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椎那わたる
2024-11-11 00:28:37
4115文字
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魏嬰は押し掛け黒狐
ノリと勢いと思い付きで書いてみました。Pixivの夏休み創作チャレンジに参加していた作品です。
最後のお題はみんな大好きかもしれない(?)現代AU忘羨です!!
幼い頃の夏の思い出。それは成人した後も忘れることのない、不思議な出来事だったりするもの。
偏頭痛持ちの藍忘機の前に現れたのは、ケモ耳の生えたあやしい男。黒狐の魏嬰と名乗る彼の正体は一体…!
続きはこちらで連載していきます(Pixiv版は1話のみ残し削除予定です)
1
2
「
…
ウツロ
…
?」
「そう。まぁ、何と言うか
…
俺はこの世界でも一度、この世を去ってるんだ。だから雰囲気が違うのも無理はないかもなぁ」
ふさふさとした尻尾を揺らし、魏嬰と名直った男はパジャマ姿の藍忘機と正面を向いて話始めた。彼はかつて、夷陵の地に住まい亡者を手懐け、その血肉を浴びて生き永らえて来た『
虚
うつろ
』と呼ばれる存在だった。はるか太古の昔、凶屍や邪崇、亡霊が蔓延る世から人々を救った修師と呼ばれた修行者がいた。かつては魏無羨もその一人だったが、とある事件をきっかけに立場が逆転し、命を失ったのだという。
十三年後、自らの肉体・魂と引き換えに悪霊へ明け渡すため、献舎の術と呼ばれる呪術を施した莫玄羽という男は、自らの復讐を遂行させるため魏無羨を蘇らせた。
二度目の生を最愛の道侶と共に全うした魏無羨は、その後何度命を落としても蘇ってしまうヒトならざるモノとなってしまった。輪廻のサイクルから外れ、同じ魂が何度も違う器に入る存在。邪崇でも凶屍でもない自らのことを、魏無羨は『虚』と呼び永遠とも言える生を生きて来た。しかし定期的に訪れる発作のような飢餓感に襲われ、血を求めながらも彷徨っていた今世で、かつての道侶の生まれ変わりである少年を見つけた。
「おまえ、子供の頃に家族で夷陵に旅行へ来ただろう」
「
…
うん」
「その時に乱葬崗...いや、今じゃ国立公園か
…
そこで迷子になって、半べそかいてたおまえを見つけたのが前の『俺』だ」
「
……
」
「まぁ、あの時はおまえを見つけただけで舞い上がっちゃって
…
そのまま【
彼岸
こっち
】まで連れて行こうと思ったけど、やめた」
「なぜ?」
「
…
おまえは俺の知っている、かつての道侶・含光君ではない。そして幼かった。藍湛にも子供らしい生活があっただろ?それを俺が壊していい筈がないんだと思ってな」
「
……
うん
…
」
「でも、おまえが俺のことを忘れなければまた会えるかなぁって思った」
「そして、私の前に現れたと」
「流石藍湛だな!まぁ、間のことは端折ってもいいか
…
つまらない話だから。で、こっからが本題なんだけど」
テーブルの中央に乗り出し、魏無羨は頬杖をついて藍忘機の顔をじっと見る。怪訝な顔で魏無羨を見つめ返す藍忘機は、彼の口から齎される次の言葉を待った。
「
…
藍湛の偏頭痛、俺が治してあげる。その代わり、俺をここに居候させてくれ。耳かき三食昼寝付きでな♡」
× × ×
突如現れた、過去の記憶に面影を遺す青年。彼はヒトでも幽霊でもなく、自らの存在を『虚』と称した。
そんな彼を前に、藍忘機は今
…
「あー、そこそこ
…
うん、気持ちいい
…
上手だぞ~」
膝枕の上で、黒狐の耳を掃除している。
事の発端は一時間前。
「
…
断る
…
と言いたいところではある。だが、本当にこの頭痛を治せるのか?」
「ああ!お安い御用だよ。だってそれ、前の『俺』が仕掛けたから」
「
……
何
…
?」
今まで頭痛外来や内科を行脚しても、どのような鎮痛剤を服用しても治ることのなかった偏頭痛。それの原因が目の前の男であるなどと、今まで考えたこともなかった。というよりも、現代医学でどうにかならない症状ではないと思っていたのだ。
「
…
おまえが子供の頃、連れて行きたくないけど見失いたくなかった『俺』は
…
おまえにちょっとだけ悪戯をしたんだ」
それは藍忘機を探るための、蜘蛛の糸のようなもの。ヒトには見えざるけして切れぬ細い糸が藍忘機の記憶中枢と繋がり、魏無羨が藍忘機を探すための手がかりとなった。そして藍忘機が魏無羨を忘れぬよう、その糸を引っ張って定期的に記憶を呼び起こす。偏頭痛はその糸が引っ張られると同時に伴って現れる、副作用のようなものだった。
「なら、その糸を切ってしまえば
…
」
「そう。おまえは俺の追跡と偏頭痛から、永遠に解放されるって訳だ!」
「
……
」
藍忘機は暫し考え込み、原因が解明したことにひとまず安堵した。そして、魏無羨も予想していなかった言葉を続ける。
「
…
その糸は、私にも見えるのか?」
「うーん、多分今の状態では見えないけど
…
もしかしたら、俺の力を少し分ければ」
「どうすればいい?」
「えっ
…
」
魏無羨はたじろいだ。目の前にいる、現代で言えば絶世の美人に迫られ普通で居られる筈がない。それも魏無羨とは切っても切れない、太古からの縁者なのだから。
(
…
藍湛のこういうところ、やっぱり同じなんだよなぁ
…
。まぁ、そこが大好きなんだけど)
「そうだなぁ~
…
ま、接吻のひとつやふたつ、すればあるいは
…
んぶっ!」
言い掛けた途端、藍忘機が立ち上がり屈んで魏無羨の細い顎を掴み、唇を寄せた。それも律儀に、一度ならず何度もかさついた唇を重ねて舌先で閉口する魏無羨の唇をなぞる。
「っ
…
!んんっ
…
」
苦しそうに口を開けたら最後、魏無羨の厚ぼったい舌が絡めとられ、藍忘機のものに擽られる。眼を瞑ってたっぷりと魏無羨の粘膜に触れていた藍忘機が瞼を開けた瞬間、琥珀色の瞳が鋭く光り、丸い瞳孔が獣のように細長く狭窄する。それは一瞬のことで、直ぐ元に戻った。
「
…
これで、いいのだろうか」
「そ、そう
…
だと思うけど
…
」
あまりにも突然のことに魏無羨の頭の中は真っ白になっていた。花も恥じらう乙女とは言えないが、今生に二度目の生を受け今まで経験したことのない熱い口付けに惚けてしまう。魂が憶えている、あの百鳳山の情事とも似た熱さを再び知るとは思わなかった。
「
…
これか」
藍忘機は宙を漂う何かを掴み、自分の側頭部まで指先を這わせる。そして根本からプツンと切り離し、あろうことかその切れた糸を
…
器用にも、片手で自分の左小指に結びつけてしまった。
「
…
おまえ、何を
…
」
「これで君は道に迷う事もないし...私が偏頭痛に悩まされることもないだろう」
「っ
…
!」
魏無羨はかつての自分が自分の左手薬指に結んだ、見えない糸の端をまじまじと見た。
肉体は違えど魂魄は同じものなので、霊識で織りあげたその糸は今の魏無羨にもしっかりと結びつけられている。
「
…
まぁ、いいか
…
」
本来ならば切り離し、彼も自分も自由なまま、衣食住を手に入れる筈だった。予想とは違う結果になり、気恥ずかしさは残るものの悪いことではないと思いたい。そう、魏無羨は願った。
こうして二人は切っても切れない蜘蛛の糸に結ばれる関係となり、耳掻きをしていた冒頭に戻る。
「藍湛、耳かき上手いなぁ
…
きもちい
…
」
「
…
耳を動かすな。くすぐったいだろう」
ぴこぴこと動く狐耳が藍忘機の腕を擽り、耳かき棒を持つ手が僅かに震える。
突如として増えた居候にその後の人生を翻弄されることになろうとは、この時の藍忘機は知る由もなかった。
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