【■望】

『ことぜめ』現行未通過×

それぞれの望みに関するアレコレ




 崩れていく夜空で、星が消えていくのが見える。建物と大地は割れ、彼を抱えるので精一杯になる。この子だけは絶対に手放してはならないと、文字通り必死になりながら堕ちていく。

 落下していく感覚が、唐突に失せる。無いはずの地面に座り込み、彼の体を離さないまま周囲へ視線を上げる。人間でないと確信できる、人ならざる何がが自分たちを囲んでいた。その中の一つが、自分に語りかけてくる。


「それ、こっちに渡してくれないかな」


 それは、微笑む動作を真似ている。咄嗟に反発し、腕に力を込める。一つ沈黙を挟んでから説明された理由は、世界の救済。神による破滅を逃れるための尊い犠牲に、この子は選ばれたのだと言う。


「自分を代わりにはできないのかな」


 思考も体力も魂すらも削る勢いで導き出した結論を、それに向かって提案する。意外そうな反応、暫しの思案。それも長くは続けず、それはどこか愉しそうに要求を飲んだ。手段も丁寧に準備してやると笑うその言葉から、偽りの念は感じられない。それが嘘だったとて、今の自分に他の方法は用意できない。

 この子はきっと、この行為に憤るだろう。そしてそれ以上の深い傷と、悲哀を得てしまうだろう。それでもなお、自分はこの選択を後悔してはならない。たった一人の息子を守る、この決断を揺らがせてはならない。


「ごめんね、タケルくん」


 届かぬ謝罪を口にして、子供の額に口付ける。これは懺悔ではなく、諦めの悪い祈祷だ。この先を共にできない事実を飲み込めない生きしぶとい男、愛を世界に置いていく罪人。その最期の希望。




「愛してるよ」