でがらし
2024-11-28 11:23:48
12243文字
Public 【吸死】ドラヒナ~童話パロディ~
 

【ドラヒナ】ネヴァーランドの吸血鬼【オカシなどら×ひな童話集 展示作品】

オカシなどら×ひな童話集 (童話パロドラヒナwebオンリー)展示作品です。
1p:幼いヒナイチが鼻息丸に出会うお話(11/29公開)。
2p:大人になったヒナイチがネヴァーランドへ向かうお話(11/30公開)。
3p:ヒナイチがドラルクと再会して、そして……(12/1公開)
カウントダウン企画と連動させていただきました。もしよろしければそちらも是非!



「着いたぜ、ここが俺のお気に入りの場所だ!」

 ここは島の外れの崖の上。ヒナイチ達は海を一望できる場所に立っていました。穏やかな潮風と波の音。シンヨコハマでは味わえない絶景です。あちらこちらを指さして、ロナルドは島を紹介してくれました。

「あっちの森の方には、俺たちが住んでいるツリーハウスがあるんだ。そっちにはギルドだろ。あと……この下は『人魚の入り江』って呼ばれてる。行こうぜ!」
 助走もそこそこにロナルドは下へと飛び降ります。入り江までは十メートルほどの高さがありましたが、空を飛べる彼にとってはちっとも怖くありません。普段から警察官として町中をパルクールのように駆け回っているヒナイチにとっても、それは同じでした。広い岩場に着地し深呼吸すると、口の中が幾らかしょっぱく感じられます。
「ここ、なんかキラキラする貝とかあって探すの楽しいんだよなー。たまにあいつに邪魔されるけど」
「あいつ?」
……海賊。ドラルクって名前の吸血鬼だよ。いっつも俺に突っかかってくんの!あいつには気を付けろよ。そういえば昨日、『大事な用事がある』とかなんとか言ってたような……ま、いっか! メビヤツ、ヒナイチ! 綺麗な貝探し競争しようぜ!」
「ビッ!」

 吸血鬼ドラルク。シンヨコハマでは聞いたことの無い名前なのに、ヒナイチはなぜかひどく親しみを感じました。ロナルドの話によると悪い吸血鬼のようでしたが、なんだかそんな印象にも思えません。岩場をスキャンするメビヤツと、裸足になって貝を探しているロナルドをぼんやりと眺めているヒナイチ。すると、ふと磯の香りに混じって甘い匂いがしてきました。

「なんだろう、とても懐かしい……
 ふらふらと匂いのする方向へと向かうヒナイチ。ぴょん、ぴょんと岩場を飛び越えたその先、エメラルドグリーンに輝く海で囲われた平たい岩で、キラキラ光る丸い何かが手を振っています。
「あれは、アルマジロ……? それに、あの手に持っているものは、もしかして……!」
 逸る気持ちのままヒナイチはアルマジロへと近づきます。ヌ?と小首を傾げるアルマジロに挨拶しようとしたその時―――

「こんばんは、美しい赤毛のお嬢さん」

「お前は、もしかして……
「そう! 私こそ真祖にして無敵の吸血鬼、そして無敵の海賊ドラルク様!……やっと会えたね、ヒナイチ君」

 ヒナイチの背後に現れた男は、跪いたかと思うと彼女の手を取ってそっと口づけをします。青白い肌、唇からはみ出た白い牙、尖った耳。間違いなく高等吸血鬼です。瞬く間の出来事にヒナイチはひどく混乱してしまいました。目の前に高等吸血鬼が現れたからでも、自分の名前を知っていたからでもありません。……彼女はレディとして扱われることに、全く免疫が無かったのです。

「な、な、何をする、こ、この吸血鬼が……!」
「おやおや、これはただの挨拶だよ? 照れてしまう顔も可愛いねぇ」
「やめろ、その歯の浮くようなセリフは何だ!」
「本心を言っているだけなのに……素直じゃないね。じゃあこうしようか」
 
 ドラルクと名乗った男は懐から何かを取り出します。ヒナイチが確かめる間もなく、それは彼女の口の中へ。バターと砂糖の甘く香ばしい香りにサクッとした食感。そしてひんやりとした粉砂糖の甘み。

「美味しい! これは、やっぱり、あのとき、の……
 笑顔を浮かべた刹那、ヒナイチは意識を失ってしまいます。ふらりと倒れる彼女を受け止め、ドラルクはニィと笑いました。
「プランV、大成功! さあ、ヒナイチ君。これから素敵なクルーズといこうじゃないか……
 ドラルクはヒナイチの長い赤毛を愛おしそうに撫でます。……瞳の奥に、ほんの少しの寂しさを隠して。


「あれ、ヒナイチどこ行った? 迷子か?」
……ビッ?」
 それからしばらくの後。ロナルドとメビヤツは、ヒナイチが居ないことに気づきました。キラキラ光る桜貝の山を他所に、ロナルドは大声でヒナイチを呼びます。
「おーい!! ヒナイチ、どこだー!」
「ビー!」
……どうしよう、返事がない……どっかで怪我してるんじゃ……
「ビービービービッ ビッビッビッ」
「そっか、空飛んで探せばいいのか! 忘れてた!」

 屈伸をしてロナルドは一気に上空へと飛んでみました。すると、入江の端の方から海原に向かって、一隻の船が進んでいくではありませんか。よーく目を凝らしてみると、甲板が一瞬キラリと光りました。ヒナイチの胸の吸血鬼対策課のバッチです。彼女は甲板に置かれたソファで心地よさそうに眠っているようです。そしてその向かいには……ワイングラスを磨くドラルクの姿がありました。眠るヒナイチを眺め、ひどく上機嫌な様子です。

「あの野郎、まさかヒナイチの血を狙って……! メビヤツ、行くぞ!」
「ビッ!」

 ロナルドはメビヤツを連れ、猛スピードで空を飛んでいきます。そして数十秒後。

「止めろこのクソ砂! 退治人ハンターキーック!」
「え、うわ、嘘もう見つかった!? イヤーッ!」
「ヌー!!」
 
 隕石のように降ってきたロナルドの足を顔で受け止め、いや受け止める前に砂と化したドラルク。彼の手から零れ落ちたワイングラスが床に当たり、ガチャン!と音を立てて割れます。その拍子に、ヒナイチはパチリと目を覚ましました。

「う、うーん……クッキー……あれ、ここは一体……?」
「おいケーサツ! こいつお前を攫った現行犯だぞ、逮捕しろ!」
「ロナルド、とその砂は……?」
「なんてことだ、ここまで邪魔をされてしまうとは……こうなったら仕方ない、実力行使だ! ドラゴンとなった私の姿をお目に入れよう! 愚かな退治人よ、ひれ伏すがよい……フハハハハハ!」

 高笑いをする砂山はポン!と音を立てて爆発します。咄嗟に飛び退くロナルド。ヒナイチも腰の刀を抜き、戦闘の体勢に入りました。……が、しかし。

……あれ?」

 煙が晴れていくと、そこにはドラゴンとは似ても似つかない、ツチノコのような丸い生き物が。

「しまった、蛇のイメージが強すぎた、今度は翼を生やして……
 ポン、ポン、と小気味いいリズムで変身を試みるドラルク。しかし一向にドラゴンにはなれず、カニに似た何かになったり、砂に戻ったりを繰り返します。
「うう、ジョーン!」
「ヌー!」
 今度はジョンがドラルクの上に金の粉を振りかけようとしましたが……強い風に煽られ、粉のほとんどが飛ばされてしまいます。わずかに砂山に降り積もった金の粉が輝き始め、そして……後に残ったのは、なんとも可愛らしい小さなコウモリでした。
「ピ、ピス……
「なんだよ、全然ドラゴンじゃねぇじゃん! もうこいつ、このまま海に落として……
「待ってくれ!」
 コウモリを掴もうとしたロナルド。瞬間、ヒナイチの身体は前に出ていました。両手を広げてロナルドの前に立ちふさがります。

「こいつは悪い吸血鬼じゃない!」
「どうして庇うんだよ、ヒナイチ!?」
「やっと……やっと思い出した。……お前だったんだな。あれは、夢じゃなかったんだ」
「ヒナイチ、くん……
……ありがとう、ドラルク。あの日私を励ましてくれて。クッキー、すごく美味しかった。あの夜のおかげで、私は夢を叶えることができたんだ」

 ヒナイチは小さなコウモリに視線を合わせると、そっと抱きしめます。上手くいかない変身、小さなコウモリの姿。細い指先が、自分の頭を撫でる感覚。甘くて幸せな記憶が、過去と現在を鮮やかに繋げてゆきます。コウモリはピスピスと鼻息を漏らし、やがてヒナイチを見上げました。

……知ってたよ、ヒナイチ君。君がずっと頑張っていたこと。あの夜から、君が毎日稽古を欠かさず続けていたことも、七歳の誕生日にお兄さんに勝てたことも。心優しく、困った人がいると放っておけない。そんな素敵なレディになった君に……もう一度会いたかったんだ」
「どうして……
「だって、見てたから。この船から、魔法の水晶を使って。……数年前に故障してからは、上手く見れなくなってしまったけれど」
「ストーカーじゃねぇか!」
「黙りたまえロナルド君、違うから! ……とは言い切れないけど、レディの部屋は覗いてない!」
「ウッ!」
「それで、今日は『モーンガータ』があの世界……シンヨコハマと繋がる日だったんだ。モーンガータは月光の道しるべのことだ、君たちも通っただろう? だけど日によって繋がる世界は変わってしまうし、その周期は彗星のように途方もない長さだ。次はきっともう……。だからせめて、今夜だけでもこの船でクッキーを食べてもらいたかった。……私の前で、笑ってほしかったんだ」

 目を伏せるドラルク。その表情を見たヒナイチもしゅんとしてしまいます。やっと思い出すことができたドラルクのことを、もっと知りたい。けれども、警察官としてシンヨコハマを守っていく使命感は変わっていません。夜明けも近くなってきました。……ネヴァーランドに残るわけにはいかないのです。ドラルクとヒナイチが沈黙していると、「あの……」とロナルドが片手を挙げました。

……あのさ。俺のメビヤツ、シンヨコハマまで案内できるぜ?」
……え?」
「ほら、一度行ったから。な、メビヤツ?」
「ビッ!」
 メビヤツは元気よく返事をし、ウィーンとモーター音を響かせます。しばらく難しい計算を解いているような顔をしていましたが、やがてピンポン!という音と共ににっこり笑いました。
「お、もうできたかメビヤツ! 流石だぜ! ……ええと、明日のルートがこれで、明後日のルートがそれで……一年後がこれ? うわややこしい。でもまぁ、これで迷うことはないな」
 呆気に取られるコウモリ姿のドラルク。ロナルドはドラルクとヒナイチの前に歩み寄り、しゃがんで笑みを浮かべました。

「まあ、そこのコウモリ野郎が俺の昼寝の邪魔をするっていうなら……これが今生の別れになるかもな?」
「ぐぬぅなんか腹立つ……! いや、しかし……、ここは私がオトナになろう。停戦だ!」
 
 翼を広げたコウモリは、ヒナイチの腕からピスピスと抜け出します。そしてポンと音を立てて元の吸血鬼の姿に戻りました。

「あの、ヒナイチ君……すまなかった。君の想いも聞かず、攫うような真似をして……
……攫うのは確かに良くないな。でも、やっぱりお前は悪い吸血鬼じゃない。さっき食べたクッキーも、すごく優しい味がしたから。……だから、友達になろう。私もまたここに来るし、お前もシンヨコハマに来てくれ! そして、またクッキーを焼いてくれると嬉しい。お前のクッキーを、もっと食べてみたいんだ!」

 ヒナイチの柔らかい笑顔を見たドラルクの頬が、僅かに染まります。彼はそれを悟られないように、ヒナイチを抱きしめて赤毛にキスをしました。

「おや私としたことが。……まずはお友達から、だったね。可愛らしいお嬢さん?」
「ド、ドラルク……!」

 髪の毛と同じくらい顔を真っ赤にするヒナイチに対し、ドラルクは「おっといけない!」と笑います。ヒナイチは怒った素振りを見せていましたが、内心女の子扱いされるのが嫌だと思いませんでした。むしろ心が温かく、どこかきゅっと苦しくなったのです。

「さあ諸君、出航だ! 目指すはシンヨコハマ、到着まで優雅にティーパーティーといこうじゃないか!」
「ヌー!」

 宙に浮かんだジョンが帆に粉を振りかけ、メビヤツが沈む月に向かって照準を合わせます。海賊船は黄金色に輝き、モーンガータに向かって独りでに舵を切りました。
 
 ーーー黄金の海賊船がシンヨコハマとネヴァーランドを繋ぐ甘い架け橋になるのは、ほんの少し未来のお話です。