お月様は見ている

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。

十五夜を楽しむ恋人同士。
月はあなたに似ている、とウ教に微笑むハ♀。



どくん、と大きく跳ね上がった心臓の衝動に、導かれるまま。

娘は不意にまた月見団子に手を伸ばし、自分と彼の口の間に挟み込んだ。

「んむっ!?」

唇に触れた、ひやりとした月見団子の感触に、ウツシが不満そうに目を細める。

片手は娘の頬に添えたまま、接吻 キスを阻まれた団子の前で、分かりやすく唇を尖らせた。

「ん、んもうー……愛弟子ぃ……!」
「す……すみませんっ……! 何か……つ、つい……!」

名月の白光に際立つ、娘の林檎色の頬。

それを見たウツシの口角が、常に熱く滾る愛する人への想いに煽られて、にやりと上がる。

……お月様が見てて、恥ずかしくなっちゃったかな?」
「う……! わ、わかり、ません……!」
「ふふ、大丈夫。キミが言う『俺みたいなお月様』なら……キミの幸せを、きっと喜ぶはずだから」
「! ……むう」

やられた、とでも言いたげに、今度は娘が頬を膨らませる。

直後、ウツシは大きく口を開け、娘が掲げる自分と彼女の顔の間の月見団子を、ぱくんと頬張った。

「あっ」

娘が声を上げると同時に、満月の瞳のウツシの顔が迫り、そのまま唇が重なる。

反射的にぎゅっと固く目を閉じ、いつまでも清く初心 うぶな娘の様子に「んふふっ」と愛しげに息を漏らしたウツシは、唇を重ね合ったまま、ちらりと月に視線を送る。

──この子は、俺が守る。見守っていく。

──あの時から、ずっと同じ……これからも、それは絶対に変わらない。

胸の奥で月に語りかけたウツシが、ようやく目を閉じる。自分が彼女をどれだけ愛しているのかを、どうか見ていてくれと告げるように。

月見団子の甘さよりも、娘の吐息の甘さが勝ることに、舌も心も蕩け堕ちそうになる。
団子よりもずっと柔らかな桜色の唇はほんのり温かく、一度味わえば虜になってしまう味。

……んぅ……!」

ウツシの耳に愛しい呻き声が響き、彼はゆっくりと、名残惜しそうに顔を離していった。
 
互いの唇の間に架かった細い銀糸が、名月の輝きに照らされて、すぐに、ぷつりと切れる。

甘露味 かんろあじの団子と、甘美な恋人の味に、娘は熱っぽく、深く息を吐いた。

大好きな人はいつも優しくて、時々、病みつきになってしまいそうになるほど、言葉も仕草も、呼吸さえも甘くなる。

……何だか……ちょっとだけ……いつもより、恥ずかしいです」
「どうして?」
「あ、明るくて……お月様が、見てるから?」
「なら、もう一回」
「え」

真ん丸の双眸を大きく瞬かせた娘が「待って」と告げるより早く、ウツシがまた顔を近付ける。

覚悟したようにまた目を閉じた娘に、彼は少年と男性が同時に存在する悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 愛しい桜色の唇に、いつの間にか手に取っていた月見団子を、ぷにっと触れさせる。

「──あ……!」

目を開いて驚いた様子の娘の視界で、ウツシは楽しげに笑っていて。

「んふふ、びっくりした? さっきのお返し」
「んー! もう!」

月明かりの中、林檎よりも赤くなった頬を膨らませながら、娘は先ほどのウツシのように大きく口を開くと、彼の手の中の月見団子をぱくっと頬張った。

「ふふふっ! いい食べっぷりだ、愛弟子! お月様もきっと見てくれてるよ!」
「もう! からかわないで下さい!」
「ふふ……ごめんね。キミが可愛くて、この時間が楽しくて……つい」

ふわりと娘の頭を撫でて、微笑んでいるものの「ごめんね」と繰り返し呟いたウツシが、また月見団子を手に取った。

娘と手に取った団子、そして今夜の名月を順に見つめた彼の金色の瞳から、悪戯っ子のようなあどけない無垢な光は隠れてしまう。

いつの間にか、愛する人との未来を想う、憂いを帯びた大人の淡い輝きが灯っていた。

「ねえ、愛弟子」
「ん……何ですか?」

もぐもぐと元気に口を動かして月見団子を味わう娘は、ウツシの瞳の輝きの変化に気付いていた。

小動物さながら、不思議そうに首を傾げると、彼はその仕草を見て満足そうに「ふはっ」と息を吐き、目尻を下げ、また口角を上げて。

「来年の十五夜もまた、ここで一緒にお月見しようね。お喋りしながら綺麗な月を見て……お団子を食べよう」

ひゅう、と音を立てて、秋を知らせる涼風が吹き抜ける。月も、風も、その提案に賛同しているかのようだ。

風に髪が揺らめき、月明かりが反射して煌めくと同時に、娘は眩い笑顔でしっかりと頷く。

「さすがに夜は、風が少し冷たいですから……来年は、あったかいお茶も持って来ましょうね」
「ふふっ……そうだね、それがいい」

風が冷たいのなら、とウツシはそっと片手を伸ばし、娘の片手を包み込んだ。

少しだけ表面が乾燥してひんやりとしているが、芯は温かく、そして何より柔らかい。

娘は小さく笑って、伸びてきたウツシの手に自分の手を絡ませた。
彼の大きな厚い手は風の冷たさなど何のその、まるで温泉に手を浸しているように、とても温かい。

「ね、ウツシ教官」
「うん?」
「私ね。あなたのこと、ずっと大好きです」
……お月様、聞いてるよ?」
「聞いて欲しいから言いましたよ?」
「んふふふ、それは嬉しい」

互いに妙に得意げに、通い合う想いの強さと温かさを実感して、見つめ合って、微笑み合って。

「──俺も……大好きだよ、愛弟子。誰よりも、何よりも、一番……ずっと、キミを愛してる」
……嬉しいです。ずっと……一緒にいたい……
「一緒にいよう……約束だ」

互いに愛する人の手を優しく握り合い、小指も視線も絡ませ合う。

言葉無く想いが深く交わり、気が付けば、娘とウツシは静かに目を閉じて、先ほどよりも優しく唇を重ね合っていた。

二つの同じ願いを受けて輝く名月が見守る中、ゆっくりと顔を離した二人は、瞳に天の川のような幸せの輝きをいっぱいに宿して、穏やかに笑い合う。

改めて並んで座り直した二人は、同時に夜空を仰ぎながら、月見団子に手を伸ばした。

阿吽の呼吸でぱくりと頬張り、んー、と満ち足りた様子で、ゆったりと鼻を鳴らす。

この至福の味は、幸せの時間は、また来年、必ず。

願いに応えるように、名月は炯然 けいぜんと、清らかに瞬いた。



@acadine