seika_ashe
2024-09-02 21:21:21
5328文字
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蛇狐の戯れ【無貌の誘い】

煽りに軽率に乗るのはやめましょう───

スペシャルサンクス
前回から引き続きアスナショウコさんの作品「アンシーリーコート」及び「レゾンデートル」の世界観とをお借りして書いております。
友人宅創作キャラ、白崎幸葵をお借りしています。自宅が煽ってごめん。



「双鶴くぅん、お願い事があるんだけどさぁ」
「帰れェ!!!!!!!」

己の視界の端に猫撫で声で擦り寄るように現れた男へ毎度の事ながら怒号をかましつつ、八つ当たりのようにEnterキーをパァン!!と全力で叩き込んだ。本来静音化される筈の赤軸メカニカルキーボードでも、苛立った浅葱の手にかかれば青軸もかくやの打音である。

「ひっどぉい!!まだ何も言ってないじゃん!昴ぅ、双鶴くんが俺の事いじめる〜〜〜!!」
「うんうんそうだな日頃の行いだな〜」

顔を上げ、バタバタと駄々をこねる子供のように暴れながら己の耳元で叫ぶ男……戸張征芽と、目の前のデスクに座ってイヤイヤ期の子供をあしらう父親のようにそれを流す男……陸烏昴を交互に睨みつけて浅葱は深い深い溜息を吐き出した。キリキリと胃が痛むような感覚を覚え、ゔぅ……と呻き声を漏らせば、隣のデスクの幸葵が哀れみの目を向けてくる。

「双鶴さん、胃薬いります?それとも吐きます?吐きたいならどうぞこちらに。……戸張さん貴方少し黙れません?喧しいんですよ貴方」
「は?元から俺お前に話しかけてないんですけどぉ〜、俺が用事あるの双鶴くんだしぃ」
「おや、そうでしたか。声の音量調節機能が死んでいるご様子で」
「あ゙?喧嘩売ってんのか蛇野郎」
「喧嘩ならよそでやれねぇかなぁ天災組ィ!!」

自分を挟んで喧嘩を始めそうな2人に切実な叫びを披露して、浅葱は机に頭を打ち付けた。ゴン、という鈍い音に反応してか、向かいにいる昴が浅葱落ち着け、と苦笑いしながら立ち上がって慰めに来る。

「幸葵と征芽が口喧嘩始めるのなんていつものことだろ?」
「なら陸烏止めろよ!白崎は兎も角、戸張はお前の恋人だろうが!!」
「え、うーん……別に俺が被害に合ってる訳では無いから……止める必要無いかなって……
「お前ほんっっっとそういうとこだぞ!!?」

此方を気遣うフリをして畜生発言を放った昴へ、浅葱は思わず掴み掛る。白衣の襟を全力で握って、鬼のような形相でガクガクと揺らす浅葱の怒りは推して知るべし。寧ろ怒らない方がおかしい所である。対する昴は、何でだあ、だの白衣伸びる、だのとこれまた浅葱の怒りへガソリンを注ぐが如き発言をしており、流石の幸葵と征芽も喧嘩を止めてドン引く始末だ。

「昴ぅマジでどうかと思うよ俺ぇ。ね、双鶴くんそんなの放っておいてお話聞いてぇ?」
「え、お前にだけは言われたくないんだけど………

本当に心の底から心外です、とでも言いたげな顔をする昴をヒラヒラと手で追いやって、征芽は浅葱の周りを再びゼロ距離でうろちょろし始める。こうなってはもう話を聞いてやらないとテコでも自身の机に戻らないことは、浅葱も幸葵も知っていた。この戸張征芽という男は28歳身長178cmという、まあまあのいい歳したそこそこデカブツの癖に一部精神年齢が幼稚園児と同レベルであったので。

「わかった、わかったから!話聞いてやるから!!俺の周りで妨害するんじゃない鬱陶しい!!」
「きゃはっ!そう来なくっちゃあ!双鶴くんだぁいすき!!♡」

辟易した顔で了承すれば、大層ご機嫌な声で大好きなどと宣われ、浅葱はギリギリと嫌悪丸出しの歯軋りを披露する。征芽から愛の言葉を貰うくらいなら、幸葵からストーカーの私物を横流しされる方がまだマシだ。そもそも、征芽の「大好き」など常人の挨拶と同レベルの価値しか無い。追いやられた昴だけが、怨めしそうに此方を見ていて何とも居心地が悪かった。

……双鶴さん、覚悟した方がよろしいかと。戸張さんからの頼み事なんて、ろくな事ありませんよ」
「わかってるよそんなもん……!!クソッ、今日こそ定時で上がれそうだったのに……

背後から差し出されたコーヒーカップをノールックで受け取り、浅葱はいつも通り長い溜息を吐き出したのだった。