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Hizuki
2018-10-06 22:03:55
8915文字
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甘い紅茶を苦くして、消した心に炎を灯す
【グラブル】パーグラ。艇を降りることになったパーシヴァルの話。捏造だらけ。前半暗めだけどちゃんとハッピーエンド。嘘つきの僕が吐いた反対の言葉。
1
2
待ち合わせ場所に指定されていたのは街の広場だった。
流石に要人を待たせるわけにはいかないと約束の時間よりも早めに向かい、現地で待機していると、背中から声をかけられた。
「護衛を引き受けてくれた騎空団というのはお前達だな?」
「あ、はい、僕達で
…
!?」
耳に届いた声。
振り返った視界に入った赤い姿に、思わずぽかんと口を開けて固まってしまった。
「パーシヴァルさん!?じゃなくて、えっと
…
パーシヴァル陛下
…
?」
「今まで通りで構わん」
慌てて名を呼び直したルリアにパーシヴァルが笑う。
その身一つで現れた依頼人は、彼のために仕立てられたであろう黒のスーツを纏っていた。
「久し振りだな。依頼先はよろず屋に一任していたが、まさかお前達だとは思わなかった」
…
昨日のランスロットとヴェインの反応はそういうことか。
そもそも2人はこの国の騎士団長と副団長だ。
国の警備なども仕事である以上、要人の訪問に関する情報が知らされていないはずがない。
当然パーシヴァルが来ることも知っていたはず。
そして本人が『依頼先はよろず屋に一任していた』と言う中、『僕達にしか頼めないこと』として持ち込まれた依頼。
何故、それを僕達に。
「早速だが、これが今回滞在中の日程だ。任せたぞ」
色々考えながら固まっている僕に1枚の紙が差し出される。
はっと我に返り受け取った紙に目を通す。
カール王への謁見から始まり、騎士団や城下町の視察、国の官職との会談など今日から明日に渡る大体の予定が書かれていた。
それをしまうと、気合を入れるために顔を両手で軽く叩く。
これは僕達騎空団への依頼なんだ。
よく知る相手ではあれど、個人的な感情に揺さぶられているわけにはいかないのだから。
「1日ご苦労だったな。明日も頼むぞ」
「はい!任せてください!」
今日の予定を一通り終え、城内の客室に送り届けた頃にはもう空に月が浮かんでいた。
パーシヴァルにとっても縁のあるこの国で、各所で弾んだ話はそう簡単に尽きるものではなかった。
白竜騎士団の力添えもあり、何事もなく過ぎた1日にほっと息を吐いた。
まだ依頼は明日も続く。
しっかり身体を休めてもう1日頑張らなくては、と大きく息を吸い込んで気を引き締めた。
「それじゃあこれで
…
」
「ああ、そうだ。明日の予定に少しばかり変更がある。団長だけ残ってもらえるか」
部屋を後にしようとしたところで呼び止められる。
しかも僕だけ。
「じゃあオイラ達は先に宿に戻ってるぜ」
扉が閉まる音がして、ルリアとビィの気配が遠くなっていく。
予定の変更と言われれば、ルリア達への連絡もあるし、聞かざるを得ない。
この部屋には僕とパーシヴァルの2人だけ。
脱いだジャケットをハンガーにかけ、締めていた緋色のネクタイを緩める。
最後に2人きりになったのは、別れを告げたあの日。
依頼の内容の話だと理解してはいても、どうして接していいのか分からない。
「
…
こんな形で再会することになるとはな」
そう言ってパーシヴァルはローテーブルの横に準備されていたティーセットに手を伸ばした。
ゆったりした動きの彼とは逆に、できる限り早くみんなの所に戻りたくて用件を促す。
「えっと、変更っていうのは
…
」
「予定に変更はない」
「え?」
変更があるから僕を呼び止めたんじゃ、と戸惑う僕をよそに、パーシヴァルは見慣れた手つきでポットの中身をカップに注いでいく。
艇の部屋で何度も見た光景。
カップから立ち昇る湯気、ふわりと広がる紅茶の香り。
「ただ、お前と話がしたかった」
カップはソーサーに乗せられて、テーブルの上に。
そして紅茶に添えられた2個の角砂糖は、僕とパーシヴァルが共に時間を過ごしていた時のお決まりのもので。
初めてパーシヴァルが部屋で紅茶を淹れてくれた時、苦いと洩らした僕に出してくれたもの。
それ以降必ず僕の紅茶には角砂糖が用意されるようになって。
…
あの最後の日も。
「俺が艇を離れてからのことを教えてくれ、グラン。何があって、お前がどうしたのか」
僕の名を呼ぶ声。
砂糖のない同じ紅茶をもう1杯用意すると、ソファに腰を下ろして僕の方を見た。
穏やかな視線が向けられている。
まるでそれは、恋人として過ごしていた時のような。
もう関係は終わったのに、終わらせたはずなのに、望みながら拒んだ想い人にそう請われて。
…
抗うことなんてできなかった。
パーシヴァルの左隣に座ってこの依頼を受けるまでのことを話すと、彼は満足そうに頷いた。
「なるほど
…
俺のところにもお前達の名前は聞こえていたからな」
最初こそどう話したものかと言葉を選んでいたものの、いつの間にか普段通りに話せるようになっていた。
話しやすいように話せばいいと促してくれた部分もある。
「しかし
…
随分な振り方をしてくれたものだ」
背もたれに身を預け、懐かしむようにパーシヴァルがそう続けた。
艇で話をした時のような重い空気はない。
「いきなりあんな振り方をしたんだ。何か理由があるのだろう?」
そりゃ突然別れるなんて言われたら、理由を問いたくもなる。
僕だってそうだ。
けれど、あの場でパーシヴァルから追求されることはなかった。
「
…
パーシヴァルが王になるからだよ」
昨日2人に話をしたおかげもあるのだろう、すんなりと言葉は零れた。
ずっと話し詰めで乾いた口を潤すためにカップを口に運ぶ。
ほどよくぬるくなった温度がちょうどよかった。
砂糖を溶かした紅茶はまだ少し苦い。
「
…
どういうことだ?」
パーシヴァルが目を丸くしてこちらを見る。
ふっと顔を逸らすと手にしているカップの中身に視線を落とした。
表面には部屋の内装が映っている。
「だって王になるんだよ?なってからの方が大変だろうし、当然跡継ぎだって要る」
どうしたらいいのか分からなかった。
歓迎ムードの中、誰かに話すこともできず僕はただ迷い続けて。
2人以外にももう1人話せる人はいたけれど、ちょうどその時は別の依頼で艇にはいなかった。
その結果、一方的に告げる形でパーシヴァルと別れるという選択肢を選んだ。
「なのに僕が、繋ぎ止めるなんて、できるわけないじゃないか
…
」
もっといい言い方だってあったはず。
だけど、そこまで考えられるほど当時の僕は余裕がなかった。
残ったのは後悔だけ。
片っ端から依頼を受けて空を駆け回っていたのは、余計なことを考えないように、考える時間を作らないようにするため。
何人かに問われはしたものの、誰にも理由は話していない。
少しだけ視線を隣に移せば、口元を覆い考え込む姿があった。
「
…
本当にそれだけの理由なのか?他に想い人がいるのでもなく?」
本心を確かめるようにかけられる問い。
ソーサーに戻したカップが小さく音を立てる。
別れの言葉を口にした時、決めたことが揺らがないように感情はできるだけ抑えた。
態度が途端に変われば、きっと向こうから離れていってくれる。
艇を降りてしまえば、きっと忙しさで僕のことなんか忘れてくれる。
そう思っていたから。
「
…
いるわけないじゃん、パーシヴァル以上に好きな人なんて」
2人きりの部屋では呟くような声でも聞き逃されるはずはない。
離れてみて、もう一度顔を合わせて、言葉にして、どれほどこの人のことが好きなのか改めて思い知らされた。
部屋に吊るされているシャンデリアの光が滲み始める。
「他の人を好きになろうとしてみたことだってある
…
でも、ダメだったんだ」
誰でもいい、とまでは言わないけれど、せめて忘れられればいいと思った。
依頼をこなしていれば感謝と共に好意を寄せられることもあった。
各地を駆け回る中で仲間達の初めて見た一面に惹かれそうになることもあった。
けれど、心の中にはいつだってこの人がいて。
顔を見られたくなくてソファから立ち上がる。
歩み寄った庭を一望できる大きな窓ガラスには、苦い顔の自分が映っている。
「僕の心は、パーシヴァルにしか渡せないんだって気付いちゃった」
炎は消したはず、だった。
もう一度灯されてしまえば、消せるはずがない。
「
…
だから、待つことにするよ」
留めきれなくなった感情の雫が溢れて頬を伝っていく。
声が震える。
笑いたいのにうまく笑えない。
「待つくらいなら、いいよね
…
?」
最初で最後の想い人。
勝手だと分かっていても、もしも許されるのならば待たせてほしい。
彼が手にした大切なものを信頼できる誰かに託し、僕の元に戻ってきてくれる時まで。
例えそれがいつになるのか分からないのだとしても。
「
…
馬鹿者が」
深く吐き出された溜め息と、呆れの混じった声。
足音が近付いてきて、背中から腕を回される。
急に触れられてびくりと肩が跳ねた。
一気に心臓の音が速くなる。
「お前の様子がおかしかったのは部屋に来た時に気付いてはいたんだ」
ちゃんといつも通りに部屋に行ったつもりだったのに、気付かれていたとは。
いやでも自分でも分かるくらいには緊張していたのだから、パーシヴァルには筒抜けだったのだろう。
隠し切るのならもっとうまくやるべきだった。
「あの状態では聞いたところで何も答えないだろうと思ったからこちらも何も言わなかったが
…
それならそうと何故言わなかった」
「だって
…
」
「降りることに変わりはないが、言ってくれていたならあんな別れ方をせずとも済んだものを
…
」
身体の向きを変えさせられると、赤茶の瞳が真っ直ぐ僕の姿を捉えている。
もう一つのカップに注がれた紅茶のような色。
パーシヴァルの親指が雫の跡を拭う。
「
…
ごめんなさい」
僕が謝るのとほぼ同時に、視界は赤に覆われる。
立場は変わっても、変わらない温もりと香水の匂いに心が満たされていく。
「
…
よかった。俺といることが本当に嫌になったというわけではなかったのだな」
一度手放した僕から伸ばしてもいいのかと躊躇う手が震える。
恐る恐る背中に腕を回せば、より一層パーシヴァルから力を込められる。
回された腕から伝わる力は痛いくらいで。
…
ああ、パーシヴァルだ。
ずっと僕が望んでいた人。
「この先お前が空の旅を終えたのなら、俺の元へ来い」
「
…
いつになるか分からないよ?」
「構わん。お前のための席を用意してある」
それはいつか言っていた家臣の席なのだろうか。
あるいはまた別の何かなのか。
今はまだ知らなくてもいい。
「お前が待つというのなら、俺もお前を待とう」
どちらが早いのか、未来のことは分からない。
確かなのは、また互いの隣に立つ日が来るということ。
「
…
あんなこと言ったのに、僕のこと嫌いになってないの
…
?」
ふっと不安が心に過る。
少しだけ身体を離すと、もう一度真っ直ぐに目を合わされる。
言葉の前からこちらを見つめる瞳が想いを語る。
「いいか、グラン。王になろうとも、俺の心はお前と共にある」
炎が強くなる。
激しいけれど優しくて、あたたかい炎。
「忘れるな。二度はないぞ」
「
…
絶対言わない」
自分の心のままに、もう一度彼の手を取った。
譲り先を見つけられなかった想いを素直に言葉に乗せる。
ただ一人の伝えたい人に。
「愛してるよ、パーシヴァル」
冷え切った苦い紅茶は空になった。
新しい炎で暖められた2杯目の紅茶は、きっと甘い。
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