さもゆ
2024-12-10 01:07:47
6113文字
Public 狂戦士
 

セルピコの話ふたつ

祈るな、祈れば手が塞がる、ってガッツが言ってたから。
ぐちゃぐちゃな気持ちで書き途中だったものをとりあえず書いて。けどとても悲しい。

先生、ご冥福をお祈りいたします。ベルセルクに出会えて良かったです。
私、あと六十年くらい全然待つので、私が死んだらそっちで続きを教えてください。死後の楽しみができたと思って頑張って生きます。でも死んで欲しくなかった。何年待ったっていいから続きが読みたかった。悔しすぎます。
ベルセルクがいつまでも大好きです。大好きです。

2021.5.20 たまごのお粥pixiv投稿作品 (原文ママ)

灰は溶けるか

 いい、お前はわたしのものなんですからね。
 わたしが拾ったのよ、わたしがこの手で、お前を助けたの。
 いつまでもわたしのそばにいなさい。
 わたしを助け、わたしの言うことを聞き、わたしのために行動なさい。
 人形のように静かに、ペットよりも従順に、教師よりも賢く。
 いいわね、いいこと、それがお前の主の、わたしの命令よ。
 従わなかったら、きっとよ、お前のことも燃やしてしまうんだから。
 そうきっと、燃やしてしまうんだから……

 

 囁いてくるファルネーゼさまの声は灰が降り積もるようにささやか、しかし煩わしくぼくの耳に落ちてきました。
 いつものちょっと横暴でちょっと理不尽な体験を終え(番犬に追っかけられるのは段々、少し面白くはなってきた。ヴァンディミオン家の犬を躱せたらひょっとすると凄いんじゃないか?)さあ中庭のベンチで一休みしてから厨房の仕事を手伝いに行こう、そう思って、自分が思っている以上に疲れていたに違いない、ほんの十分ほど、横になって眠りこけてしまった。
 そうしたら、先に戻っていたはずのファルネーゼさまが、完全に眠っていると見てとったのかぼくに近づいてきて、張り手でもなさるのかなとぼんやり眠たい糸目の視界でそれはちょっとやだなァと疲れた気持ちでいるぼくの、なんと、ぼくの頭をそっと持ち上げてその下にお掛けになられた。
 上等なドレス生地が耳や頬、鼻先をくすぐる気まずさったら!
 一体いつもどうやってスカートが膨らんでいるのか不思議なほど柔らかなファルネーゼさまのドレスは、ぼくの頭が乗ってもさほど沈んでいないように思えたし、そのおかげで、ぼくがぎょっとして目が覚めきったのにも気づかれなかったに違いなく、ファルネーゼさまはぼくの頭が落っこちないようにぎゅっと抱き寄せて、そして囁いてきた。

 いい、お前はわたしのものなんですからね。

 それを聞いたぼくは、ああ、そんなに念を押さなくても、と呆れた気持ちになった。
 もちろん、多少、その執拗さにゾッともしたけれど。
 でもぼくはしばらく眠っているふりをして、ただ彼女の好きにさせていた。それが自分にとっても良かったからかもしれない。
 彼女の柔らかく膨らんでいるスカートに隠された両脚は、ぼくの頭が乗っても折れそうではなかったし、ぼくの頭を抱えている手は小さかったが同様に弱々しいものではなかった。力強く、瑞々しく、ひどく温かい。こんなこと、された記憶はなかったけれど。
 お母さまとはえらい違いだ、そんなようなことを思ってしまった。
 ぼくはファルネーゼさまのものです、灰みたいな囁き声の合間、心の中で自分にも彼女にも誓う。だって、命を救われたんだから。
 自分を産んだ母親でさえ何も助けてくれないのに、聖都ですら浮浪者がたくさんいるのに、この小さな貴族の女の子はぼくを拾い上げてくれたんだ。
 だからぼくはファルネーゼさまのために生きよう。そうして燃やされないように気をつけなければならない。
 ぼくは降り積もる彼女の声に、同じだけ、応えていった。

 はい、ぼくはあなたのものです。
 あなたがぼくを拾い、ぼくを助けてくれました。
 いつまでもおそばにいます。
 あなたを助け、あなたの言うことを聞き、あなたのために働きます。
 もともと起伏の激しい方ではありませんし、従うのも従う振りも楽ですし、学ぶのは楽しいです。
 ファルネーゼさまの命令を、ぼくは破りません。
 もし破ってしまったときは、そのときは。
 あなたの手でどうぞ燃やしてください。
 どうか、燃やしてください。

 そんな日が、来なければいいけれど。こればっかりは起伏の激しい主によるので分からない。
 子守歌にしてはなかなか不気味な縋り方、それでもぼくはまたうとうととし始めました。
 灰はまだ降っています。