いらっしゃいからおかえりまで

花屋バースのスミイサ

弊シンパパは、のっぴきならない事情から大学卒業後にルルの後見人となった立場にあり、書類上はルルと親子関係にありません。未婚かつ、恋愛未経験の純情ボーイという設定です。
そしてイサミはそのことを聞かされていたので安心して恋愛対象としてスミスを見ています。


オマケの後日譚




 イサミの口から「好き」と言われたのは、想いを確かめ合った二日前の出来事から数えて二度目。
 つまり、最初の日以来はじめての「好き」が聞けたのである。
 スミスは喜びのあまり、俺も好きだ、大好きだ、と繰り返し、イサミに何度も何度もキスをした。
 イサミはくすぐったそうに「分かったから」と照れて笑い、そのくせ嬉しそうにスミスのキスに応えた。一つ残らず、すべてに。
 手探りみたいな、はじめての恋だ。動きはまだまだぎこちない。それでも、二人が互いに向ける愛情だけは、真っ直ぐで、躊躇いがなかった。
 だからスミスはたちまち調子づいて、その勢いのまま前へ前へと傾いていき、あっという間にイサミをソファに押し倒した。
 目をパチクリ瞬いて驚くイサミに、スミスは胸がキュンと疼く。かわいい、もっとキスしたい。
 そして再び顔を寄せ、頬に手を添えると、唇に、鼻先に、頬に、瞼へ耳へ、ゆっくりキスを降らせてゆく。
 しかし、今度イサミはスミスのキスにうまく反応できないでいた。されるがまま、口をはくはくさせ、おろおろと鳶色の目を揺らしている。
 この二日間、イサミのスマートフォンの検索履歴はなかなかに耳年寄りなネタで埋め尽くされていた。
 俺もいつか、スミスとこんなことをするのだろうか。そう思いながら見ていたのは人気のメロドラマのキスシーンだけではない。本来、誰かに見られるべきではない行為を映した動画、ほか、いろいろ。
 恋人同士、二人きりの夜――ルルは日中たっぷり遊んでもらって疲れたのか、早々と夢の中だ――甘い雰囲気でキスをして、ソファに優しく押し倒される。不安と期待が交互にイサミの胸を打つ。
 そして次の瞬間、イサミの体がビクッと跳ねた。
「す、スミス……あ、あたっ」唇をあえかに震わせて、しかしイサミの声は形を伴っていなかった。
「ん、どうした、イサミ」スミスは聞き返す。
 キスをやめ、まごつく口に耳を寄せた。しぜん、体も密着していったわけだが。
「その、アンタの」
 イサミは下半身をもぞもぞと動かした。その動きがスミスにはどうにもくすぐったく、居心地悪そうに腰をひねる。
 だから、足の間にすっぽりはまった腰をさらに捩じ込むようにしてイサミの太腿を開かせ、ぐうっと体重を乗せたのは、無意識に落ち着く場所を探った為であった。他意はない、決して。
 だがイサミにはそう思えなかった。イサミは顔を真っ赤にして息を乱した。
「あッ、おいっ、だ、から、ぁ、あたっ、あたってる、って」
「待ってくれ、どうしたんだイサミ」
 スミスが眉間にしわを寄せて聞き返すと、イサミは潤んだ目で彼を睨み返した。睨むというか、苛ついているというか、どこか焦れたような目をスミスに向けたのだ。
 さらに絞り出すように、ぽそり。
「なあ、……シたい、のか」
 その言葉にスミスは頭の中でポンポンと疑問符を浮かべた。
 したいって、なにを。
 わけもわからず、もう一度聞き返そうとしたスミスを遮るように「ああもう、クソ!」イサミが叫んだ。
「何をどうして良いのかまだ分かんねぇし準備も足りてないだろうけど、もしアンタが、そ、その気なら、俺はっ、ぜんぜん!」
 イサミはぶち撒けるように言った。そして今の今まで強張っていた表情をたちまちふにゃふにゃと崩し、やがて「や、じゃない……」じわと涙を滲ませた。
 スミスはまだ困惑している。
 〝嫌じゃない〟って、もしかして、知らず知らずのうちに何か嫌な思いをさせたのだろうか。
 だが、不意に感じた視線にスミスは反射的に顔を上げた。
 視線の先にはルルがいた。
 パジャマ姿のルルが、オジサマのぬいぐるみを抱いて、ソファに折り重なるように横たわるイサミとスミスを不思議そうに見下ろしている。
「ぎゃあ」とイサミが叫び、スミスを突き飛ばした。
 スミスはソファの肘掛けで背中を打ち「いてて」と低く呻く。「なぁおい、イサミ。俺、君になにかしたか?」
 それからルルにも意識を向けて「ルル、起きちまったのか。どうかして――」と、そこでようやく己の下半身の異変に気づいたのだった。
 スミスは「Holy shit!」と叫び、すかさず蹲る。
 厳密にいえば、ボトムスの前立てをしっかり押し出すほどに硬く勃ちあがった股間が、無垢な子供の視界に入らぬよう両手で股間をおさえながら慌てて前傾姿勢になった。
「ガピィスミス、お腹いたい? さきにおトイレ行く?」
 トイレに起きてきたらしいルルは腹を庇うように前屈みになるスミスを気遣った。その心配そうな声と表情がより一層スミスの罪悪感を煽る。
「イサミ、スミスと一緒にねるの? だったらルルも一緒がいい!」
 無邪気なルルの笑顔に下心が浄化され、イサミの目からは羞恥の涙がぽろりと零れた。




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