kikou
2024-08-25 18:04:12
2038文字
Public 企画_祝福の花束
 

企画 [祝福の花束]、お題 [夏]
で書いたやーつ。2pはおまけ

 雲一つない青い空に燦々と輝く太陽。その下には焼けた砂利道が広がり、かさついた背丈の低い草がまばらに生えている。月の国に住んでいるオズバートから見れば、夏の国のこの景色は物珍しい。普段の彼なら時間を少しもらってスケッチの一つくらいはとっていただろう。だが今の彼にはそんな余裕がなかった。時間ではなく気力や体力的な意味での余裕が。
「うわぁ、先生バテバテじゃない」
少し前を歩いていたはずのセシリアが項垂れながら歩くオズバートを覗き込んで言う。
「聞いてはいたんだけどね。こんなに暑いとは……
「ほんと……。そういえば、暑さをやわらげる魔法もあるんでしょう? 貰った本に載ってたわよ」
「読んだならわかるだろう? あれは使っても快適になるのは本人だけさ」
他人に使える魔法もあるにはあるが、彼女の言う魔法に比べると少し高度だ。彼女だって暑いだろうから、どうにかしてやりたいとは思うが、オズバートはそこまで器用ではない。逆に風邪をひかせてしまうことだってあり得ると――。つまり、自信がないので他者へも使える魔法のことは隠蔽した。難易度の低い魔法ばかり載っている初心者用の本しかセシリアには渡していないので、今の彼女はそれを知る由もない。
「そうなのよねぇ~はやく覚えなきゃ。まぁ私にはこれがあるからまだ大丈夫かな」
『これ』と、言いながらセシリアは差した日傘をくるくる回す。
「だから私に遠慮なんてしないで、先生は魔法使ってもいいのよ?」
「遠慮はしてな……いや、してるか。弟子の君だって暑いのに、師匠だけ涼しげにするのはねぇ。まぁ君がその魔法を使えるようになったときには使うさ」
「自分の体調を人質にして圧をかけてくるなんて……
「あぁいや、そんなつもりは……。ほら、他にもメリットは色々あるよ? 汗をかいたあとのビールは特段に美味しいとか」
「先生アルコール駄目じゃない」と、セシリアが訝しげに言う。
……君、案外僕のことに詳しいじゃないか」
「まぁね」
なぜかセシリアは満足げだったが、それもつかの間、何かを考え込みはじめ、またすぐに何か思いついたらしい。ぱちんと手を打つ様子をオズバートはただただ、なんでこんなに元気なのだろう、と眺めているだけだ。
「私のせいで魔法を我慢している先生に、これを貸してあげるわ」
セシリアがオズバートの頭上に何かを押し付ける。
「魔法の代わり。少しはましになると良いのだけど」
押し付けられた物が帽子の類だと理解したオズバートはさっきまで彼女の頭の上にあったものを思い出す。りぼんがひらひらした麦わらの――
「あーこれはちょっと僕の趣味じゃないかも……
「そうかしら。似合ってるっ……ふふっ」
視界にちらつく装飾をいじるオズバートを見て笑いを堪えきれなかったらしい。噴き出したあと「んんん!」と息を整えたセシリアは背伸びしながら日傘を傾けた。
「ほら、これなら大丈夫! ばっちり隠れるし……! 大丈夫!」
「外に見せられないレベルだってことは理解した」
「言うほど悪くはないわよ?」
「どの口が……。僕はこれよりも、こっちの方がまだ良いかな」
オズバートは帽子をセシリアの頭上に戻すと、代わりに日傘役を引き受けた。