あなたの、キミの味

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。

真夏の暑い日、アイスキャンディーを持ってハ♀の元を訪れたウ教のお話。



人気 ひとけなど全くない、水車小屋の裏手。
小さく、小さくなっている娘背中。

ぎらぎらと焼けそうなほどの夏の陽射しを浴びているのに、今はそれを感じられない。

暑い、というより、体が、胸の奥が熱かった。

長方形になっている木箱にゴミを捨てて蓋をしてから少し歩くと、巨大な木が一本、常に水車小屋を見守るようにそびえ立っていた。

その木の根元の日陰に入りながら、娘は静かに呼吸を整える。

……っ、はあ……! 教、官……

思わず、ぽつりと名を呼んでしまう。
自分でも驚くほど、まだ胸は高鳴り続けていた。

ウツシと愛し合っているし、唇を重ね合うほどの関係なのに、あの時。

あの時はいつもと違う、愛しているからこその本能のように心が たかぶり、妙に甘ったるくも全身が反応してしまうような、電撃にも似た感覚があった。

(……どうしちゃったの、わたし……!)

はあっ、と一度深く息を吐いてから、娘は呼吸を整える。
体が熱に包まれているのは、気温のせいだけではない。

自分は体の芯から、心の底から、ウツシを、愛する人を求めている気がした。

……ウツシ……教官……!」
「愛弟子」
「!」

少し低めに、夏の陽射しの下に響いた声。
愛弟子と呼んでくれるのは、呼んでいいのは、娘にとってウツシだけ。

反射的に目を見開いて彼女が振り返ろうとした時、既にウツシは目の前に居て。
腕を引かれたと彼女が感じた時には、もうそのまま、すっぽりと彼の腕の中に収まっていた。

夏の陽射しを避けた木陰で、汗ばみ始めた男女の体が、ぴたりと密着する。

愛する人の、愛しい感触。

……俺のこと、呼んだよね?」

小さく呟くウツシの声は娘と同じように、夏と異なる熱に浮かされているような甘い響きを帯びていた。

あなたが恋しくて。
あなたが欲しくて。

素直にそう言えたらどんなに楽だろうかと、愛しい人の熱い腕の中で、娘は考えてしまう。

硬い装備品を着けたままのウツシの胸板から、不思議とその心臓の激しい鼓動が聞こえてくるような気がしながら、彼女は微かに頷き、愛する彼の背に腕を回す。

何の合図もなかったはずなのに、二人は同時に見つめ合っていた。

どちらの眼差しも溢れんばかりに互いを希求 ききゅうし、唇は、アイスキャンディーの力でとろりと甘く濡れたまま。

「ッ、愛弟子……!」
「教官……! はあっ、ウツシ、教官っ……!」

どこか、苦しそうに呼び合ってから。
二人は互いの甘い唇を、貪り合うように重ねる。

あまりにも柔らかな、至高の唇。

互いにそれをんでいると、現実から隔離され、まさに時が止まったような感覚になる。

愛していると、告げるより先に。

娘もウツシも、目の前にある魔性の魅力を持つ欲求に あらがうことなく、求め合った。

蜜柑の舌と檸檬の舌がぬるりと絡まって、極上の果実の味となり、背中がぞくぞくと震えてしまう。

娘は瞳を閉じ、ひたすら愛するウツシを貪った。

甘い。

甘い、あなたはこんなにも甘い。

いつもこんなに甘かっただろうか。
どうしてこんなに。

何もかも、全てが甘い。柔らかい。

それは、あなたのくれたアイスキャンディーの甘さが序の口に感じるほどで。

溶けてしまいそうなほど。
脳が中心部からぼやける、甘ったるい心地さ。

呼吸のために、一度、顔を離す。

はあっ、と蕩けそうな呼吸が、整えられるように重なり合った。

「っ……ふうっ……! 愛しています、教官……!」

汗の滲んだ顔、潤んだ瞳で、 まばたきも忘れ。

娘はウツシと鼻先を触れ合わせ、息遣いを感じられるほどの目の前で、愛を告げた。

いつも優しく笑ってそれに応える彼は、今は情熱的な陰りのある金色 こんじきの瞳と表情で、射抜くように、真っ直ぐ愛する人を捉えていた。

「愛……弟子っ……! 俺、だけの……可愛い、愛しい人よ……!」
「きょう、かん……!」
「待って……名前……俺の名前を呼んでっ……!」

眉根を寄せ、頬を赤く染めながら汗ばんだ表情のウツシに囁かれた娘は、全身をぶるりと震わせた。

その声色は、ぼやけた脳を瞬く間に痺れさせ、腰が砕けそうになる。

「ウツシ、教官……! ああ、ウツシ教官……! ずっと、ずっと愛して……ウツシ、さんっ……!」

求めに応じるように娘が何度も名を呼び、先ほど告げられなかった愛も告げると、ウツシは目を細めてとろんとしながら「ありがとう……」と微笑む。

夏の陽射しをまるで感じないのは、きっと、木陰に居るからだけではない。

そんな中、彼は突如として、どこか困ったように、見方によってはまるで甘えるように眉を下げる。

……もう一回、しよ?」
「え……?」
「大好きなキミと……もう少しだけ、したい」
「! あ……

何を、と問うのも愚かなほど明白な欲求に娘が頬を緩ませた時、彼女を抱きしめるウツシの両腕に、微かに力が込められる。

ゆっくりと、彼の片手が動いて、彼女の後頭部にひどく優しく添えられた。

「今度は、もっと優しく……ね?」

微笑みながら「愛してるよ」と足したウツシの瞳の穏やかさの奥。

その金色の瞳に、密やかに揺らめき燃えている焔を察した娘は、切ないほどに、きゅんと甘く心を震わせながら嬉しそうに目を細める。

いつも、彼が伝えてくれるように。
言葉だけではなく、行動でも。
あなたを愛している、と何度でも伝えたい。

「ウツシ教官……ッ!」

愛しい名を呼べば、更に、胸がいっぱいになって。

激しく心を揺さぶられながら、彼女はウツシの背に腕を回し直してから、自ら顔を近付けて、また彼と唇を重ね合った。

愛してる。
愛してる。

誰よりも、何よりも。

何度伝えても足りない。
愛の深さを、想いの強さを示したい時ほど、言葉の力の無力さを痛感する。

愛しているから、だからこそ欲しい。
あなたが、キミが、何より欲しい。

同じ想いが、共鳴するように通じ合う。

二人は唇が重なってから、静かに目を閉じた。

時の流れが、些末 さまつな問題に思えるほどに。
お互いの中の深い想いを、注ぎ合うように。

深く、深く、今まで以上に、とても深く。

優しく、でも、重ね合うだけ。

気が付けば、甘ったるい果実の味はもうとっくに薄れていて。

愛する人の味だけが、 かぐわしく広がっていた。



@acadine