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スサ
2024-11-11 07:48:37
6952文字
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【ゲ】お父さんの友達のおじさん
シネコン軸っぽい現パロ。ヴァイオリニストのゲゲ郎とその息子の鬼太郎が父の友達の水木さんに0歳から心を奪われている、でもまだ小学校あがったばっかりで、可愛がられているけど当然子どもとしか見られていないので頑張る鬼太郎くん、のような短い話2本。お母さんはスパダリです。
1
2
レッスン
鬼太郎は週に3回ピアノのレッスンに通っている。父に倣って、あるいは憧れの(本当は初恋の人が正しいが内緒なので)水木に倣ってヴァイオリンやチェロを習う案もあったのだが、色々あって、父と水木の幼い頃の恩師だという穏やかな老齢のピアニストの許へ通っている。水木のチェロにピアノを合わせたいというささやかな願望もそこにはあり、それは母にだけばれている。実父と水木は、「鬼太郎は自分と同じ楽器をいずれ習うんだ」と酒に酔っては言い合っているくらいなので、恐らく気づいていない。
とにかく、鬼太郎は週3回放課後にレッスンに通っているのだが、なかなかの遠方なので送迎がいる。著名な女性実業家と気鋭のヴァイオリニストの一人息子なので、それなりに身辺に気を遣う必要があり、もう少し大きくなるまでは誰かの送迎が必要だと両親も、準・父親といってもよいくらい濃い関係である水木も納得しており、つまり、前置きが長くなったが、母の都合が合わない時などに水木が送迎役を買って出ることがままあった。実父はペーパードライバーなので妻と友から運転厳禁を言い渡されているため、現れるとしても自転車か公共交通機関を利用することになる
…
、ため、ほとんどローテーションが回ってこない。ただし父の名誉のために付け加えると、自転車をこがせれば車くらいのスピードが出るくらいに、速い。ただまあ、そんなにスピードを出したら当然危ないので、名誉挽回となるのかは微妙だ。
授業の最終コマが終わるのを、鬼太郎は今か今かとそわそわ待っていた。キッズ携帯で受け通ったメッセージによれば、今日のお迎え役は水木が来てくれることになっている。嬉しくて、変な顔をしないようにするのが大変だった。チャイムが鳴るのを聞いている時など、冗談抜きで鬼太郎の尻は椅子から少し浮いていたと思う。
声をかけるクラスメイトに生返事をして、鬼太郎は一目散、校門へダッシュ。足の速さには自信があるが、それでももどかしく感じるくらい、水木に会えるのが嬉しくてたまらなかった。
──水木は父の友人で、お互い天涯孤独の身である両親が信頼を寄せる、父の大親友だ。水木自身も家族の縁は薄く、高齢の母以外の血縁はないという。水木の方が父より年下なのだが、とてもしっかりしていて逆に見えることがあるくらいだ。大事なヴァイオリンをケースごと奪われそうになっていた父を助けたくれたのが縁で友人付き合いが始まったと、もう耳にたこができるくらい聞かされていた。根が世話好きらしく、鬼太郎が生まれた時からなんだかんだで両親と共に、時にはもうひとりの親のように、鬼太郎に親身になってくれた。鬼太郎がほぼ刷り込みに近く水木を慕っているのも当然といえば当然だ。おまけに彼は、非常に魅力的な人なのだ。
「
…
?」
息を切らして校門まで走ってきた鬼太郎だったが、そこで信じがたい光景を目にし、一瞬足が止まった。だが、次の瞬間には猛然とダッシュして、その人の前に滑り出していた。
「水木さんに近よらないでください!」
校門の前あたりで、水木が警官らしき男に何かを問われている。そこに剣呑なものを感じた鬼太郎は、小さな背中に水木を庇うように立ち、きっと警官をにらみ付けた。驚いたのは警官の方だ。小学校近くに車を停めた大人の男がいたから不審に思い声をかけた、その自分の行動は小学生に咎められるようなものではないはずだ、と思った。
だが、そんな理屈は怒り心頭の鬼太郎には通じない。
「き、鬼太郎、ちょっと落ち着きなさい
…
」
きょとん、とぽかん、の間くらいの顔で呆気にとられていた当の水木は、慌てて背を丸め、鬼太郎の肩に手を置いた。
「おまわりさんは、小学校の周りに変な人がいないか気にしてくれていたんだ」
やんわりたしなめるように水木は言ったが、むしろそれは逆効果だった。だが、水木は特に間違ったことは言っていない。相手が悪かっただけで。
「へんな人
…
ってなんですか? 水木さんがへんな人のわけないですよね? それより、おまわりさんは本当のおまわりさんなんですか?」
剣呑さの増した幼い子どもの勢いに、警官もどうしたらいいか顔を引きつらせながら警察手帳を取り出し、提示しかけた。だが。こら、と咎められてもとまらない鬼太郎は、堂々と言い放ったのだ。
「ぼく、ニュースでみました。さいきんは、けいさつの服をきたフシンシャもいるって。本当のおまわりさんなんですか?」
堂々と言い放つ様子は小学校低学年とも思えない。そも、気持ちの上では、鬼太郎は水木を守るナイトなので。
だがこれには水木も困ってしまって、鬼太郎の後ろから申し訳なさそうな顔で警官に頭を下げるしかない。色々と物騒な昨今、むしろこうやってパトロールをしてくれることはありがたいと思っているし、確かにこんな時間に男がひとりで車を停めていたら声もかけるだろう、と本人的には納得していたくらいだから。
しかし事態は水木と警官の思惑を外れ、さらに延焼した。
「先生、こっちこっち!」
学校の中から、複数の子ども達が教師を校門前に引っ張ってきていた。面談などを通し、鬼太郎の母から水木が迎えに来ることも説明を受けていた担任教師は、水木のことを知っていた。
「水木さん?!」
驚いた教師の呼びかけに水木が苦笑すれば、警官もこの男が不審者ではないと認めるしかない。何より、親の敵でも見るような目で睨み上げる子どもの視線が痛い。その上、若い女性教師からの視線も冷たい。教師にとってみたら男は知り合いだが警官は知り合いではない。制服の効力を上回る信頼関係が既に構築されているなら、状況は著しく不利だった。
レッスンに向かう道中も鬼太郎は不機嫌だったが、水木に「あの態度は良くない」と窘められ、さらにむすっと黙り込んでしまった。だが、悔しそうにうつむく大きな目からは今にも涙がこぼれ落ちそうで、結局水木はため息一つ、隣の鬼太郎の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。最近まではチャイルドシートを載せていたが、七歳になったからと本人の進言で外すことになった。140センチまでは推奨らしいので水木としてはまだ設置しておきたい気持ちがあったが、ぼくもう小学校のお兄さんです、と頑として譲らないことから、最終的に水木が折れた。それに、ぐんぐん伸びているので、140センチも程なく越すだろうし
…
。
「俺をかばおうとしてくれたんだよな。ありがとうな」
「
………
」
鬼太郎はぎゅっと唇を噛みしめた後、ごめんなさい、と小さな声で謝る。水木は苦笑して、それから、誰も聞く者もいない車内だというのに声を潜めた。
「内緒だぞ。俺のこと庇ってくれて、嬉しかったぞ」
「
…
!」
ばっと弾かれたように顔を上げた鬼太郎に、水木は目を細めて微笑んだ。勝手に鬼太郎の頬が赤くなる。それをどう思ったか、おそらくただ可愛いと思っただけだが、水木は鬼太郎の茶色いまあるい頭をもう一度撫でた。
「かっこよかったぞ」
「
……………
っ」
ぶわわ、と赤くなるばかりの幼い顔を、水木は面白そうに笑った。
「でも、やりすぎはダメだぞ。おまわりさんはちゃんと仕事をしているだけなんだ。おまえたちを守ってくれているんだよ」
「
……
でもナンパかと思って」
「は?」
水木は予想もしていなかった台詞に目が点になる。運転を誤る程ではなかったが。
「
……
水木さんは、かっこよくて、かわいいから
…
」
ンンッ、と水木は変な調子で喉を鳴らした。
照れている──わけではなかった。
「何を言ってるんだ、こんなおじさんを捕まえて
…
」
「おじさんじゃない」
「おじさんだよ。鬼太郎の
…
五倍くらい生きてる。あ、倍ってまだ習わないか
…
」
まだ九九は習っていないだろうか、と言い淀んだ水木にかまわず、鬼太郎は直球でぶつけてくる。
「水木さんはぼくの大好きな水木さんだから
…
」
ンッ、と水木は喉をつまらせたような音を出す。それから困ったように鬼太郎を見た。
「
……
おまえは
…
、将来がこわいな。すごくいい男になると思う」
少々投げやりな調子の言葉に、鬼太郎はなぜか目を輝かせ、食いついた。
「そしたら、ぼくのこと大好きになってくれますか?!」
だがこの問いかけは水木にとってはあまり意味のないものだったのか、彼はきょとんとした様子で、「もう大好きだからなあ」とひとりごちるように答えただけだった。勿論、親友の子、目に入れても痛くないくらい可愛い子、という意味で大好きなのであって、鬼太郎が考えていたのと同じ意味ではない。
ないのだが、鬼太郎にそれが通じるわけもなく
…
。
「
…
やったあ!」
「わ、なんだ、どうした」
鬼太郎はちょっと普段はないくらいにっこり笑った。
そうか。りょうおもい、っていうやつだ。隣の席の多美ちゃんがなんだかそんなことを言っていた気がする。好き同士はりょうおもい、というのだ。
「水木さん、大好き」
「ん? 俺もだよ」
なんだあ、甘えるなあ、と上機嫌に笑う水木と、将来は結婚だ、と思い定める鬼太郎少年の考えは全く重ならないまま、レッスン先までのドライブデートは続いた。
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