あいづき
2024-08-22 15:02:59
Public TRPG(CoC)関連
 

在りし日の景色

VOID 現行未通過❌
ぼに関連の二次創作



孤独な月

 全く違う存在である自覚はある。
 否。
 違う存在でありながらも、同一性を担保している自覚がある。
 と言ったほうが恐らく語弊が少ないだろうか。
 もう既に「人間」の有馬尤斗は存在しない。けれど確かに「アンドロイド」の尤斗は存在している。私は、どちらも私であると認識しているからこそ、あの時蓬莱の問いに対して「有馬尤斗」だと答えたのだから。ああ言えば恐らく蓬莱は私を手放すと思っていたのに、大きな誤算だった。蓬莱が私を感情的に、直接手を差し出すとはあの時の私は思って居なかった。
 恐らく既に、彼の中の有馬尤斗よりもアンドロイドの尤斗の方が比率が大きかったのかもしれない。覚えているのかすら、恐らく断片的であろうからそれに対して責めたりはしないしするつもりもない。生命を賭した有馬尤斗は、誰かの記憶の中にしか存在しないのだから。
 けれども、あの時確かに嬉しいと、素直に思考する自分が居た事に自分で驚いている。この思考を感情と結論を出すのであれば、私は世間で言う「感情を有したアンドロイドである」と定義出来るだろう。蓮を見て、赤星を見て。二人を見た上であの時の対話を通じて蓬莱は私を「感情のある存在だ」と定義をした気がする。
 この後も話をしなくてはと思う。蓬莱の思考パターンを理解する為に。彼のパートナーであり続ける為に。

 それを決めた上で、私は知る必要がある。
 有馬尤斗を。
 空白の十年間の真実を。
 リノリウムの床を硬質な靴底がぶつかり、コツンと等間隔で鳴らしながら私は廊下を歩く。手続きは既に青木が手配をしてくれているから、警察のアンドロイドである事を考慮して、本来では面会時間ではない夜時間に面会する事を特別に許されている。但し、月に四回。面会時間は一度に十分未満と言う制約が付けられた状態である。
 外側から見たら、私と被疑者である有馬真二には何の繋がりもない。けれど、一部上層部は私の身体がアンドロイドであり、有馬真二の犯罪の一端である実験の確固たる証拠であるのは知る所であり、それによりこうして面会の許可が降りている部分もある。面会に立ち合う刑務官も、ここには存在しない。私自身が記録媒体であり、録画を必ず提出する事を義務付けたからだ。
 私がアクリル板の外側に用意された椅子に座ったら、向こう側から刑務官に連れられた父が、顔を見せる。
(少し、痩せただろうか……
 そう考えていたら刑務官は私に「終わりましたらいつも通り通信を」とだけ添えて、部屋を出て行く。一人向こう側に残された父は、緩慢な動作で私に向き直り、椅子に腰掛ける。その表情は、諦念を孕んだ笑顔だと表現出来るかもしれないし、父親としての笑顔かもしれない。
 だから、いつも通り私は言葉を掛ける。
「お父さん。今日も、話をしよう」
 私の知らない、記憶の中の有馬尤斗を知る為に。黄海や、母の話を聞く為に。そして、有馬真二と言う人間を、独りにさせない為に。