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Hizuki
2018-10-06 22:03:55
8915文字
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甘い紅茶を苦くして、消した心に炎を灯す
【グラブル】パーグラ。艇を降りることになったパーシヴァルの話。捏造だらけ。前半暗めだけどちゃんとハッピーエンド。嘘つきの僕が吐いた反対の言葉。
1
2
「今まで世話になった」
「国が落ち着いたら遊びに行くぜ!」
「ああ、その時は歓迎しよう。ではな」
「また会いましょうね、パーシヴァルさん!」
パーシヴァルが艇を降りることになった。
自らが理想とする国の王になるために。
―
だから僕は、パーシヴァルに別れを告げた。
僕達の関係をごく一般的な言葉で表すとするならば、いわゆる恋人同士というものだった。
明後日以降の依頼に出てもらうパーティの編成や騎空団の団長としてやるべきことを終え、向かう先は彼の部屋。
彼が座る椅子の向かい側、ベッドの端に腰掛ける。
室内はもうすっかり片付いていて、ごく僅かな荷物と愛用の剣だけになっていた。
僕が来る頃を見計らって準備されていたティーポットからはいつもの紅茶の香りがする。
それを注がれたカップはソーサーに乗せられ、角砂糖が2個添えられていた。
中に砂糖を沈めればほろほろと崩れていく。
緊張で乾く口を宥めるように飲み進めるペースは速かった。
「
…
パーシヴァル、 」
ベッドサイドにカップを置いてようやくその言葉を口にできたのは、中身が半分を切った頃。
声は震えていたような気がする。
「グラン、今何と
…
」
「
…
別れようって、言ったんだよ」
確かめるように聞き返される声。
彼の方を見れば信じられないというように見開かれた目と視線が重なる。
「もう隣には、いられない」
視線を真っ直ぐには受け止められず、床へと逸らした。
合わせていたら覚悟が揺らいでしまう気がした。
「本気で言っているのか」
「
…
うん、本気」
肩を掴まれ、身体の向きを変えられる。
込められた力に顔が強張るのが分かった。
余計なことを言ってしまわないように、最低限の言葉を選ぶ。
「
…
そうか。ならば、その意思を尊重しよう、団長」
小さく吐かれた息と同時に肩を解放される。
低い声と名前以外の呼び方に心がズキンと痛む。
そう仕向けたのは僕自身なのに。
カップに残っていた冷めた紅茶を飲み干して部屋を出た。
この部屋を訪れるのは今日が最後。
明日の夜にはもう艇に彼の姿はない。
口の中に残る砂糖入りの紅茶の味は酷く苦かった。
進んでいく足取りに迷いはない。
元々自らの理想のために歩いてきた人だ。
その道がたまたま僕の道と重なっていただけで。
いつか彼が艇から降りるということは、最初から決まっていたことで。
それでも彼は僕を望んでくれて、同じように僕も彼の隣にいることを望んだ。
けれど、進む彼の足枷にはなりたくなかった。
赤い後ろ姿が徐々に遠く、小さくなっていく。
見送りに出ていた仲間達も各々甲板から動き始めた。
「パーシヴァルさん、行っちゃいましたね」
「トサカの兄ちゃんの国、楽しみだよな。なっ、グラン」
「
…
うん」
ふわりと漂ってきた甘酸っぱい香り。
それは彼の好物で作ったタルトの香りで。
太陽は最も高い位置を過ぎ、小腹が空いてくる頃。
厨房を取り仕切る仲間が餞別にと彼に持たせたものが今日のメニューだった。
「あっ、そろそろおやつの時間ですよ。行きましょう」
「
…
僕はもう少しここにいるよ」
「分かりました。グランの分取っておきますね」
歩いていった方向を見つめる。
もう姿は完全に見えなくなってしまった。
だけどまだ動く気にはなれなくて。
自分の心に嘘を吐いて、彼の手を離した。
ただ行き場のない想いだけが、伏せた目から雫となって零れていった。
まるで、僅かに残っている炎を鎮める水のように。
「
…
よかったんだ、これで」
自分に言い聞かせるように口にした言葉を聞く者は他に誰もいなかった。
その日の目覚ましは激しく窓を打ち付ける雨の音だった。
バケツをひっくり返したようなどしゃ降りの雨。
身体が重いのは連日の依頼に加えて、この天気に引きずられているせいもあるのだろう。
どうにか無理矢理に身体を起こした。
雨の日にできることはそう多くもなく、そろそろ報酬を受け取りに行くために溜め込んでいた依頼の報告書をまとめることくらいしかなかった。
昼食を挟んでどうにか全てを終わらせて、みんなと今後の予定を話し合う。
そんな中、予想しない客人が艇を訪れたのは、雨が落ち着いてきた夕方のことだった。
「実は団長さん達にしかお願いできない依頼がありまして~
…
」
訪ねてきたシェロカルテの話を聞けば、近々とある国の要人がフェードラッヘを訪問するのだという。
その要人の護衛を頼みたい、というものだった。
一体誰かと問うも、守秘義務があるから答えられないの一点張り。
何か裏があるのかと考えてみても、短時間で答えが出るわけもなかった。
そもそもシェロカルテを通して依頼が来ている以上、ちゃんと身元は保証されているに違いない。
どこの誰なのか、それくらいは聞かせてくれてもと思わなくもないけれど、逆に要人であるからこそ明かせないこともあるのだろう。
「
…
分かった、僕達で引き受けるよ」
「ありがとうございます~」
空模様はよくなってきたとはいえ、この悪天候の中わざわざ僕達を指名して持ち込んでくれたこと、他でもない、いつもお世話になっているよろず屋からの依頼を断る理由はなかった。
それに、場所がフェードラッヘである以上、一時的に帰国命令が下って戻っているランスロットやヴェインにもきっと会える。
そう考えれば悪い話ではない。
こうして僕達は航路をフェードラッヘに向けた。
艇を港に泊めると、仲間達には休暇の指示を出した。
先方が多人数を望まないとのことで、僕とルリアとビィで依頼に当たることにした。
フェードラッヘには白竜騎士団もあるし、大丈夫だろうと踏んで。
街に降り立ち辺りを見回す。
まずはシェロカルテと合流して簡単な説明を受ける手筈になっていた。
いつものハーヴィン族の姿を探していると、聞き慣れた声が遠くから聞こえる。
「おーい、グランー!」
「ヴェイン!それにランスロットも!」
「久し振りだな、グラン」
出迎えてくれたのは国に戻っていたランスロットとヴェインで、自然と表情も緩んだ。
白竜騎士団の団長と副団長自らが来てくれるとは思いもしなかった。
話を聞けば、シェロカルテはもう王都の方にいるとのことで、2人は僕らの案内役を買って出てくれたのだという。
要人の護衛という部分も関係しているのだろう。
「まぁ俺らが早くグラン達に会いたかったっていうのもあるんだけどな!」
そう言って笑うヴェインに先導されて、王都までの道を進む。
確か初めてフェードラッヘに来た時はヴェインが先頭を進んで迷子になったんだったっけ。
懐かしい記憶を口にすれば、そろそろその話は忘れてくれって、と情けない声が聞こえる。
笑いも零れる道中は至って平和で、あっという間に王都に到着した。
案内された街中のとある宿屋のロビーで、シェロカルテが出迎えてくれた。
僕達の滞在期間中の宿として押さえてくれていたのだという。
通された部屋で依頼の内容を改めて聞き、待ち合わせの場所と時間を確認する。
ダメ元でもう一度聞いてみたけれど、どこの誰なのか、ということはやはり教えてはもらえなかった。
いや、どんな人だろうと依頼なら僕達はそれをこなすだけ。
要人の到着は2日後の朝とのこと。
明日1日は自由行動にして、明後日に備えることになった。
そして久し振りに仲間と顔を合わせるとなれば、互いの近況報告を、となるのは自然な流れだった。
翌日の夕方、騎士団で最後の打ち合わせがあるという2人を待ってから宿屋の近くの食堂に向かった。
2人は大規模な演習があるとのことで国に戻った。
そこに立て続けに来客の予定が重なって今に至っている、と。
食事を済ませて話が一段落したところでルリアとビィは先に宿屋に戻ると言った。
そう宿屋まで遠くないとはいえそのまま見送ることはできず、部屋まで送り届けてから店に戻った。
空になったグラスは出る前に注文していったココアのカップに変わっていた。
「パーさんのこと、引き止めなかったんだな」
「
…
うん」
話は自然とかつて艇にいた仲間のことへと移っていく。
ヴェインの口から出た懐かしい呼び名に大きなカップを持つ手が僅かに震えた。
かつて同じ騎士団にいた2人の元に話が届いていないはずはない。
「っていうか
…
別れたんだ」
「え!?」
2人の動きがピタリと止まる。
僕達の関係を知っているからこそ、ありのままに告げた。
たっぷりと間を開けて、そうか、とランスロットが頷く。
「本当は、行ってほしくなかったよ。
…
でもさ、言えなかったんだ。行かないでって。だから
…
」
あの日から誰にも話したことのない気持ち。
たった一言が言えなかった。
代わりに告げたのは自分からの拒絶。
一度零れてしまえば、心は止まらなかった。
「だってそれがパーシヴァルの夢だったんだから。その夢を僕だけのわがままで遮るなんて
…
できないよ」
「
…
気持ちは分かる。あいつが騎士団を抜けるって言った時、俺もできなかったから」
目を伏せたランスロットが小さく息を吐いた。
黒竜騎士団が解体されて、白竜騎士団に再編成された時のこと。
その話は双方から聞いている。
「だけど、あの時、ちゃんと話せばよかったって思うんだ」
こんな話を一体誰にできるだろう。
僕達の関係を知っている2人だからこそ、話せたこと。
「そうしたら、こんな辛い思いなんてしなくて済んだのかな、って」
例え無理だと分かっていたとしても、正直な言葉をぶつけていたのなら。
別れを切り出した時のパーシヴァルの顔が浮かんでは消える。
驚きが悲しみに変わり、低く紡がれた声。
視界がじわりと滲む。
「
…
ごめん。せっかく久し振りに会えたのに暗い話で」
僕を励ますようにヴェインが髪の毛をかき混ぜる。
落ちそうになる涙を閉じた目の中に逃がした。
「気にするな。そういえばグラン達は依頼でフェードラッヘに来たんだったよな」
「うん、そう。要人の護衛をしてほしいって」
「
…
なるほどな」
もう知っているだろうことを確認されると、2人が顔を見合わせて笑う。
何か変なことでも言っただろうか。
―
…
そして、僕は2人の笑みの意味を翌日知ることになる。
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