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ぶたたけ(名もなきルビコニアン)
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2 ラ・ビブリオテカ・デ・バベル
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2 ラ・ビブリオテカ・デ・バベル
窓の外は星が運河となって輝いていた。
クリーム色のミルキーウェイが星間航行船の丸い窓の額縁に飾られている。
「サウザンクロスは見えるかい?」
窓を外を見ていた僕に、向かいの席に座る男が話しかけてくる。
ギリシャ彫刻のように彫り深い顔。
小麦色の肌の上にライトグレーのスリーピースを着こなして、
長い髪を鎖骨の辺りで結んでいる。
足は長く、サラブレッドの様だ。
そんな美しい男が、黄色と紅色の艶やかな林檎が詰まった蔦の籠を膝に抱えて、ナイフで器用に林檎の皮を剥いている。
まるで
――
見覚えが有るはずの光景を頭の中で探して、ようやく小説の光景を思い出す。
銀河鉄道の夜の一場面だ。
「 まだ、わしの停車駅を出たあたりですよ」
僕がそう言うと、彼が嬉しそうに笑みを浮かべる。
「よく分かったね」
「銀河鉄道の夜を読んだことがあるんです。小説の中でサウザンクロスへ行く子供達に燈台看守が林檎を渡すシーンがあったなと思い出しまして」
「そうか、解ってくれたか。君は博識のようだね。バベルの司書となる素質はあるようだ」
彼が三日月型に切った林檎を一欠片、ナイフに刺して僕に差し出す。
「メイナード。“苹果”は如何かな?」
「あ、ハイ。頂きます、サーヴァンタス」
サーヴァンタス
アーキバスの内部監査部門総括にして、監査部直属の強化人間部隊“ルシファー”の隊長。
そして僕の就職先であるバベルの図書館の館長もしている。
アーキバスの裁判官にして死刑執行人の元締め。
アーキバス社の人間ならば誰でもその名前は知っている有名人だ。
うちのスネイルも、首席隊長のフロイトも知る人は多い有名人だけど、この人には敵わない。
まさかそんな有名人が直々に、迎えに来てくれるとは思わなかったな
……
。
そう思いながら、僕は差し出された欠片を手に摘み口の中に入れる。
柔らかな果肉がしゃりしゃり音を立てて消えていく。
甘い蜜の味が口いっぱいに溢れる。
「 どうだい、美味いだろう」
「あ、ハイ。美味しいです」
「 美味いなら僥倖。まだたんとあるからどんどん食べなさい」
切った林檎を皿に綺麗に並べて、彼は僕に渡してくれた。
僕はその皿を受け取って、口に頬張る。
そんな僕を見て彼はまた笑う。
「そうだ、君。君に聞きたいことがあるんだ。」
思い出したと言わんばかりにサーヴァンタスが自分の手をパンと叩いて、身を乗り出し僕に詰め寄る。
「スネイルの坊やは元気かい?」
「スネイルですか
……
?」
「そう。私の可愛いカタツムリくんだ」
サーヴァンタスの目が爛々と輝いている。
唐突にスネイルの名前が出てきて僕は面を食らう。
可愛い、カタツムリくん?
「あの子の両親とは仕事で知り合ってね、あの子が7歳の時からの仲さ。小さい頃は顔よりも大きいんじゃないかってくらい大きな丸ぶちのメガネを掛けててね、おじさんおじさんって走り寄っては転けるんだ。そりゃあもう愛くるしくて,愛くるしくて、素直で可愛い子供だったよ。勿論、今も可愛い坊やだがね」
あのスネイルが可愛いと言うのも気になるけど、それよりも『おじさん』というのがとても引っ掛かる。
本人の年齢はどう見ても20代後半
……
高く見積もっても30代前半くらい。
スネイルと同年代にしか見えない。
「すみません、サーヴァンタス。失礼ですけど、お幾つなんですか?」
「54だね。ホーキンスと同い年だよ」
年齢を聞いて僕は驚く。
「全然、見えないです」
「だろうね。若く見える義体に入ってるから、見えなくて当然だよ」
義体
……
。
「
……
もしかして、義体化手術を受けられているんですか?」
「木星戦争の折に全身を火傷を負ってしまった関係でね」
「義体化手術って、リスクが高いと聞きますけど
…
」
「リスクは高いが、強化人間手術と然程変わらないよ」
そんな訳がない。
脳髄や必要臓器以外を全て人工物に取り替える手術だ。
身体の免疫反応などもあり、今でも義体化手術の死亡率は高い。
「死亡リスクは確かに高いが、フライフェイスじゃカタツムリくんが怖がって近づいてくれない。それに比べれば死亡リスクなど取るに足らんよ」
そんな理由で死ぬリスクを背負うの?
“あの”スネイルの為にそこまでするのは全く理解できない。
「で、あの子は元気かね?風邪なんか引いてないかい?」
「
……
元気だと思いますよ。異動の連絡もらった時は、相変わらずツンツンしてました」
「そうか、ツンツンか。良いね」
幼児が絵に描くようなニコニコ顔。
この男の目には、常に眉間に皺が刻まれてる神経質メガネ男がどう見えてるんだろうか。
怪訝な目で彼を見ている最中、座席の天井にあるランプが光る。
「失礼致します。当機はまもなくアレフの軌道圏内に入ります。シートベルトの着用をお願い致します」
客室乗務員が僕達に近づき、シートベルトの着用を促す。
「教えてくれてありがとう。ついでにこの林檎も持って行ってくれ」
「承知致しました、Mr.サーヴァンタス」
客室乗務員は林檎の入った籠を彼から受け取り、ギャレーへと消えて行った。
「そろそろサウザンクロスに着くようだ。天上は美しいぞ」
「はい、サーヴァンタス」
まだ見ぬバベルに胸が高鳴る。
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