わからん
2024-08-27 23:12:22
16999文字
Public WLDP
 

【WLDP】Bet! Bet! Bet!

アイパッチウとスーツデプでポーカーをしてほしかっただけのウルデプ

※映画のネタバレを含みます。またコミックスの方は履修しておらず、映画にしてもほとんど無い記憶を絞り出して書いたので諸々間違いや解釈違いしかないと思います。
※↑と同程度の暴力・流血表現を含みます。
※書いている人は世界のア○ビ大全とマ○オでしかポーカーを遊んだことがないので、ルールを盛大に間違えている可能性が非常に高いです。
※二人とも口調が難しすぎ(自我)

上記ご了承頂ける方のみ本文へお進みください。

【8/31追記】最後まで書けたので更新しました。



「失礼ですがミスター、顔を……
「あー、若い頃の事故でグロいことになっているんだ。マスクで隠したいんだけどダメ? これ身分証ね、俺の顔」
「顔を見せてください」
「オーケイ……わかった、脱ぐよ。一旦ね。けどこのあとは付けていい? あんただけに見せたいんだこの顔、特別にね」
 パパーン。途端に息を呑むのが聞こえて肩を竦める。ほら言っただろ。マスクを装着し直してもお咎めの声は無い。
「入場チケットは?」
 差し出されたチケットを人差し指と中指で挟んで取り上げる。
ありがとうGrazie
 楽しんで、と背後から聞こえたので片手を挙げて応じた。
 ドアマンが押し開いた扉の向こうに一歩踏み込んだ先は別世界だ。赤と金のふかふかな絨毯に豪華な装飾が施された壁、天井からは巨大なシャンデリア。一変したのは景色だけじゃない、すべてだ。目の前に広がるすべて、スロットやルーレットの回る音、ひそひそ声、普通の話し声、天国を見たのかはたまた地獄を見たか、興奮した野郎どもの雄叫び。
 さすがはシティ有数の地下カジノだ。時刻はそろそろ深夜に差し掛かるのに、遊ぶ人々の数も規模も何もかもが桁違い。この中から特定の一人を探し出してあまつさえ拉致しろ、準備は一任するなんてTVAの奴らは大雑把すぎる。だが潜入のために用意してもらったスーツは気に入った。デッドプール・フォーマル・スタイル。社交用のフォーマルスーツだ。表がブラックで裏地はレッドなのがベリークール、フード付きなのもベネ、まさに俺ちゃんのためのコスチューム。今回の任務が完了したらTVAから買い取ろうと思っているくらいには大好きだ。
 入場チケットと入れ替わりにジャケットの内ポケットから写真を取り出し、標的の顔を確認する——

 おっと、テンションが上がって忘れてた。
 ごめんね。あらすじの説明に入るよ。

 写真のこいつはドン・赤ちゃんバンビーノ——本名は忘れた、どうせ最後まで判明しないので気にしなくていい。大柄な体にグレーのビジネススーツを着た白人で、禿頭の側面から後ろにかけてびっしりとドラゴンのタトゥーが彫られている。日本のヤクザみたい、つまりは頭がトレードマークだな。某大手製薬会社と裏で手を組んでいる明らかにヤバそうなマフィアのボスであり、TVA的にはその会社で行われている実験が「超長期的な目で観察すると他アースにとって非常に不利な要素」らしい。だからこのバブちゃんを発見・拉致し、研究施設の場所を吐かせて破壊する……というのが今回のミッションだ。
 TVAが事前に収集した情報によるとドン・バンビーノは折り紙付きのギャンブラーで、特にこの地下カジノによく姿を現すらしい。他にもこいつについて諸々の情報提供があったのだが、今回のストーリーには深く関わらないので割愛する。赤ちゃん野郎は賭博狂い。それだけわかっていればノー・プロブレムだろう。
 カジノをぐるりと一周してみたがバンビーノの姿は見当たらなかった。まだ来ていないのか、オムツ替えに手間取ってトイレから出てこられないのか……レストルームを覗いてみたが誰もいない。ついでに鏡の前で一回転。フォーマルスーツ、マジで最高。
 ホールに戻りながらどうしたものかと首を捻る。ミスター・ベイビーはまだ来ていないに一票、暇潰しが必要だ。目の前にはカードゲーム用のテーブルやスロット、ルーレット、その他カジノには定番であろう物品の数々……とどのつまり、やることはひとつ。
 俺はジャケットの襟を整えながら未知のジャングルに足を踏み入れた。即ち賭博の世界だ。暇だし遊んでいこう。まあ、俺ちゃんは日々徳を積んでいるし? こういう場面でもうっかりミラクルな活躍を……

「ああ! クソーッ!」
 また負けた!
 ただのルーレットなのにどうしてこんなに負けるんだよ、勝率は五分五分だろ!
 しかし喚くのは見苦しいしカジノのマナー違反だ。惨めなとき、悔しいときほど潔くかつクールに去るのがデップー・フォーマル・スタイルの信条なのである。
 テーブルから離れてとぼとぼと通路を歩く。バンビーノの坊主もまだ来ていないようだし散々だ。今日の損失は全部TVAに請求してやる。
 ルーレットはもういやだ、視界にも入れたくない。他に遊べるものは無いかと会場を見回した。横長のテーブルが等間隔で並び、ディーラーと複数のプレイヤーで囲んでカードゲームに興じている。ブラックジャック、バカラ、ポーカー……。ぴたりと足を止めてある後ろ姿に釘付けになる。無論、ターゲットの赤ちゃん野郎ではない。だが近付くにつれて疑問は確信を帯びていく。見覚えのある背中だ。
「ここ空いてる?」
 奴の隣、テーブルの右端が空いていた。椅子の背もたれに手をかけて問うと、カードを切っていたディーラーが構わないとジェスチャーで示してくれた。
「どうも」
 隣に座っていた男がちらりと視線を上げてこちらを見る。ハァイ、と軽く手を振って挨拶したが、奴は眉間に刻んだ皺を一層深めただけですぐに視線を逸らした。片目に巻いたアイパッチ越しでも獣のような鋭い視線は相変わらず。奴が咥えている葉巻のせいで周囲は少し煙たい。トレードマークの変な髪型と、遠目でもよく目立つ白いスーツを颯爽と着こなしていたのでひと目でわかった。
 このアースのローガン——ウルヴァリンだ。
 椅子に座り、脚が低かったのでテーブルの角に両足を投げ出す。他にもぞろぞろ人が集まってきてゲームが始まった。プレイヤーは全部で五人、遊ぶのはポーカーの一種であるテキサス・ホールデム。ルールをよく知らない読者諸君に向けて説明すると、プレイヤーの手元に裏向きで配られる二枚の手札と、表向きで場に出される三+一+一の全プレイヤー共通カード(一般的にコミュニティカードなんて呼ばれる)を組み合わせて強い役を作るゲームだ。近年のポーカーにおいては最もポピュラーなルールである。カードの強さや役の組み合わせについては説明が面倒なので各自ブラウザーを開いて都度検索しろ。個人の解説サイトでもユーチューブでも分かりやすいほうで見な、あるいは雰囲気で読み流せ。
 俺とウルヴァリンが指定されたのでブラインド——紹介していない単語を早速出してしまったが、つまりはローテーション方式に強制で徴収される賭け金だ——としてのチップをベット。それからディーラーがプレイヤーに手札を配った。左手で他プレイヤーに見られないよう囲いを作って端をこっそりめくり、カードを確認する。ダイヤのエースとクイーン。二枚とも強い数字だ。
 投降フォールド、と聞こえてプレイヤーが一人降りた。次の一人は続行コール、その次はフォールド。俺の番だ。チップを掴んで投げ出す。
「コール」
 ウルヴァリンも即座に俺と同じ選択をした。
 プレイヤーは残り三人。全部で五枚あるコミュニティカードのうち、最初の三枚が提示される。
 ハートのエース、スペードの7、スペードの8。
 手持ちであるダイヤのエースと組み合わせてワンペアを作れるし、数字も強い。
「コール」
 俺が答えてすぐ、ウルヴァリンも同額のチップを卓上に投げた。
 次のプレイヤーは迷っている。俺とこいつが降りないことを即決したので強い役ができているか、あるいはブラフなのか警戒しているのだ。
 向こうが迷っている間、首を傾けて隣の様子を伺った。奴はぷかぷか葉巻を吹かし、ごく自然に正面の斜め下へ視線を落としている。俺はそっと身を乗り出した。
「もしもしクズリちゃん。俺のこと覚えてる?」
 返事は無し。俺はやれやれとジェスチャーつきで肩を竦めた。迷っていた例のプレイヤーはコールを宣言し、降りないことを選択した。
 ディーラーが四枚目のコミュニティカードを提示する。
 クラブのエース。
 マジかよ。ルーレットに吸われまくった運がここに来て一気に戻ってきたらしい。これでこっちの手札はエースのスリーカード、なかなかに強い役だ——俺ちゃんの番。
増額レイズ
「リレイズ」
「はあ? マジかよ」
 賭け金を増額のさらに増額? 思わず漏れた呟きが聞こえたのか、今回も即答してみせたウルヴァリンは多額のチップを投げて肩を竦めてみせた。さっきの俺の真似だ。
「死人が話しかけてきたかと——
 と葉巻の灰を灰皿へ落としながら言う。「あのとき頭を刺したはずだが」
……俺はあんたと同じだ。何をされても死なない不死身ボディを持ってる」
 俺の回答に奴はふんと鼻を鳴らした。
 最後の一人は判断を迷っている。
「この前は俺を探していたな」
「そ、俺ちゃんの相棒にってね」俺はテーブルから足を下ろして頬杖をつき、相手に向き直った。「けど今回は別の用事だから安心してよ、単に知り合いがいたから声をかけただけ。相棒も別のアースで見つけたし」
 奴は葉巻を咥えた。肺に有害な煙をたっぷり吸ってたっぷり吐く。そういえば俺の知っているこいつはふだん煙草を吸わないな、と今更ながら気付いた。こっちに漂ってきた煙を片手でぶんぶん払い除ける。ウルヴァリンは今度こそ会話をするために息を吸った。
「お前の相棒はついてこなかったのか」
……んー」
 回答に数秒のためらいが生じた理由——本当は誘うつもりだったのだ、一応。
 だがローガンのおまぬけ野郎は前日の夜に酔い潰れて爆睡しやがっていた。いくら耳元で大声を上げて往復ビンタをお見舞いし、フライパンを叩き鳴らしても唸るだけで目覚めやしない。とうとう堪忍袋の緒が切れた俺はフライパンとおたま、それとスーツの上に着ていたフリルたっぷりのエプロンを床に叩きつけ、仕方なく一人で任務へ行くことにしたのだった。
「意見の些細な相違ってやつだ。心配するなよ、俺と相棒はうまくやれてる」
 俺の言葉に奴は再び鼻で笑った。「そいつはどうだかな」
 ……ム。
 フォールド、とようやく声が上がった。
 残りのプレイヤーは二人、俺とウルヴァリンだけとなる。最後のコミュニティカードが提示された。
 スペードのジャック。
 俺が作れる役はエースのスリーカードで確定だ。
 コール? それともレイズで勝負に出て蹴り落とすか? あるいは……。ちらりと隣を盗み見るが、奴はもう正面に視線を戻していて、会話に花を咲かせるつもりは無いらしい。
 俺の手札はかなり強いから降りるという選択肢は無いように思える(親愛なる読者諸君に忠告。ここから四つめの段落までは冗長なので読み飛ばしたほうがいい)のだが、向こうの手札が気掛かりだ。さっきのターンであいつは賭け金を上乗せしやがった。つまり、自分の手札に自信があるのだ。あるいはブラフの可能性もあるが、となるとどこまで裏をかけばいいのか分からなくなってくる。そこがポーカーの醍醐味であろう心理戦の面白さなのだろうけれども。
 場に出ているコミュニティカードを改めて整理するとハートのエース、スペードの7、スペードの8。それからクラブのエース、スペードのジャック。ここから俺のスリーカードよりも強い役が作られる可能性は?
 フルハウス——スリーカードとワンペアを組み合わせた役——はあり得ない(まだ真面目に読んでるの? 役がわからない読者はさらっと読み流す段落だぞ)。コミュニティカードにはエースのワンペアしか揃っていないし、こっちがエースを一枚持っている。同じ理由でフォーカードもあり得ないだろう。あとはストレートフラッシュ——同じスートで数字が五つ連続している役——ならあり得る。奴がスペードの9と10を持っていれば、コミュニティカードの7・8・ジャックと組み合わせてストレートフラッシュの完成だ。
 ストレートフラッシュが揃う確率は非常に低い(この真面目ちゃんめ)。けれど、もし揃っていたら? その上でこっちを挑発して勝負に乗せようとしていたら? でもスリーカード以上の役なんてそうそう……考えは堂々巡りでめまいを覚えるほどだ。クソ、こういう細かい考え方は苦手なのに。いつもなら銃で頭をリセットしているところだ。
 疲れた(おかえり)。もう一度ちらりとウルヴァリンの方を見遣ると、視線がかち合った。葉巻を吸いながらにやにや笑っていやがる。挑発しているのだ。
…………レイズ」
「フォールド」
 俺の選択を聞いた彼が答えて二枚の手札を表に返す。ハートの2とクラブの9——ブラフだ。相手が勝負から降りたので俺の勝ち。ディーラーが卓上のチップを集め、俺の目の前にまとめて重ねていった。
 滅多に使わない頭脳を酷使したので本当に疲れた。これだからポーカーは苦手だ。頭からずり落ちかけていたフードを深くかぶり直すと、横から視線を感じた。
「土壇場に入らないと勝負に出ねえ。案外にビビリだな」
「うるせえおじいちゃん。こちとらルーレットで大敗してんだわ、慎重にもなるだろ」
「ルーレットで? 馬鹿言え、勝率は五分五分だろう」
 俺は黙って首を振った。言い返したところで馬鹿にされるに違いない、どの世界のウルヴァリンも大抵はそうだ。案の定、俺が乗ってこないと知るや、奴はつまらんとでも言うように鼻を鳴らして話題を変えた。
「それで、お前の言う用事ってやつは何だ」
「ちょっとした人探し」やっぱり俺の足が長いばかりに椅子が低すぎる。テーブルの下で足を組んで素っ気なく答えた。「そっちこそ毎日カジノに入り浸って、いったいどんな用事なわけ?」
「こっちも人探しだ。だが、こいつがなかなかに暇なものでね」
 奴は表情筋をぴくりとも動かさずに正面を向いたまま答えた。「なあ新入りさんよ。お前も時間があるならひとつ、暇潰しに付き合ってくれねえか」