けーだい
2024-09-12 19:31:33
3488文字
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愛の証明

しぶから再録。初出2023/10/04
幸福論のネタからはみ出たやつ。完全に繋がってないifの話。
これがなければ「愛なのだから」のタイトルは生まれなかったな。


学生


違和感はあった。けれどお尻に何かが当っている、としか思っていなかったのだ。それがしばらくすると明確に「触る」動きをしたから、そこで初めてそれが人の手だと気付いた。
満員電車で座席の前に立っていたから、逃げ場がない。いつもならドア横に立つのに、今日は先客がいたのだ。
どうしよう、と俯く。やめてと言いたいけれど、恐怖で動けなくなった。そうしている間にも手はだんだんと下へ向かう。股の間に、指が触れそうになる。
気持ち悪い。怖い。―――誰か。
その時、私の隣に立っていた知らない学制服の男の子がこちらへ僅かに身体を寄せ、後ろに見えないように携帯の画面を向けてきた。
画面には「もしかして さわられてる?」と書いてある。頷くと、彼はすぐ触っていた男の手を掴んで私から引き離した。
「おじさん何やってんの」
「な! 何もしてない」
「今触ってたじゃん」
彼は男の手をひねりあげた。そして私の方に向かうと、
「次の駅で降りてもらっていい? 一緒に駅員さんのところに行こう」
と言った。

男を駅員に引き渡し、そちらの調書を取っている間に学校へ連絡する。どれだけ時間がかかるかわからないが、遅刻は免れなかった。
助けてくれた男の子も同じように連絡を入れているらしい。電話をしたまま彼は「えっ」と大きな声を上げた。
一度電話を離して、何故かこちらに話しかけてくる。
「えっと、もしかして、ゼルダ……さん?」
「え? そうですが、どうして……
何故名前を知っているのだろうと首を傾げる。彼は手のひらをこちらに向けて電話に戻った。
「あ、えっと、そうみたいです。……はい、います。……わかりました。終わったら一緒に行きます。……はい。……失礼します」
一緒? と更に首を傾げていると、電話をしまった彼がこちらに向き直る。
「ごめん、びっくりしたよね。俺もなんだけど……俺達、同じ学校だったみたいで。終わったら一緒に来なさいって」
そうは言うが、制服も違うし、彼はかなり整った容姿をしている。同じ学校にいたら見かけたことくらいはありそうだが、全く記憶になかった。
「あー……俺、今日転校初日なんだ」
「えっ」
疑問が顔に出ていたのか、彼が言いにくそうに補足した。初日から遅刻させてしまった。
「ご、ごめんなさい、巻き込んでしまって」
頭を下げると、彼は思いのほか真剣な声でやめて、と言った。
「謝らないで。君はなんにも悪くないから」
それより、もっと早くに気づいてあげられればよかったんだけど、という。
申し訳なさとありがたさと、遅れてやってきた安心感で涙が出た。こんなところで泣いてもこの人を困惑させるだけだろうに、止まらない。
……大丈夫。大丈夫だから、笑って」
私を宥める声は、落ち着いている。そのせいだろうか。この人の声はなんだかとても安心する。
「ありがとう」
涙混じりに、けれど笑ってそう言うと、彼も笑った。