、勝ったぞ。……悟空さ、おら勝ったんだ!」
「そっか。頑張ったんだな、チチ」
「んだ!」

 ようやく自分からも抱きしめ返すと、その倍の力が返ってくる。
 引力に誘われるまま唇を寄せたのは、やっぱりどちらかはハッキリしなかったが、ひとつだけ確かなことはそれを証明できる存在がいるということだった。
 その存在は悪と善と忠義心とを煮込んで緑色の肌に流し込んだような種族であり、人間の恋愛など門外漢な異星人だったため「滅多なことするなよ、ここは神殿だぞ」と無粋に言い置いて部屋を出た。

 耳がいいためもちろん背後から聞こえる二人分の抗議に一々構うこともできたが、そうはせずにデンデのもとへと向かう。あれだけ苛まれていた苛立ちも不安も、勝負に勝ち得たチチとそれを受け止める悟空を見届けただけであっさりと掻き消え、気分が良かった。見届けるのは自分の役目だが、勝利を喜ぶのは悟空の役目だろう、そう確信して取り急ぎあいつを引っ立ててきたが、どうやら正解だったらしい。負っていた肩の荷が下りた。
 きっとデンデも同じ気持ちだろう、丸一日気を揉んでいたはずの小さな神に膝を折るべく、ピッコロは神殿内を大股で進み始めた。