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ぷの
2024-11-26 13:11:02
9424文字
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レイチュリ ※ベ限
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マフィアパロ
某コラボのお衣装素敵でしたね!で書きたいとこだけ書いたマフィアパロのレイチュリです。気まぐれに続くかもしれない。
※少々残酷なシーンがあるので、耐性ない方は自己責任で。
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【1.出会い】(2024/11/26)
「あんたがいなくなると寂しいよ。金払いのいい店子で助かったぜ」
今日で引き払う今までの住処は、この男が手配してくれたものだった。レイシオは無言で頷く。男は最後の引っ越し荷物を部屋の外に運び、台車に乗せた。その後を追って部屋に施錠し、鍵を男に渡す。
「世話になった。ありがとう」
「じゃあな。元気で、ドクター」
男は今しがた運んだ一番上の荷物から白酒の瓶を掴み出すと、手伝いをした礼にもらっていくぜと言ってさっさと立ち去ってしまった。さっぱりしていて付き合いやすいいい男だった。
レイシオはこれまでの成り行きを振り返った。田舎から上京して都会の医学部に入ったものの、インターン中に嫌気がさして卒業を待たずにドロップアウト。見た目の良さを売りにして場末のバーで住み込みで働きながら、裏で闇医者もどきの仕事を少しずつするようになった。まもなく、みかじめ料を取りに来た先程の男に目をつけられ、引き抜かれた。
闇医者の方が本業になり、黒社会独特の怪我を主に治療するようになって数年。ある日突然、この地域を仕切るボスのところに連れていかれた。それが転機だった。
ボスが直接呼び出すなんてなんの用かと思ったら、射殺した浮気女の胃から浮気相手の男の連絡先を取り出せと言う。よく手入れされたナイフを一本渡され、床の上の死体袋を示された。レイシオは無言で床に跪いて死体袋を腹の上まで開き、女の死亡を確認した。袖を巻くって、いつも持ち歩いている使い捨てのゴム手袋を着ける。周囲が汚れないように気を付けながらまだ温かい胃を開き、中からくしゃくしゃに丸められた紙切れを取り出した。読み上げろと言われたが、開いた紙は胃の内容物で汚れ、文字は滲んでいて解読できない。
読めないと言ったら、殺されるのは自分だろうか。この女にどこかで会って秋波を送られたことがあったのかもしれない。興味がないのでうろ覚えだが、兄貴分から注意されたことがある。ボスの女は気が多い。おまえは無駄に色男だから、目をつけられないように小汚なくしていろと。以来、髪はボサボサに、無精髭をはやして、常に無愛想にしていた。
ボスがサイドテーブルから拳銃を取り出して、手の中で弄ぶ。その目線を追うと、一人の男をしきりに見ているのがわかった。なるほど、あれを殺す理由が欲しいのか。しかし、レイシオはその男を見るのは初めてである。連絡先どころか名前も知らない。じっと見つめればいいだろうか。だが、無関係かもしれない人間を死に送りたくはない。
そのとき、部屋の入り口のビニールカーテンをくぐって一人の男が現れた。くすんだ金髪に丸いサングラス、深紅のシャツの上に白いファーの襟飾りがついた大きな黒いコートを袖を通さずに羽織り、裾を揺らしながら優雅に歩く。左胸を大きく占める孔雀の尾羽根の意匠も目を引くが、なにより男の顔の造作があまりにも整っていて人間離れしていた。形成外科医なら誰もが見本に欲しがるだろう。骨の形も目鼻のバランスも完璧だ。
男はあまり足音を立てずにひょいひょいとレイシオのところまで歩いてきて、腰を曲げて手元を覗き込んだ。ふわりと薫る高級な白檀の甘さが鼻をくすぐった。
「インクが滲んでて全然読めないね」
声まで甘い。蜂蜜を溶かしたようなとろみと潤いが耳に残る。
「それならおまえが決めていい、アベンチュリン」
「ボスの心は決まっているのに、僕が恨みを買うのかい?」
「ククッ、おまえが舐められないようにしてやってるんだろうが」
「それじゃあ」
彼は体を起こして、その場でゆっくりとターンした。広がったコートの裾がレイシオの肩を叩いた。
「だ、れ、に、し、よ、う、か、な」
ぴたりと止まり、コートの影から取り出した畳んだ扇子で一人の男を指し示す。ボスの方に顔を向けて、こてんと首を傾げた。
「どうだい?」
「いいだろう」
銃声が二発。人が倒れる音を聞いて、レイシオは用済みになった紙切れを女の腹に戻した。ゴム手袋を外して死体袋の中に落とし、ファスナーを閉じた。
「おまえ、顔色が変わらないな。一言も喋らないところがいい。ドクターと呼ばれてるらしいが、名前は捨てたのか」
顔を上げると、銃口がこちらを向いていた。ボスの顔に目を向けると、機嫌は良さそうである。良かろうが悪かろうが何をしだすかわからないが。
「✕✕のビルをやる。ちょうど昨日キレイにしたところだ。案内してやれ」
「ハ、ハイッ!」
「おまえじゃねえよ」
再び銃声。後方で、悲鳴を上げて男が倒れた。
「アベンチュリン」
「はあい」
肩を叩かれて、立つよう促された。立って並ぶと、アベンチュリンは印象より小柄だった。レイシオを見上げてうさんくさい笑みを浮かべる。それからレイシオの少し汚れた手を見た彼は、うえっと顔をしかめて柔らかいハンカチを寄越した。首を横に振って断る。
「手、洗ってから行こ。おいで」
案内されるまま、黙ってついていった。歩きながら大型犬みたいだとくふくふ笑い、念入りに手を洗う様子を見てお医者さんだと笑う。大学で使い潰されそうになって道を外れたレイシオは、医師免許を持ったことがない。ずっと真似事をしているだけだ。この世界では免許の有り無しなどまるで意味を持たないが。
ボスのねぐらから徒歩圏内にそのビルはあった。両隣を背の高いビルに挟まれて、狭い敷地に窮屈に立っている。各階一部屋ずつしかない。一階の部屋は日当たりも風通しも悪かった。床に残る真新しい血痕を見てため息をついたら、掃除は明日してあげると言われ、鍵を渡された。
そこで別れるのかと思いきや、サングラスを外して胸に差したアベンチュリンは廊下に出て階段を上がっていく。悲惨な状態の一階とは違い、横目で見た二階は薄汚れているだけでましだった。最上階の三階には人の気配すら残っていた。内鍵がついたドアに冷蔵庫とベッド、小さなキッチンまである。それなりに掃除された室内は呼吸がしやすい。部屋の突き当たりにある窓から下を見れば裏は空き地で、二階と三階には陽が入りそうだ。トタンと有刺鉄線で囲われた敷地内に錆でボロボロになった車が打ち捨てられているのが見えた。
「僕、ここを勝手に借りてたんだ。住むところがなくてさ。これからも寝に来ていい?」
「ああ」
「あは、やっと喋った! 良い声だね、レイシオ」
名乗っていない本名を呼ばれて振り向くと、すぐそばにいたアベンチュリンが胴に腕を回して抱きついてきた。
「さっきは黙っててくれてありがとう。助かったからお礼をするよ。今夜は一緒に寝よう?」
「立ち回りの正解がわからなかっただけだ。離せ」
女の腹から取り出したメモは、飲み込む前から字を滲ませて読めなくしてあった。ボスが仕込んだのかと思っていたが、アベンチュリンの仕込みだったらしい。
「あの場には首を切る予定の幹部たちが集められていたんだ。新しい幹部を一人入れるために一人切る。君の席を作るための茶番ってわけ。君が反応しなかったおかげで厄介なのを一人始末できた。二人目は単なるラッキーな事故」
ぎゅうっと腕の力を強めて、すりすりとレイシオの胸に頰を擦りつける。
「ようこそ、死と隣り合わせの幹部会へ。会えて嬉しいよ、レイシオ。早くこの任務を終わらせて一緒に外国で生まれ変わって、君を本物のお医者さんにしたい」
「君とは初対面のはずだが?」
「そうなんだよねえ、僕は一方的に君を見守ってたから、すっかり知った気になってるんだけど」
しがみついたまま背伸びをして、アベンチュリンはレイシオの顎にキスをした。
「腕の立つ医師をくれってお願いしてよかったな。君のおかげでこれからやりやすくなりそうだ。ねえ、幹部になったんだから髪も髭も整えようよ。その男振り、磨かなきゃ宝の持ち腐れだ。僕の隣にいればボスの女たちは近づいてこないから安心していい」
「好きにしろ」
ポロポロと小出しにされた断片から、彼もまたレイシオをスカウトした警察側のメンバーであることはわかった。潜入して数年が経ち、何の連絡もないのが当たり前になっていたが、とうとう仕事をするときが来たらしい。
レイシオに与えられた仕事は、先に潜入している仲間たちと接触すること。ボスに気に入られて幹部になること。それから、先に潜入している仲間たちがもし裏切っていたら、事故に見せかけて排除すること。最終目的は、この組織ともうひとつの組織をぶつけて共倒れをさせることだ。
「お迎えして早々悪いけど、僕以外に味方はいないと思って欲しい。全てが終わるまで外とも連絡を取らないで。計画は最終段階、君の仕事は重要だけれどそう多くはない」
アベンチュリンは甘い甘い声で囁く。先ほど始末された『厄介なの』は、レイシオの持つ情報では仲間のはずだった。裏切っていた確証はないし、裏切っていない確証もない。
「僕を信じられるかい?」
派手な飾りと口調で煙に巻いておきながら、無茶を言う。まだ会って小一時間しか経たないうさんくさい相手の何を信じろと言うのか。けれど、不思議とアベンチュリンから嘘の匂いはしなかった。サングラス越しではない透き通ったネオンカラーの瞳がレイシオを探る。
「そうだな、君が今夜ここで朝まで熟睡したら信じてもいい」
「わあ、痛いところを突くね。もう何年もまともに寝てないのバレちゃったか」
アベンチュリンはレイシオの体から手を離し、部屋の内鍵をかけて戻ってきた。コートを脱いでテーブルセットの椅子の背に無造作に投げ、レイシオの手を引いてベッドに誘う。
「体温がないと眠れないから手伝ってよ」
そこに妖艶さは欠片もなく、むずかる子供のような顔をしていたから、レイシオは言うことを聞いた。靴を脱いで狭いベッドに並んで横たわり、腕の中に小さな体を閉じ込める。固くて邪魔な皮のベルトを剥がしたら、驚くほど細い腰が表れた。引き寄せて足を絡めると重いと文句を言われたが、黙殺した。
まともなものを食べさせよう、信じるために必要だと言って。医師になり損ねたレイシオのなけなしの良心が陥落した瞬間だった。こんなことで、馬鹿げている。一番柔らかいところを簡単に掴まれてしまった。初めて知る己の弱点に自嘲するしかない。
「おやすみ」
「おやすみ」
まもなく、腕の中から安らかな寝息がたち始めた。体温の低い体を温め続けるうちに後戻りができなくなっていく。柔らかい金髪に顔を埋めて、深く息を吸った。
『君を本物のお医者さんにしたい』
もう消えたと思っていた夢の燃え残りがくすぶって、胸をじわりと焼き始めるのを感じた。
翌朝、アベンチュリンはレイシオの腕の中でぱっちりと目覚め、数秒固まった。
「寝た
……
人間の頭ってこんなにスッキリするんだ
……
」
「それが普通だ」
「普通って難易度が高すぎないかな」
「そうだな」
ベッドを出て、うがいをし、湯を沸かす。茶葉もなにもないから白湯だ。ヤカンとカップがあるだけよかったと思うしかない。二人でふうふうと冷ましながら交互に飲む。
「僕はここの掃除の手配をするよ。午前中には綺麗にする。君は?」
「今住んでいるところに戻る。患者がいれば看て、途切れてから引っ越しを。病室は後回しにして、消耗品の在庫を二階に運ぶ。ビルの見取り図は手に入るか? 電気と水道の設備を確かめたい」
「オーケー。あとは?」
「大きいベッドを買ってくれ」
「部屋が狭くなるよ?」
「どうせ寝るだけの部屋だ、構わない」
くふふ、とアベンチュリンは笑った。寝乱れてしわしわになったシャツで、手櫛で整えただけの金髪が朝日に透けていて、ベッドの上で無防備に座っている。そそられる眺めであるはずなのに、笑顔だけがあどけなくてアンバランスだった。昨日簡単に人の命を選別した男の顔ではない。
「ああ、すごい、頭が回って楽しくなってきた」
「そうか」
「君に開いて見せてあげたい」
「いらん」
アベンチュリンはベッドから降りると伸びをして、ベルトを身につけてコートを着込んだ。
「計画を前倒しにできるかも。どうしていままで気づかなかったんだろう。今夜も一緒に寝ようね。僕の脳みそのために犠牲になってくれ」
「急患があれば一緒に起きることになるが」
「いいよ、そんなときは僕も出番だろうからさ」
それじゃ、またあとで。通りすがりに椅子に座るレイシオの頰にキスをして、アベンチュリンは先に部屋から出ていった。
レイシオはそっと首のネックレスに触れた。ずいぶん前にペンダントトップの中身だけ近所をうろついていた野良犬にやったことをいつ話そうか。今つけているのは発信器のないただの飾りである。おそらく、レイシオはもう死んだことになっている。アベンチュリンがそれを知らないのは、長いこと外と連絡を取っていないせいだ。
僕を信じられるか? その問いをしなければならない日は、そう遠くなくやってくる。
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