スサ
2024-09-27 17:55:17
4488文字
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【現パロ鬼水】おめかし父達の話、合鍵の話他

シネコンパロというか楽団の同僚で親友の父達と息子、せがれが小さい頃から水大好きでいずれ陥落させられる話…の一部、短編3本です


合鍵

「鬼太郎!」
 いないのはわかっていて、それでも早く会いたくて、玄関の前で座り込んでいたら、予想より早く─とはいえ秋も中盤を過ぎあたりは暗くなり始めていた─水木は帰ってきた。帰ってきて、視界に鬼太郎が入ると血相を変えて走ってきて、服が汚れるのも構わず膝をつき、鬼太郎の手を握った。
「いつからいたんだ?手が冷たい。待っててくれたのか?ごめんな」
 水木が心苦しく思うことは何もない。鬼太郎が勝手に待っていただけなのだから。だが、彼はそうは思わなかったのだろう、大きなチェロケースを背負ったまま、こちらはランドセルを背負ったままの鬼太郎を抱き上げたのだ。
水木さん!」
「はは、重くなったなあ、鬼太郎」
 笑うばかりで、水木は取り合わず、胸ポケットに鍵が入ってるから取って開けてくれ、と言う。
 のぞきこむ蒼を帯びた目が優しくて、鬼太郎はドキドキしながら、水木のジャケットの内側に手を突っ込む。やわらかくて、あたたかくて、触っていいのかととてもそわそわした。小学校に上がってすぐくらいは、泊まりに来ると一緒に寝てくれていた(客用の布団が大人用なのと、まだ小さいから一緒に寝たいとダダをこねたせいで)頃は胸に抱きしめてくれることも多かったから、やわらかさもあたたかさもよく知っている。知ってはいるのだけれど。
 鍵を取り出しガチャリと開いて、中に入る。そこで降ろされると思ったのに、水木は鬼太郎を抱きあげたまま言った。
「鬼太郎、電気つけてくれ」
「はい」
 何度も泊まりに来ているし、泊まらなくても遊びにきているから、この部屋のことは熟知している。明かりをつければ、至近距離に水木の顔がある。疲れが滲んではいたが、怒っている風ではない。
 水木は器用に靴を脱ぎ、スタスタと室内に入っていく。驚くのは鬼太郎だ。
「み、水木さん、僕、靴!」
「ん? だって鬼太郎、おまえの靴随分汚れて。水たまりでも入ったのか?」
…………
 水木は気にもせずベランダまで行き、その手前でよっ、と鬼太郎を片腕に抱き寄せるとチェロケースを肩から抜いて降ろし、それからカーテンをあけ、ベランダの鍵をあけて、開いたところに小さな靴を落とした。スニーカーはすっかり汚れてしまっている。
「よし、次は風呂だ」
「えっ」
「それから飯だ。でも今日は冷蔵庫がスカスカだから、カップ麺でもいいか?」
 じゃなきゃ冷凍飯でチャーハンかな、卵しか具がないけどと言う水木に思わずしがみつき、ラーメン食べたい、ともごもご告白する。
 ぽんぽん、と栗色の頭を撫でながら、よし、じゃあ風呂な、と水木は何でもないように言った。

 風呂に入っている間に水木は鬼太郎の着替えを出しておいてくれたのだが、着替えてでてくると彼は目を丸くしてしゃがみこみ、次の休みはもう少し大きいの買いに行かないとな、とパジャマからはみでてしまっている分の手足をつつきながら笑った。
 ラーメンを食べながら、これ持ってきな、とそっと合鍵を出してくれたのは、その日のこと。鬼太郎は今もよく覚えている。次は中に入って待ってなさい、頬杖ついて笑いながら、さらりと彼は言ったのだった。
「誰かに合鍵を渡すのは鬼太郎が初めてだ」
 嬉しくて、照れくさくて、真っ赤になって変な顔をしていたと思うのだけれど、水木は微笑んでいただけだった。

 その後水木の連絡で迎えに来た父に水木の部屋の合鍵をもらったと話したところ、わしだってもろうてないのに!?と驚かれたのは、今もいい思い出である。
 なお、スニーカーが汚れてしまったのは深刻な理由によるものではなく、雨上がり、通りすがりのトラックが不幸にも水を跳ねさせて行ったからだった。それでも、水木が買ってくれたスニーカーだったから落ち込んでしまって会いに行ったのだが、彼は最初鬼太郎がいじめられているのかと内心はらわたが煮えくり返っていたらしい。それは、だいぶ大人になってから聞いた話だけれど。
「何ニヤニヤしてるんだ」
 この春、晴れて大学を卒業し、一緒に住むことを許された人が、鍵をじっと見つめていた鬼太郎に幾分呆れた声をかける。
「初めて合鍵をもらった日のこと思い出してました」
…………
 水木は目を丸くして、ほんの少し皺ができた目元をじわりと赤くし、困ったような顔になった。
「あの時僕嬉しくて嬉しくて。でも今日からはふたりの家の鍵なんだなって、っ、ちょっと痛いです」
 バシッと背中を叩いてきた理由など、水木の赤くなった頬をみれば一目瞭然。
 ひとりの子どもが大人になるまでの間ずっと慕い続けたのだから、一途さは折り紙付き。水木はとうとう顔を覆って、むにゃむにゃと益体もないことをつぶやくくらいしかできなかった。何しろその左手薬指には指輪まで光っているのだし、言い訳のしようもない。