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ちこと
2024-10-29 20:42:05
9047文字
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poke小説・SS
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【短編まとめ】きみと日々のなかにて
2020~2021年頃にTwitterにあげた短文のまとめです。新無印のポケ+サトより、ルカリオ、カモネギ、ウオノラゴンのお話。
その後、ほかのお話も追加して同タイトルのオムニバス本にまとめました。(現在は完売しています)
1
2
3
お昼寝
(サトシとルカリオ)
サクラギパークに、いくつもの音がこだまする。技と技がはじける音。地面の砂がこすれる音。拳と得物がぶつかり合う音。それらの音の間を縫うように、サトシは声を張りあげた。
「よーし、ちょっと休憩!」
すぐさま、ピカチュウが長い耳をぴんと立てて振りかえる。対峙していたゲンガーも、にたにた笑いは崩さぬまま、攻撃の体勢をするりと解いた。「げんげろげー!」と笑顔でこちらへ飛んできたところを、カイリューが横からハグで出迎える。
「ばう~」
「げん!?」
思わずといったふうに空にとけるゲンガーと、ハグが空振りしてしまったカイリューに、サトシは笑みをこぼしてしまう。先ほどまで激しい応酬を繰り広げ、頼もしく、格好いいと思っていた二体が、いまはこんなに可愛い。
そう思っているうちに、胸もとに相棒が飛びついてきた。
「おつかれ、ピカチュウ」
「ぴーか」
流れるように肩口へ落ち着き、ピカチュウが笑って応える。
「さーて」
戻ってきていないのは、あと二体。拳と得物がぶつかり合う音はまだ響いている。その音へ向かって駆けだした。
「ルカリオ、カモネギー! 休憩しようぜ~!」
走りながらいっそう声を張りあげる。と、ルカリオの耳がぴんと立ち、黒い房が広がるのが見えた。
「わうっ」
「きゃも」
一拍遅れて、カモネギも手を止める。二対の目がサトシを振りあおいだ。特訓に集中していた熱気の名残が、両の目にこもっている。
それでも、サトシの声はちゃんと届いたようだ。ふたりの表情もまた、先ほどの鋭いようすからは切り替わったように穏やかだ。サトシはそれでまた笑顔になる。
「コハルがおやつ差し入れてくれたんだ。いっしょに食べようぜ」
甘いかおりのする袋を掲げてみせると、匂いにつられたように、二体は瞳をまたたかせた。
「おやつありがとな、コハル」
「ううん。このお店、最近クラスの子が話してて、わたしも気になってたんだ。せっかくだし、みんなで食べたらいいかなって。どうだった?」
「すげーうまかった! な、ぴかちゅう
……
って、あれ」
「寝ちゃってるね」
サクラギパークのなかでも、ゆるやかな傾斜になっている丘は、腰を下ろしたり寝そべったりするのにちょうどいい。
美味しいおやつでお腹を満たしたサトシのポケモンたちは、自然、うとうとと昼寝に入りこんでいるようだった。ピカチュウはサトシの横でまるくなり、いつのまにか寝息を立てている。それを、サトシはコハルと並んで座りながら眺めた。
「ゴウは?」
「なんか、所長に聞きたいことがあるって」
「そういえば、さっきお父さんと話しこんでたような」
そんなことを小声で話しながら、つい、目はかたわらのピカチュウにいく。起こさないようそっと手を伸ばし、やわらかく、あたたかい頭をふわりと撫でた。
ピカチュウは眠ったまま、「ちゃあ
……
」とちいさく声を漏らす。サトシの手のひらを心地よく思ってくれているのなら、こんなに嬉しいことはない。
「気持ちよさそうだね、ピカチュウ」
サトシの気持ちを察したように、コハルが囁く。
「うん」
「ほかのみんなも寝てるみたい」
コハルの言うとおり、カイリューは大きな樹の幹に、カモネギは大きな岩に、それぞれ背中を預け、目を閉じていた。かたや「お昼寝中」と言わんばかりの穏やかな寝顔、かたや周囲への警戒を怠らないかのようなきりっとした寝顔で、雰囲気はずいぶんと違う。
「ゲンガーはどこかな」
「たぶん、あのへんの影のなかかな」
サトシが指さしたのは、巨木がつくる木影だった。ゲンガーの寝顔が影に浮かんでいるわけではないので、正解かどうかはわからないが、なんとなく〝いる〟ような気がするのだった。
そして、もうひとりは。
「ルカリオは、あれ、
……
寝てる、の?」
「うん、たぶん」
樹の幹に背中を預けている、という点ではカイリューと同様だが、座りこんでいたカイリューと異なるのが、ルカリオは立ったまま、というところだった。立ったままで腕を組み、樹にもたれて目を閉じている。
「眠れてるのかな
……
」
コハルの疑問ももっともで、傍目にはなにかに集中しているようにも見えてしまう。
ふと思い立ち、「ちょっと見てくる」と、ピカチュウを起こさぬようゆっくり立ちあがった。
ぬきあし、さしあし。足音を立てないようにして、草の上をそっと歩く。そうして、サトシが目の前にやってきても、ルカリオはじっと目を閉じたままだ。
顔を覗きこんでみる。きゅっとちいさく結ばれた口元からは、寝言のひとつもこぼれそうにない。
だが、顔の横を見てみれば、気配に敏感な両の房は、どちらも下に垂れたままだった。いつものルカリオならば、他者がここまで接近すれば、必ずなにか反応をするはずだ。
そこで、サトシはそっと手を伸ばしてみた。
ピカチュウのときと同じく、邪魔をしてしまわないように、やさしく触れる。
ルカリオの頭は、ピカチュウとは違う触り心地で、毛並みはすこし硬いけれど、同じくらいあたたかい。
ふと、かれがもっとずっとちいさかった頃を思い出した。生まれたときから一人前然として、なかなか抱っこもさせてくれなかったけれど、朝目が覚めると、いつのまにかサトシにくっついていることがあったのだ。
すやすやと寝息を立てるリオルの顔は穏やかで、そっと触れた頭は、やっぱりとてもあたたかかった。
サトシの脇にちょこんとおさまっていた体は、進化して、もうサトシとほとんど同じ大きさになった。顔つきもいっそう精悍になり、格好よく、頼もしいことこの上ない。だがいま、サトシにおとなしく頭を撫でられるままのかれのことは、なんだか可愛くてしかたがなかった。
いろんな気持ちがサトシの胸に湧きあがり、ふいに溢れそうになった。笑みが自然と深くなる。そのまま、ルカリオの頭をゆっくり撫でた。
ルカリオは微動だにしない。けれど、サトシはふと、かれの周りで、空気がわずかに和らぐのを感じた。
もう一度、顔を覗きこんでみる。
すると、きゅっと結ばれていたはずの口元が、わずかに緩んで、上向いていた。
ぎゅっと抱きつきたくなったのをぐっとこらえて、サトシは来たときと同様に、抜き足差し足で、コハルとピカチュウのもとへと戻るのだった。
「やっぱり、寝てた」
「あれで寝られるんだ
……
」
「なー」
ふたりで顔を見合わせ、苦笑する。と、コハルの視線がルカリオのほうを向いた。
「ルカリオ、気持ちよさそうだったね」
「ん?」
「サトシが撫でてたとき。ここから見ても、なんだかわかったよ。わたしがワンパチを撫でてるときも、ワンパチ、あんな顔してたのかもなぁって思った」
コハルはそう微笑んだ。
「
……
そっかぁ」
コハルに撫でられているとき、ワンパチはいつも、心から幸せそうな顔をしている。最近はサトシにも撫でさせてくれるようになったけれど、やはり、コハルといるときがいちばんいい顔をするのだ。サトシはそのたびに、「ワンパチはコハルが大好きなんだなぁ」としみじみと思ったものだった。
その光景がいま、どうやらコハルのなかで、サトシとルカリオに置き換えられている。
穏やかに垂れたままのルカリオの房が、そのことに頷いているかのようだった。
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