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ちよど
2024-12-02 00:00:00
16061文字
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ビマヨダ
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いつも間違えるヨダナさんとビマヨダを応援しているカルナさんの話
分かっているのにいつも間違えてしまうわし様。カルナさんはビマヨダを応援しているつもり。pixivより再掲。
カルナさん「バベルの塔の逸話ですら今のお前たちにとっては生ぬるいだろう」
1
2
3
◆
その夜。台風の如く乱暴に自室のドアを叩かれて、三臨の姿に整えていたわし様は心躍るがままに立ち上がった。
ドアを開けてやれば、真っ赤な顔をしたビーマが立っている。
「
……
なんで知っている!?」
詰め寄らんばかりの剣幕に顔がにやけそうになるのをなんとか抑える。
わし様が一歩下がれば頭に血が上っているビーマは二歩進む。容易く室内に誘導されたビーマの後ろでドアが閉まった。
ビーマの手が握りしめているのはわし様が昼間書いた手紙だ。
拝啓 ビーマセーナ様
白紙化した地球に我らの故郷の面影を探す今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
さて、日頃はなにかと至らぬ私に気遣いをいただき誠に感謝しております。
この度。我々がまだ幼かった頃の思い出などを語り合いたいと思い、ささやかながら異国の銘酒などをご用意させていただきました。
つきましては今夜。私の部屋までいらしていただけると幸いです。
ビーマセーナ様が宮殿に来てから初めての父の誕生日を祝う宴の翌朝、あなたの自室のベッドで起こった事など語り合えれば幸いです。
ドゥリーヨダナ
「なんでおまえが知っている!?」
唸るようなビーマの声にわし様は耳飾りを弄んだ。
「
……
おまぇなぁ。知られてないと本気で思っておったのか?奴隷に金を握らせるなど基本も基本だろう?」
まあ、相手の使っている奴隷に握らせるのは金だけではないし。握らせるだけでもないが。
「
……
汚ねぇぞ」
「おまえの母親もやっておったぞ」
事実を指摘してやれば否定出来なかったビーマは黙り込む。
わし様はそんなビーマに座るよう促した。
マスターがサーヴァントに提供した部屋はどんな英雄であろうと同じワンルーム。簡素なベッドと、小さな丸いテーブルと椅子が二脚。
「おまえ、手を入れてないのか?」
初めてこの部屋を訪れたビーマの感想に、わし様は胸を張った。
「カルナがな。わし様の誕生日に合わせていろいろ買ってくれると言うのだ」
カルデアでは古参のカルナの方がわし様より稼ぎもあるし伝手もある。待っていればわし様は何もしなくても好みのものが手に入るというわけだ。
「おまえに『待て』をさせられるのか、カルナは」
「わし様を犬のように言うな!」
ビーマが椅子に座ったので、わし様も座る。テーブルには酒瓶がひとつと小さなグラスがふたつ。そして小皿に盛られたバルフィがあった。
「
……
これだけか?」
「わし様が用意した食事をおまえは口にするのか?」
「するわけがない」
だったら用意するだけ無駄というものだ。わし様はケチではないが、金を使うべきところとそうでないところは分かっておる。
「このバルフィ。俺が作ったものだな」
「ああ、ガネーシャ神が持って来てくれた」
あの乱闘の後片付けをしてくれた上に菓子まで届けてくれるとは。ガネーシャ神はカルナの彼女か何かなのだろうか?
言いながらわし様はバルフィをひと齧りする。甘みが口の中で溶けていくのを味わいながら、残りをビーマに差し出すと奴は眉を寄せた。
ビーマの手が小皿からバルフィをひとつ取る。それを手の中で転がして検分した後、奴はわし様の口元にバルフィを突きつけた。
その疑い深さに呆れつつも、差し出されたバルフィをかじり取る。
それを確認してからビーマはわし様が差し出していたままのバルフィに齧りついた。
男ふたりがふたつのバルフィを半分ずつ分け合っている心温まる光景に、わし様の繊細なハートが悪寒を訴えている。
「
……
おまえは毒無効スキルがあるではないか」
一応の意思は示したがそこまで確認されるとは思ってなかったわし様が眺める先で、ビーマは小皿のバルフィを順調に減らしていた。
「我ながらいい出来だ。おまえは食べないのか?」
「わし様は喉が乾いた」
ビーマがテーブルに置かれたままの酒瓶を手に取る。封をしたままのそれのラベルに見覚えがなかったのか片眉を上げた。
「俺が知らねぇ酒とは気がきいているじゃねぇか、トンチキ王子」
「森育ちにはもったいない酒だぞ」
ビーマは酒瓶の封を切ると引き寄せたふたつのグラスに酒を注いだ。そしてひとつをこちらによこす。
口をつける。
わし様が酒を飲み込んだのを確認して、ビーマはもうひとつのグラスをよこした。
「無駄なことを」
付き合ってグラスを交換してやりながら言うと、ビーマはわし様が口をつけた酒を煽った。
「おまえ相手に警戒しすぎることはない。ーーーで、ここまでして俺を呼んだ理由は?」
「要件を聞く前に飲み食いするな。馬鹿ビーマ。おまえを連れ歩いておったユディシュティラは苦労しただろうよ」
交渉の席で提供された酒や食事に手を付けるのは場合によっては条件に合意したと見做される。
断るなら腹に入れたものを返せ!と言われても返せないからだ。
敵対している間なら笑ってつけ込むが、同じマスターを得ている今は洒落にならない。そのマスターが割りと義理堅い性格をしているなら尚の事。
「まあいい、要件はひとつだ」
わし様はビーマに右手を差し出した。
「この召喚では従兄弟同士仲良くしようではないか」
とっておきの笑顔で語りかけるとビーマが凍りついた。
このまま彫像にして飾っておきたいほどのかっこよさにわし様は内心ため息をつく。美しいわし様も罪だが、かっこいいビーマも罪。認めたくないが。
「おっ」
「お?」
「おまえが言うかっ!!!」
音を立てて右手が振り払われる。
「俺達が和平のためにどのくらいおまえに譲歩したと思っている!その全部を蹴ったおまえが今更なにを!!」
立ち上がったビーマをわし様は見上げた。笑いがこみ上げる。
「あんな条件飲めるはずなかろう」
譲ってもらうのは玉座ではなく小さな村のいくつかでいい、だと。何一つない森から壮麗な都を築いた連中にそんなものを渡せば、また同じ事を繰り返されるだけではないか。
今度は何年かかる?十年か、二十年か?
父は玉座から立ち上がることが少なくなった。母の手にはしわが増えた。子供たちも大きくなりーーー俺はいつまで戦える?
気がつけばカルナは老いることをやめていた。いつまでも若々しいアシュヴァッターマン。彼らは何故和平を受け入れないと責めるが。未来の破滅が分かっていて受け入れられるはずがない!
「おまえは本当に『ドゥリーヨダナ』か!?」
ビーマの愚かな疑問にわし様はゆったりと足を組んだ。
「わし様はクル族の王、ドゥリーヨダナ。それ以外の何者でもない」
「
……
王位は継承してねぇだろうが。トンチキ王子」
吐き捨ててビーマはどっかりと椅子に座り直す。卓上の酒瓶を掴んでそのまま口に傾けた。
「どうなっても知らんぞ」
「知るか」
わし様の親切な忠告を切り捨ててビーマは高い酒をラッパ飲みする。その喉仏が上下するのを見ながらわし様は口を開いた。
「生前、わし様達カウラヴァとおまえ達パーンダヴァが争っていたのは突き詰めて言えば王位を巡ってだ。しかし今ここにはクル族の王位などない。
それどころか同じマスターに仕え、白紙化した地球を取り戻すという同じ目標を掲げておる。手を組めない理由などないと思わぬか?」
ビーマが酒瓶から口を離した。乱暴な仕草で口を拭う。
「おまえと手を組むなどごめんだ」
まあ、そう言うだろうな。
予想通りの返答にわし様は条件を下げた。
「ふむ。では不干渉ではどうだ?」
「不干渉、」
「お互いに顔を合わせようが何しようが干渉しない。まあ、無視というやつだ」
ビーマが無言で酒瓶をテーブルに置いた。酒瓶を握りしめている手が震えている。
「わし様はもうおまえに嫌がらせをしないし、必要な時以外は話しかけたりもしない。カルナをけしかけたりもしない。
……
これはそちらにとって損のない条件だと思うがな」
目の前で酒瓶が砕け散った。
とっさに破片を払うとビーマは見たことのない表情でこちらを見つめていた。
「
……
どうして、俺がそれを飲むと思った?」
怒り以外の感情が見え隠れするその声色に、わし様は首を傾げた。
「わし様、これ以上はないほど譲歩しておるが?」
「そうじゃねぇ!!」
ビーマが拳を叩きつける。小さなテーブルは一瞬で木くずと化した。
「
……
そうじゃねぇんだ」
小さな呟きにわし様は途方に暮れる。弁償を要求出来る空気ではない。助けてカルナ。
こういう時にカルナは重宝する。実直過ぎる言葉で場をリセットしてくれるからな。まあ何人かを怒らせるがそのくらいはどうとでもなる。
「
……
ドゥリーヨダナ。何を考えている?」
「カルナの事だが?」
瞬間、風が渦を巻いた。叩きつけられた風に椅子ごと倒されそうになる。煽られた髪が視界を奪う。思わず両腕で顔を庇えばその手を大きな手が掴んだ。
「
……
ところで、馬鹿王子。さっきから妙に体がおかしいんだが。
……
おまえの仕業だよな?」
冷ややかな声に思わず逃げ腰になるが、掴まれた手が離してくれそうもない。
その手を引っ張り上げられて近くの寝台に投げ込まれる。
すぐに体を起こそうとするが、すでにビーマの巨体にのしかかられていた。
「
……
媚薬か?」
わし様を仰向けに抑え込んでいるビーマの質問に舌を出す。
「媚薬じゃないでーす!なんでそう思ったんですか?ビーマくんは??」
煽ってやると返事の代わりに熱いナニかを下腹部に押し付けられる。なるほど、これは媚薬と勘違いするわなぁ!!
「
……
話すからやめろ」
真面目な口調で言えば、ビーマは少しだけ体を離す。
「そもそも毒無効なおまえに媚薬が効くか?わし様そんな無駄なことせんぞ。
……
あの酒はちょーっと血流が良くなったり、ちょーっと気分が良くなったりする程度の、要は一種の薬用酒だな」
「なんでそれを俺に出した?」
「おまえ素面でわし様と話し合いなんかせんだろう!」
掴まれた手が軋みを上げる。顔に出さないように痛みを噛み殺しているとビーマが顔を歪めた。
「
……
おまえが俺をどう思ってんのか、よく分かったぜ」
「そうか、お互いの理解を深めあったなら交渉の席に戻ろうではないか」
「そんなに俺に無視されたいのか?」
「
……
わし様を無視したいのはおまえではないのか?」
それとも悪口や嫌がらせをされて喜ぶ特殊性癖の持ち主だったのか?ビーマが??
一瞬、ビーマの妻の顔が浮かんでわし様は慌てて不快な想像を打ち消した。
そんなわし様をじっと見下ろしていたビーマは、不意に顔を寄せてくる。
逃げたように思われるのが嫌で顔を動かさずにいると、ビーマの目がまつ毛を数えられる程まで近づいた。唇に吐息がかかる。
「逃げないのか?」
「わし様がなんでおまえから逃げなならんのだ!!逃げていたのはおまえだろう!ビーマセーナ!」
至近でアイリスの瞳がゆっくりと瞬いた。
「ーーーおまえの親父の誕生日の翌朝。俺がなんでああなったか教えてやろうか?スヨーダナ」
突然の話の転換についていけないわし様にビーマは、いっそ憐れむように笑った。
「前の晩に、夢のように美しく着飾ったお前を見たからだ」
唇が押し付けられる。割り開かれ、こじ開けられた唇からビーマが侵入してくる。
意味が分からない。いや、何をされているかは分かるが、なんでそうなっているのか分からない。
ビーマが俺を抱く?あり得ないだろう!!
カルナが言っていたのはそういう意味だったのか!?
教えてカルナー!!
混乱して助けを求めていると、唇に痛みが走った。
「余所見するとは余裕だな?」
普通、キスをされている側が唇を噛み切るものだろう?なんでおまえがわし様に噛みついているんだ?
「意味が分からん。
……
そもそもおまえが寝具を汚したことがなんでわし様が原因なんだ?」
父の誕生日に息子が着飾るのは当然だ。褒められこそすれ非難される筋合いは無い。
そう言うとビーマは妙に調子の外れた笑い声をあげた。
「あははは。間違いねぇ。おまえは確かに俺の知ってる『ドゥリーヨダナ』だ」
わし様の他にわし様がいるような言い方をするな。それとも、ビーマも他のビーマの記憶があるのだろうか。
思わず探るような目を向けてしまうが、ビーマはまだ笑っている。
「俺達だって馬鹿じゃねぇ。カウラヴァから、百王子から、特におまえから貰うものは気をつけるように言われてたさ。ーーーそれなのに、なんで俺がおまえが差し出した菓子をのこのこ食ったのか。
……
分からねぇだろ。馬鹿王子」
腹が空いていた、からじゃなかったのか?
返答が顔に出ていたのか、ビーマは顔を歪ませた。
「ーーーおまえは本当に馬鹿だなぁ。ドゥリーヨダナ」
それはいつかのシャクニ叔父の言葉を思い出させた。
ーーー愚かなドゥリーヨダナ。何故おまえは力しか取り柄のない次男ばかりを排除しようとするのか。
そうだな。
今だって逃げるビーマなんて放っておいても問題はなかった。
ビーマが勝手に逃げているだけなのだから、わし様に非はなかったのだ。
幼いあの時も、毒を盛るべきはビーマでなくユディシュティラだった。
クル族の地を赤く染めたあの時も、一騎打ちの相手をビーマではなくユディシュティラを選ぶべきだった。
ユディシュティラ相手なら例え反則されたとしても充分に勝ち目はあった。
乱暴者のビーマは王の器ではなく、アルジュナは完璧に過ぎる。後の二人は正妃の子ではない。
カウラヴァの負けは決まっていたが、一矢報いる事は出来たのだ。
いつもいつも俺はビーマを選んでしまう。
それはーーー。
「ちょっと待てぇえい!!!」
わし様がちょっと物思いに耽っている間にビーマの手がごそごそと服の内側に入り込んでいる。腕を押さえられているので足をバタつかせて暴れるとビーマが舌打ちをした。
「この期に及んでやることはひとつしかねぇだろ」
「話し合いだな!!」
「
……
そうだな。体で話し合うってのはどうだ?」
「やだー!!
……
離さんか!馬鹿ビーマ!!」
叱責するとビーマの手が止まる。が、代わりに頬をべろりと舐め上げられてわし様は涙目になった。
本当に何故こんな事になっているのか。わし様をこういう意味で襲うビーマとかありえんだろう。
「そんな顔をすんなよ。誘ったのはおまえだろう?ドゥリーヨダナ」
「誘ってなんかおらん!」
「夜中の部屋に招き入れて、強壮効果のある酒を飲ませておいて誘ってねぇ?」
「わし様がおまえを誘うわけがないだろう!!」
きゅっとビーマの瞳孔が獣のように開いた。
身の、危険を感じた。
「た、助けてカル
…
」
名前を呼ぶ前に乱暴に手で口を塞がれる。だと言うのに。
「承知した。ドゥリーヨダナ」
突然、中空から実体化したカルナの槍がわし様とビーマの間を貫く。
動きを止めたわし様たちに突如部屋に現れたカルナは告げた。
「力任せではなにも解決しない。バベルの塔の逸話ですら今のお前たちにとっては生ぬるいだろう」
わし様は頭を抱えたくなった。
「カルナ。おまえ、いつからいた?」
「お前がガネーシャ神から菓子を受け取った後からだ」
「最初からではないかー!!」
そういえばわし様はカルナの前でビーマの呼び出しの手紙を書いたな。あの文面を見て心配でもしたのだろう。霊体化して控えていたわけか。
「それが分かっていたら、もうちょっと手加減してやったのに」
ビーマを見上げると、複雑な関係の異父兄にいろいろ知られてしまったショックで魂が飛んでいる。かわいそうに。ざまぁ。
力が抜けているビーマの下から這い出して、わし様はベッドから降りる。
床に散らばった諸々に気をつけて立ち上がると、カルナが槍を消したのだろう。背後でビーマが体を起こす音がした。
カルナが首を傾げる。
「何故お前達はお互いに好意を告げながら理解しようとしないのか」
好意?
ビーマがわし様にそんなモノを持つはずが。
そう笑い飛ばそうとしたわし様を背後に引き寄せる腕。耳に息がかかる。低い声が脳をくすぐった。
告げられた言葉にわし様は理解した。
何故、わし様がいつもビーマを選んでしまうのかを。
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