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けーだい
2024-09-12 19:31:33
3488文字
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愛の証明
しぶから再録。初出2023/10/04
幸福論のネタからはみ出たやつ。完全に繋がってないifの話。
これがなければ「愛なのだから」のタイトルは生まれなかったな。
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研究者
ゼルダ博士が死んだ。薬の完成は間に合わなかった。
未曾有の感染症が爆発的に広がった世界で、常に彼女は戦ってきた。研究者としても、医師としても。そして彼女は罹患し、作った血清の効果を見届けることなく死を迎えてしまった。
彼女の最後の言葉は、助手である俺に宛てたものだったそうだ。
「リンク、世界を」
担当した看護師から告げられた彼女の意志を受け取って、俺は覚悟を決めた。
*
なんとか血清を薬にする所まではこぎつけた。しかし人体を用いた臨床試験の許可がなかなか降りない。こうしている間にも人は死んでいる。博士が俺に託した世界が、ボロボロになっていく。
だから、こうするしかなかった。
普段は防護服を着る研究室で、白衣のままでいるのはなんだか不思議な感覚だった。しかしこれからすることを思えば、防護服は不要だ。
右腕の袖をまくり、そのまま実験用のグローブボックスに両腕を突っ込む。他人を巻き込む訳にはいかないから、自分以外に触れないよう極力慎重にならざるをえない。
ボックスの中で液状のウィルスサンプルに注射針を差し込み、シリンジに少量吸わせる。こぼさないように取り出しサンプル本体をしまってから、ウィルスの入った注射針をグローブごと右腕の内側に突き刺した。
プランジャーを最後まで押しきって、液体を全部体内に入れる。これで確実に自分は罹患する。二十時間後には咳が止まらなくなり、四十八時間後には発熱し、五日後には呼吸不全に陥るだろう。
このまま針を抜いて体液が飛散したら事だ。どうせこのグローブはもう使えないからこのまま外して汚染廃棄物行きにする。その前にグローブボックス内を全て片付ける。
左手を先に抜き、右手側のグローブをボックスから取り外す。腕ごと抜いたグローブをひっくり返して、刺さったままだった注射器もまとめてそっと引き抜く。
血管のない所を狙ったが、上手くいっていたようだ。ひとつ安心しながら、グローブごと汚染物質を収容する袋に入れて口を閉じ、更に専用の箱に入れて蓋を閉じる。交換用のグローブをボックスに装着したところで、いつの間にか詰めていた息をやっと吐いた。
念の為、腕には絆創膏を貼り、あたりを消毒する。あらかた片付けて、もうひとつのシリンジを白衣のポケットから取り出した。彼女の薬だ。
この薬に必要なのは、あと臨床データだけだ。それなら自分が用意できる。してみせる。許可を待っている時間などなかった。それに。
―――
彼女の作った薬が、世界を救わないわけがない。
人が見たらとんだ盲信だと言うかもしれない。科学者としてあるまじきことだとも。けれど、この薬の有効性を証明して、早く世界を救いたい。それこそが俺に託されたものだからだ。薬の入ったシリンジを逆手に握り込む。
躊躇いなく自分に刺した。
*
あれだけの猛威を奮った感染症も、特効薬の普及によりある程度落ち着きを見せてきた。
彼女の薬が、世界を救ったのだ。その報告を彼女にするために、久しぶりの休暇を取った。とはいえまだまだやることは山積みで、半日だけの休みだが。
かつての彼女が愛した花は、この世にはもう無い。だからせめて似たような花を供えた。
「やりましたよ、ゼルダ。貴女の薬が、世界を救ったんです」
彼女の薬が俺を生かして、世界を生かした。いつだって彼女は何かを生かす人だった。
「
……
いつか、貴女に誓いましたね。この愛を永遠にだってすると」
生まれた時から持っていた記憶がある。何度もゼルダを探して、見つけて、助けてきた自負がある。もう二度と託されることは無いと思っていた世界まで、再び託されて、そして救った。
きっと、自分達はずっとこうなのだろう。
「俺は、証明できていますか
……
?」
ゼルダの眠る墓標を、いとおしむように見つめる。その墓の下には白い骨がある。かつて龍になった時よりも白い骨が。
立ち上がって踵を返した。もう行かなければいけない。やるべき仕事が待っている。
「また、あいにきいきます」
墓前に備えられた白い花が、返事をするように揺れていた。
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