でがらし
2024-11-28 11:23:48
12243文字
Public 【吸死】ドラヒナ~童話パロディ~
 

【ドラヒナ】ネヴァーランドの吸血鬼【オカシなどら×ひな童話集 展示作品】

オカシなどら×ひな童話集 (童話パロドラヒナwebオンリー)展示作品です。
1p:幼いヒナイチが鼻息丸に出会うお話(11/29公開)。
2p:大人になったヒナイチがネヴァーランドへ向かうお話(11/30公開)。
3p:ヒナイチがドラルクと再会して、そして……(12/1公開)
カウントダウン企画と連動させていただきました。もしよろしければそちらも是非!



 時は現在、星々が輝く夜。小さな窓から空を眺め、ヒナイチは一人ため息をついていました。寮の三階、東側の小さな部屋。その部屋の壁には、真っ白な隊服がかかっています。青い襟に銀の紋章がトレードマークのそれは、彼女が幼いころから憧れた吸血鬼対策課の証。日々誇りを持って任務に励む彼女でしたが、ここのところは下等吸血鬼の大量発生などが相次ぎ、少々疲れが溜まっていました。久々の非番となった今夜は、朝寝坊ならぬ夜寝坊をしてしまったほどです。元気になりたい、力が欲しい。そんな時、彼女はいつもあるお菓子を思い浮かべてしまいます。

「あのクッキーがあればな……

 ヒナイチには、忘れられない夢がありました。「忘れられない」というものの、具体的に内容を思い出せるわけではありません。唯一はっきりと覚えていることは、夢を見た後に枕元に残されていたクッキーです。バターと砂糖の甘く香ばしい香りにサクッとした食感はまるで魔法のようで、彼女はすっかり虜になってしまいました。その後幼かったヒナイチはすぐに兄に報告しました……がしかし、「毒見」の名目で彼に一枚食べられてしまい、泣いて抗議する羽目になりました。奇妙なことに、そのクッキーは事情通の兄カズサも知らないものでした。街中のお菓子屋さんを探しても見つからなかったと聞いて、当時はひどくがっかりしたものです。

「せめて夢の中でいいから、もう一度……

 星に祈るように、彼女は両手を組んで目を閉じます。しかし、すぐに恥ずかしくなって目を開けてしまいました。子供の頃にたった一度しか食べたことのないお菓子を願ってしまうなんて、よほど疲れているなと笑うヒナイチ。ストレッチでもしようとグッと大きな伸びをすると、窓の縁から大きな月が顔を覗かせます。昔こんな月を見た気がする、あれは確か……とぼんやりした頭で考えてみましたが、思い出せません。すると、何やら黒いものが月を横切りました。

「ん……鳥か? 随分と大きいな」

 横切った方向の斜め下を目で追うと、今度は街灯を黒い影が掠めます。それはまるで人が空を飛んでいるかのようです。

「あれは吸血鬼か? もしや高等吸血鬼……だとしたらいけない!」

 ヒナイチは急いで支度を始めました。吸血鬼が多い町ですが、高等吸血鬼、それも空を飛べる存在は滅多に聞きません。強大な力を持っていたとしたら、人間に敵意があるとしたら、警察官である私が止めなくては。すばやく隊服を身に纏い、長い赤毛をヘアバンドで止めた彼女は、腰に刀を差して大きく息を吐きました。
「今の位置はどこだ? 確かさっきはあそこに……なっ、こちらに向かってくる!?」
 瞬間、得体の知れない大きなものが部屋に飛び込んできました! 間一髪でヒナイチは後ろに飛び退きます。それはやはり人型で、身長は兄と同じか一回り小さいくらいでしょうか。素早い身のこなしですが、思っていたよりもがっちりとした体形です。
「お前、吸血鬼か? 人の部屋に勝手に入ってくるのは良くないぞ!」
 真っ黒な吸血鬼らしき影に対峙するヒナイチ。けれども、相手は返事をしません。明かりに照らされたそれはよくよく見ると顔も服もなく、本当に「影」そのもののようでした。この吸血鬼の特殊能力だろうか? そう訝しんで近づこうとすると―――

「うわぁぁぁぁ!! 見つけたぞ! 『俺』!」

 響く誰かの叫び声。そしてびゅうとすさまじい風と共に、また大きな何かが部屋に飛び込んできました! またしても間一髪で避けるヒナイチ。普段からの訓練のたまものです。しかし影の方はそうもいかず、ドン!と大きな音がしたかと思うと、飛び込んできた何かと正面衝突してしまいました。影はくらくらと頭を振ったかと思うと、ばたりと倒れこんでしまいます。
「だ、大丈夫か!」
 影と新しい登場人物を交互に見るヒナイチ。赤い服に赤い帽子を被った男性はどうやら無事のようです。男は外に向かって、「メビヤツ、頼んだ!」と叫びました。すると窓から今度は巨大なこけしが姿を現し、「ビビッ!」と返事をしたのです。
「次から次へ、一体何がどうなって……
 混乱しているヒナイチを他所に、メビヤツと呼ばれたこけしはふわふわと部屋に入ってきます。そしてのびている影の足元までやってくると、その頭の一つ目をぱちぱちしてからビーッと影に光を当てました。すると影の足が伸びて男の踵と繋がって……
「やったー! 元に戻った!」
「ビッビービー ビービッ!」
「『俺』もすばしっこいから、捕まえるのに苦労したぜ! メビヤツ、ありがとな!」
「ビッビッビー ビービービー ビービービッビービッ ビッビー」
 嬉しそうにスキップする男とくるくる回るこけしに、「ちょっと待ってくれ!」とヒナイチは叫びます。
「お前たちは吸血鬼か? 私は吸血鬼対策課のヒナイチ、この町の警察官だ。ここは私の部屋だぞ、勝手に入るのは住居侵入にあたる。さっき空を飛び回っていたのもお前たちだな? ……事情聴取のため署まで来てもらおうか」
「え、あ、ちょっと……しまった、そんなつもりじゃ……ゴメンナサイ! 許して、ケーサツ怖い!」
「ビービービービー ビッビッ ビービッビッビッビー ビッビービッビービッ!」
 ピタリと硬直したかと思うと、途端にオロオロする男と一つ目。男は今にも泣きだしそうな顔で事情を説明しました。

……なるほど、つまりお前たちはネヴァーランドから自分の影を追ってここまで来た、と」
 男もといロナルドと、相棒のメビヤツは揃ってコクコク頷きます。ここシンヨコハマとは違う世界から来たと知り驚いたヒナイチでしたが、元より吸血鬼が出る町です。そんなこともあるのだろう、とあっさり受け入れることができました。「疑ってすまなかった」と謝るヒナイチに、ロナルドはこちらこそ悪かったと頭を下げます。そして彼はヒナイチにこんな提案をしたのです。

「ヒナイチ、お前もネヴァーランドに行ってみないか? お詫びの印ってわけじゃないけど……なぁ行こうぜ、すっごく楽しいところだからさ!」
「え、私が……って、身体が浮いていく……!」
 メビヤツの瞳から溢れる柔らかい光に包まれ、ヒナイチの身体はふわりと浮き上がります。まるで御伽噺のような展開ですが、なぜかヒナイチは初めての感覚には思えませんでした。不思議そうな顔をしているヒナイチに構わず、ロナルドは元気よく空へと飛び出します。
「さあ、出発だ!」
 楽しそうにビュンビュンと飛び回るロナルドと、それを追うメビヤツ。寮の窓から飛び立ったヒナイチも、両手を広げて鳥のように羽ばたいてみせます。新幹線に手を振り、大きなホテルのてっぺんを超え、そして月の右隣で輝く星に向かって、高く高く。そうして飛び続けていると、いつの間にか眼下に海が広がっていました。ヨコハマの港ではなく、水平線が続く大海原です。月の光が水面に反射して伸びる先には、小さな島が浮かんでいました。
「すごい……ここが……
 息をのむヒナイチに、ロナルドとメビヤツはウインクを返します。
「ようこそ、ネヴァーランドへ!」


……は、え、何であの子がロナルド君と一緒にいるの?」
 ヒナイチの現在地から数キロ先。双眼鏡をポロリと落とし、ドラルクは絶句していました。レンズの先には、笑顔を見せるロナルドと彼の使い魔、そして十数年ぶりの「彼女」。落とした双眼鏡が脚に当たり砂となった彼の周りを、相棒のジョンが「ヌー!」と大慌てでゴロゴロ転がります。
……ァァナス……折角のエスコート計画が……! 我が豪華客船で彼女の町に入港し、道中もとびきり優雅に旅をしてもらう予定だったのに! ここまで自力で飛んできてもらうなんてエコノミークラス以下、身体冷えちゃうでしょ! きっと『今から俺んち来る?』のノリで誘ったんだろあの五歳児め! 大体なぜバレたんだ、あの子のことは誰にも話してないはず……私の、この気持ちも……
「ヌンヌヌヌヌヌヌにはバレバレ
「それはしょうがない! ジョンはノーカン!」
 甲板をぐるぐると歩き回るドラルク。苛立ちを隠せない様子でしたが、やがてピタリと立ち止まります。

「こうなったら私の『畏怖』を見せつけないといけないようだねぇ……フフフ、フフフ……!」

 不敵に笑うドラルクは、いそいそと操縦席へ向かいます。甘い香りを纏った海賊船は、何も知らぬヒナイチ達の後を追い海を進んでゆくのでした。