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しちろ
2023-05-07 20:03:02
27890文字
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LOM・連載主人公の短編
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いつかどこかのファ・ディールで
聖剣LOM。男主人公の昔話。pixiv投稿作品。28,000字。
1
2
3
◆三周目◆
「また、夢
……
傷跡
……
治ってる
……
」
いつものベッドで目が覚めた。
日付を確認したいところだが、いつもかけてある場所に暦はない。
他人など気にせず
――
というよりも、ほぼ誰とも会うことなく生きてきたシオンは、カレンダーを初めて訪れたドミナの町で買った。
この日はまだ、ない。だから逆に分かった。
「そうか
……
今日は
……
」
くそ。なぜ、この朝なのだろうか。
当たり前だが、自分にはこれ以前の十数年がある。何の称号も持たない、普通の人間として生きた歳月が。
この朝が来るまでだって自分は普通
……
かどうかはわからないが自分なりに生きてきたし、自分なりにやってきた。目立ったことは何もなかったけれど、それも自分だ。この世界にはただの民草の自分は必要なくて、英雄としてしか要らないとでもいうのだろうか。
――
お前もいずれ、英雄という名の道化になるだろう。
その通りだ、バカ野郎。
胸のうちで大地の顔に毒づいて、シオンは帽子をかぶり、剣を手に取った。
出会った人々も起きた出来事も。
大事な家族も仲間も、彼らと創り上げた思い出も。
全部、まっさらにされて元通り。
季節を先取りした蜻蛉が飛び、蝉が鳴いている。今朝もまた夏だ。
◆女神の泉◆
「あっ」 シオンはある日足を滑らせ、泉に落ちた。
「お、おい! 大丈夫か」
一緒にいたエスカデが、呆れ混じりに泉をのぞき込む。
「貴様は弱いわけでも頭が悪いわけでもないのに、なぜいつも変なところでドジなんだ
……
ん
……
?」
余談だが、シオンは一周目でエスカデに奈落に落ちろされて、やっぱり足を滑らせて穴に落ちたことがある。(しかも情けないことに普通に死にかけた)
ぱああ
……
。
「エスカデ
……
エスカデよ
……
」
「なんだ、お前は
……
泉の女神?」
「あなたが落としたのは、ランプの売り上げをきちんと返した主人公ですか? それともパクった主人公ですか?」
「(多分だが
……
)パクったほう?」
「パクってないし
……
」※しかしこの周回でキレてやります。
「では、あなたが落としたのは、あなたに加勢した主人公ですか? それとも自分には無関係と言い放った冷血な主人公ですか?」
「(たしか
……
)無関係とのたまったほう?」
「(今回は)お前に加勢したし
……
」※しかし四周目でのたまいます。
「あなたが落としたのは、リュミヌーとギルバートを和解させた優しい主人公ですか? それとも、ギルバートを爆破した鬼畜な主人公ですか?」
「(多分だが
……
)爆破したほう?」
「してないし
……
」※イラつき増した五周目でやらかします。
「エスカデ。俺のイメージって何なの?」
「いい加減?」
◆しらべもの◆
シオンはもともと本は好きだった。
マイホームの書斎にはかなりの数の蔵書があり、旅に出る前の彼は暇があれば繰り返し読んだ。
けれど、女神の夢を幾度か見るうち、いつからかあらゆる書物を貪るように読みだした。時に書斎から溢れ、雪崩を起こす書物の山にコロナは怒り、バドは自分も読みたいと騒ぎ立てた。
「師匠! おれにもそれ読ませてよ! 魔法書だろ、上級魔法の!」
シオンが高々掲げた魔法書を、バドがぴょんぴょんジャンプして奪おうと試みる。一見したところあと少しで取れそうなのだが、器用にかわされかすりもしない。
「お前にはまだ早い。魔法の習得に飛び級はない。基礎も完成しないうちに手を出せば、下手すれば命に関わるぞ」
「ケチ! なら、いつならいいんだよ」
いつ、と言われて、師は微妙な顔をした。
「
……
十年後、くらいかな」
「じゅ」
十年後って言ったら、今の師匠より年上なんじゃないの?
一瞬あっけにとられたバドだったが、師はすぐにこう続けた。
「そのかわり、十年後には習得できるよう魔法は教える。七十三年後を待てるのなら、それくらいは待てるだろう」
シオンが言うと、途端にバドの顔が輝いた。
絶対約束だかんな! 手をぶんぶん降り、ようやく書斎を出て行った。
――
十年後
……
。
シオンは手にした魔法書に目を落とし、口の中で呟く。
彼が女神に会うたび、時は巻き戻る。
会わなければいいのではないか? と思ったこともある。けれど、シオンの意志とは無関係に樹は、聖域は彼を呼ぶ。
十年後は来ない。そんな風にシオンは思わない。
十年後、が来なくてはいけないのだ。七十三年後がなければいけないのだ。
だから彼は本を読んだ。調べた。
少しでもいい。未来へつながる手がかりなり、道筋が欲しかった。
なんでもいいから。
なにか、てがかり
……
。
みらいへの
……
。
……
。
「師匠
……
また書斎で寝落ちして
……
」
「シオンさん
……
しっかりしてるようでだらしないんだよね
……
」
◆蔵書◆
「師匠の書斎すげー! 宝の山じゃん!」
「魔法書もある。読みたい本は好きに読んだらいい。ただ」
「?」
「
……
この本だけは絶対開くなよ」
「は、はい(こわっ!)」
◆禁断の書◆
「ダメと言われたら見たくなるのが人の常と言いますか
……
」
決して開かぬよう師に厳命された書は、厳重に封印がされている。
強力な魔法で封印された上から、さらに最強の封印
――
もとい、師匠からの愛のメッセージ『見たら断崖喉輪地獄落としの刑』
殺意しかない技名に、師の鬼畜っぷりと本気が感じられる。
「止めなよバド~! 」
「まさかのえっちな本とか
……
そーっと」
止めるコロナをよそに、バドは禁断の書をそっと抜き取ろうとした。
「バド」
「はいぃ!」
氷のような声に、バドは文字通り身をすくませた。バレた。
「やっぱりな。お前に魔法の勉強は早そうだ」
「師匠! わかってて試したのかよ! イジワル!」
「実際に約束破っただろう。それに、その本はその棚から動かせないんだ」
「どういうことですか?」
「何度捨てても戻ってくる」
「ぎゃあああ!」
「ちょっとシオンさん、冗談止めてよ!」
「冗談じゃない。手に入れた覚えもないのにいつの間にか蔵書に加わっていて、何度も手放そうとしたけど、その度帰ってくる。魔力が強すぎて他の誰かが扱える代物でもないし、仕方なくそのまま保管している。まあ、開きさえしなければただの本だよ」
「あの、もし、開いたら
……
?」
「地獄が待ってる」
「ぎゃあああ!」
「好奇心はけっこうだが、分を弁えなければ時に身を滅ぼす。大魔法使いになりたいならよく覚えておけよ。俺は無意味に犠牲者は出したくないんだ」
◆ともに歩く賢人◆
シオンは空気のような少年だった。
いつか旅立つ少女が太陽のように輝く魅力の持ち主なら、彼は朔に近づく月か、いっそ路傍の草花か風のようだった。いても誰もあまり気に留めないし、彼そっちのけで話を進めてしまう。それでいて、一度目に留まると吸い込まれて離せなくなるような、不思議な雰囲気を持っていた。
天使がいるならこんな感じかも。
彼は美しかった。
精霊に囲まれフルートを吹く師を見て、弟子はそんな風に思った。
だが。
「バド
……
今度はお前、何をしでかした
……
」
「ひいいい! 鬼ーーー!」
時を経て世の理不尽さと世知辛さを嫌というほど知り、地獄を味わったシオンは完全にスレた。
悪魔が来たりて笛を吹く。
精霊に囲まれ、フルートを吹く師を見て弟子は思った。
黒ミサか悪魔召喚にしか見えない。
無口で淡泊な性格は変わらなかったが、ひとたび喋れば口は悪いし、態度は悪いし、手段は選ばなくなった。救いを求める手は決して離さなかった一方で、大人しげな印象に騙された愚か者は無慈悲な刃の錆になった。
自らの目的を果たすため。そのために、生き残るため。彼は剣を握りしめ、ひたすらに走り、戦った。
「もし生きたまま奈落に行けるとしたら、行ってみたいかい?」
「んぐ んま ぐまー ま?」
「ぐ、ぐげ
……
!」
…………
「とまあ、冗談はこれくらいにしておいて」
鳥の賢人はパタパタと羽根で顔を仰ぐ。
よくも、これだけ罵倒しておいて
……
。
アナグマ語でありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてくれた賢人様を、シオンは心の中で苦々しく思っていた。この鳥人間
……
すました面して、放送コードに引っかかるようなことばかり言ってくれて。
「それにしてもシオン。最近キミ、ますます素行が悪いね。今もランプの売り上げパクったろう」
「できることは全部試しているだけだ。人々の模範でいろなんて言われた覚えはないし、いつまでもそんないい子でいられるか、バカバカし
……
」
言いながら、シオンが片眉を上げた。
……
最近?
「ふふ」
◆
「俺と女神だけかと思っていた」
大地に突き立てた剣の柄に行儀悪く手のひらと顎を乗せ、シオンはむっつりと云う。
誰にも何も言われないから考えもしなかったが、マナの七賢人は女神に連なる者たちだ。これまでの記憶があっておかしくない。
「今まで黙っててごめんネ」
「むしろ知りたくなかった」
賢人とか、シオンからすれば面倒くさいのしかいない。特にこの鳥。
ちなみに、その辺の草人たちもボクたちと一緒だよ、とポキールは笑顔で暴露した。だとしたら、記憶のあるやつけっこういるじゃないか。草人とは言えど。
「そろそろまた、聖域に行くのかい?」
彼がいま手にしているのはいつもの大剣ではない。二対の翼が生えた剣。聖剣。
シオンは聖剣の柄を取ると、ブリキの剣にでもするかのように、ひょいと持ち上げた。下手したら宙にでも放り投げそうな雰囲気だ。
「そう。先伸ばしにしていたけどもう限界。何度目だったかな。出迎えはいらないよ」
「そこはお気になさらず。仕事だからね」
「顧客が嫌だと言っているんです」
そもそも賢人って職業なのかよ、とシオンは呆れ混じりの顔をする。
「ボクが賢人業なら、キミはさしずめ英雄業かな」
「バカバカしい」
この状況から抜け出したいと思いながら、目下のところ、決められた演目を定められた配役通りに演じているに過ぎない。女神の意志に逆らうことができない。ただの道化だ。
「
……
シオン、キミは責任を感じすぎだよ。自分で自分を追い込んでいる」
「別に、そんなことないけど」
いつになく俗っぽい賢人の言葉に、シオンは言う。
「俺はそんな殊勝な性格じゃない。ずっと覗き見していたのなら知っているだろ」
「覗き見って人聞きの悪い。キミは前から少しも変わっちゃいないよ。いつも人のことばかりで自分は後回しだ」
「どこがだよ」
すっかりひねくれたし、他人からは可愛げがないとしょっちゅう言われる。かといってあの頃の、人を疑うことなど知らないのんきな自分に戻りたいかと言われれば、その方がぞっとする。
「シオン。キミは自分を縛りすぎている。もっと自由でいていいんだよ。たとえ」
「『キミが世界を破壊しつくしたとしても、ボクはキミを祝福する』だろう?」
シオンはあくまで冷ややかだ。
「世界ならもう壊した。これ以上、俺はそんなの望んでない。普通に明日を迎えて、弟子の成長なり結婚なり見届けて、歳食って死にたいだけだ」
樹に登るたび、空一面が薄紅色に染まる。
自分はただ、その次の日を迎えたいだけだ。
双子に、仲間に、自分が失わせてしまった未来を返してやりたいだけ。
「
……
キミはやっぱり、真面目過ぎるね」
ポキールが軽く首を振った。やはり今日の彼は賢人とは遠い気がする。
「シオン。キミ、オオカミ少年でいるのもほどほどにするべきだよ」
「嘘なんかついてない」
「ならば聞こうか。キミの言う明日に、キミ自身は含まれているのか」
「ビジョンなら今言っただろ」
「本当に?」
「そうだよ」
ポキールがこれみよがしに嘆息した。
「嘘つきだねえ、本当に。将来、好きな女の子でもできたときに困るよ、そんなんじゃ」
「はあ?」
そんな暇があるか。
「キミ、きっと、好きな子に意地悪言って泣かせるタイプだろう。そんなんだからモテないんだよ」
「余計なお世話だよ。別にモテたいとも思ってないし」
「そんな、嘆かわしい。キミみたいに若い者が」
「ナイフ投げてやろうか」
「いやいや、冗談だよ」
シオンでは本当にやりかねない。
ぱたぱたと手を仰いだ賢人は、ふと表情を改める。
聖剣を手にした少年は、軽口を叩きながらもどこか思い詰めて見える。
「シオン、キミがやろうとしていることは贖罪だ。誰よりも強く光を求めながら、キミ自身は闇の深淵と自分の犯した罪しか見つめていない。正しくは罪ではなく、キミ自身が罪だと思いこんでいるものだ。けれどキミの行いを誰も罪だなんて思っていない。キミ以外は」
「それは、みんなが俺のしたことを知らないからだよ。それに
……
悪いことをした、なんて思ってはいないよ。今でも」
「
……
」
「でも、結果は間違ってた。全部、俺が奪ってしまった。涙を取り戻した珠魅の未来も、寺院のこれからも、甦った竜も、弟子の夢見る七十三年後とやらも」
シオンは遠い目をする。その向こうには女神の領域
――
マナの聖域がある。
「もう、わからない。過ちだったのかどうかも分からない。でも、間違えたんだと思う」
初めて女神に会った日。
シオンは剣を抜かなかった。
かわりに、嘆く女神の手を取った。
半分のあなたも世界だ。だからともに歩こうと、話をした。
物ではなく心を見るアーティファクト使いの少年には、怒れる闇の女神は、誰にも理解されぬまま孤独に泣く、小さな少女に見えた。
「
……
闇の女神を斬れなかった俺は、弱かったのかな」
「ボクは、キミほど優しい選択をした子は見たことはないよ」
ポキールはシオンに対して、ほかの者にはよく言うように、自分を許し、心を開けなどと言う気はない。シオンはその場面をさんざん見てきているし、同時に自分に向けられた言葉であることも理解はしているから。けれど、本人にその言葉を受け入れる気がない限りは、言葉は何の力も持たない。
「シオン、キミはキミが思うよりずっと、皆に慕われている。キミに手を差し伸べたいと思う人たちがいる。キミはそれを知らなくては。信頼する人に弱さを見せないのは強さなどではないよ。それはキミの弱さだ」
シオンは答えなかった。彼は聡い。このことも、おそらく言われなくても分かっている。
彼の柄を握る手には、知らず力がこもっていた。
「救われれば、みんな、未来の話をする。これから何をしようか、どう生きようか。なにになろうか。そんな未来はない、そんな日は来ない
……
そんなことは、思いたくないんだ。同じ朝が来たあの日から、今でもずっと
……
」
少年は、冷たい仮面の下に激しい感情を隠している。
隠さなければ、何度も涙など流せない。死ぬ運命の人間を選べない。竜殺しなどできない。ましてや、無抵抗の者たちを手にかけることなどできるわけがない。
気が狂いそうになる時のなかで、今の彼を奮い立たせているのは皮肉なことに、強烈な目的意識と罪悪感と負の感情だ。きっとシオンは失ったものを取り戻すまで、自分を赦せる日は来ないだろう。自分を赦せぬ者は人を頼ることができない。たった一人で抗うことしかできない。
けれど、人はそこまで強くない。それでは、いつか彼自身が潰れてしまう。
「シオン」
賢人が呼ぶ。
「キミ自身に望みはないのかい?」
人のことなど考えない。彼だけの望み。
……
そんなものが、あるわけは。
いくら考えてもシオンにはちっとも思いつかなかったが、
「いつだったか
……
」
ふと、口にしていた。
「
……
誰かと約束をしたはずなんだ」
そう、約束をした。
あれは、いつだっただろう。
自分は誰かに会った。会って、話をした。
あの日、自分が会ったのは
……
『彼女』はいったい、誰だっただろう。
「大したことじゃなかった気がする。忘れてはいけないことだった気もする。だけどそれがなんなのか、どうしても思い出せない」
めずらしく、ひどく困惑してる少年に、ポキールが微笑した。
「なら、シオン。キミがそれを思い出せるまで、ボクは付き合うとしようか」
「
……
それこそ、冗談じゃない」
これ以上、あんたに付きまとわれるなんてうんざりだ。
いつもの彼に戻ると、シオンは二対の翼が生えた剣を鞘から引き抜いた。
研ぎ澄まされた刀身を天高く掲げ、聖域の扉を開く。切り裂かれた次元の先に、マナの樹が姿を見せる。
今日は、薄紅色の綿毛が飛ぶにふさわしい春。
剣はまだ、錆びついてはいない。
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