スサ
2024-11-11 07:48:37
6952文字
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【ゲ】お父さんの友達のおじさん

シネコン軸っぽい現パロ。ヴァイオリニストのゲゲ郎とその息子の鬼太郎が父の友達の水木さんに0歳から心を奪われている、でもまだ小学校あがったばっかりで、可愛がられているけど当然子どもとしか見られていないので頑張る鬼太郎くん、のような短い話2本。お母さんはスパダリです。

将来の夢

 鬼太郎が母を尊敬している点はいくつもあるのだけれど、やはり一番は、「夫が好きなことを全力で支える、それが妻である私の役目」と本気で信じ、そして実際に父が音楽以外のことを何も考えなくて済むだけの稼ぎを上げ、何なら外部サービスも取り入れつつとはいえ家事も完璧にこなし、かといって育児にも手を抜いていない超人であるところだった。しかも、無理をしているわけではなく、仕事も好きなので本人も生き生きと働いていて、その上で夫の総てをサポートしている。
 鬼太郎の父は音楽家としては素晴らしい才能を持っている。お高くとまったところもなく、人柄も穏やかで人好きがする。ちょっと浮世離れしたところはあるが、才能にあふれた善人である。彼もまた、妻への感謝をけして忘れない。
 ちょっと世間とは違うがうまくいっている良い夫婦なのだと思う。

 鬼太郎は真剣な顔をして、モバイルの画面に目を走らせている母を見た。なお、二人がいるのは車の中だ。
「なあに、鬼太郎」
 息子の視線を受け、母は声だけをそちらに向けた。仕事を優先しているというより、その方が鬼太郎が話しやすかろうという判断だ。
「ぼくもお母さんみたいになりたい」
「え? どうして?」
 さすがに母も顔を上げた。
 息子は夫の才能を色濃く受け継いでおり、さらに、演奏自体嫌いではないように見えた。母、岩子も音楽自体は好きだし、演奏もできなくはないが、夫に並ぶ物ではないと自己判断していた。いや、必死で食らいつくと言うこともできるかもしれないが、それよりも働いて稼いで稼ぎまくって、夫に好きなことをさせてやる方が何倍も楽しいし、やりがいを感じている。
「水木さんと一緒に演奏するようになりたいんじゃなかったの?」
 最も気になった点を指摘すれば、鬼太郎はむうと口をへの字に曲げた。
 水木さん──とは、鬼太郎の父の友人で、鬼太郎が生まれた頃からの付き合いで、そして最も重要なこととして、鬼太郎の初恋の人である。父も母も知っている。水木は知らない。
なりたいけど。お母さんみたいにいっぱいお仕事して、水木さんはチェロだけしていていいですよ、ってゆってあげたい」
…………
 岩子はぽかんとした後、たえきれず結局吹き出した。
「お、かあさんっ」
 なんで笑うの、とぷくっと頬を膨らます息子は、小学校に上がったばかりだ。この年にしてはだいぶ将来像を固めている、といっていいのかどうか。
「ごめんね、鬼太郎、ああ、おもしろい」
「おもしろい?!」
「ふふ、怒らないで、そう、そうなの、鬼太郎」
………
 ぷい、と鬼太郎は横を向く。
 そのつむじあたりに目を細めながら、母は言った。
「とにかく、勉強は必要ね」
………
「仕事をしてお金を稼ぐって、大変なの。お母さんもいっぱい頑張ったのよ。でも、お父さんの楽しそうに演奏する姿を思い浮かべたら、そうか、そうねえ、鬼太郎はお母さん似なのかもしれないわね」
 途中で何かに気づいた様子で、岩子は目を細めた。
 今度なんとかという曲をやるのじゃ、聞いておくれ、とはにかむ夫はかわいい。あの顔を見ると、演奏会の類は是が非でも成功させる、という気持ちがわいてくる。
 要するに息子の場合、対象が水木になるということで、きっと同じようなことを考えているのだろう。そう思えば微笑ましかった。
「どんなお仕事がしたいの?」
……わかんない。でも、水木さんに大きなお部屋、れんしゅうするところをつくってあげる。おくってくのと、おむかえにいくのと、どっちもぼくがしたくて」
「時間に融通がきく仕事になるのかしら、送り迎えをするって。それか、マネージャー?」
 鬼太郎は難しい顔をした。
「マネージャーはシャチョウじゃないと思うから……
「なるほど」
 とりあえず岩子は頷いた。
 ずっと一緒に居たいが、それだけで収入が入ってくることはない、と鬼太郎は理解しているらしい。
「演奏会をして、でも、でもみんな水木さんを好きになっちゃう。好きになってもらう方がいいけど、でも、でも
 ぎゅう、と膝を掴んで真剣に悩んでいるらしい息子がいじらしくもあり、ちょっと面白くもあり、母はんっと唇の中を軽く噛んだ。ここで笑ってはいけない。鬼太郎は真剣なのだから。
「とにかく真面目に勉強をして、スポーツも頑張った方がいいわ。健康だとたくさん働けるから」
かけっこ、ぼくクラスでいちばんだよ」
 幼稚園の運動会に水木も応援に来てくれたことがあって、彼の目の前で一番になったら抱き上げて褒めてくれた。小学校でも絶対応援に来てもらう。鬼太郎は強く心に決めている。なお、鬼太郎の運動会の日と演奏会の予定が重なり、ショックで黙り込む鬼太郎と、嫌じゃ~と駄々をこねる父の姿が見られるようになるのだが、それはまだ二人とも知らない。
「好き嫌いもない方がいいわね。鬼太郎はアレルギーもないし」
「っ……、ほうれん草も、たべる
 いい子ね、と母は朗らかに頷いた。
 本当になんていい子だろう。そして、水木に感謝だ。
 水木にも水木の人生があるので、いくら我が子が可愛いといってもいつまでも付き合わせる訳にいかないとは思うが、本人も鬼太郎を我が子のように溺愛しているし、まあ、まだいいだろう、たぶん。母はそう片付けた。それに水木が家庭を持つようなことがあったら、鬼太郎だけでなく、夫もまた「友達がとられた」とめそめそしそうな気がしている。
「あ、おかあさん、よじだよ。れんしゅう、おわりなんじゃない?」
「あら、そうね。連絡まだないけど、鬼太郎、お父さんか水木さんに連絡してみて」
 母は自分のスマートフォンを息子に渡す。慣れたもので、すいすいと息子はメッセージアプリを立ち上げ通話ボタンを押した。本当に早い。
………っ、も、もしもし、鬼太郎、です」
 おおー、鬼太郎か、とわずかに声が聞こえてきて、岩子も口元をほころばせた。息子の顔がぽぽぽと赤くなり、ふにゃっと嬉しそうに笑っているのをこっそり見守りながら。
「あの、れんしゅう、おわりましたか?」
 水木が何か答えているらしい間、鬼太郎は真剣な顔で聞いていた。もう、微笑ましさに胸がきゅんとしていまう母だった。
「おそとにいます、あの、お母さんの車で。おむかえ、お父さんと水木さんの。きました」
 そこから二言、三言何か交わして、通話は切れた。ふう、と体いっぱいで息を吐いた後、鬼太郎は自分を見つめる母の視線に気づいたようで、むう、と眉を跳ね上げ抗議の顔をする。
「水木さん、すぐ来るって?」
「うん。でも、おとうさん、おかたづけ遅いから、ぼく、おてつだい行ってもいい?」
 実際夫はマイペースなので、片付けの類が早くない。母は吹き出すのを堪えて、この距離ならいいか? と考える。待ちきれない幼い息子がドアに手をかけるのを見ながら。
「でも、ガードマンさんも鬼太郎が来たら困ってしまうわ。中に入れていいか。だから、お母さんと行きましょう。駐車場に停めてるんだから大丈夫よ」
うん」
 そわそわと落ち着きなく鬼太郎はドアを開ける。まったくもう、と母は軽くため息をつきつつも、笑いを堪えてその後に続いた。車にロックをかけて、幼い背中に向かって声をかける。
「鬼太郎、走らないの!」
っ、おかあさん、はやく!」
 その場で足踏みして振り返った息子が急かすので、はいはい、と母も小走りで駆け寄った。

 なお、本当に父、ゲゲ郎の片付けはもたもたと遅く(というより片付けの途中で気になったことを話したしたりまた楽器を出したりと脱線するので)、見かねた水木と嬉々とした妻に手伝われ、息子に「おとうさん」と厳しい声を出させるに至るのはこの十五分後くらいのことだった。