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Dr.ギャップ
2023-03-15 17:45:42
8125文字
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利き短歌企画振り返り作文(付け句の部&連作の部)
2022年末~2023年春に開催した利き短歌企画の振り返り作文です。
作者当ての際に「推理の理由」として投稿しなかった推理メモの一部も合わせて公開します。
推理メモは作者がまったくわからない状態の手探りで好き勝手書いていますので、お目こぼしいただける方だけお読みください。
付け句の部:
https://privatter.net/p/9691054
連作の部:
https://privatter.net/p/9730753
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連作の部 はみ出し感想文
文字数の都合で結果レポートの「この連作のここが好き!」に収めきれなかった感想たちです。
(※他の方からお寄せいただいた感想や推理コメントは全文掲載しております)
池田いくら 様「楽園候補地」
【血族の屍衣としてある城壁に生者が射った火急の一矢】
〈屍衣〉は死者に着せる衣のこと。イデアの血族で屍衣をまとうような人物というとオルトくんが思い浮かびますが、〈血族〉という言い回しからは「特定の誰か」というよりも先祖代々というニュアンスを感じます。“私”に連なる、すでに死者となった先祖たちが連綿と城壁の中
――
嘆きの島に囚われているイメージ。城壁は城を守るためのものですが、死んでしまった者たちを守り安寧を与えてくれる場所かというと頷き切れない気持ちがあって、また一首前のイメージからも「囚われている」という印象を持ちました。
“私”も一族の一人であり、〈生者〉ではなく〈死者〉に近い存在としてある。〈城壁〉が〈一矢〉から壊されようとしているのを“私”はどんな思いで見ているのだろうと思うと、果てしない気持ちになります。
〈火急〉は事態が差し迫っていることを示す語ですが、〈火急の一矢〉という連語になることで火矢のイメージを持ちました。固く沈黙する城壁に対し、鋭く鮮やかな生者のアクション。火矢といえばでルーク先輩を思い出し、イメージの鮮烈さがいっそう深まるようでした。
【英雄でいたかったんだ格子窓すり抜けてきた風去っていく】
英雄になりたかったのではなく〈いたかった〉というところを痛切に感じます。一度は英雄であった。けれどそうありつづけることはできなかった。今の“私”は格子窓がはめられるような閉鎖的な場所にいて、英雄はおろか風のような自由さすら持っておらず、やってきた風すら去っていく。淡々とした語調の一首を読み進めるごとに切なさが募っていきました。
【風が髪煽る中庭 監獄が広がっただけとも言えるけど】
一首前の〈英雄で〉と対比になっているのかなと思います。格子窓がはめられた監獄(のような場所)から出て中庭にいる。去っていった風もここには吹く。ただしはっきりと対比になっているわけではなく、この中庭もまた監獄のうちである
――
一首目の〈頭の揺れにしたがう青い火〉=頭髪だと読んでいるのですが、イデアにとって髪の毛は呪われた血筋の証なので、この歌の〈風が髪煽る中庭〉も単に解放を示すとは言えないのではないか、いや髪が呪いと束縛の象徴だからこそ〈風が髪煽る〉は一種の解放をイメージさせるのでは、などと考えているのですが、どうにせよ〈監獄が広がっただけとも言えるけど〉の、まだ囚われているとも解放だとも言い切れない、揺れる様子が心に引っかかって何度も読み返してしまいます。
卒業したらS.T.Y.X.に戻ることが決まっているのであればイデアにとってNRCは監獄の延長線上にあるモラトリアムにしか過ぎない。けれど本当にS.T.Y.X.に戻る以外の道はないのか
……
というのを六章後ずっと頭の中でこねている身には非常に刺さる一首でした。〈監獄が広がっただけとも言えるけど〉の〈けど〉を、こう、揺らしていきたい気持ちです
……
室城 様「水に焦がれて」
【別に雪も降らない街で焼けたままの肌こんなにも水に焦がれて】
冬が来て、屋外では泳げなくなって、けれど雪も降らない。この街の冬に水気はない。けれどあの夏に焼けた肌は夏を、水を覚えている。
〈焼けたままの肌こんなにも水に焦がれて〉が、意外だけど納得感のあるキラーフレーズでした。「意外だけど納得感がある」手触りの短歌をどうにも好きになってしまいます。
山と森と街 様「橋を渡る」
【おいしい水 それ以上以下でもなくておいしいだけを光に透かす】
軽やかな雰囲気と強い納得感、水(おそらくはペットボトルに入った飲料水)越しの光の鋭くて柔らかいイメージが鮮やかで印象的です。
カルピスだったら光に透かせないし、お茶でも透けた光に色がついてしまうし、透明で明確な味を持たない水だからこその〈それ以上以下でもなく〉〈おいしいだけ〉への納得感があると感じます。自分は水を美味しいと感じることはあまりないのですが、この歌を読んでいると(そうか、おいしいが入ってるんだなぁ)と素直に頷いてしまうのでした。
るみ 様「青ではないと確かめて」
【煌めきで他人の輪郭深む街きっと上手に笑えていない】
〈輪郭深む〉の意味が取り切れている自信がない上での感想ですが
……
「理解が深まる」ような方向なのか、光でぼやけるイメージなのか、いずれにせよ冬のイルミネーションに照らされた実際の姿と、“私”の心象風景が重ねられているのだと思いつつ読みました。
〈輪郭深む〉の意味やイメージをとっさに掴めないからこそ、〈煌めき〉から〈上手に笑えていない〉の転調が鮮やかで印象的に感じられます。冬、煌めき、イルミネーションとくればクリスマスが近づく季節のイメージがあって、〈輪郭深む〉もなんだか素敵なことなのかな~と思っているところにこの下の句がくる鮮やかさ。自分の気分が良いので世界が美しく見えるのではなく、他人が輝いていたところで自分が楽しくなるわけではない、というような感覚にはきちんと身に覚えがあって(ああ、わかるなぁ)と思います。
【願わくば来世は花に 愛と水だけを注がれ枯れゆく花に】
〈愛と水だけを注がれ〉る花になるというのは、とことん受動的な存在になるということだと思います。そして、何もできないというのは何もしなくて良いということで、これまでの歌を振り返ると「世界の側になりたい」ということなのかもしれないなと思いました。世界に一喜一憂してしまう“私”ではなく、来世は世界の側に。
また結句の〈枯れゆく花に〉が印象的でした。〈願わくば来世は花に〉だけ読むと「美しいものになりたいのかな?」と思うのですが、〈枯れゆく花に〉とあることで、美しさは永遠ではなく、人よりも短い一生しか持たず、〈枯れゆく〉定めを自らは覆せないというところまで含めて〈願わくば来世は花に〉と願うのだと、覚悟あるいは現在の生への諦念のようなものをしみじみ感じました。
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