●隼人の日

この案に、いいねとお前が言ったから、八月十日は隼人記念日
「言わねえよ」
勘弁してくれませんかね、とベッド中段で本を読んでいた隼人がクレームを付ける
「いやだって、語呂合わせ的にお前の名前っぽいし、カレンダー的にちょうどいいかと」
半透明の白い大輪の朝顔が咲く頃のこと
「へいへい、じゃあせいぜい六月三十四日を祝ってやってからにしてもらいたかったね」
そうでなきゃ戦艦武蔵の進水日とか沈没日とかさ
いやそれは、沈んだ日なんて俺達には洒落になんないだろ、特に武蔵の乗組員の証言は凄惨すぎるから。
あれは進水もどっちも秋だなあ、と竜馬は思い出そうとする風だった。
「で、八月十日だったら鳩の日と一緒で」
「嫌だね、あいつらオウム病の一大感染源じゃねえか」
片親を病気で早くに亡くしたという隼人は、こういう部分に多分に神経質だ。平和のシンボルだからといって妥協はしないらしい。
「あとはハートの日だそうだ」
「ン
……?」
思ったんだ、ゲッター1合体時のおおよその心臓の位置にいるのはお前だって。
お前がいるのは、この辺だろう?そう自分の胸に手を当てて示した竜馬に、印字から少しも離れなかった視線が向けられ、気に入らないのか困惑なのか、その切れ長の双眸がゆっくりまじろいだ。
お前が俺の心臓
とんでもない事を言われた、とでもいうように。
●(24.8.10. 隼人の日)
あいつらは一体何なんだい
それが早い内に弁慶が音を上げて、あと二人のメンバーについて、ミチルに聞いたことだった
あの二人だってよくない雰囲気だったのよ、最初のころからかなりの間。今はムサシ君のことで何かあったら今度はっていう勇ましさと恐ろしさで離れられなくなってるのかもしれない、でもそれはじきに落ち着くと思うの、私がそうだもの。
あの二人はそうね、分かり合えたらようやく見つけた相棒みたいな、ずっと探していたのが相手だったみたいな確信で
―――自信かしら安心かもしれない
―――で、もうどれだけ離れても繋がってるみたいになったの
そうなった日、隼人はいつもの鮮やかな色のシャツではなく、枯葉色に装って森に消えたという
それはほんの僅かだが、宿命のように惹き付ける香りを振りまいて、それきり涼しい森の奥に身を休めて待つ蟲のようではなかったか。追って行く色鮮やかな雄を、迎え選ぶのは雌だ、だが彼らは蟲ならぬ身で、結ばれるべき身でもなかったはずだが。
それならその時何があったのか
わからないまま弁慶は見上げた。夏の薄青い木陰に、白い物がもつれるように舞っている。それが雄同士の交歓であることを、さして珍しくもないことを、弁慶の観察眼と知識は見抜いていた。生物としては不毛で限られたはかない命の無駄だ、だがそれが自分にとってなんだというのだろう、彼らが今ああしていることに俺が何だというのだろう。少し遠く、美しいかもしれない彼らが、逃げも隠れもしないのを見届け彼は呟く。
「チョウチョかよ」
はやと!という明るい呼び声が屋敷の方から青空に抜けた。
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