botanin5
2024-11-14 03:08:52
7785文字
Public 薬さに♀(小説)
 

さよならシャーマナイト

大将組サンドです。
最後がやりたくて書きました。






ついに待ち望んだ時を迎え、長いようで短かった修行が終わった。考えることや学ぶことは多くあったし、かなり充実していたというのに、本丸では四日しか時が経っていないのかと思うと不思議な気分だ。かなり強くなれたと実感しているし、なんだか生まれ変わったような気さえする。初期刀にも、近侍にも、いち兄にも、そして自分と同じ熱を目の奥に宿すライバルにも、決して負けない、大将を守るに値する力を手にできたと思う。決めていた通り自分を修行に出してくれたことに、改めてお礼を言いたかった。
それに、大将の顔が早く見たい。早く会いたい。早くこの手で抱きしめたい。

そっと潜戸を開けて門の中に入る。嬉しそうに待ち構えていたのは、いち兄と信濃だった。

「よく帰ってきたね」
「おっかえり~!」
「ただいま。いち兄と、信濃だけか?」
「みんな今夜のおかえりなさい飲み会の準備で忙しいし、大将はいつも通り長谷部さんとお仕事してるよ!なに~俺たちだけじゃ不満?」
「そんなことねぇよ、ありがとな信濃。っても、最初の平野が修行にでるときは大将泣いてたのに、慣れちまったもんだなぁ」
「そんなことはないんじゃないかな。執務室で長谷部殿に何度も『あと何日だっけ』と話しかけているのを見かけたから。此度の修行も、主は寂しがっているよ」
「いち兄は分かってないなぁ!目の前で寂しそうにしてくれた方が嬉しいに決まってるじゃん!でしょ?」
「そりゃな」

くすくす笑う信濃を小突いて、荷物を抱え直して玄関へと向かう。信濃にも荷物を運ぶのを手伝わせようとしたのに、任務があるから行けなーいと断られた。言い方がどうにかならないいんだろうか、こいつは。

「俺は焼き芋見なきゃいけないからね」
「へぇ、また焼いてんのか?」
「サツマイモの残りも、もう少しだからね俺は番してるだけだけど。欲しいなら持ってく?そろそろ食べごろだよ」
「あー今はいい。早く大将の顔見てぇし」
「ほんと大将のこと好きだよね俺も好きだけど」

呆れたような信濃にお互い様だなと笑って別れると、いち兄も台所を手伝うからと行ってしまった。本丸の中へ入り廊下を進んで行けば、前田と秋田が忙しなく何かを運んで行くのを見かけた。今夜振る舞われる酒だろう。あとで声をかければいいかと諦めれば、汗だくの乱が廊下の角を曲がるのが見えた。修行から帰った乱は、暇さえあれば手合せをしているように思う。また平野に挑んでいたのだろうか。

「乱!帰ったぜ」
「あっおかえり~!お土産買ってきた!?」
「ほら、これ」
「やった~!ボクこのお菓子だいすき!お土産はボクが広間に運んでおくから、主さんのところ行ってきなよ!」
「お、助かる」

乱に土産が入った紙袋をいくつも預け、再び廊下を進む。みんな台所へ集まっているのか、あまり刀剣男士に遭遇しないのが不思議な気分だった。鶯丸と三日月は、相変わらず縁側に座ってお茶を飲んでいたが。二人にも帰還の挨拶をし、角を曲がったところで目下のライバルが顔を見せた。

「薬研」
「おう」

真っ直ぐなまなざし、男らしさの中に持ち合わせている気品というのだろうか。他の兄弟とは違って、こいつには負けたくないと思う。互いに大将のことを譲る気は毛頭ないのだ。この四日、自分がいない間に何か起こっていないか、大将にちょっかい出してないだろうなと不安に思った事は数知れない。どうしたらいい。どうすれば、先に大将を手に入れることができる?

「そういえば、今日は歌仙がちらし寿司にするって言ってたぜ」
「おっ美味そうだな」
「みんな腕によりをかけて作ってるからな。修行に出たやつが帰るたび豪勢なもんだよな」
「作るのが楽しみでもあるんじゃねぇの」

そうかもな、なんて笑い合ってから、廊下を後にする。せっかく帰ってきたのに、ここまで随分と時間がかかってしまった。早く大将の顔が見たい。おかえりと笑ってほしい。さっさと荷物を部屋に放ると、急いで大将の部屋へと向かった。

障子を開けることに、少し緊張する。大将を守れるくらい強い力を手に入れた。もう、子ども扱いはさせない。短刀とみればみんな子どもだというように扱ってくることに、歯がゆい思いをしてきたのだ。落ち着いて、成長したところを見せなくては。障子の縁をコンコンとノックする。

「ただいま、帰ったぜ」
「!おかえり!!」

勢いよく障子が開くと、待っていたと言わんばかりにキラキラとした目をこちらに向ける大将に、胸の奥が熱くなっていく。ようやく、帰ってきたんだということを実感できた気がした。俺の大将は、あんたなんだ。

「また焼き芋食ってたのか?大将」
「だって美味しくて!みんな焼くの上手だよね、厚も薬研もさそれに秋田まで!一期に習ってるの?」
「いや、鳴狐に習ったぜ」
「え~!!鳴狐が上手だったんだいつも焼き芋を持ってきてくれるのは短刀たちだったから、知らなかった

くるくると変わる表情が可愛らしい。やっぱり、大将の事が好きだ。好きだ好きだ好きだ。修行で離れてみて、尚更思いは増して行いった。主として立てるべきであるという思いに反して、自分のものにしたい、その手を掴んで組み敷きたいという気持ちが渦巻いていく。

「あ、そうだ、焼き芋もう一つあるんだけど、長谷部は別の仕事しに行っててちょっと冷めてるかもだけど、食べる?」
「いや
「え、なになに?」

そっと大将の手を握った。手を引く力は弱くて、抵抗する気があるのかと疑いたくなる。修行前と変わらない、細くて弱い腕が目に入り、ぞわりと背中が粟立つ。誰にも、取られないためには。

「は、離そうよ」
「いやだ」
「ほんと意外と手、大きいよね厚に掴まれた時、全然振りほどけなくてびっくりしたけど、薬研も力強いから振りほどけないし私、秋田くんにも腕相撲とか負けちゃうかな!」

あはは、と笑う大将を見て、ぎり、と手に力が入った。振りほどけない?俺のいない間に、なにかあったのか。ほんのりと耳が赤く染まったのを見逃すことはできなかった。

「大将は俺が守るから、別に弱くてもいいぜ」
「えっ、そういうわけにはいかないでしょ、この本丸の主としてもっと力付けなきゃみんなも、そんな私を支えるために修行に出てくれたんでしょ?だったら私も鍛えなきゃ。『俺も鍛えてきたんだからもっとちゃんとしろ~』くらい言われるかと思ったのに、どうかしたの?」

不思議そうにした大将は、修行先でなにかあったの?と空いた手で頭を撫でてくる。

ダメだと思った。
大将にとっては、修行を終えてきたとか、強さとか、そんなの関係ないんだ。

「大将、もう待てねぇよ」
「え?」

きょとんとこちらを見る大将を無視して、目を瞑る。あいつは、怒るだろうな。殴られるだけじゃ済まないだろう。いち兄も、他の刀剣たちも、きっと俺の事を許さない。それでもいいかと思ってしまうのは、浮かばれずに身の奥で捏ね回されてきた恋情と言えるかも分からぬそれが、修行によってまともにもなれず歪んで深く刻まれてしまったからか。

目を開けて大将の顔を覗き込めば、明らかに動揺しているのが分かる。先ほどより強い力で俺に握られた手を振りほどこうとしているが、さらなる力を身に宿した今となっては、何の抵抗にもなっていない。

「俺と一緒に行こう、大将」
「え?どこに?もうすぐ、晩御飯の時間だよ?今日はみんなが美味しいご飯を用意してくれてるし、それに」
「大将」

視線が合う。どちらも何も言わなくて、部屋が静寂に包まれる。




騒がれる前に眠らせた大将を担いで、そっと部屋を出る。旅道具を持ってくればよかったかと思ったが、このまま廊下をうろついて誰かに見つかる方がまずい。まぁ、荷物はなんとかなるだろう。長谷部がここに戻ってくるかもしれないし、夕飯の準備ができたと誰かが迎えに来るかもしれない。迷っている余裕は、ない。

そっと足早に門へと向かう。誰とも会わずに上手く出られそうだ。出陣の時に使う装置に、審神者のみが持つキーを差し込む。向かう時代を、今より未来へと設定する。時間遡行しか許されていない自分たちにとって、未来へ行くことは禁忌だ。この先へ行ってどうしようとも考えていないが、今を離れることしか考えていなかった。自分がこんなに我儘なことをするなんて、思いもよらない。どうしようもない衝動が、今の自分を突き動かしている。

ゲートに座り込んで、大将の体をそっと抱きしめる。転送がはじまり、周りがほんのりと光りはじめる。少しの不安と恐怖に似た感情があったが、それ以上に大将が自分の手の中に居ることに安心を覚えた。ぎゅっと頭を撫でると、眠る大将がそっと身動ぎする。頬に手を添えた。ごめん。ごめんな大将。でも、あんたを手放せそうにないんだ。そっと閉じていた目が開いて、ぼんやりとこちらを見つめる大将は、すこし不思議そうに、小さく優しく問いかけた。




「どうして泣いてるの、薬研」












「厚、ぼーっとしてないで。ボク寒くて手出したくないから、障子開けて」
「分かったよ。静かだなぁ、大将寝てるのか?乱、一緒にここ来るより、手分けして薬研を部屋に呼びに行った方が良かったんじゃないか?」
「言われてみればでも、ボクも主さん呼びたかったんだもーん」
「分かった分かったっと、あれ?誰もいない」
「え?でも、長谷部さんが主はまだ執務室にいるって
「焼き芋、一つ残ってる」
ボク、みんなに声かけて他の場所を探してくる!」


どこ行ったんだよ、大将」