焔の息吹は青天の霹靂と共に

MHRウ教×ハ♀。夫婦。

ウ教との新しい命がハ♀に宿ったことが発覚するお話。



はっと目を見開き、呼吸を再開したウツシの中で、ぐるぐると思考が、言葉が巡る。

(今朝の熱っぽさは、吐き気は……!)

──赤ちゃんが、できた。

まるで夢のよう、どこか他人事 ひとごとのようにさえ遠くで響いていた言葉はようやく近付いてきて、ウツシの心と体の芯にまで染み渡っていく。

全身の血が駆け巡りながら沸き立ち、 まばゆ金色 こんじきの光が世界に満ちて、愛する人が一層美しく見えて。

溢れんばかりの幸せで全身が浮かび上がったような感覚のまま、彼は娘以上に顔を林檎色に染めて、小刻みに震えながら、ぽかんと口を半開きにして。

「───ッ…………!」
「や?」
「やったああぁぁーーーーッ!!」
「ひゃあああぁっ!?」

家どころか、里中に木霊 こだましたであろう、歓喜の声。

弾けんばかりの笑顔で、月の映る湖面のような瞳を潤ませながら娘を抱きしめたウツシの、逞しい両腕に込められた力は、とても優しかった。

お日様のような腕の温もりに包まれた娘は「全くもう……」と思わず呟きながらも安堵したように、とろりと瞳を とろけさせる。

このことを伝えた時、ウツシは喜んでくれると信じてはいたが、きっと大いに驚かせるとも思っていた娘。

不安が全くないわけではなかった。

けれどやはり彼は、信じていた通りの、いや、それ以上に優しく、大きく、温かな人。
予想を遥かに上回るほど、こんなにも素直に喜んでくれた。

不安に思っていたことが愚かに思えるほど、決して冷静ではなかった娘の心が、確かな幸せと喜びに安定しながら、じんわりと満たされる。

……明日、あなたと一緒にまた来なさいって、ゼンチ先生が」
「行く、行くよっ! 絶対行くっ! 一緒に里長にもお伝えしようねっ!」
「ふふふ、はい」

顔を見合わせ、鮮やかな幸せを共有するように笑い合えば、心の奥底に潜む不安の影は外、夜闇の中へと逃げて行く。

土間で夕飯の支度をしていたオトモたちが一斉に駆け寄って来たのは、そんな時だった。

「何の騒ぎニャ? 何か良いことニャ?」
「ワウッ」

先頭はデンコウとライゴウ、その後ろには娘のオトモたちが続くように集まって来る。

その光景を同時に見やったウツシと娘は、また同時に顔を見合わせ「ふふふっ!」と笑い合った。

……愛してるよ。無理しないで、体を大切にしようね。俺、もっともっと頑張るから!」
「私も、愛してます。あなたこそ、無理をし過ぎないで……体を大切にして下さいね」
「もちろん! 愛する妻を、家族を悲しませたりするようなことは、絶対にしないさ!」

確固たる決意と想いに満ちた、ウツシの温かく大きな手で頭を撫でられながら、娘は「約束」と呟き、彼の胸の中に身を寄せた。

オトモたちが頭上に疑問符を浮かべて顔を見合わせる光景を愛しそうに眺めながら、ウツシは妻を優しく抱き寄せたまま、温かに告げる。

「みんな! 明日からもまた妻を、家を、そして我が子を守るために、力を貸してくれ!」

──妻を、家を、我が子を守るため。

アイルーもガルクも問わず、オトモたちは目をまん丸に見開き「ニャア……!?」と何度も何度も顔を見合わせてから、弾け飛ぶように、娘とウツシの傍へ駆け寄って行く。

「めでたいニャア! め、めでたいニャア!! おめでとうニャアァァ!!」
「アオオオオオオン!!」

花が見えそうなほど満面の笑顔を浮かべたオトモたちの全力の祝福に、娘もウツシもますます笑みを深めて「ありがとう!」と声を重ねた。

愛する妻を、そして周りに温かく集った小さな命たち一人一人に、順番に視線を向けたウツシは、最後にもう一度、金色の瞳に最愛の笑顔を映す。

「愛弟子よ、愛する我が妻よ。これからも手を取り合って、一緒に仲良く暮らそうね!」
「はい! ふふ、これからもよろしくお願いします!」
「うんっ! こちらこそ!」

オトモたちに囲まれて爛漫な笑顔を咲かせた夫婦が、彼らの視線を浴びつつも、そっと静かに唇を重ね合う。

想いを改めて確かめ合うような、短くも満ち足りた、優しい口付け。

……愛してる、よ」
「私もです……
「これからも、ずっと守るから。愛しいキミを、新しい大切な命を」
「私も。……あなたを、この子を、大切なこの里をずっと守りたい。守ってみせます」
「ふふふ……そうか、里……そうだね。本当にそうだ。本当、キミには……かなわないなあ」

里と王国を救った『英雄』たる妻の言葉に苦笑しながら、ウツシは彼女の腹部にそっと、片手を添える。

「今日から一緒に、大切に育てさせてもらおうね」
「はい! あなたと一緒に会えるのが、楽しみです」

優しく笑い合った夫婦の元に、やがて、格子窓から風が吹き抜けた。

里の桜と炎の香りを乗せた、生涯不変の、凛と強くも柔らかな香風 かふう

ウツシと娘が生まれ育ち、豊かな時を過ごし、夫婦として想いが結ばれたカムラの里、温かな火の里。

そんな郷里からの、新たな命の息吹を祝い、里の子らを励ますような風。

風に乗った団欒の声は、夫婦星 めおとぼしの煌めく澄んだ夜の中で賑やかに、決意と喜びに満ちて、暫し燃え続けていた。




@acadine