和綺
2024-08-02 22:42:41
6351文字
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#ごうたんか

解説はできないが、話は書ける

そのひとは、大変不本意そうな顔で、そこに立っていた。

「僕と歌姫だよ?」
「対象外ってこと? わかってるわよ」
「いや、そうじゃなくて。だって僕って呪いの申し子みたいじゃない?」
じゅ、っと水色のアイスに噛みつきながら、五条は首を傾げた。
「御三家の人間で、特級で、呪力が桁違いで、ん百年ぶりの六眼に無下限術式の抱き合わせだよ? こんなにも呪いに塗れた存在、レアすぎるでしょ」
「つまり住む世界が違うってことでしょ。だから、それもわかってるって」
「あー、えーと、だから、そうでもなくて」
「? いやならいやでいいのよ」
「いやとかじゃなくて……
あー、歌姫が僕を見ている。五条はざわつく胸を沈めるようにアイスをかじり取っていく。熱さに溶けた水色が、薄い棒を伝って、ぽたりと垂れた。水色に丸く穿たれた地面は熱く、焼けそうだ。
「僕なの?」
「そうね」
不本意だけど、と歌姫は呟いた。本当に不本意そうだけど、伝えないという選択肢を選ばないのはなぜなのだろうか。
「黙っといてくれればよかったのに」
「あんた、これ以上私にストレスかけたいの?」
「え、歌姫ストレス溜まってんの?」
「あー、いいわ。今のなし」
五条は誰にとっても特別だけど、それは特別のうちの何かでしかない。見上げられても、見下ろすことしかできない。誰かたったひとりのための手は、もう持っていない。
「僕も、まぁ、歌姫のことは好きだけど」
「うん?」
ちら、と伺った歌姫の顔は何も変化がなくて、情緒どうなってんの? と五条はサングラスの中の目を眇めた。ねぇ、ほら、僕は、いつだって膜のひとつ上にいるんだよ。
どろりと、水色の液体が手を伝う感覚がある。じりじりと焼けて、べたべたと残る。
「言ったでしょ。呪いの申し子だって。僕の頭のてっぺんからつま先まで、きっと全部呪いに塗れてる。僕の中も外も、きっと全部」
「うん」
「僕は、そういう自分が好きなんだよ」
夢を語ったことがある。夢を見たことがある。そのどれも、五条は六眼を通して、青い世界を描いている。六眼を通すからきっと青い。
溜まる呪力も、磨かれる術式も、育つ肉体と回る脳みそを持って、いつか、大きな穴を穿つためのものだ。
それは例えば、ビルだったり、山だったり、そうして、よく知った誰かの体だったりするんだろう。
喉の奥に甘い水色がいる。じりじりと焼けつくように、べたべたと残っている。
あのとき放たなかった、青も赤も紫も言葉も、放てなかったそれらを、五条は呪いとしか呼べない。おかしな軌道を描いて、何もかも巻き込む、五条が持つ呪いはそういうものだ。
「いつか、全部を呪って殺しちゃうかも」
ぜーんぶ、と広げた腕の先で、残っていた水色のアイスがぐじゅりと落ちた。ぐずぐずと溶けて、じゅわりと染みる。
「いいんじゃない?」
「え?」
小さな鈴の音のようだった。かすかな雑音のような、せせらぎのような声だった。
「一緒に連れて行ってくれるんでしょう」
「え、なに、なんか変な呪いにでもかかってる?」
じっと目を凝らしてみても、あらゆる呪いを看破する目でも、何も見えない。ゆるい、ぬるい、温かい呪力がただあるだけだ。

「馬鹿ね、愛は愛でしょう」

そういうことを言うひとだった。
そういうことを言って、そのひとは、その場に笑って立っていた。


呪を抱き 見る夢の色 六眼の 愛は愛だと 君は笑う