でがらし
2024-08-03 01:54:51
8628文字
Public 【キンプリ】アレユウ~全年齢~
 

【アレユウ】Fellen the Polaris【あなたに会いに来ました】

SSSから約5年後。自殺した涼野ユウ。その墓にアレクが訪れるお話。
~注意~(必ずご確認ください)
・自殺の描写が含まれます。苦手な方は閲覧をお控えください。
・CP要素は低めです。恋愛描写はほぼありません。
・映画プリズムショーベストテンの先付インタビューの情報が含まれます。
・アレク視点のお話です。他、黒川冷が登場します。

 涼野ユウが死んだ。自殺だった。

 ニューヨークにその年初めての大雪が降った日だった。
 タイトル無しのメール。ニュース動画の芸能枠で三分ほど流された訃報。俺がその日知った涼野ユウに関する情報はそれくらいのものだ。それ以上調べる気にはなれなかった。淡々と筋トレをこなし、アメリカでプリズムショーを続けてそれから約二ヶ月。

 今、俺は東京へ向かう機内で離陸を待っている。

 何故今更? 往復のチケットを買った日から今日まで、俺の中で未だ答えは出ない。強いていうならば、数日続けて仕事に空きが出来ると分かり、日本に戻れると気づいたことくらいだ。帰国することはあの人にしか伝えていない。メディアにバレたら面倒なことになるのは目に見えている。もっとも、法月仁には伝わっているかもしれないが、特に何も言ってこないだろう。
 翼が揚力を受け、身体が激しく揺れ出す。数年かけて鍛えた体躯は、ビジネスクラスの座席でもやけに窮屈に感じられる。加速していく飛行機はやがて地面と別れを告げ上昇を始めた。五千フィート、一万フィート、三万フィート。摩天楼はミニチュアのように小さくなっていき、そして消えた。小さな二重窓の外側に付いた僅かな水滴が結晶を作り出し、風に飛ばされる。きっと地面に届くこともなく、空気中に溶けて消えるのだろう。シートベルトのサイン表示が迷うように点滅する様を、俺は睨みつける。


 涼野ユウ。
 セプテントリオンのメンバー。エーデルローズの作曲者。プリズムスタァ涼野いとの弟。Over The Rainbow神浜コウジの、義理の弟。
 
 初めて奴を認識した時期は、明確には覚えていない。エーデルローズ側のプリズムスタァの一人に過ぎない存在だった。あの時の俺は「打倒仁科カヅキ」……ただそれだけを考えていたガキ臭い野郎だったし、他のスタァなんて眼中になかった。
 いつからそれが変わったのか。きっかけは恐らく、PRISM1のドキュメンタリー映画だ。どこぞの映画スタッフの思いつきエーデルローズとシュワルツローズの合同インタビューが企画され、涼野ユウは俺のインタビュー相手にくじびきで選ばれた。実際出会ったあいつは、はっきり言って「クソガキ」だった。
「お前、すげーデカいな! なあなあ、どうやったらそんな風にデカくなれるんだ?」
 人懐っこい笑顔を浮かべ、俺を見上げる。幼さが残る小柄な身体、星の輝きに似た自信に満ち溢れた瞳。俺の姿を見て全くビビらない屈託の無さ。挙句の果てには俺のことを「筋肉ダルマ」呼ばわりだ。何だよダルマって。大きくなりたいという奴の問いに答えるのも面倒で、適当に「好き嫌いなく食え」と返す。そこで気を抜いたのがまずかった。
「あ! 今笑っただろ!? くっそー、お前のこと絶対見返してやるからな!」
 頬を膨らませた涼野は、なぜか俺をライバルの一人と定めたらしい。連絡先を交換しろとしつこく迫られ根負けしたのが運の尽きだ。ガキがあんなに面倒な存在だとは知らなかった。知っていればあんな紙切れ渡さなかっただろう。

『今日はニンジン食べたぞ! これで俺もデカくなれるな!』
『さっき腹筋連続五十回出来たぞ!」

 毎日のようにポンポンと飛んでくるメッセージ。最初のうちは無視していたが、そうすると通知の数が多くて喧しい。適当な相槌を返しているうちに、望まずとも涼野ユウの情報は手に入っていた。速水ヒロをライバル視し連続ジャンプの練習をしていることや、にんじんだけでなくナスも苦手であること。作曲に夢中になると平日だろうと徹夜する。そのせいで、俺が寝ている時間にメッセージが溜まり翌朝仰天したこともある。

『ガキは寝ろ、身長伸ばしたいんだろ?』
『ガキは余計だ! 今から寝る』
『もう朝じゃねぇか。 俺は今からジョギングだ』
『何キロ走るの?』
『6キロ 6セット』
『げぇ! 流石筋肉ダルマ』
『やめろその言い方は』

 仕事で涼野と出くわすと何かと話しかけられた。プリズムショーの時や、映画やドラマの撮影。こちらが台本を読んでいようが、筋トレをしていようがお構いなしで楽屋に入ってくる。最初のうちは追い払っていたが、変なところであいつはしつこかった。

「いいのかよ、お仲間のところに居なくて」
「ん? ……あいつらとは毎日一緒だからな。それにみーんな俺に甘えてくるし?」
「本当かよ。逆じゃねぇのか?」
「本当だって! てかなんだよその体勢、なんかキモイ!」
「逆立ちしながら腕立てやってるだけだろ! ぎゃーぎゃーうるせえ!」

 そんなやりとりをしているうちに時間が過ぎ、エーデルローズの野郎どもが涼野を回収して去っていく、なんてこともしばしばだった。遊びに来ているわけじゃねぇんだぞ、ガキが。そう思ったことも一度や二度でない。しかし―――

「見せてやるよ、俺の全知全能の煌めきを! スーパーゼウスの力を!」

 小さな身体を駆使したステップはまだ粗削り、肺活量も不十分。スーパーゼウスが何なのかは俺には未だに分からない。それでも奴は、自分を過大評価することを恐れなかった。自らが作った音の世界で、リズムを掴み、そして跳ぶ。一つのジャンプのはずなのに、連続ジャンプに引けを取らないスケールで、輝きの中心に堂々と立つ。それが許されるだけの才能の持ち主だった。奴は、なるべくしてスタァになったのだ。


 少ない機内食を胃に押し込んだ後、シートベルトを緩めリクライニングを倒す。穏やかな機内、狭い窓の外には藍色の空が映る。下は雲海だ。白い世界がやけに眩しくて顔をしかめる。雲の上には、誰もいやしない。当然だ。
 手持ち無沙汰な俺は、携帯のデータを漁る。時間の無駄だというのは分かっているが、することが無いのだから仕方ない。今眠ってしまったら到着後の時差で身体に余計な負担がかかる。機内モードの携帯画面、メッセージの履歴を過去にさかのぼっていく。最近は法月仁からの定期報告の催促がほとんどだ。仁科カヅキからの連絡は月に一度は来ていたが、今年の正月以降は連絡がない。仕事関係、シュワルツローズ、母親……。過去へ過去へと指を動かす。下の欄に追いやられていたものの、涼野の名前は確かにそこにあった。


『お前、アメリカ行くんだって?』
 そう涼野からメッセージがきたのは、日本を発つ直前。そのすぐ下には、数十分の通話履歴。日付は三年前だった。どこに住むのか、アメリカでプリズムショーをするのか、英語は話せるのか。とにかく質問攻めされたことは覚えている。PRISM 1のインタビューの時とは逆の構図だったが、涼野の方が俺よりよっぽど真面目なインタビュアーだったことは確かだ。俺のアメリカ行きをすっぱ抜いた―――本当は法月仁の意図的な情報流出だったのだが―――週刊誌よりも、俺の旅路を期待した弾んだ声だった。
「ニューヨークの端に部屋を借りた。通う予定のジムも近い」
「シュワルツローズから回された仕事は受ける予定だ。俺としてはセーブしたいところだがな」
「英語? ああ、母親から叩き込まれた……って、笑うな!」

 俺の在り方はストリートの中に、プリズムショーの中にしかない。そう思っていた俺は、メディアの取材が煩わしくて仕方なかった。仁科カヅキへの宣戦布告に利用させてもらったことはあるが、俺自身のことは何も答える必要はない。そう口を閉ざしていた。そのはずだったのに、涼野にだけは答えてやってもいいだろうと気が緩んでしまった。どんな表情で電話してきているのかが、想像できてしまったから。あの顔はきっとかつての―――

……なあ、アレク。お前、いつ帰ってくるんだ?」
「さあな。俺にも分からん。納得がいくまでは戻らねぇ」
……へへ、アレクらしいや」
 僅かに低くなった涼野の声が、「あのさ」と何かを言いかけた。数秒の沈黙の後、からりと明るい声が返ってくる。

「今日学校で身体測定あったんだ、身長ちょっと伸びてた! アレクが教えてくれたストレッチのおかげかも、ありがとな!」
……精々ちゃんと食って寝ろ、クソガキ。お前はまだ成長期だろ、これからもっと伸びるぞ」
「あ、あったりまえだろ! 次会った時には、お前よりも強い男になってやるもんね!そしたら俺も、アメリカに行ってやる。……いや、世界中にだって!」

 その電話が、涼野の声を聴いた最後だった。


「来るんじゃ、なかったのかよ」
 消灯のアナウンスと共に、機内の明かりが落とされる。窓の外、どこまでも広がる闇が、不気味な音を立てていた。


 三年ぶりの東京の空気は、ひどく乾いていた。大した荷物も無い俺は入国手続きを早々に終え、土産物が並ぶ空港内を速足で歩く。短いやりとりを済ませ、携帯は上着の奥にしまい込んだ。柱の電光掲示板に繰り返し映し出される桜の開花予想。今日明日は曇り時々雨、来週の半ばには気温が上がって東京の桜が咲き始めるらしい。明後日に帰る俺にとっては花見なんて関係のないことだ。それより俺の眼に留まったのは、天気予報の下で流れる芸能ニュース。「Over The Rainbow、ツアー中止を正式に発表」……その短い見出しであの一件が暗い影を落としているのが手に取るように分かった。
 空港の端の小さなカフェ。そこにあの人は静かに座っていた。

「良く来たね、アレク。元気そうで良かった」
「冷さん……お久しぶりです」

 黒川冷。かつて三強と呼ばれたプリズムスタァの一人。ストリートのカリスマ。俺の、人生を変えた人。本当に良かった、と漏らす声は心からの安堵が滲む。

「食事……という気分でもなさそうだね。早速行く、でOK?」
「お願いします」

 コーヒーを飲み干し、店を後にした冷さんの後を追う。立体駐車場の中に止められていた車は、馴染みのあるピンクの車ではなかった。どこにでもある、シルバーのボディだ。

「レンタカーだよ。あんまりCOOLじゃないけれど……目立つよりは、ね。さあ乗って。ここから一時間半くらいかかるけど、本当に大丈夫?」
……大丈夫です」
 短く答え、助手席に座る。手早くシートベルトを付けた冷さんは、自分の身体のように滑らかなハンドル操作を行い、車を操る。空港から幹線道路へ、そして高速へ。移り変わる景色は数年前に見たそれとさほど変わらない。鈍いエンジン音の沈黙を破ったのは、冷さんからだった。

「向こうではどう? 楽しくやれてる?」
……はい」
「日本のことは、どれだけ知ってる?」
……何も」
「話さないほうが、いいかな」
「いえ。冷さんの口から、聴きたかったんです。あいつに何があったのか、今どうなっているのか」

 冷さんは真っ直ぐ前を見たまま、「そっか」と笑った。笑っているはずなのに、ひどく寂しそうな顔をしていた。

……ほんと、ひどいものだよ。皆が皆、勝手に物語を作り始めてね。エーデルローズ内でいじめがあったとか、聖の贔屓があったんじゃないかとか、スランプだとか……散々メディアには追いかけまわされていたんだ。本当は殺人だったんじゃないか、実は涼野の言動には隠された暗号があった……なんてネット記事を見つけた時には流石に笑いそうになったよ。あまりにも不愉快でね」

 メディアなんてそんなものだ。かつての冷さんが受けた誤審、それを面白おかしく書いていたころからずっと。人の命が失われたとしても、それは変わらない。調子が良い時は持ち上げて、調子が悪い時にはプライベートまでこき下ろす。相手が死人であろうが構わず、別の獲物が出てくるまで、飽きるまで。

「涼野がスランプに悩んでいたのは本当だよ。一年半ほど前かな。彼、急に背が伸び始めたんだ。確か180cm越えたはずだよ。……その時からね、涼野はジャンプを跳べなくなった。急に身長が伸びたせいで、身体のバランスの変化に頭が追い付かなかったんだと思う。……本当は時間が解決してくれるはずだったんだ」

 ぎり、と唇を噛みしめる音がこちらまで聴こえる。自らの昔を思い返す。中途半端に日焼けした皮膚、食べ過ぎて重い身体。寝ている途中で脚が痛くて目が覚めることもあった。馴染むまでは苦労したが、それでも悪い気はしなかった。涼野だって、自らの成長を誰よりも望んでいたはずだ。でなければ俺にあんなにアドバイスをせがんだりはしない。理想の身体を手に入れたその先は描けなかった、ということなのだろうか。
 車はトンネルの中を進む。オレンジの光が一定のリズムで俺の顔を過ぎ去っていく。

「セプテントリオンとしての活動は上り調子だったんだ。あちこちに営業して、プリズムショーもして……。去年は涼野以外のメンバーが華京院を卒業したから、仕事も本格的になってね。得意なことも、これからのビジョンも、各々が目指す星を持っていた」

 俺の知る涼野ユウ、そしてセプテントリオンのイメージはそれだった。Over The Rainbowのその先を紡ぐ星座。新たなるスタァのユニット。新進気鋭、将来有望なメンバー涼野ユウが作曲を手掛け、アカデミーもストリートも融合した希望に満ちたショーを魅せる。ワールドニュースに流れてくる文字は期待感に満ちたものばかりだったし、彼らが順調に成功を収めているのだと認識していた。

「楽しいこともあったんだよ? ほら、涼野のお姉さん……いとちゃんとコウジが結婚したりさ、それにべるちゃんとヒロまで! ……これからだったのに、どうしてなんだろうね」

 トンネルを抜けたかと思えば、すぐに車は新たなトンネルに飲み込まれる。涼野はずっと、上の世代を超えようともがいていた。作曲の才能は神浜コウジと、プリズムスタァとしては速水ヒロと。それはまるでかつての自分が、仁科カヅキに燃やしていた対抗心のようだった。俺がなぜ、涼野を邪険に扱いきれなかったのか。あまりにも単純な答えだった。似ていたのだ、昔の自分に。

「最近、聖とよくドライブするんだよ。もうあいつ、すっかりやつれちゃってさ。ほっとけなくて」

 ざぁと視界が開けた。トンネルを抜け、冷たい曇り空の下を車は走る。冷さんの横顔をちらりと見れば、眼の下がうっすら青白かった。かつて憧れていた顔にも、幾分かの疲れが滲んでいた。それが一時的なものなのか、年齢として刻まれるのかは分からない。後者であっても、失望はしない。自分自身のスタァとしてのピークが終わるのだって、そう遠い話じゃない。その先のキャリアも考えていかなくてはならない。無暗に暴れるようなことはもうしないし、できない。


……窓、開けてもらっていいですか」
「いいけど、冷えるよ?」
「それがいいんです」
「じゃあ、俺の方も開けようかな」

 両窓が静かに開き、会話が終わる。耳が千切れるのではと思うほど突き刺さる風。痛いくらいが、今は心地よかった。


「もうすぐ着くよ。この先だ」
 数時間後。都内某所の霊園に、俺と冷さんはいた。広い霊園は閑散としている。道中の草も枯れ、ただ墓石が淡々と並んでいる。平日だからか、人は殆どいなかった。目的地に近づくにつれ、人はさらに少なくなっていく。夕暮れに近い時刻、雲の隙間から差し込む西日が墓石の影を長く伸ばす。

「念のため、人が来ないようにはしておいたよ。その方がいいでしょ?」
……ありがとうございます」

 涼野の墓にはメンバーやファンが連日訪れている。先日の四十九日は涼野の誕生日だったこともあり、大勢の人が押し寄せたらしい。報道陣を前に涙ながらに答えるセプテントリオンの面々のことを話す冷さんの声は震えていた。サングラスをしているから、泣いているのかは分からなかった。確かめる気も起きなかった。

「さあ、着いたよ。ここだ」

 涼野ユウ。そう刻まれた無機質な墓石の前には、大量の花と菓子と飲み物が供えられている。ポテトチップス、コーラ。涼野ユウが好きだったものだろう。俺の楽屋で食べてたことを不意に思い出す。やっぱりガキじゃねえか。そう思うと奇妙な可笑しさまで感じる。

「好きなだけ、ゆっくりしていいよ。俺は向こうに行ってる」

 冷さんはそう言って、ふらりと歩き去った。小さくなっていく背中を見送り、俺は涼野の墓の前に胡坐をかいて座る。

「来たぞ、涼野」

 あの日受け取った、涼野からのメール。タイトルも無ければ、文字もない。代わりに添付されていたのは、楽譜とボイスメモだった。手書きの楽譜の隅に、「アレクへ」と走り書きされた文字が残されていた。それが俺に向けたものであるただ一つの証拠だ。その文字が無くてもこれは俺に向けての曲だったと分かっただろう。冷さんの歌を追いかけるように歌ってきた俺に寄り添い、新しい道を示すような曲。俺のために作曲された歌だった。

 墓石と向き合いハミングをする。ボイスメモにも歌詞は残されていなかった。アコースティックギターで奏でられた音が、涼野ユウがいた証を残していた。送られた曲は、ごく短いフレーズだったからすぐに終わってしまう。俺は何度も歌を繰り返す。暗さを増した空からは、ついに雫が降ってくる。それは雨と呼ぶにはあまりにも冷たかった。まるでニューヨークに降った雪のようだった。こんな雨の後にも虹はかかるものなのだろうか。星は瞬くものだろうか。

 空を見上げ、大きく息を吸う。雨と土の臭いが混ざり合う。墓石に叩きつける雨が、リズムの代わりとなる。

「なぁ、アレク。お前はカヅキのことを超えたいんだよな」
「まぁな」 
「なんだよ、その腑抜けた態度! あの時は仁科カヅキ~ってずーっと言ってたじゃんか!」
「俺は、俺なりのやり方でストリートを極める。そういうことだ」
「ふーん。なんかよく分かんねぇけど、アレクはアレクってことか」
「そういうことだ。そろそろ切るぞ」
……俺は、神浜コウジも、速水ヒロも、一人で越えてやるからな。そんで、セプテントリオンを世界一のプリズムスタァユニットに、俺は宇宙一のプリズムスタァになるんだ! それにな、お前よりもデカくなるからな!」


 俺に涙を流す資格はない。仲間でも友人でもなかったのだから。
 お前の苦悩も、葛藤も、絶望も、何も知らない。俺にとってお前は、あの頃のままの、ただのクソガキだ。野望と、自信と、希望に満ちた、小さなスタァ。
 お前にとって俺は何だったんだろうな。次に会う時には、聞いてみるのも悪くねぇな。

 雨が強くなってきた。冷さんが傘をさして待っているのが視界の端に映る。
 俺は墓石に背を向けた。次に会うのは、遥か先で良い。


 ―――またな。 地獄で会おうぜ、涼野ユウ。