さもゆ
2024-11-15 20:37:13
8399文字
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【ショ英】ワンウィワンライとおまけ

ショ英ワンウィークワンライ【花束】【夢】の2つと、学パロショ英を1つまとめた短いものです。

2019.4.9 たまごのお粥pixiv投稿作品

第五回ショ英ワンウィワンライのお題【花束】より。
ふぁんたじー。













 会話している相手が思ってもいないことを言うと高確率で耳から花が生えてくる。

 たとえば、「このお弁当美味しいね」とにこやかに笑って言うくせに、腹の内では「くそまじいな」と思っていたりすると、ぽんっと炭酸の栓を抜いたような音とともに、両耳の穴から花が飛び出す。
 腹の内に見合った花言葉の花だけでなく、台詞そのままの意味を持つ花だったりもして、それを引き抜くと、「わたしたちお花屋で売っていた花なのよ」というふうな顔して耳から生えてきたことなど嘘のように手に収まる。僕が自己申告しなければ本当にただの花だった。
 そんな特異体質の僕でも普通に生活できているのは、ひとえに周囲の親しい人たちのおかげだ。
 もちろん嫌な顔をしたり離れて行く人や逆に面白がってからかってくる人もいるが、そういう人たちは決まって他人なので、別に構わない。友人に恵まれているのだ僕は。
 友人の一人にショーター・ウォンという男がいる。
 この男がとんでもなくいい奴で、初めて彼の前で耳から花を生やした時の会話が「あいつは馬鹿な奴なんだよ」と彼が友人を皮肉った瞬間だった。ぽんっとチューリップが右から二本、左から三本ほど咲き乱れた。「英二、花が」「うん」サングラスの奥で目が真ん丸になるのが分かった。
「花が生えてる」
「うん。言ってなかったっけ」
「聞いてねえ」
「ごめん。ところで、チューリップ全般の花言葉って確か『思いやり』だったな」
「耳から花が」
「きみ彼のこととても思いやってるんだね。いや、もちろん、確実なことは分かんないんだけど。生やしてる僕にはなんとなく分かる感覚があって。友人思いなのが伝わった。ごめん、勝手に」
「耳からチューリップが生えてる。すげえな。綺麗だ」
……えっと、ごめんちょっと聞こえづらくて」そしてチューリップを引き抜かれた。
 人の手に抜かれたのは初めてだった。大体は驚愕や気味の悪さから抜け出せないままでいるのに、彼ときたらサングラスでも分かる快活な笑みを向けてきたのだった。「すげえ。綺麗だな」その時、思っていることと違うことを言われると高確率で生える花は何も生えてこなかった。
 とち狂ってる、と、思う。
 耳から生える花を抜き、片手に大事そうに持って「綺麗」だなんて。それだけでなくなんとその花を持ち帰っていったのである。次の日携帯の写真で花瓶に生けられたのを見せられた時は、「本当に花みたいだね」「花だろ」「耳から生えたやつだよ」「でも花だ」僕の方が驚愕から抜け出せなかった。ショーターはあっけらかんと、僕をあっさり受け入れた。
 恵まれている。
 その恵んで貰った状況を、自ら壊そうとする僕は大罪人に違いない。



「好きだよ。ショーターのこと」
 意を決してとか、玉砕覚悟とか、告白につきものな心情はなくて、ただぽつりと告げた。
 諦めていたのかもしれない。なんでもいいやと心はむしろ穏やかだった。
 日常会話のように落とされた、男同士にしては脈絡がなさすぎて気味の悪い言葉を受けたショーターは、なんだかよく分からない微妙な顔をする。僕は拍子抜けした。何か、もっと、リアクションするだろう普通。
「俺も好きだぜ」
 ああなるほど。
 友愛の方だと受け取られたわけか。これは僕の言い方が悪かった。
 そうじゃなくて、本当に本当のアイラブユーなんだ、と口を開こうとした。
 ぽんっ。
 オマヌケな音とともに、耳から花が生えた。視線を右へ、左へ向ける。
……えと、ごめん、誤作動」
 右耳に赤い薔薇が一本、左耳に同じく二本、計三本の赤い薔薇が咲き誇っていた。
 小さい頃からの体質なのだ。花言葉なんて知り尽くしている。赤い薔薇は「愛情」しかも本数にまで決まりがある。三本は、「愛しています」とか「告白」とか。
 耳から生える花は僕の言葉には反応しない。先ほどの「俺も好きだぜ」に反応したなら、薔薇は薔薇でも友愛を示す黄色とか、偽りの意があるホオズキとかが咲くはずだ。
「誤作動だ、珍しいな。ごめんよ」
 目に見えて動揺した僕とは反対に、ショーターは観念したように肩を竦めた。立場が一瞬にして逆転している気がした。
「正常だよ。正しく機能してる」
「いや、でも、ええと。意味分かってる?」
「詳しくはねえけど。赤い薔薇っつったら愛の告白みてーなモンだろ」
「みてーなモンというか、その、そういうことなんだけど」
「俺も、英二のこと、好きだ」
 ぽんっ。
 もとから生えていた薔薇から分裂するように、新たな赤が三本増えた。
「まあ、そういうことだな」
「ど、どういうこと」
「俺の本心通りの花が咲いてる。友情に聞こえるよう、頑張ってはみた」
「えと」
「その薔薇の意味通り、俺はお前に惚れてるってことだな」
 もう耳から花は咲かなかった。既に咲いている六本で充分だと言わんばかりに。
 僕は、恵みをもたらしてくれるこの大切な友人が、一等好きだった。友情と言うにはあまりに重すぎて複雑で身勝手な、そういう好意だった。欲を伴っていた。
 だから、諦めて、こうやって告白を。自分の手で壊そうと思って。なのに、これは、どういうことだ。
……ええと」
 非情に混乱していた。微塵も考えていない可能性だった。僕は視線をうろつかせ、脳より先に喜んでいる心臓が派手に脈打ち体温を上昇させるまま、即ち薔薇より赤い顔で呻く。「……ごめん、ちょっと聞こえづらくて」今なら聞こえなかったことにできるという逃げだ。
 いい奴であるショーターは逃がしてはくれなかった。両耳から生えていた薔薇を引き抜くと、大事そうに手で包む。棘のない、花屋で「わたしたち綺麗でしょう」と売られているような六本の赤い薔薇。そして、僕の目の前で、薔薇を回しながら息を吹きかけた。
 ふうう。
 六本の茎に向かって吹かれた息は、やがて、煙草の煙みたいに姿を現し茎に巻きついた。「えっ」目を見張る。「英二の好きな色は?」「え? あ、青かな」「じゃ青な」煙は青色に変化した。しゅるしゅる揺蕩い、最後にはきゅっと。
 薔薇を束ねる、青いリボンとなる。
 ショーターはサングラスを外し、満足げに手の中を見ると、それを僕に差し出した。
「貰ってくれるか? つっても、お前が咲かした花だけど」
 差し出された青いリボンつきの赤い薔薇と彼を交互に見やった。
「ショーター、息が」
「ああ」
「息がリボンになった」
「ああ。メルヘンだろ」
「メルヘンだけど。聞いてない」
「昔っからなんのための体質か分かんなくてさ。俺だって忘れかけてたんだ」ちょっと赤い顔が、ニッと微笑んだ。「このためだったんだな」
 貰ってくれるか? もう一度訊かれたことに、僕はとうとう頷くより先にショーターに飛びついていた。

 反動で宙を舞った花束が、やれやれと笑っている。