【■望】

『ことぜめ』現行未通過×

それぞれの望みに関するアレコレ




 恋人が、遠くに浮くのを見た。考えるより先、全身を使って彼女を抱きしめる。そのまま空に堕ちていくのを知覚しながら、全てが終末を受け入れていく光景が広がる。言葉通り、世界が幕を閉じていく。

 それでも彼女と離れたくない。分かたれるのは嫌だ。その一心で、腕の力を緩めず彼女を抱える。ふと、自分たちがピタリと静止しているらしいことを知る。不可解な感覚に状況を確認すれば、人でなしの何かが自分たちを見つめていた。そのうちの一つが、自分に微笑む。


「それ、こっちに渡してくれないかな」


 手放してもらわないと困るんだよね、と一言を付け足した。意味も正体も分からないまま、恋人を引き渡すなど考えられない。無言でそれを拒否すれば、悩んだ風にそれは唸る。そうして伝えられた、一つを犠牲に全てを救う手立て。彼女を依り代にした宇宙の再構築。


「器というのは、彼女以外では駄目なのか」


 ピタリと、それは一瞬だけ固まった。しかしすぐ感心したように声を漏らし、そう間を開けず許可を出す。正しく自分の意図を理解し、周囲に指示を出していく。滞り無く進む準備に、少しの嫌悪感を抱いた。それでも感謝を示せば、それは愉しそうに笑う。

 恐らく彼女は、この決断に難色を示すだろう。穏やかな恋人は、他が害されることを良しとしない。そんな彼女だから、自分は助けたいのだ。例え、許されない手段だとしても。


「すまない、くらげ」


 その頬を撫で、触れるだけのキスをする。柔らかい唇は、何も答えない。それでいい。きっと彼女に今止められれば、自分は共に居たいという願望を吐露してしまう。だから最期に、明確な本音を溢した。




「愛しているぞ」