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沁月
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ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
焔の息吹は青天の霹靂と共に
MHRウ教×ハ♀。夫婦。
ウ教との新しい命がハ♀に宿ったことが発覚するお話。
1
2
春ならではの、ほのかに橙色を帯びた上弦の月光と、雄大に煌めく無数の星空の下。
カムラの里が誇る夜桜の咲く道を歩く、逞しい
双肩
そうけん
の影に、どっしりと重たい疲労が圧しかかっていた。
長年鍛え抜いた足は棒のようにくたくたで、それを上げて歩くことも億劫なほど。
今日だけで、どれほどの距離を駆け抜けたことかと、ウツシは不意に、噛み締めるように思い返した。
今日は偵察任務に加えて、狩猟任務も多かった。
里の状況を考えれば、それは至極当然のことなのだが。
(さすがにちょっと疲れたな
……
早く帰ろう
……
!)
疲労ごと吐き出すようなため息をついてから、ウツシが脳裏に大切な人を思い浮かべながら帰路につく。
不思議なもので、疲れきって引きずるように歩いていた足は、次第に軽くなっていった。
慣れた道の先で漂う、美味しそうな匂い。
我が家の格子窓からは柔らかな白光と共に、愛しい声が重なり合って溢れていた。
自然とウツシの口角は上がって、足はますます軽やかに、吸い寄せられるように跳ね動いて。
「ただいまー!」
玄関
引戸
ひきど
を滑らせながら、窓から溢れていた光を、土間の炊事場から湯気が噴き上がる米の炊ける香りを、一身に浴びる。
その途端、ウツシの体から、心から、
墨色
すみいろ
の疲労がすうっと抜けて霧散していった。
「お帰りなさいニャー!」
「ご主人、待ってたニャー!」
「ワウ! ワフッ!」
「ワウウ! アオーン!!」
どたどたと賑やかに土間に
集
つど
う、アイルーとガルクたち。
ウツシのオトモアイルーデンコウと、ガルクのライゴウ。
その中には、愛弟子でもあり
夫婦
めおと
として結ばれた彼の最愛の妻、里と王国の『英雄』と呼ばれし
強者
ツワモノ
たる娘のオトモたちの姿もあった。
その場でしゃがんだウツシが、集まってくれたもふもふの愛しい家族たちに目線を合わせながら「ただいま!」とその小さな頭を順番に撫でる。
その
度
たび
に、任務への緊張と疲労感で強張っていた彼の表情は、絡み合った糸が
解
ほぐ
れるように
和
やわ
らいだ。
「ふふふっ、良かった! みんな無事で元気だね! 今日は俺の愛しい妻を守ってくれてありがとう!」
ウツシの言葉にオトモたちが「当然ニャ!」 「ワウ!」と賑やかな応答をする中。
彼らの後ろから、ゆったりとした足取りで、もう一つの人影が
框
かまち
に立つ。
「おかえりなさい、ウツシ教官」
至福の家庭に満ちる光より優しく、穏やかな
澄声
すみごえ
が近くで聞こえてすぐ、ウツシは機敏に立ち上がって微笑んだ。
食事の用意に戻るため、オトモたちが炊事場の方へ散って行く中で響いた声の主は、桜色の
小袖
こそで
姿をした、彼の最愛の妻。
「ただいま! すまない、座っていて良かったのに」
「ふふふ、大丈夫ですよ。こうしてちゃんとお迎えしたかったので」
「嬉しいけど、無理はダメだよ。今日はキミも大変な日だったよね
……
一緒にいられなくてごめんね」
器用に脚装備を外しながら、ウツシはオトモたちの邪魔にならない土間の片隅に、それを置き。
そのまま流れるような仕草で口元を覆っていた
鎖帷子
くさりかたびら
を下げ、素早く妻の隣の框に上がると、彼は小さく笑う彼女と正面から向き合った。
「ふふふ、お仕事行って下さいって強引に背中を押したのは私ですよ? あなたが行かないと、依頼狩猟が進みませんから
……
ある意味、里の危機です」
「それでも
……
それでもさ、一緒にいたかったんだ。心配、だったから
……
!」
眉を下げ、ほんの一瞬不安の光を宿したウツシの双眸だが、それはすぐに妻を映して優しく細められる。
「体調、大丈夫かい? 寝てなくて平気なの? 畳の方に行って座ろうよ」
「大丈夫です。すみません、気を使わせてしまって
……
あなたこそ今日は大変だったでしょうに」
妻の腰にさり気なく片手を回したウツシは「大丈夫だよ!」と白く長めの犬歯をちらつかせ、朗らかに笑いながら、彼女を畳の間に置かれた座布団の方へと誘導して行く。
妻が座布団に座ったことを確認してから、彼はその隣で両膝をつき、愛する人の表情を覗き込むようにして見つめた。
今朝、顔が
火照
ほて
って、少し吐き気がすると訴えた妻。
──自分でお医者様に行けますから、お仕事に。
付き添おうとしたウツシに
頑
がん
として譲らず、仕方なく彼は自分のオトモたちに付き添いを頼んだ。
そんな彼女が今、こうして穏やかな様子で目の前に居てくれていることに、ウツシの心はほっと安堵する。
「それで、体調は? ゼンチ先生なら大丈夫だと思うけど、熱とか吐き気は
……
」
「あの、ウツシ教官。その前に聞いてほしいことが」
「ん? 何だい?」
「
……
あ、の。あのですね
……
その
……
!」
不自然なほど頬を赤く染めて、もじもじと言葉を詰まらせ、伏し目がちながらもはにかむように微笑んで。
何事かと首を傾げかけたウツシの耳元に、彼女はそっと、唇を寄せた。
「あの
……
! でき、ました」
「できた?」
「──ッ。あかちゃん
……
です
……
!」
「
……
えッ?」
目を見開いたまま、ぴたりと動きを止めたウツシは、頬を林檎色に染めた妻を見つめて、
瞬
まばた
きも忘れて。
彼の呼吸は、五感は一斉に、一瞬だけ止まった。
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@acadine
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