ちこと
2024-10-29 20:42:05
9047文字
Public poke小説・SS
 

【短編まとめ】きみと日々のなかにて

2020~2021年頃にTwitterにあげた短文のまとめです。新無印のポケ+サトより、ルカリオ、カモネギ、ウオノラゴンのお話。
その後、ほかのお話も追加して同タイトルのオムニバス本にまとめました。(現在は完売しています)



なかよく
(サトシとウオノラゴン)


 ウオノラゴンのことを、サトシはまだよく知らない。

 縁あって出会い、面倒を見ることを任せてもらった。ゲットして、研究所に連れ帰り、日々をともに過ごすことになった。
 当人はサクラギパークの水場に落ち着き、こちらで用意するポケモンフーズも気に入ったようだ。ほかのポケモンたちともいさかいなく過ごしており、当面の生活は問題なさそうだった。
 とはいえ、かれは、不思議な経緯で現代に甦ったカセキポケモンである。当然ながら、ほかのポケモンたち以上にデータはすくない。ロトムに訊ねて図鑑をひらいてみても、使えるわざすら満足には知れなかった。はじめて会ったときにも見せた“みずでっぽう”が使えることしかわからないのだった。



「サトシ、ウオノラゴンにはバトルさせないのか?」
 日課の特訓のさなかの、ゴウの一言だ。サトシはピカチュウとゲンガー、ルカリオとネギガナイトを組ませていたところだった。カイリューはちょうど組む相手がおらず、いったん体を休めていた。
「うーん、まだちょっと様子見かなって……
 カイリューはハクリューの頃、飛ぶ特訓をともに頑張った。その経緯から、かれは自分を高めることに熱意を持ち、またバトルも前向きに頑張ることを知った。ゲンガーとネギガナイトは初対面からバトルをした仲であるし、ルカリオも生まれてすぐの頃から自らを鍛えることに余念がなかった。いちばんの相棒たるピカチュウは言うまでもない。
 かようにサトシのポケモンたちは、みなバトルに対し積極的なのだ。
 一方でウオノラゴンは、サトシたちの特訓を眺めることはあれど、そこに加わろうとする様子は見せていなかった。そもそも“みずでっぽう”以外のわざが使えるかどうかすらわからない。もしかしたらウオノラゴンは、バトルに対して積極的ではないのかもしれない。
「あいつがバトルしたいならいいんだけど、いやなら、無理やりバトルさせるのはなんか違うかなって」
「そっか。そうだな」
 ゴウは右のほうに顔を向ける。木々の茂みで見えないが、その向こうには水場があるはずだった。ウオノラゴンの、いまの家だ。
「俺のみずポケモンたちともうまくやってるみたいだし、いま無理に環境を変える必要はないか」
「うん」
 サトシはウオノラゴンのことを、まだよく知らない。
 だから、これからもっともっと知りたいなと、思う。


 サトシが知っていることといえば、ウオノラゴンは泳ぐのが好きだということ。あまり速度はないが、水面に頭を覗かせながら、ぱしゃぱしゃと長い距離を泳ぎ、気持ちよさそうに過ごしている。
 そのほかにも、数少ないがサトシが知るウオノラゴンの特徴がある。これは、よくよく思い返せばはじめて会ったときからヒントがあった。
 ポケモンセンターでの検診のため、サクラギパークから連れ出したことがある。そのときは当然ながらモンスターボールに戻し、目的地でまた外に出した。
「出てこい、ウオノラゴン!」
「う~の」
「うわっ!?」
 出てきて早々、ウオノラゴンの顔をよく見ようとするより前に、サトシの視界はまっくらになったのだった。
 なまあたたかい。ウオノラゴンの「うら~」というのどかな声が、なぜかくぐもって聞こえる。そして頭が痛い。噛まれているのだと気づいたのは一拍あとだった。
「おいおい、ウオノラゴン、よせって」
「う~の、う~の」
 ウオノラゴンはなかなかサトシを離さなかった。そこで、サトシはふと気づく。痛いとは思ったが、思ったよりも痛くない。
 本気ではない。これは、甘噛みだ。そういえば、ウオノラゴンを預かることになったときも、サトシのあいさつにかれは噛みつきで応えていた。
 これは、ウオノラゴンにとってのスキンシップなのだろう。
 そう思ったら、サトシの口元に自然と笑みが浮かんできた。
「ははっ。元気だなぁ、おまえ」
 甘噛みならサトシにも覚えがある。ちょっとは痛いけれど、その向こうにあるポケモンたちの親しみに気づけば、痛みよりも嬉しさのほうがまさるのだ。
 とはいえ長引けばそれなりに痛いので、その後はなんとか口内から脱出した。ウオノラゴンはなかなか離してくれなかった。
 よだれにまみれて、顔はべちょべちょだ。だが、やっと目にできたウオノラゴンの表情は、サトシにもわかるほどの笑顔だった。ちいさな瞳を、にこにこと細めている。
 だからサトシもつられるように微笑み、ウオノラゴンの頭を撫でた。みずポケモンらしく湿っていて、すこしざらざらし、だけどなによりもあたたかかった。
「なかよくしようぜ、ウオノラゴン」
 はじめて会ったときとおなじ言葉が、自然と口をついて出る。
 そんなサトシの気持ちを知ってか知らずか、
「う~の」
 と、ウオノラゴンはのんびり応えたのだった。


 そんなふうにして、サトシはすこしずつ、ウオノラゴンのことを知ってゆく。
 知るたびに、仲良くなれた気がしてくる。
 古代に棲み、現代に甦ったウオノラゴンは、いまやサトシの友だちだ。





 ウオノラゴンは、その日はじめて“人間”を見た。
 永い永い眠りから覚め、遠い昔から様変わりした世界だったが、水場は変わらず心地よかった。はじめて口にした食料も、食べやすく好ましかった。
 まわりで生きるポケモンたちも、姿かたちはウオノラゴンの知るそれではないが、同じように懸命に生きており、ウオノラゴンもすぐに馴染んだ。
 だが一方で、ウオノラゴンの知る時代にはいない生き物もいたのだ。ウオノラゴンは最初こそ驚いたが、すぐに興味を持ち、追いかけまわしているうちに、気づけばその生き物とともに水場を泳いでいた。

「なあ、もっといろんなとこ行ってみようぜ!」

 生き物がかけてきた声は弾んでいて、背に乗せた体はあたたかかった。
なぜか、大地を思いきり駆けまわりたくなるくらいに、心地よいものだった。


 その日から、ウオノラゴンは、“人間”とともに過ごしている。
 出会ったばかりだから、ウオノラゴンは、“人間”のことをよく知らない。
 だが、ほんのすこしだけ、もうわかっていることもある。
「う~の」
 その人間を目にすると、なんだか気持ちが弾んでくる。触れあいたくなって、頭に噛みつく。
 触れあうことが心地よい。楽しい。
「おいおい、よせって」
 人間の声も、楽しそうに聞こえる。
 触れあうと、嬉しくなる。心地よいと思う。相手もきっと同じだ。なぜなら、ウオノラゴンにそっくりの表情をしているのがわかるからだ。
 にこにこと微笑み、体温に触れる。



 ウオノラゴンが好きなことは、泳ぐこと。それはサトシも知っている。
 だがほんとうは、もうひとつ、好きなことがある。もしかしたらと、そうだったらいいなと、サトシも思っている。
 モンスターボールから出てくるたび、朝、サトシがあいさつするたびに、ウオノラゴンは甘噛みをする。

 愛情表現なんだろうねと、ある日、誰かがそう言った。