京都校との交流会は、二日目はまさかの野球対決になり東京校の勝利に収まった。球技大会なんて何年ぶりだろうと思いつつ、この時だけごく普通の高校生を楽しんだ気がした。
というのも、何を思ったのか五条先生が作ったくじ引きがそういったスポーツしか入っておらず、虎杖君が引いたくじが野球だったのだ。後で夜蛾学長たちに怒られていた。
京都校の先輩達が京都へ帰り、五条先生と約束した土曜日の休日になった。
普段の格好でいいよ、とラインで送られてきた。
任務と言っていたから制服のままでいいだろうか。また怖い呪霊と遭遇するのか、と不安になりながら女子寮を出て、待ち合わせ場所へと向かった。
着いた場所は某区内の大きなゲームセンターの前だった。
しばらく待っていると、何か人が集まっている。何だと覗き込んで見ると、意外な光景だった。
白い髪をした長身の人が、女性達に囲まれていた。
何かどこかで見たことがあるような、ないような。そう思いつつ他人事のように元来た道を戻ろうとしたとき、その人から声をかけられた。
「ちょっと待って!
沙奈、助けてくれない?」
「え? 私ですか?」
「そーそー」
そう言ってその人は私に近づくなり、肩を抱く。まるで恋人のように。
「ごめんだけど、彼女いるから。またねー」
そう言って私の手を取って、ゲーセンの前まで歩いて行く。
背後から女性の黄色い声が響いていた。
手を繋がったままゲーセンの前でピタリとその人は止まった。
「はぁ
……まるで本当に学生時代に戻った気分だよ」
「あ、あの
……」
「ああ、ごめん! 時間遅れてごめんね、何度も断ってるんだけどあいつら五月蠅くてさ」
そう言って長身の人がフレンドリーに言う。私は首をかしげる。私はこの人を知らないけど、この人は私を知っているようだ。
じっと見つめていると、視線に気づいたのかその人も私を見る。
「
……もしかして、気づいてない?」
「え?」
「まぁ、無理もないかな」
そう言ってサングラスを外して、ポケットからアイマスクを取り出して目元に付ける。すると、普段見かける五条先生がそこにいた。
「え
……! ええ?!」
「やあ! やっと僕って気づいたね。すぐにばれると思ってたんだけどなー」
「ご、五条せ、せせせ
……?!」
「しー
……今はこの姿だし、いつどこで悠仁たちに見つかるかヒヤヒヤするからさ。今だけ〝五条君〟でよろしくね」
「え、あの
……特別任務って?」
どこかに潜入でもするのだろうか。それに着ている服は普段の紺一色ではなく、まるで虎杖君や伏黒君たち男子が着ている呪術高専の制服のようにも見えた。
彼は再びアイマスクを取り出し、サングラスをかけ直す。
「それはこれから。じゃ、行こうか
……ゲーセンは行ったことある?」
「小さい頃に、家族でUFOキャッチャーやったくらい」
「そっか。じゃ、メダルゲームとかやってみよっか」
「へ?」
しゅっぱーつ! と五条先生
――ではなく、五条君は私の手を引っ張って例のゲーセンの中に入っていく。私は流れるままにゲーセンの中に連れて行かれるしかなかった。
ゲーセンにはUFOキャッチャーを初め、様々なゲームが沢山あった。中には格闘ゲームなどの対戦ゲームもあって、私は初めてで五条先生に教えてもらいつつ対戦した。
初めての体験ばかりでとても楽しかった。かわいいぬいぐるみもあったりして、五条先生が必死に取ってくれたりしていた。
(まるで、デートしてるみたい
……)
なぜ先生がこんなことしてるのか分からないけど、少しだけ嬉しかった。それがたとえ、何かの調査や討祓任務だったとしても。その連れとして私を選んでくれたのも嬉しい。
オンラインで対戦している五条先生を後ろで見守りつつ応援する。すると、最高記録を達成したらしく、「ウッシャー!」とまるで高校生のように叫んでいてちょっと可笑しくて笑ってしまう。
一通りゲームで遊び尽くすと、少し休憩する。
「いやー、懐かしいわ。今のゲーセンってそんな変わってないねー」
「あの、五条、君?」
「なーにー?」
「特別任務って結局
……」
「ん、そうだね。数年ぶりのゲーセンで感動して説明するの忘れてた。実はこの姿、僕が高専時代に着てた制服でっす! どう、似合うっしょ?」
「え?! 高校生でそんな背高かったんですか?!」
「え、驚くところそこ?」
くく、と腹抱えて笑う男子高校生の振りした担任。
呪術高専の制服はある程度アレンジは効くらしく、各々の好みにデザインされている。先生の場合は意外とスッキリした制服だった。当時は相当真面目な人だったのだと思う。それから今に至るまでにどうしたらそんな自由奔放な人になったのかちょっと気になったのは別の話。
「まぁ身長はそう変わってないね。だから着られるかどうか少しだけ不安だったけど、何とか着られてよかった。あと、学生の時の僕は全然悪ガキだったからねー」
今度硝子にでも聞いてみな? と自動販売機で買ってきたメロンソーダを飲む。私も奢ってくれたジュースを一口飲む。
「高校生の時はよくゲーセンに行ってたんですか?」
「んー、たまにかな。当時の同級生がゲーセンに連れてってくれたことがあってさ。あー前に言ったっけ? 僕は御三家の一つの五条家の嫡男。つまり呪術界の名門の生まれ。だから大事に育てられてきてさー。高専でやっと外の世界に踏み込んだんだよね。そしたら全然知らない世界が毎日待ってんの。その時にゲーセンも知って楽しかった」
「その同級生の人って、高専にいるんですか?」
「硝子が同級生。あともう一人男の同級生がいたんだけど
……もういないんだ」
そう言った彼はどこか懐かしむようなそれでいて悲しそうな笑みを浮かべていた。多分、そのいなくなった同級生さんに教えてもらったんだと察した。
ゲーセンは毎日通いたいほどだったけど、入学したときにはすでに一級に上がっていたこともあり任務がてんこ盛りだったせいで、そんなに遊ぶことも出来なかったという。
(やっぱり五条先生ってすごいんだ
……)
そりゃあ現代最強の呪術師というだけある。
「
沙奈、ちょっと待ってて」
飲み終えたらしい五条先生は缶をゴミ箱に捨てると、エレベーターの前にある掲示板に向かう。何かを探しているようだが、すぐにこちらに戻ってきた。
「それ飲んだら上の階に行こう」
「上? 何か遊びたいゲームがあるんですか?」
ここのゲーセンはチェーン店らしく、その本店のようだった。そのため、古いものから新しいものまで様々なゲームが設置されているようだ。このビル内全てがゲーセンであり、その階によってジャンルが分かれているようだ。ある階はUFOキャッチャーなどファミリー層でも楽しめるもの、ある階ではメダルのみで遊ぶコーナー、今いるところは対戦ゲーム中心に置いてあった。
「ま、お楽しみに」
そう言ってにっこりと笑う五条先生。私は、あまり待たせないように少し早めにジュースを飲む。
準備が整うとエレベーターで上の階に向かう。着いた先は先ほどいた雰囲気とは違って、どちらかというと女性が好みそうなフロアに仕上がっていた。
「えーっと、確か変わってなければ
……――」
五条先生はキョロキョロとフロア内を見渡しながら歩いて行く。私はただ彼について行くだけだ。
見つけた、と彼が呟くのを聞くと目の前にはプリクラのコーナーだった。
いくつかのプリクラの機械が設置されており、一部の人はカップルだったり、友達だったりが仲良く機械の前でプリクラを撮っている姿が見えた。
「んーよく分かんないけど、これでいいか。さ、中に入って入って」
「えっ、ちょっと
……?!」
私は五条先生に背中を押されながら、プリクラの機械の中に入る。そして、隣に先生も入ってくる。先生が小銭を入れると、アナウンスが案内される。
「プリクラって知ってる?」
「まぁ、存在くらいは」
「昔はすげぇ流行ってたんだよねー。今はそれほどじゃないみたいだけど。男女のカップルがよく並んでいたのを思い出すよ」
そう言ってどのフレームがいい、と私に尋ねる彼。私はさっきの言葉に何か引っかかっており、曖昧に答える。
「
……言っておくけど、女子と二人でプリクラするの、
沙奈が初めてだから」
「
……え?」
「昔は硝子とさっき言った同級生の奴とか、後輩とかも一緒に撮ったくらい。最近じゃ、京都校の子にも写真撮りたいっていうから撮らせてあげたけど、ちゃんとした場所で撮ったのはこれが初めて」
お、なんか色々加工とか出来るらしいね、と彼が楽しそうに言う。
準備が整うと、彼がこっちを見て言う。
「ちゃんとあっち見て笑って」
「急にそう言われても
……!」
「えー、変な顔でも別に僕は構わないけど。そのプリクラ僕の宝物にしちゃおー」
「ええ?! それは困ります!」
「ほら、もうカウントダウン始まってるよ。いつも通りに笑って笑って!」
三、二、一、とアナウンスが言うとフラッシュが出る。そして撮った様子を画面で教えてくれる。
先生はきっちり笑って決まっているにも関わらず、私はフラッシュの光で目を閉じてしまっている。
先生はあははは、と腹を抱えて笑う。
「いやごめんごめん、何か当時の僕みたい。僕もプリクラって知らなかったからフラッシュの光で目を閉じちゃったんだよね、すると硝子と同級生がさ必死に笑い堪えてんの。明らかに僕だけ変な顔してて、恥ずかしかったー」
「うう
……初めてだから分からなかったんですぅ」
噂には聞いたことがある。ただ、実際に体験したのはこれが初めてだった。撮り直しも出来るようで、どうする? と先生が尋ねると私は次はちゃんとやりますよ、となぜかやる気が出てきていた。
もう一度やり直すボタンを押して、またカウントダウンが始まる。
「次はちゃんとやろうね
……僕もちゃんとやる」
「え、あ
……はい」
急に真面目な声で言うから一瞬ドキッとしつつ、頷いた。そして五条先生はサングラスをスッと外して、素顔を晒す。
一、とカウントされると同時に私の肩に何かが乗り、ぐいっと先生の方へくっついた。
先生が私の肩を引き寄せて、自分の頬の近くにはピースを作っている。
私は驚きつつも、楽しいときのことを思い出しながら笑顔を作る。
そしてフラッシュが上がり、画面にはまるで恋人のような男女がそこに写っていた。
「うん、いいじゃん」
「先生! いきなり何するんですか!」
「先生は禁止って言ってるでしょー。この方が恋人っぽいと思って」
「それは
……えっと」
「三輪とは何の関係もないよ」
「え?」
「野薔薇から聞いた。三輪に頼まれて写メ撮ってたところ、見てたんでしょ。でも、アイマスクをしたままだから、ちゃんとは撮ってないよ」
アナウンスがプリクラができあがるまでお待ちください、と流れて私たちはしばらく待っていた。
アナウンスがお疲れ様でした、と私たちが撮ったプリクラが出てくる。
まるで高校生のカップルのように写る私たち。
その姿は、いつものアイマスクでもなく、さっきしていたサングラスでもなく、私が好きな先生の蒼い目がそこにあった。
「じゃ、もう一回やろっか」
「へ?」
「へ? じゃないよ。もう一人分撮らなきゃでしょ」
ささもう一回中入って、と先生に施され再び入っていく。
「それは
沙奈にあげる。今度は僕の分だからね。うんっと可愛い顔で撮られてよ」
それは私とのプリクラを先生も持ちたいということだろうか。
「可愛い生徒との思い出を作るのも、教師の務めだからねー。もちろん、そう思ったのは
沙奈にだけだから」
悠二達とはまた後日みんなで撮ろうか、と言いながら操作していく。
「
……その時は高専時代の
五条君で?」
「絶対野薔薇にあれこれ文句言われそうだから、五条先生バージョンかな。だから、この姿は二人だけの内緒ね」
そう言ってまたカウントダウンが始まる。
今度は先生のために。
私はやっぱり五条先生のこと好きだなと思いつつ、笑顔を画面に向けていた。
【終】
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