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gib_fox
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pkmnセキテル
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墓の下に入れるのは
pixiv再掲
あの人のことを気に病むテルに、セキさんが協力してあの人の痕跡を辿る話。
「墓の下にいれるのは」と読みます。タイトルが物々しいですが、物騒な話ではないです。
クリア後、図鑑完成済みで、かつアルセウスに会った後です。セキテルはまだ付き合っていないけれどお互いに特別視はしている。
クリア後の裏ボスに触れていて大いにネタバレありです。裏ボスまでクリア済みでの閲覧を推奨します。
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2
3
ギャロップとポニータが、収穫間近の稲穂のそばを駆け回る姿は、炎が黄金色に揺らめいてあまりにうつくしかった。太陽が地平線へ帰り、大きく赤く姿をぼかし始めると、さらにここら一帯が
曙
あけぼの
色に染まり、コンゴウ団の集落の木々も呼応するように緑葉や紅葉を輝かせた。
荷物を引くためにコトブキムラから借りたギャロップたちは、働いたあとの疲れも気にせず遊んでいる。食後に疲れて眠るかと思い、寝床とある程度の飼い葉を用意しておいたが、いらぬ心配だったなとセキは笑って眺める。
いつもなら原野のように草の多い地を駆けるあのポケモンは、荒れた土地で足が疲れそうなものの、さすがテルに育てられ経験を積んでいるのか、平気そうに地を蹴って走っていた。
「テル、ありがとうな。おかげで予定よりずいぶん早く進んだ」
「いえ、俺こそお役に立てて嬉しいです」
トレーナーとしてポニータたちに指示を飛ばしてくれていたテルは、頬をかいて謙遜する。気づけば二人とも、体中汗と土ぼこりで汚れていた。他の団員もきっと同じだろう。風呂場が大惨事だな、とセキは覚悟した。
「あ、ポニータ! そっちはだめだ!」
テルが慌ててあとを追いかける。視線の先には、崖の方へ駆けていこうとした一匹のポニータがいた。テルの声に振り返りつつも、ポニータが気にしている下方では、野生のポケモンの声がする。危険性の少ない個体だから一緒に遊ぼうとしたのかもしれないが、万が一バトルになるのは避けたい。なにせ彼らよりも人間たちの方が農作業でクタクタで、早く引き上げないと辺りが暗い夜になって帰宅にも苦労する。バトルにかける余裕がないのだ。
幸いポニータは理解してくれて、こちらへ戻ってきた。他のポケモンの列に戻り、こちらへ帰ってくる。テルの頬に顔をすり寄せるのを見て、セキは今度こそ安堵した。
「さあ、戻ろうぜ」
声をかければ、「はい」とテルの返事が聞こえた。ポニータに懐かれてくぐもった声ではあったが、心なしか弾んでいるようにも聞こえ、セキも笑った。
セキはここのところ、塞ぎがちだったこの少年を見てきた。特に、日に日に塞ぐ気持ちが少年の中で増えている気がした。
思い切って尋ねてみると、理由を明かしてくれた。俯きながら迷い、しばし間を置いて。
──毎日テルは、自問自答していると言う。「アルセウスに呼ばれたのが、俺である理由はなんだったのだろう」と。
たしかにセキも、この世界に呼ばれたのがテルで良かったと本人に言った。きっと誰もがそう思っている。村から追放を言い渡したあのデンボクでさえも、今はもう等しい気持ちでいる。
けれど、テル自身は腑に落ちなかったし、悩んだ。テルは、最後の最後で自分を否定してきたたった一人のことをずっと心に引っかけたままだ。アルセウスとようやく出会い、ポケモン図鑑を完成させても、少年の内側にするどいいばらのような棘を残した人間。アルセウスに選ばれるべく執念深く計画を練り、昏い思いを抱き続けたあの男。
(しかし、あいつがいなかったら、テルはヒスイに落ちてこなかった)
それもまた、真実だった。だからこうしてセキはテルに出会うことができ、世界の進むべき姿を知ることができた。
セキは誰にも気づかれないように、そっとため息をつく。
(ウォロ、おめえはどこにいんだよ)
幾度となく思ったことを、今日も思う。だから──
「探してみるか?」
セキは重い口を開いてそう言う。風呂からあがって体をほぐし、食事を済ませてすぐだった。言うべきタイミングをずっとつかみ損ねていたが、夕飯を終えて周囲の人間が思い思いの場所へ移動した今がまさに絶好の機会だった。
テルはまばたきを二、三度くりかえす。そしてすぐに下を向いた。セキは、ウォロを探すか聞いたことに後悔はないが、想い人の顔を曇らせたがるような悪趣味も持ち合わせていない。
「いや、あんたが
……
望むなら、だが」
珍しく歯切れの悪い言葉を紡いだ。
「ウォロさんのことですよね」
改まって確認をされ、セキは静かにうなずいた。テルは下唇を噛んだままでしばらく黙っていたが、ようやく手を動かし、ポケットからアルセウスフォンと呼ばれるものを取り出す。その中で地図を広げると、ヒスイ全土の複数箇所に星のマークがついていた。
「それは?」
「
……
調査の合間をぬって、ウォロさんの行きそうな場所を巡っていました」
テルの人差し指は、星のマークを一つ押し、消した。そこはコンゴウ団の集落のそばで、人が隠れるには不向きな、野生のポケモンの多く住まう場所だった。さっきポニータが覗いていたような平和な土地では到底ない。まさか、今日コンゴウ団に立ち寄るまえにこんなところまで見に行っていたとは。今度はセキが唇を噛む番だった。
「でもやっぱり痕跡すらなくて
……
焚き火も、足跡も、匂いもないんです。だからもうこのヒスイにはいないのかもしれない」
残りわずかな星の数を、惜しむようにテルは親指で撫でた。少しだけ伸びた髪が、風に揺れている。まだあどけない印象を残す頬と大きな瞳に、アルセウスフォンから反射する光が映っていた。白んだライトの反射は、人を少し病的に見せる。そのままテルが、光を見つめっぱなしになって動かなくなるような気がした。セキはその思考を振り切るように、腕を伸ばす。
「じゃあよ、」
セキは画面に、自分の人差し指を垂直にたてる。まっすぐで、しかし節のある指は、地図の中央と左側をぐるりと囲んだ。
「オレはこっちな」
「セキさん?」
「テルは逆側」
指をずらして、右側の地図をなぞる。星のマークは左よりもわずかに少ない。
「それでいいか?」
気づけば近い距離にいたテルに、うまく笑えただろうか。心臓はひとつだけ高鳴ったが、聞かれはしなかっただろうか。
テルは沈んでいた顔を上げて、こっちを見た。セキがずっと見たいと思っていた晴れやかな顔に、久しぶりにお目見えする。だからまたひとつ、心臓の鼓動が強く鳴った。二人でアルセウスフォンを覗き込んでいたせいで、顔の距離は今まで過ごした中でいちばん近い。
見間違いでなければ、テルの顔が赤い。今はもう、さっきのような燃える夕日の中にいるわけではないから、赤いのはテルの体温の上昇だとわかる。
「す、みません、近くて」
すぐに互いに顔を背けた。それが少しだけ残念だと思ったのは、自分だけではないといいと思いながら。
「じゃ、じゃあ、セキさん、協力してくれるんですか?」
テルは気を取り直したのか、体ひとつ分離れた位置へ下がり、ふたたび顔を合わせてくる。セキもすぐに気持ちを切り替えて、すっかりいつもの表情に戻った。
「応。まあコンゴウ団のこともやりながらだから、あんたが調べるのよりも遅くなっちまうかもしれねえが」
「いえ、一人よりずっといいです」
テルはそう言うと、ようやくほころんだ笑顔を見せた。肩の力も抜けたのか、姿勢がどことなく丸くなる。
しかしセキは「一人」という言葉にちくりと胸が痛んだ。本当は「独り」の間違いではないのかと。これからはそうはさせないように、と心の中で自分を叱咤し、わざと明るい声を出す。
「ずいぶん肩ひじ張ってたんじゃねえか、もっと頼っていいんだぜ」
「はい、そうですよね。なんでだろう、自分だけでやらなきゃと思い込んでて」
「まあ
……
全ての元凶でしたってやつ探しています、とはおおっぴらには言えねえよな」
できるだけ下心のないように、肩を叩いてやった。テルも今度は驚くことなく、受け入れている。
「
……
ウォロさんに会ったら、図鑑を見てもらいたいんです」
ぽつりと話し出す少年は、まだ背筋こそ自信がなさそうにしてはいるが、声に込める決意は固い。
「ただ、それだけでいいんです」
口をゆるめ、力なく笑った。言葉通り、それだけでいいと思っているのがわかる。セキはうなずくと、頭を撫でてやった。テルのやわらかい髪質が指に絡んだ。たった一本だけ、セキの指にまとわりついてなかなか離れない。
この一本のように、自分の気持ちがほんのわずかだけでもこの少年の心を掴んでいたら。そう考え、みっともなくてすぐに手を離した。そんなことを考えるのは、ウォロを探し終えてからでいい。いや、下手をすれば一生言わないまま、墓の下へ持っていくという手段もある。
セキは絶対に、テルの足枷のような存在になるつもりはない。まだテルが、元の世界へ帰れるか期待をしているうちは。
◇
秋の終わりは存外すぐにやってきた。セキはいつもの羽織の中に上に、冬支度を整える。
この土地では毛皮が貴重だ。代々縫いなおしながら使ってきた重い外套にそでを通し、セキは「行ってくる」とヨネにあとを頼んだ。
「今日はどこら辺に?」
「原野だ。ついでにコトブキムラにも足を伸ばすかな」
「じゃあ三、四日は帰らないと」
「
……
そういうことになるな」
ヨネは座りながら片膝をたてた。ひじを乗せて、頬杖をつく。まったく女らしいという動作ではないが、ヨネにはそれが妙に合った。
「セキ、熱を上げているよね」
「
…………
な、んのことだよ」
「いや、弟がそんなふうに誰かを想うなんてさ」
幼いころから、ずっとそばでセキを見てきたヨネが、喉奥からおかしさを堪えきれずに笑っている。
「気づいてんのはあたしとツバキ、それからカイくらいだ、もちろん黙っておくよ」
ヨネは茶目っ気たっぷりに片目まぶたを閉じる。セキは額に手を当てて、姉の言うことを鵜呑みにしていいものかどうか一瞬悩んだ。悩んだが、すぐにそれは消えた。ヨネは正直な女で、いらない嘘はつかない。
「ツバキが言いふらしてねえのが殊勝だな」
そう言って、セキはあの弟分が吹聴する姿を想像する。いや、吹聴というより、「アニキがあいつとだなんて」とかぶつくさ大きな独り言をしゃべり出して周りに聞こえてしまう、と言う方が正しい。
「あの子も大人になったってことさ。
……
で、セキ、英雄を相手にどこまで真面目に考えているんだい?」
「
……
オレの気持ちはこの先、変わることはねえ」
ヨネは驚いた顔をする。
「なるほど、本気なんだね」
「困っていたら、なにがなんでも助けてやりてえって思うくらいにはな」
セキは本来お人好しな面がある。困っていたら助ける、くらいのことは、どんな人間のまえでもやりのけるが、なんでも助けるわけではない。相手のためならば、忠告だけをして見守ることも多い。セキの今のこれを、ヨネは明らかにコンゴウ団と調査隊の枠を超えている、と言いたいんだろう。
けれど、
「力になってやれるうちは、たくさんなってやんなよ」
気持ちを汲んでくれたのか、はたまたテルの心情を思ったのか、ヨネは最後に一言残す。セキは「応」とこたえ、場を離れた。乾いた地面を蹴りながら、もうすぐ雪で覆われる大地を想像する。
(寒ぃし、食料調達がしづらいから、捜索がますますできなくなるな)
湿地帯は大雪になるよりも、冷えで凍ることが多い。しばらくは北風が吹いて辛い季節になる。ヒスイ地方は自分たちの先祖が住んでいた海向こうの地域よりはるかに寒さが強い。今着ている外套も、大慌てで作ったんだろう。
(後世に残す、か)
セキは、少年がいつもポーチと一緒に抱えていた図鑑を思い出す。ポケモン図鑑が完成して、それは後の人のために残すための大切な資料になった。今はさらに深い理解のために、新たな別の課題を設けた図鑑を作っているそうだ。
飽くなき探究、好奇心、挑戦。それはラベン博士の良いところだし、そこに共感したテルやショウが日々楽しそうに動いているのは、見ていて気持ちがいい。
あの楽しさが、後の世に伝わればいいと思う。だから苦しいことも、悲しいことも、代わりに一手に引き受けてやりたい。いつかもし「元の世界へ帰る」と少年が決めるとき、笑って帰ってもらいたい。
(
……
だからオレは、テルに想いを言えねえんだろうな)
きっとセキが「好きだ」と言えば、応えられない辛さをわずかでも感じさせる。アルセウスの本体が、またいつふらりと現れて、ふたたびテルに時空を超えさせるかもしれないのだから。
テルはやさしい。テルはこの世界へ残す自分たちのことを、余すことなく情をかけようとしてくれる。それがときどき、セキには残酷に見えた。
(あいつには、あいつ自身のことだけを考えてもらいてえ)
それがたとえ、ウォロとの辛いことを思い出すものだとしても。テルの心の突っかかりが取れてこの先、笑っていられるのならば。
セキの頭に雨が当たった。いつもは絹糸のような細い雨が降るこの時期、これだけ粒の大きい雨が降るのはなかなかない。にわか雨になるか、長引くか。セキは思いの外、鈍重に地にとどまっていた足をむりやり動かして、先に進んだ。
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