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botanin5
2024-11-14 03:08:52
7785文字
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薬さに♀(小説)
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さよならシャーマナイト
大将組サンドです。
最後がやりたくて書きました。
1
2
「厚~葉っぱ集めて何やってるの?」
「信濃。焼き芋してんだ、寒いし大将に持って行こうと思って」
「え、いいな。俺にもちょうだい」
「はいよ、もうちょっとで焼けるからさ」
普段から巻いているマフラーの他に、手袋と毛糸の帽子という完全な防寒装備をした信濃が俺の隣にしゃがみこむ。
まだ少し雪が積もっている本丸は寒い。ほう、と吐く息は白く濁っている。かじかむ手を温めながらふと目に入った鍛練場では、最近修行から帰ってきたばかりの乱が平野と刀を持たずに手合せをしているようだった。
ひらりとスカートが舞い、しなやかに振り上げられた乱の足が平野の頭部を狙う。軽く後ろへと避けた平野は、向けられた足を瞬時に掴んで、いなしながら自らの足を乱の軸足に引っかけてくるりと転がしてしまった。この本丸で一番先に修行へと出た平野には、まだ追い付けない。悔しがっている様子の乱の声が遠く聞こえてくる。
「どうしたの?ぼ~っとして」
「んー
…
俺も早く修行に出たいなって思ってさ」
「厚はまだ良いよ、修行先が準備されてるんだからさ~。薬研が帰ってきたら次は行くって、大将と約束してるんでしょ?」
「
…
早く、強くなって俺だけでも大将を守れるようになりてぇ」
「贅沢だなぁ。俺だって大将のこと守りたいし、独り占めしないでよ」
そんなことを言いながら信濃はぷくっと頬を膨らませる。大将はこいつのこういう所が気に入っているのだろう。「も~信濃かわいい~~!」と目じりをこれでもかと下げながら信濃の頭を撫でる大将を思い出す。自分はどちらかと言えば撫でられるよりも大将を撫でたい
…
甘やかしたいと思っているため、羨ましくはない。たぶん。
燻ってきた落ち葉を避けて、アルミホイルに包んであるサツマイモを火バサミでつつく。もう少しでいい具合に焼けそうだ。たしか大将はこれにバターを乗せるのが好きだったはずだから、冷蔵庫から拝借してこよう。この前も、たっぷりバターを乗せて「背徳的な味
…
」と幸せそうに呟いていた。
信濃に焼き芋を頼んで、台所へと向かう。平野と乱の手合せはまだ続いてるようだった。じりじりと募る焦燥感にそっと目を瞑る。練度が上限へ到達し、そろそろ大将に見合う男になれただろうかと様子を窺っていたところで、さらなる力の解放ときた。まだまだ先は長いのかとため息がこぼれる。
大将の隣は誰にも譲りたくなかった。信濃にも、いち兄にも。初期刀の加州にも、近侍の長谷部にも
……
薬研にも。以前は申し出た者が近侍を務めていたのだが、薬研と自分の間でどちらが多く日数を取るかで揉めてしまい、怒ったいち兄によって最終的に長谷部が固定の近侍となってしまった。ぐっと拳に力がこもる。極への修行も、どちらが先に行くのかで揉めてしまった。その時の出陣で多く誉を取った方にすると言われ、一つ差で負けてしまった。薬研には、他の兄弟に対してより強く対抗心を燃やしてしまう。それは、大将を見る薬研の目が、自分と同じ熱を持つことに気づいたからだった。
「はぁ~っ、焦ってもしょうがないよな」
がりがりと頭を掻きながら台所へ訪れると、今日の食事当番たちが慌しく準備をしていた。大人数の飲み会はいつも大変なのだから、こういうときは余所に料理を頼めばいいのにと思うのだが、以前そう歌仙に述べたら「こういうときこそ、僕らの手料理がいいんだよ」と嬉しそうに微笑まれた。
歌仙に声をかけ、冷蔵庫に入っているバターを小皿に移し、スプーンを持って台所を出る。この寒さなら、大将の部屋に着くまで溶けずに保つだろう。
「信濃、焼き芋できたか?」
「できてるよ~すごく美味しい!」
「もう食ったのか
…
」
信濃はもぐもぐと口を動かしながら、熱いアルミホイルの上から新聞紙を巻いた焼き芋を手渡してくる。持ってきたバターを少し分け与え、焼き芋を二つ抱えて大将の元へと向う。休憩には丁度良い頃合いだろう。いつもより静かな執務室をそっと覗けば、大将は一人で書類仕事をしているようだった。長谷部は、刀装部屋だろうか。
「大将」
「ん?あ、厚!
…
いい匂いがするけど、もしやそれは!」
「焼き芋、できたから持ってきたんだ。バターもあるぜ」
「嬉しい~!さすが厚、バターも持ってきてくれるとは、分かってる!」
嬉しそうな大将につられて、こちらも頬が緩む。大将の笑う顔が好きだ。先ほどまでの焦っていた気持ちがすっと無くなっていく。新聞紙とアルミホイルを開いて、わくわくした顔で焼き芋にバターを乗せた大将の手をぎゅっと掴んだ。
「どうしたの?」
「次、修行に行くのは俺だよな」
「そうだよ、約束したじゃん」
「大将のこと
…
守れるように、強くなって帰ってくるから」
「厚は今でも十分強いよ」
「まだ足りねぇよ!」
きょとんとした大将が、ふっと笑って空いた手で俺の頭を撫でた。
「その気持ちだけでも嬉しいんだけどなぁ。きっと厚は満足してないんだね。待ってるから、無事に帰って来てね。もっと強くなった厚、楽しみにしてるからさ」
「
…
撫でるなよ
…
子ども扱いはやめろって」
「薬研と喧嘩しちゃううちは、まだまだ子どもかな~?」
「あれは兄弟喧嘩とかじゃねぇんだよ。男と男の勝負ってやつ」
「あはは、なにそれ」
まだまだ、大将にとって俺は子どもか。太刀や打刀とは違う短刀の体であることが少しもどかしい。掴んでいた手を離し、大将の手のひらに自分の手を沿わせて指を絡めてぎゅっと握りしめた。驚いたのか、少し肩を揺らした大将が手を引こうとするが、そんな弱い力で手が外れるわけない。
「あ
…
厚、思ったより、手、大きいね」
「大将よりは大きいな」
「えーと、そろそろ離そう?焼き芋、冷めちゃう」
「もうちょっとだけ、だめか?」
「だっだめ!」
残念だったけど、大将の耳がほんのり赤く染まっているのを見つけて、少し満たされた気持ちになった。こちらと視線を合わさないように、もぐもぐと焼き芋を頬張る大将はかわいい。美味しいと顔が緩んだのを確認して、俺はそっと立ち上がった。
「あれ?厚は食べないの?」
「俺の芋はあっちにあるんだ。それは長谷部の分」
「そうだったんだ!長谷部は資材の在庫を調べに行ってくれてるから
…
冷めちゃうかも」
「大将が二個食べてもいいぜ」
「い、いや
…
それはさすがに
…
」
そう言いつつも、焼き芋から目を離さない大将に笑ってから部屋を出た。なんだか寒さを感じない、とてもいい気分だ。庭へ戻ってくれば、信濃が後片付けを始めてくれていた。
「あ、お帰り~。これ、焼き芋」
「ありがとな。あっしまった、大将の部屋にバター置いてきちまった」
「バターなくても美味しいよ、甘くて。じゃ、俺この新聞紙捨てたら台所手伝ってくるよ」
「おう、俺も食べたら行く」
信濃の背中を見送って、鍛練場へ視線を向けたが、平野と乱はもう手合せを終えたようでいなかった。
台所へ向かうために廊下を歩いていれば、向かいから薬研が歩いてくるのが見えた。もう帰って来てたのか。修行を終えた薬研の表情は自信に満ち溢れていて、とても頼もしい顔つきになっている。
「おかえり。大将の所に行くのか?」
「あぁ、荷物を置いたら行ってくる。修行の話はあとで聞かせてやるよ」
「おう、楽しみにしてるぜ。そういえば、今日は
――――
」
軽く言葉を交わしてから、廊下を進む薬研の背中を見送る。修行前からその立ち振る舞いには力強さがあったが、確実に身に纏う雰囲気が変わっている。先ほどなりを潜めた焦燥感が再び頭をもたげるのを感じた。
俺も早く修行へ出たい。
先ほど大将と繋いだ自分の手を見る。この手が、ちゃんと大将を守れるように。他の誰でもなく、自分が守れるようになるんだ。
台所へ行くと、いつの間にか入り込んだ虎におどろいた日本号が、汁物料理をひっくり返したらしく大惨事となっていた。汁をかぶってしまった日本号と五虎退、それから虎を風呂場へ押し込んで、もう一度料理を作り直すと言う歌仙を手伝っていたら、予定よりかなり時間が押してしまった。
「乱、俺は大将を呼びに行ってくるけど、お前どうする?」
「ん~じゃあ、ボクも行こうかなぁ
…
薬研も呼びに行かないとね、今日の主役だし
…
聞きたい話もいっぱいあるし!」
二人で話しながら廊下を進む。辺りはすっかり真っ暗だ。これでも、日は長くなってきたと思う。
「寒いなぁ!ボク上着持って来ればよかった」
「すぐ広間に戻るんだから、我慢しろって」
「はぁい」
不満げに頬を膨らませる乱の様子が、昼間の信濃とそっくりで思わず笑ってしまう。サツマイモはあと数回焼いたら終わりだろうか。春が来るのが楽しみだ。桜が咲いたら、大将と花見でもしたい。兄弟をみんな誘ってもいいし、二人でもいい。修行を終えれば、もっと自分に自信をもって大将に攻め入ることができるだろうか。
「厚、ぼーっとしてないで。ボク寒くて手出したくないから、障子開けて」
「分かったよ。静かだなぁ、大将寝てるのか?乱、一緒にここ来るより、手分けして薬研を部屋に呼びに行った方が良かったんじゃないか?」
「言われてみれば」
でもボクも主さん呼びたかったんだもーんと笑う乱に笑い返して、居眠りしているであろう大将の部屋の障子を開けたのだった。
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