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ちこと
2024-10-29 20:42:05
9047文字
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poke小説・SS
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【短編まとめ】きみと日々のなかにて
2020~2021年頃にTwitterにあげた短文のまとめです。新無印のポケ+サトより、ルカリオ、カモネギ、ウオノラゴンのお話。
その後、ほかのお話も追加して同タイトルのオムニバス本にまとめました。(現在は完売しています)
1
2
3
贈り物の味
(サトシとカモネギ)
サクラギパークのポケモンたちは、たいていが、自身の〝穴〟を持っている。
岩壁の隙間や木のうろなど、位置かたちはさまざまだ。そこに入っているものもまた、保存のきく食料であったり、きらきら光る小石であったりと、ポケモンによってさまざまだった。人間が見れば、「宝箱」「ひみつきち」といった表現をしたかもしれない、そういう場所だ。
カモネギは、いま、自身の〝穴〟を覗きこんでいた。そこには、ピンク色の包装紙にくるまれた、四角い箱が入っている。数日前、サトシから手渡されたが、開封せずに〝穴〟に入れたままだったものだ。
中身が何かはわかっている。日持ちのする甘い菓子だ。同じ日に、ポケモンフーズと同じ皿に山と盛られて、パークのポケモンたちにもたんまりと振る舞われていた。それとは分けた形で、サトシたちはこうした箱も用意して、ピカチュウや、エースバーンや、イーブイたちにそれぞれ手渡していた。そのうちのひとつを、カモネギも受け取り、ただ、そのまましまい込んでいた。
なぜその日、これらが振る舞われ、渡されたのか。その理由も、サトシたちは話していた。その日がどういう日であり、どういう意味を持った贈り物なのか、きちんと伝えられた上で、この菓子は渡されたはずだった。おそらく、カモネギを除いては。
その日のカモネギにとって、これらはささいなノイズだった。これまでカモネギの心を占めていたのは、強くなること、その一点だったからだ。日々の鍛錬こそ最も優先されるものであり、息抜きに饗されるような甘い菓子などは、カモネギの必要とするものではなかった。
それを手渡してきたときの、サトシの声も、言葉も、表情もまた、同様だった。カモネギの脳は、贈り物も、込められた意味もすべて、ノイズとして処理をした。
そうして数日、〝穴〟に入れられたまま放られていたそれを、カモネギはいま、再び手に取っている。
数日前に見たときと、見た目はまったくかわらない。そのはずなのに、数日前に見たものと同じものだとは、カモネギにはどうしても思えなかった。
箱の中身の菓子は、コハルの指導のもと、サトシたちが手ずから作ったという話だった。「コハルが作ったみたいにきれいじゃないけど」と言うサトシの声は、すこし照れくさそうだった。
手渡されたときの、サトシの声も、言葉も、表情も、いまははっきりと思い出せる。
霧が晴れたようだった。カロスで受けた修練のさなか、カモネギの脳裏にひらめいた感情と同じものだった。
――
カモネギの、なにより大事なネギだもんな。
サトシはそう言って笑った。
――
おれは、カモネギを信じる。
サトシは堂々とそう言った。
そのふたつの瞬間を経て、カモネギの心に灯ったものがある。それはあたたかく、同時に、カモネギの頭に知らずかかっていた霧を晴らすものだった。
以来、サトシの姿も、声も、そこにこめられた想いまで、驚くほどはっきりと見えるようになった。カモネギのもとに、まっすぐに届くようになった。
それを自覚したからこそ、カモネギは数日遅れて、この箱を取りだしたのだ。
「
――
あれ、カモネギ?」
「!」
背にかけられた声に、羽毛がぎくりと逆立つ。いま、この瞬間を見られてしまうとは。
呼ばれたからには、応じないわけにはいかない。カモネギはぎこちなく振り向いた。
サトシが、カモネギを見ていた。目線を合わせるように、すこし屈みこんで、右手には細いネギを持っていた。
「そろそろ特訓の時間だと思って、来てみたんだけど
……
」
サトシの目線が、カモネギの手元に向かう。それが手にとるようにわかり、カモネギは知らず冷や汗をかいた。
この菓子を放っていたのは、カモネギだけだ。ピカチュウも、カイリューも、ゲンガーも、受け取った瞬間に包みを開き、にこにこと笑顔で食べていた。ウオノラゴンはその立派な顎で箱ごと食べていた。ルカリオは、その場でこそ開かなかったものの、その日のうちにひとり包みを開け、もくもくと食べていたのを知っている。
贈り物をそのままにしていたのは、カモネギだけだ。そのことを、贈ってくれた当人に知られてしまい、なんとも居心地が悪くなる。
と。サトシの顔が、ぱっと明るくなったように見えた。
「それ、食べてくれるのか!」
嬉しくて嬉しくてたまらない、とでも言うかのような声だった。
想定外の反応だったので、カモネギは一瞬、虚を突かれたように黙りこんでしまった。一拍おいて、こくりと頷く。そのつもりで〝穴〟から出したのだ。
「ありがとな」
笑ってそう言い、サトシはその場に座りこんだ。カモネギの正面だ。
そのままカモネギを見つめている。意図を察し、カモネギはぎこちなく、箱にかかっていたリボンをほどいた。
まさか、食べるところを、当人に目の前で見られてしまうことになるとは。
しかし、これ以上は、この箱を放っておきたくなかった。その気持ちも持っていたので、カモネギはおとなしく箱を開けた。
甘いかおりが広がる。四角く茶色い板のようなもの
――
チョコレートに、白い線でなにかが描かれていた。
なんのかたちかはわからなかったが、安定していない線の様子からして、サトシが描いたものなのだろう。カモネギの想像に応えるように、サトシが頭を掻いて苦笑した。
「いちおう、カモネギの顔を描いたんだけど
……
」
「
……
きゃも」
呆れ声が思わず漏れた。とてもそうは見えない。
だが、その事実は、この菓子をもう一段階、カモネギにとって大切なものにさせた。
端をひとくち、かじる。
「
……
!」
目を見開いた。それほどに甘かった。
甘く、美味しく、何にも代えがたいような味がした。
カモネギの反応に、当のサトシは顔をほころばせる。
「よかったぁ」
つづけて、サトシは口をひらいた。
あの日と同じ声、同じ言葉、同じ表情で、サトシはカモネギに笑いかけた。
「バレンタインって言ってさ。大事な相手にチョコレートを渡す日なんだって。だからおれ、みんなに、いつもありがとうって伝えたかったんだ」
それはもう、ノイズなどではなかった。
手元のチョコレートが、そして、目の前のサトシが、もはや自身にとって無二のものになったのだと、カモネギはそう、自覚する。
だから、手元のチョコレートを、カモネギは半分に割った。
すこし大きいほうの片割れを、目の前のサトシへ差し出す。
「きゃも」
ひと鳴き、声をかけた。これで伝わるだろうか。だがカモネギは、こうするほかに、いまの気持ちの伝え方がわからなかった。
サトシの目を、まっすぐに見据えた。チョコレートを、片腕でも大事に抱え、まっすぐに差し出した。カモネギとしては、あの修練場でサトシの前に駆けつけた、その瞬間ほどに、強い気持ちで動いたつもりであった。
サトシは一瞬、まばたいた。虚を突かれたかのようだった。
「
……
おれ、に?」
こくりと、カモネギは頷く。
チョコレートを贈る意味は、当のサトシが先ほど言った。
伝わらないとは言わせないと、そんな気持ちで、カモネギはサトシの瞳を見つめる。それ以外にやりかたがわからない。
サトシは、二度、三度、まばたいた。そうして、ふいに、ぱあっと顔をほころばせた。
「サンキュー!」
にっこりと笑い、サトシは、カモネギからチョコレートを受けとった。
ふたりで食べるチョコレートは、これまでにカモネギが食べたどんなものよりも、甘く、美味しく、いとおしく感じられた。
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