バラ肉
2024-12-04 02:26:33
11779文字
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愛の勉強【アタブロ】

初めてのおせっせ後、愛されたと感じたブロだったが相手のアタルは余りにも素っ気なく……

ギャグに見せかけた甘酸っぱい話です。
⚠️超人の倫理観が低め。
9歳で出奔してたら、そりゃ色々と性について酷い大人になってても仕方ないよね?と思って書いてしまいました。

支部にも投稿予定ですが、一旦尻叩きに上げさせてもらいました。



その日、ブロッケンJr.は珍しく自身の邸宅の応接室へと足を運んでいた。

一階の庭に面した部屋は日当たりも良く、薔薇を基調としたガーデニングが窓からよく見える配置になっている。
また、中に収められた調度品も上等な物が揃えられており、特に応接用のアンティークテーブルと、有名な家具職人にオーダーメイドで作らせた椅子は繊細かつ優美で、見ているだけで惚れ惚れする彫刻が至る所に施されている。
そして気品ばかりが目立つ室内を引き締めるように、壁の上部にはぐるりと一周する形で歴代当主の肖像画が飾られており、まさにブロッケン一族の富と栄誉が集約されたと言っても過言ではない一室となっていた。
実際、前当主であるブロッケンマンは好んでこの部屋で仕事の交渉を行っていたものだ。
扉越しでも聞こえる低い怒声が高圧的に相手を言い負かす場面に、ブロッケン自体何度出くわしたことか。

とはいえ、時代は移り変わるもの。
当主自らが残虐から正義へ方針転換をしたことも合わさり、最近のブロッケン一族への仕事は専ら要人の護衛や、他国への牽制としての集団行動のパフォーマンス要請。もしくは慈善活動をかねた非公式試合への参加が主となっていた。
かつて暗殺や抗争の援助といった裏の家業と懇ろにしていた頃とは大違いである。
結果、面と向かって仕事のやり取りをする必要が少なくなった現在において、わざわざ家に人を通す回数が減ったのも自然の摂理と言えよう。



そうして、久々に訪れた部屋の中。
揃いも揃って強面の先祖達に囲まれながら、ブロッケンは目の前で横柄に座る相手は視線を向けた。
……で、そちらさんはどういった要件なんだ。わざわざ二人きりで会いたいなんて……ハッ! 随分と物好きな提案だぜ」
机に肘を立て、わざとらしく指を組んだ彼は、敢えて煽るような物言いを仕掛ける。普段の好青年然とした雰囲気とは違う、張り詰めた空気はそれだけで皮膚が切り裂けそうだ。
一切の隙を許さない。
帽子の鍔から光る眼光は余りにも剣呑だった。
だからか、質問を投げられた男は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「まあまあ、ジュニア……。お前と俺との仲じゃないか?」
わかりやすく下手に出る顔は下品の一言。開いた口から覗く歯列には黒い空間が数箇所出来ていた。
へへっと笑う姿はさながらヒキガエルのようで、ブロッケンは馴れ馴れしい呼び名も含め、嫌悪感が止められない。
……おいおい、どの口でオレとの仲を語ろうって? アンタはとっくにうちの一族から破門されてる筈だぜ?」
精一杯感情を抑えた声は、しかし苛立ちが隠しきれていない。
目の前の、かつての同胞とも言いたくない相手は、確か父の代に存在を家系図から抹消された恥ずべき存在だ。何をしたかまでは聞いていないものの、科された罰からして由緒ある一族の名に泥を塗ったことだけは間違いない。
「そう言うなよ。昔はあんなに可愛がってやったじゃねえか……
……ふざけたことを」
にも関わらず、舐めた態度を取り続ける相手にブロッケンの短い導火線は今にも切れる寸前だった。こめかみに浮かんだ血管は彼の静かな怒りを物語っている。
本来なら敷地内に入れることすら許されない立場なのだ。
だが、かと言って一族の恥部を世間に晒すわけにはいかない。
『次代当主と話ができなければ、何をするか分からない』
伝言を告げた使用人の青褪めた顔は、きっと主人であるブロッケンも同様だった筈だ。捨てる物のない人間ほど怖いものはない。
そうして苦渋の決断で屋敷に招き入れたはいいが、家主の機嫌は最初から最低だった。
付け足して、自分を見つめてくる相手のいやらしい視線ときたら、苛立ちとも違う嫌悪感に鳥肌が立ちそうになる。

「おー、怖い。ガキの頃は本当に可愛がってやったって言うのに」
……
ニヤニヤ笑う顔は、ブロッケンの睨みなどなんのその。舌舐めずりしながら細くなる目元は、どことなく欲望の兆しを帯びていた。
「つーか、覚えてねえのか? ……ま、そのせいでお前の親父に追い出されたから、仕方ねぇか……
……何をっ」
聞き捨てならない台詞に、思わず語気が震える。
目の前の男と対面した記憶はないが、何故か背筋がゾワゾワと粟立つ。
本能が、この男と話すことを拒否しだす。
故に、ブロッケンは不快感を誤魔化すために一瞬顔を逸らした。だが、その油断がいけなかった。

……ガキの頃も可愛かったが、大人になっても美味そうだなあ」
「っ!?」

耳朶に触れる生暖かい吐息に、思わず目を見開く。
一体いつの間に近づいていたのか。
気付かぬ間に背後に立っていた男へ、ブロッケンは全身の血の気が引いた。慌てて振り払おうと腕を上げるも、先に手首を掴まれ動きが制限される。
「へへっ。伊達に武術訓練の監督はしてねえよ」
酒臭い息が首筋にかかる。
「貴様ッ!」
吐き気を催す行為に対し、非難の声が零れる。しかし握られた手首はどんなに力を入れても動く気配がなく、どこにそんなに力があるのか不思議なくらいだ。
そのままテーブルに押しつけられる形になったブロッケンは、せめてもの威嚇として奥歯を噛んで唸りを上げる。するとその様をどう受け取ったのか。
「ヒュー。子猫ちゃんな所は変わんねぇなぁ」
喉の奥でクックっと笑う様は、動じた素振りなど微塵も感じられなかった。
むしろ、さも楽しそうな嗜虐的な笑みに——ブロッケンはどこか見覚えがあった。

もう殆ど記憶のない遠い訓練生時代。
妙に馴れ馴れしく訓練を施した監督官の一人と、それは酷使していて。

「ジュニアは、何歳になっても可愛いなぁ」
『お前は、本当に可愛いなぁ』

そう呟く声が、過去のねっとりとした男の声とリンクした途端。拘束された体が石のように強張った。
「なんだ? 体はしっかり覚えてたってことか……俺にこうやって触られると固まる癖、まだ治ってなかったんだな」
さも楽しそうな声と共に、尻を触る太い指が、首筋に押しつけられる薄い唇が、腰に押しつけられる硬い股間の感触が、走馬灯のように蘇る。
「ッ!!!」
耐え難い屈辱に、無意識にグッと拳を握った。

(そうだった。見覚えがないんじゃねえ……オレは、この男を記憶から消してたんだ!)

まだ小さい自分に対し、過剰な接触をしてくる男の眼差しは子供心に恐ろしく。最終的に身の危険を感じた自分が父に言いつけたことにより、今までの悪行が明らかになり、一族から放逐されたことを思い出す。
しかし、それを意識するには既に時遅く。
「へへっ。お前が代替わりした時は憎らしくて仕方なかったが……しっかり俺のことを覚えてたなんて、いじらしい話だ」
前に回った手が、ジャケットのベルトを外そうとバックルに指を這わせてくる。
「あの時できなかった続きを、就任祝いにしてやるぜ?」
勝手な言い分は聞くに耐えず、できるなら今すぐにでも口を塞いで叩きのめしてやりたい。
だが、緊張に強張る体では全力の拒絶はうまく行くわけがなかった。

「俺のジュニア……
甘い言葉と共に寄ってくる尖った唇に、ギュッと目を瞑る。


その瞬間。

ガシャーーーンッ!!!!!

いきなり、窓が割れる甲高い音が聞こえたかと思えば。

「俺のものに触れるな!!」

聞き知った怒声が部屋に響き渡ると同時に、覆い被さっていた体が吹き飛んでいく。
「ぐべっ!?」
「ッ!」
そして見事な飛び蹴りを喰らった男は、そのまま受け身も取れずに壁へぶつかると、ズルズルと床に崩れ落ちるのだった。口からはぶくぶくも泡を吹いているところ、奇しくも一命は取り留めたらしい。
反射的にその様を凝視していたブロッケンは、しかし次に聞こえてきた声にハタと我に返った。

「ブロッケンJr.……なんだ、あの情けない様は」

低く澄んだ声は、先日一方的に喧嘩別れした相手の声で。

「あ……
「全く、危機感がないにも程がある。お前は再度特訓が必要かもしれんな」

徐に上半身を起こすと、案の定、いつもの不遜な腕組みポーズで仁王立ちするアタルの姿が視界に入った。

「キャプテン……?」

一体どうしてここに居るのか。
あと、人の家の窓を割ってその偉そうな態度はなんだ。
神出鬼没な登場に頭がついていかない。
聞きたいことが次から次へと頭に浮かぶ。
しかし、その前に先ほど彼が叫んだ台詞が頭で何度もリピートして止まらなかった。

「ん? なんだ、その顔は……

懇々と説教を説いていてたアタルも、呆然とする相手の様子にようやく気付いたのか。原因を探るために、ずいっと目の前まで距離を詰める。すると、思いの外空色の目が間近に見えて、ブロッケンは慌てて首を振った。
「え! あ、いやっ! これはそのっ……だって」
尻すぼみになる声は未だに現状を処理し切れていないのだろう。
あわあわと動揺すること、数秒。
「はあ、ふうー」
どうにか無理矢理気持ちを落ち着けた彼は、一呼吸した後。
じわじわと真っ赤になる顔を少しでも隠そうと帽子の鍔を下げてから、ゆっくりと唇を開いた。

「だって、キャプテン……今、「俺のもの」って、言ったじゃねえか」

まるで、オレがあんたのモノになったみたいに。

ボソボソと小さく告白したブロッケンは、言い終わるなり、恥ずかしさから唇をキュッと尖らせた。

「そ、それは……ッ」

動揺する声からして、きっと本人にしてみれば無意識の台詞だったのだろう。
それが余計に、アタルの独占欲の表れのようで。
頬が熱くて仕方ない。

(あの男に言われた時には、あんなに気持ち悪かったのに……キャプテンからなら、全然そんな気がしない。むしろ……

チラッと見上げた先の顔は、どう答えるべきか迷っているのが見てとれた。本当に反射的に出た言葉なのだろう。
コンビの相棒として出た言葉なのか。
それとも、血盟軍の一員として思いなのか。
そのどちらであっても、きっと胸が苦しいのはかわりない。だって、ブロッケンが欲しいのはそんな仲間意識ではないのだ。

「オレは……

震える唇が、必死に想いを紡ぐ。

「オレは、嬉しかった。だってオレはっ……ソルジャーキャプテンが好きだから。……キン肉アタルが、大好きだから……さ」

チープな告白は、けれど一生懸命なのが痛いほど伝わってくる。ブロッケンのアタルへの想いが、ありありと感じられる。

……なあ、あんたは、どうなんだよ?」

「ッ……!」

「やっぱり、オレとは割り切った関係な、だけ?」

恐る恐ると言ったていで聞いてくる相手は、ただただ真っ直ぐだ。だからこそ、アタルも咄嗟に答えを口に出すことができなかった。

そもそも、この男の人生には『誰か特定の人間を好きになる予定』はさらさらなかったのだ。
王位を捨てた自分に安寧の道はない。険しい獣道で無ければ弟に顔向けなんて出来やしない。愛だ恋だと安らぎを求めるのも同様のこと。
ならばいっそ、最初から割り切った関係・相手で済ませておけば、自然と境界線を引いておけるだろう。
そんな考えをしてきた彼に対して突き付けられた質問は、あまりにも鋭く。
……
彼は思考をまとめるために、ゆっくりと目を瞑った。

もしも、違うと否定してこの男が離れて行ったら。
この真っ直ぐ過ぎる瞳が、自分以外を見ていたら。
男を喰らう喜びを知った極上の体を、別の男が知ったとしたら。
あの、頬を打った時に見せた切ない表情が、他の誰かのためだとしたら。

……ぬぅ」

想像しただけなのに、腹の中が掻き回されるような拒絶感が沸き起こり気持ち悪くなる。

(そんなこと、許せるわけがない)

フツフツと湧き上がるのは、これまでと同じ諦めではなく、確かな怒りで。

(つまり、そういうことか……

正直な体を前に、アタルは最早観念するしかないことを痛感した。
目の前の相手が、「ただの可愛い男」では済まないのだと。受け入れる以外の道はないのだと。でなければ、この美しくも危うい男は、先ほどの木偶にすら奪われかねないのだ。

……まいったな」

この年で気付かされた恋心と、意識した途端に膨れ上がる執着心。そのどちらにも向けられた言葉は、きっと彼の本音そのもの。

だからか、アタルは責任の在処を求めるようにブロッケンの顎を掴んだ。

「お前は本当に……俺以上に、俺のことをよくわかっている」
さも降参だと言わんばかりの態度に、ブロッケンは数回パチパチと瞬きをしたかと思えば。
……へへっ。そりゃ、光栄だぜ」
歯を見せて笑う顔の無邪気さときたら。愛しく感じるのは当たり前だった。
アタルはついつい、己がマスクをしていることも忘れて顔を近づけた。
「っ!?」
布一枚隔てたキスは味気ない。その分、強張る顔を0距離で見つめながら、こっそりと指同士を絡める。

「こんな気持ちは初めてでな……教えてくれるか。ブロッケン?」
お前と歩む、恋ってやつを。

とびっきりの低い声で囁く姿はあまりにも男前で、格好良く。きっと誰が見たって惚れ直してしまう。

「ッ、チキショウ……格好良すぎだろ」

だから、悔し紛れを吐き捨てる顔の広角が、しっかり両側とも上がっていたのは仕方のない話なのだ。



こうして、不器用な男たちは共に微笑みあいながら、再度触れ合うだけの口づけを交わした。





かつて、汚されかけた自分を抱きしめた父親が言っていた。

『そう言う行為は、愛が無ければ無効だ。互いに思い合うからこそ成り立つもの。それがSEXなのだから』

なんて、血も涙もない男が紡いだ慰め。それが息子の心に息づいていたことに気付くのは、もう少し先のお話。





end