Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
お月様は見ている
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
十五夜を楽しむ恋人同士。
月はあなたに似ている、とウ教に微笑むハ♀。
1
2
たたら場の屋根上は、里中で空に一番近い場所。
十五夜の空には、雲一つない。
普段は淡い月明かりが、今夜は
一際
ひときわ
、純白に輝いて、太陽のように夜闇を照り渡している。
人気はなく、とても静かだが、不穏や寂しさはない。
葉を落としても堂々と月下に
聳
そび
える桜の枝振りは、まるで珊瑚礁のようで、海底にいるのかと錯覚するような美しさ。
昔話に出てくる月の姫の都は、もしかしたらこんな世界かもしれない。
「
……
とっても明るくて、優しくて。こういう月って、特にウツシ教官みたい」
思いついたように呟いて、静けさを震わせた声の主は、たたら場の屋根上に座って、空を仰ぐ里の英雄『猛き炎』たる娘。
その隣に寄り添いながら「え?」と首を傾げ、彼女の横顔を見やった屈強な人影は、名を呼ばれた本人。
英雄の師であり、相思相愛の想い人であるウツシ。
「俺みたい? あ、俺、ジンオウガのモノマネで遠吠えしたりするからかい?」
「ええ? あはははっ、そうじゃないです」
空を、月を仰いだまま笑った娘の手が、自分とウツシの間に向かって、おもむろに伸ばされる。
其処には、
黄唐茶色
きがらちゃいろ
の竹皮の上に積まれた、ちょうど今の名月のような純白の月見団子が積まれていて、上の部分は既にいくつか欠けていた。
彼女の手がまた一つ、団子の山を
掘削
くっさく
し、流れるように口の中に頬張る。
この月があなたのようだ、という言葉の意味が本気で分からない様子の、純真な師の言葉の可笑しさと愛しさを落ち着かせながら、想い人である人への適切な言葉を選ぶ、思考の
暇
いとま
。
娘の言葉を待つ間、ウツシも月見団子に手を伸ばす。
こんな調子で、二人は月見の最中に語らいながら、里では珍しい串に刺さっていない団子に舌鼓を打っていた。
ごくん、と喉が鳴ったのは、ほぼ同時。
娘は「ふふふっ」と余韻のように笑いながら、空で強く輝いて自分たちを、里を包み込む月を見つめ直す。
「教官、私ね。ハンターになってから結構長い間、夜の狩猟が怖かった時期があるんです」
「夜は本当に暗いし、モンスターによっては動きが活発化するからね
……
最初は誰だって怖いさ。俺もハンターになってしばらくの間、夜が怖かったものだよ」
懐かしむように告げたウツシをちらりと横目で見ながら、娘が「本当に?」と眉を下げ、息を吐き出すように笑った。
常に純新無垢であり、誰より腕の立つ師の言葉だが、たまにそれが本気か冗談か分からなくなることがある。愛する男性でもあるが故だろうか。
不意に、そんな彼女の目はゆっくりと、微かに伏せられる。
英雄と呼ばれる前、今やすっかり遠い昔のように感じられる日々のことを、あの時の心の揺らぎまで、自身の記憶の引き出しから繊細に、丁寧に取り出して。
「あの時は夜の狩場が怖くて不安で、どこからモンスターが来るのかって緊張しっぱなしで。でも
……
ふと、空を見たら、今日みたいに綺麗な満月があって。時期的に、本当に同じ月かもしれません」
「
……
安心、できたの?」
「とっても。まるで、あなたが傍に居てくれてるみたいで
……
本当に心強くて」
月明かりに温もりさえ覚えて微笑みながら、娘が隣で寄り添うウツシに顔を向けた。
彼の満月のような
金色
こんじき
の瞳は優しく揺れて、今、自分の笑顔だけを映していることにも、ほっと安堵する。
何となく、あの時に感じた安堵と似ていると思った。
名月は、未熟な緊張と恐怖に寄り添うように、とても柔らかな光を放ち、優しく包み込んでくれた。
──俺は、いつもキミを見守っているよ。
名月は、最愛の人と同じ言葉を、声が無くとも伝えてくれているように感じられた。
震えていた心は温かく満たされ、最愛の人が手を添えて支えてくれたように、両足から、全身から
怯臆
きょうおく
は消え去り、強く奮い立つことができた。
──大好きなあなたが、本当に、近くに居てくれているようで。
「月が
……
本当に、今日みたいに明るくて、優しかったんです。いつも私を見守ってくれる、あなたみたいに」
「
……
隠れてしまっても、大丈夫だった?」
「はい! 雲の向こうにいてくれますから! そう思ったら、遠い里からあなたが見守ってくれているような気がしてきて。怯えてカッコ悪いところなんて見せたくなくなって、頑張れるようになりました」
「
……
。カッコ悪い、なんて
……
思ったことないよ」
「えっ?」
微かなウツシの声は、娘の鼓膜を震わせる前に、月明かりの中に掻き消える。
言葉も声量も全て計算づくのような様子で、彼は娘の真ん丸に開かれた双眸に意味深に、
鷹揚
おうよう
に笑いかけた。
吸い込まれそうな月の瞳の奥に、彼の真意と想いは隠れている。
それは娘本人を前にしても、優しさ故に雲の中に隠れたままで。
「ふふふ、何でもない」
「え? え? 気になるじゃないですか、何て? 教えて下さい」
いつも
溌剌
はつらつ
に、とても明瞭に発音するウツシの、確信犯の微声。
頬をぷくりと満月にも似て膨らませ「ずるい」と身を乗り出した娘に、彼はとろりと金色の瞳を細めた。
満月から三日月に変わった、その瞳の
艶
あで
やかさに、娘の胸がどきんと跳ねる。
ウツシは「ふふっ」と意味深に笑いながら、そっと片手を伸ばして、彼女の頬に添えた。
ごつごつとして少々硬く、けれど温かく優しい、唯一無二の甘い感触に、娘の体はぴくりと小さく跳ね上がる。
武器を握る者らしい頑強さと、愛する人の肌を求めて吸い付く柔らかさ。
全てが調和した優しい
強者
ツワモノ
の手に、すっかり心を掴まれている。
彼の金色の眼差しに射抜かれ動けず、月の魔性に囚われたように目を離せないままで。
三日月の瞳のまま月光を浴びて、ウツシは「ふっ」と愛しげに吐息を漏らした。
「
……
俺はいつも、どんな時でも
……
キミを見守っているから。だから
……
安心してね? 愛弟子
……
俺の愛しい人よ」
ゆらりと、ウツシの顔が、更に娘に近付いて。
「──あ
……
!」
愛しい熱が、温くて蕩けそうな風が、娘の鼻と陰った唇を
擽
くすぐ
る。
1
2
@acadine
広告非表示プランのご案内