さもゆ
2024-12-10 01:55:21
7234文字
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【血界】レオくんとおじいちゃん/ほか

1レオくんのおじいちゃんになりたいモブ
2レオくんのまぶたを触りたいモブ
3焼灼止血するザップさんと凍らすスティーブンさん

2021.12.29 たまごのお粥pixiv投稿作品



火葬はさせない


 戦っているうちはいくら血を流したって構わないが、戦いが終わってからでは堪らない。傷口を処置しなければ常に血流を操作しなければならず、そんなのは四六時中働くのと一緒でひどく面倒だ。だからザップは戦闘で深い傷を負ったときは自分でよく止血していた。焼灼止血である。
 血で覆った手のひらを、ジッポの火で炙って熱を瞬時に巡らし煮沸させる。それを傷口に押しつければ、皮膚が焼けひとまず血だけは止まる。秘境であの師匠と過ごしていたころに会得した荒治療だったが、開いた傷口から無駄に血を流すくらいなら、その身を炎で焼いてしまえばいい、ザップにはそれができた。
 今回ザップは多くの血を流し、これはさすがに病院に運ばれる失血量だと察したのだがいつもの癖で脇腹の大きな刺し傷を焼き、太腿の抉れた肉を焼き、届く範囲の背中の裂傷を焼いていた。皮膚が燃える痛みに歯を食いしばり、大量の汗を流しながら、そうやって血を止めていく。上半身は裸、下半身は傷口に当たる布を破いたほとんどまともに服を着ていない恰好で、さあギルベルトが待機している場所まで行って車に乗せてもらおうと瓦礫の山を一歩、踏み出した。
 しかしぐらりと視界が回り、尖った地面に綺麗に倒れたところで、ようやくやべ、と思う。
 焼きすぎた。
 傷口全てがどくどくと血を押さえ込み、焼かれた箇所から熱を溜めて忙しなく全身を巡る。まだ痛みを感じているというのが重要だった。痛みを感じなくなったとき、熱さも忘れ――最悪死んでしまう。重度の熱傷によって。
 自分が死ぬときはそれが原因だろうなと常々思いながら尚この荒治療をしているのだが、そろそろ本当に自分にするのはやめた方がいいかもしれない。他人相手なら、絶対に死なせはしないという意識が働いて、もっと加減を誤らずに上手くやれる気がする――だって自分は炎の神の名を持つ血を宿しているんだから、多少雑に扱ってもそう燃えやしないという自負がある――けれど今回は完全にその自負が仇となったらしい。たとえ燃える血の流れる人間兵器だろうが、人間は人間、焼きすぎれば燃えることもあるだろう。
 秘境にいたころは、こうやって焼きすぎて動けなくなったとき、どうしていたんだっけ。思い出したくもない。クソ爺に山頂の滝に突き落とされて……

 全身が冷たいものに突き刺された。
 一瞬、思い出したくもない思い出をなぞったのかと思ったが、轟々と唸る濁流の音も骨が砕けるような衝撃も襲ってこないことに違うと判断する。世界は相変わらず霧に音が飲まれていたし、骨が砕ける代わりに皮膚がずきずきと痛みを訴えている。それもやがて気にならなくなり、霞む視界に力を裂くと、自分の状態を正しく理解したザップはうげえと声を漏らした。

「俺、男に抱かれる趣味はねーんすわ」
「お前は性的なことに関連づけないと喋れないのか?」
 もしこれが死の間際だとしたら永遠の夜を知らせる御使いにうってつけ、静謐な氷の上司が力の抜けたザップを抱き抱え地面に膝を着いていた。抱き抱えられているというか、ほぼ拘束具合だけれど、ザップは上裸を震わせた。「ちゃんとした皮が残ってるならサブいぼ立ってそう。見てくださいよ」
「ほとんど焼けてる」
 答え、胡乱な濃紺で見下ろし、スティーブンが投げやりに言った。
「お前な、ちょっとは考えろよ。血だらけの部下ならまだしも、焦げた部下なんてゾッとしない」
「アンタが氷だからっすかぁ?」
「そうだよ」
 素直さに些か面食らう。と、背中に回っていた腕が冷たさを増す。上着の脱がれた氷の手が、直接、ザップの脇腹を押さえつけそこから体温を下げている。周囲は彼の足下から凍りつき、身を焼く熱さと痛みがどんどん和らいでいくことに息を吐いた。子守唄のような低い声が言う。
「凍らせれば、遺体は綺麗なまま残る。棺桶だって冷やすんだ。ひどく焦げてちゃ、そんなこと、無駄だろう。化粧でも誤魔化せない」
「ゾッとした」
「だろう」
 アンタにな。口にしなくとも分かっているはずのスティーブンはまるで知らん振り、墓掘人の億劫さで、息を白くした。「見事だな。ちゃんと血は止まってる。でも、それだけだ」
「血さえ止まりゃ、何とかなるんすよ」
「お前の何とかなるは、俺の無駄な流血も含まれてるのか?」
「無駄じゃないでしょ。こーやって俺助かってるんすから」
「重傷人らしくしおらしいこと言えよ」
「スターフェイズさん超かっけえ愛してる抱いて」
「悪いな。男を抱く趣味はないんだ」
「仕組まれた……
「負ぶってはやる。ほら、喋る元気があるならさっさと腕回せ」
 死神に負ぶわれるのか。ザップは失礼にもそう思った。死神の頭蓋骨に血と肉と皮膚と傷をつければほぼほぼスティーブンだろうなと出会った時から思っていた。これはどんなに口が軽くなったって言わないが。氷の棺に入れられたくはないし。
……俺やっぱ死ぬなら丸焦げっすかね」
 腕を回しながら言うと、だからゾッとするって、と氷の上司が氷を深めて言った。熱は引いている。どうやら。
 このひとがいる限り火傷で死ぬなんてことはなさそうだ。