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ぷの
2024-11-26 13:11:02
9424文字
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レイチュリ ※ベ限
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マフィアパロ
某コラボのお衣装素敵でしたね!で書きたいとこだけ書いたマフィアパロのレイチュリです。気まぐれに続くかもしれない。
※少々残酷なシーンがあるので、耐性ない方は自己責任で。
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【2.来し方の①】(2024/12/17)
「ドクター、やっほ
……
ちょっと、なにしてるんだい!?」
空き時間にふらっとレイシオの診療所に立ち寄ったアベンチュリンは、自分の腕に注射器を刺そうとしている家主を見て血相を変えた。眦を吊り上げて早足で近づき、注射器を弾き飛ばそうと手を振り上げたが、中身を見て力が抜けた。空だった。レイシオは居候に一瞥をくれただけで作業を続ける。アベンチュリンは隣の患者用の丸椅子に腰を下ろして、シリンジに引き出されてくる赤を眺めた。
「見ての通り、採血だ」
「あ、そう
……
。最近嫌な薬が流行ってるから焦ったよ」
その薬のことはレイシオも知っているだろう。つい先日、薬で頭が飛んだせいで物理的にも空を飛んで大怪我を負った男が診療所にやってきたと聞いた。付き添いの子分は素面で、薬のことを説明しながら暴れる男を押さえつけ、レイシオに治療を頼み込んだ。しかし当の男は薬があれば痛くないとゲラゲラ笑うばかりで話にならず、子分の拘束を振り払って診療所を飛び出してしまった。一人残された子分は無言で頭を下げて診療所を出ていった。そのまま見放されたのだろう。数時間後、男は溺れる方が難しい川の浅瀬にうつ伏せで浸かり、冷たくなっていた。アベンチュリンがその場で見ていたように知っているのは、レイシオの護衛に手下を張りつけているからである。
その時子分が置いていったラベルのないアンプル一本は、未開封のまま二階の金庫の中にある。アベンチュリンは金庫の中身をレイシオに黙って確かめた。けれど、そのまま閉じて静観することにした。レイシオがどうするつもりでいるのか予測できるほど彼を知らない。けれど、無責任や無鉄砲はしないだろうという信頼はある。
レイシオは注射器を腕から抜いて、採取した血液を手際よく採血管に入れていく。もったいないなあ。アベンチュリンはレイシオの慣れた手さばきと座った度胸を見るにつけ、そう感じて歯がゆい。初めてレイシオに自分の存在を知らせたあの日、彼に向かって『本物のお医者さんにしたい』と言ったのは、まぎれもない本心だった。それどころか、今のアベンチュリンの唯一の願いと言ってもいい。
地元で義務教育まで終えて都市に出て進学したレイシオは、医学部で四年の専門課程を修了し、あとは一年のインターンを経れば卒業だった。何か問題があったとしても、転校や留学という手段も選べたはず。それなのに残り数ヶ月のところで突然休学して、八年近く住んだ一人暮らしの部屋を引き払い、こちらの世界に来てしまった。学校を卒業しなければ医師免許は取得できない。医師になる道を閉ざしてまでやりたいことができたんだろうか。
アベンチュリンはレイシオについて、書類の箇条書き程度の経歴しか知らない。レイシオの部屋に転がり込んで同じベッドで眠っていながら、踏み込んだことはまだ何も聞いていない。これから聞ける日が来るのかもわからない。
ないない尽くしだな。レイシオと話せるようになったら、あれもこれも聞き出して、あれもこれも話そうと思っていたはずなのに、何一つできていない。想定より簡単に懐に入れてもらって心地よさの虜になってしまったから、踏み込みすぎて弾き出されるのが怖くなった。もうレイシオの体温がなければ眠れない。三階の部屋から追い出されたら生きていけない気すらする。
「ちょうどいい、君の血も採らせてくれ」
「このまえも採ったよね」
「あれとは別の検査だ」
ボスの主治医として側に置かれるようになってから、レイシオはまずボスと家族と側近たちの抗体検査を行った。組織にはさまざまな生い立ちの者がいて、中には生まれてまもなく孤児になり、スラムで育って戸籍すらまともにないケースもある。アベンチュリンもそうだ。当然受けるべき予防接種をしていないから、ちょっとした怪我からつまらない感染症で命を落とす可能性すらある。
「僕、注射嫌い。君じゃなけりゃ、絶対に針なんて入れさせない」
「そうか、なら問題ないな。腕を出せ」
新しい採血キットを用意したレイシオは、ふざけて椅子をくるりと回して逃げるアベンチュリンの左腕を掴んだ。袖を押し上げながら中にゆっくりと指を差し入れてくる。肘とその内側をさすり、二の腕まで侵入して、五本の指で軽くすうっと撫で下ろす。ぞぞ、と鳥肌が立ち、無意識に体が逃げるように傾いた。昨夜ベッドの上で同じようにされたことを思い出さずにはいられない。侵入口は肩からで、袖から腕を抜きながらだったけれど。そのとき首に吸いついた唇の柔らかさまで思い出してしまった。頬にかかった髪のくすぐったさも。
「えっち」
細かく瞬きした目尻が熱を持ち、うっすらと潤う。アベンチュリンの涙は九分九厘嘘泣きだ。でも、これは偽物じゃない。しかし貴重な本物で飾ったというのにレイシオは釣れなかった。アベンチュリンの体を初めてひらいた昨夜と同じだ。淡々と作業を進めていて、小細工に気を引かれる様子は全然ない。悔しいけど、この泰然としているところがカッコいいんだよなあ。アベンチュリンの何がレイシオの琴線に触れるのか今はまだ手探り状態で、薄い反応を観察し続けるこちらばかりが彼の魅力を見つけては胸をときめかせている。不利な戦いだ。
袖ごとゴムチューブで絞められ、肘の内側をアルコールを含ませた脱脂綿で拭き取られる。ひんやりする肌の上にひたりと狙いを定め。
「入れるぞ」
「んっ」
注射針を刺し込まれて、唇を噛んで吐息をこぼした。ぷつりと肌を突き破って潜る金属の感触が本当に嫌だ。レイシオに麻酔をかけてほしかった。一目くれるだけでアベンチュリンの頭の中は湧きたって、十分に効き目があるだろう。注射器から目を離さないレイシオを、欲を含んで色濃くなっているであろうネオンカラーで見つめる。感情が高ぶると色が濃くなると言ったのはボスだ。からかわれただけなのか、本当に変わるのか、見て確かめたわけじゃないからわからない。
あーあ、またわからない、だ。レイシオについて知るどころか、自分のことさえ知らないんだから笑える。なにせ生まれからわからない。基礎が固まってなくてフカフカなんだから、その上に何を建てたって安定するはずがない。
「ねえ、手元ばっかり見てないでこっち見てよ。君なら何を入れてもいいから」
「今の言葉を忘れるな。来週から順次ワクチンを接種していく」
「そうじゃないよ、ばか、ばーか」
アベンチュリンはぷくっと頬を膨らませた。けれど、それはポーズだ。かわいこぶって不安や怯えを隠す。まあ、無駄なんだけどね。緊張で冷えて震えを押さえられない左腕を預けているのだから、心の内なんて丸わかりだ。その証拠にレイシオの目がアベンチュリンの目を見て、気遣うように細められた。そのほんの短い仕草だけで機嫌が上向き、痛みも不快感もどこかに飛んでいく。現金なものである。
血を抜かれる感覚なんて些細なものなのに、魂を抜かれるような錯覚があって、寒さでゾクゾクする。じゃあ逆に何かを入れられるのはどうだろう? それは昨日知った。熱くて恍惚とするのだ。セックスも注射も相手は同じ、レイシオだ。疑似セックスだと思えば大嫌いな注射も楽しめるかな
……
いや無理だな。初心者には特殊プレイすぎる。
注射針を抜かれ、出ていく不快感でまた背筋がゾッとした。高いところから急に落ちる感覚に似ている。子どもの頃たった一度だけ行ったことがある遊園地の思い出だというのに、刻まれたのは恐怖体験の記憶だった。やるせないにもほどがあろう。止血処理をされて、押さえていろと右手を導かれる。レイシオの手をいつもより温かく感じて、右手も冷えていることに気づいた。
「君のためだ、我慢しろ」
「自分のためにする我慢なんてつまらないよ。そうだな、君のためなら我慢してもいい。ただし見返りをちょうだい」
立ち上がって採った血を片付けて戻ってきたレイシオは、小さな果物ジュースの紙パックにストローを刺してアベンチュリンの口の前に差し出した。
「これでいいな」
「いいわけないだろ」
なぜか、こんなふうにレイシオに子ども扱いされることが少なからずある。初対面は幹部らしさを全面に出したつもりだ。寝られるんだから一人前の大人だと認められてはいるだろう。なのにどうしてと不満に思いつつ、そんなときのレイシオは弛んだ顔を見せるものだから、やめてほしいとも言えない。
「見返りに何が欲しいんだ。飲んだら聞こう」
手渡されたジュースを大人しくすすると、レイシオは薄く微笑んでアベンチュリンの頭をよしよしと撫でた。ほら、こういうことをする。人の気も知らないで。
「
……
注射一本につき一回、君の」
「却下」
最後まで言わせてもらえず無表情で切られた。そうしてほしかったからホッとした。レイシオの優しい顔が大好きだけれど、浴び続けたらアベンチュリンはダメになってしまう。それは全部終わってここから逃げ出すときまでお預けだ。
「じゃあ、毎日手を繋いで寝て。注射しない日も」
「ならば寝相をなんとかしろ。五分で外れる」
「ええ
……
外れないようにぎゅっと捕まえててよ」
アベンチュリンの言葉に、レイシオは一瞬遠い目をして表情を曇らせた。今のはなに。呆れているようではなかった。もっと深刻で、痛みを伴う何か。アベンチュリンの胸にざわりと立ったさざ波は、いつもの静かな声にかき消されてしまった。
「いいだろう、今晩からそうしよう」
レイシオはそう言うと、再び立ち上がった。診療所のドアを開けて外に向かって手招きする。アベンチュリンを探しに来た手下がひょっこりと顔を出した。
「ドクターがここに来てから見つけやすくて助かります」
「入り浸ってるみたいに言うのやめてくれる?」
ズズッとジュースの残りを吸い込んで、ゴミ箱に空き箱を投げた。
「行ってきまぁす」
アベンチュリンが通り抜けざまに声をかけると、開いたドアを押さえるように寄りかかったレイシオは小さく手を上げて見送った。
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