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沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
あなたの、キミの味
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
真夏の暑い日、アイスキャンディーを持ってハ♀の元を訪れたウ教のお話。
1
2
3
「ん、ん
……
」
吐息混じりに漏れる、娘のくぐもった声。
それが耳に響いた時、ウツシは改めて目の前の、愛する人の様子を見つめた。
彼女は双眸を閉じ、長い
睫毛
まつげ
を震わせながら、頬だけではなく耳まで赤くし、差し出されたアイスキャンディーを咥えている。
(あ、あれ
……
!? 俺
……
もしかして
……
!)
はっ、としたようにウツシが目を見開く。
(しまった、つい小さい時の感覚で
……
!)
自分が今、愛する人にさせていること。
目の前にいるのはあの頃の幼い彼女ではなく、既に、自分と将来を誓った女性なのだと。
稲妻のような衝撃が全身を駆け巡ったような気がしたが、その時にはもう遅く。
「ん
……
んむぅ
……
!」
ウツシの愛する娘は、アイスキャンディーを咥えたまま、小さな声を漏らし、小さな舌をちろちろと上下させて味わっている。
非常に恥ずかしそうにしていた彼女だが、次第に夢中で舐め始めていた。
自分の中に芽生えかけた欲望ごと呑み込むように、ごくりとウツシが息を呑む。
こっちも食べてみないかと自分で言った手前、ウツシは彼女が口を離すのを待つしかないが、その景色は彼女を深く愛している今、あまりに魅惑的に映って仕方ない。
(ち、違うっ
……
! 俺は、ただ
……
! ただ、彼女にアイスを味見してもらってるだけだぞ
……
!)
自分の中に広がりそうな、今は不要な感情を抑え込むように、ウツシは不自然にきゅっと唇を噛み締めていた。
やがて先程の彼のように娘が、はっと目を見開く。
アイスキャンディーから、ウツシと唇を重ねた時にしか感じられないはずの、甘酸っぱくて、脳が蕩けるような至福の味がしたような気がして。
気付けば、夢中で舌を動かしてしまっていたから。
慌てて彼女がアイスキャンディーから口を離すと、ちゅぷ、とウツシの心を
煽
あお
るような水音が響いてしまう。
彼女は赤い顔のまま、はにかんだ様子で、自分の唇を舌でぺろりとなぞるように舐める。
先ほどまでウツシの食べかけのアイスキャンディーを舐めていた、彼の心を魅力する舌。
その仕草に彼の胸が更に高鳴ったことには、彼女自身は気付いていない。
「お
……
美味しかったです、ウツシ教官
……
!」
ごちそうさまでした、と言葉を足して、上目遣いにウツシを見上げる娘の顔はまだ赤い。
恥じらいからか、溢れる別の想いからか、その瞳は微かに潤んでいた。
それを見たウツシの頬も、彼女に負けず劣らず、すっかり赤く染まっている。
彼はまた不自然に、今度は「ふーっ
……
」と深く息を吐き出してから、愛する人へ微笑んだ。
「──ッ
……
! キ、キミの口にも合って良かったよ、愛弟子! 檸檬味は爽やかだし夏にピッタリだよね! い、今更だけど、俺の食べかけでごめんね!?」
「
……
き、教官
……
!」
「あ、暑いとさ、こういう甘酸っぱいものが食べたくなるよね! こんな風に冷たく、手軽に食べられるのはやっぱり嬉しいなあ!」
「ウツシ教官っ!」
「へうっ!?」
間の抜けたウツシの声か、場にひやりと響く。
取り
繕
つくろ
うかのような彼の語りを
遮
さえぎ
って名を呼んだ娘が、愛する彼の顔をじっと見つめる。
「あ、の
……
! 良かったら
……
教官も、わたしの
……
少し食べてみます、か?」
「! あ
……
」
赤い顔のまま、娘が先程のウツシのように、彼に自分のアイスキャンディーを差し出す。
溶けかけた棒状の橙色のそれは、彼女の手元付近で雫が
滴
したた
り、土間に垂れしまいそうなほどで。
ウツシはまた、ごくりと息を呑んだ。
自分でも驚くほどの、熱い衝動に駆られる。
早く目の前のものを味わいたくて仕方なかった。
「
……
溶けちゃうよ、愛弟子
……
!」
溶けるのはアイスキャンディーなのか、それとも、自分の理性なのか。
囁きながら、ウツシは空いていた片手で愛する人のアイスキャンディーを持っている手首を優しく掴むと、そのまま、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。
「っ、あ
……
! きょ、うか
……
!」
細く
驚声
きょうせい
をあげた娘だが、お構い無しに、ウツシは彼女のアイスキャンディーを持っている手に舌を伸ばした。
彼のぬらりとした長い舌が、彼女の指ごと、溶けかけた氷菓を下から上へ大きく舐め上げる。
「ひゃっ
……
!? んっ
……
!」
氷菓よりも甘い声が、ウツシの耳に響く。
彼はもう一度、別の角度から下から大きく舐め上げ、先端をぱくりと頬張ると、じゅる、と水音を立てて少し強めに吸い上げる。
「んん
……
! っふ、はぁ
……
! 愛弟子の
……
美味し
……
!」
吐息混じりのウツシの声は、娘の耳に格別に甘く、熱く響く。
愛する人の唇に包み込まれているアイスキャンディーが、彼女には妙に羨ましく思えてしまった。
(な
……
にを
……
! 何を考えてるの、わたし
……
!)
どくん、どくんと心臓が激しく脈打ち、顔が熱く、娘はウツシから目を離すことができない。
ほどなく「ぷは
……
」とウツシが口と顔をアイスキャンディーから、そして彼女の手首を掴んでいた手を離すと、アイスキャンディーの先端と彼の唇に、煌めく
銀糸
ぎんし
の橋が短くかかって、ぷつりと消えた。
「フフ
……
愛弟子の
……
甘ぁい
……
!」
低く囁きながら、愛する人を捉えるウツシの心臓は
早鐘
はやがね
を打ち、目は、どこか悩ましげに蒸気していた。
どこか
蠱惑的
こわくてき
なその視線に影響されたように、娘の目も潤み、まるで酒でも飲んだ後のように体中の血流が早くなる。
氷菓で涼をとっているはずが、互いに、体中がとても熱くなったような気がした。
先にアイスキャンディーを食べ終わった娘のオトモアイルーとガルクが、まるで場の空気を察したかのように、食後に残る棒を持ったまま、
囲炉裏端
いろりばた
の板の間の隅で、重なり合って丸くなる。
ボクたちは邪魔はしないし、見てもいない、とでも言わんばかりの様子だ。
二匹が動いた気配を察して、娘とウツシがはっとしたように、またそれぞれの自分のアイスキャンディーの残りを頬張る。
「ンンッ
……
! お、美味しいね愛弟子! すごく美味しい! 蜜柑味も甘くて最高ぉお!」
「は、はい! 冷たくて甘くて最高です、教官!!」
先ほどよりも速度の上がった、しゃくしゃくしゃく、と二人のアイスキャンディーの
咀嚼音
そしゃくおん
が、水車小屋の低音と重なるようにして響き渡る。
食べる音で、破裂しそうな心音が誤魔化せている気がした。
同時にアイスキャンディーを食べ終わった二人だが、娘が先に立ち上がる。
「わ、わたし、アイスの棒、捨ててきます! ウ、ウツシ教官のも捨ててきますね!」
「あ、あっ!? う、うん、ありがとう!」
勢いに押されたようなウツシの手からアイスキャンディーの棒を受け取った娘は、板の間のオトモたちにも「ゴミちょうだーい!」と呼びかけ、二匹からも棒を回収する。
「な、夏の間は小屋の裏にゴミを捨ててあるんですよ! わ、わたしちょっと捨ててきますね!」
「あっ
……
! ま、愛弟子!」
まるで逃げるように アイスキャンディーの棒を四本と、それが包まれていた竹皮を持ち、娘は
草履
ぞうり
で開け放たれた玄関から走り去ってしまう。
ウツシが呆気に取られていると、彼は不意に、娘のオトモアイルーとガルクから、非常に冷ややかな視線を浴びせられている気がした。
やがて、ぺたぺたと彼女のオトモアイルーがウツシの傍に歩み寄ってくる。
「早く追いかけてあげて下さいニャ。このままじゃご主人は生殺し状態ですニャ」
「うぅ
……
お、俺のせい、かな?」
「他に誰が居ますニャ?」
「ううー
……
! つ、つい、昔の感覚が
……
」
「
……
ご主人は、きっとウツシ教官が思ってる以上に、ウツシ教官のことが、ホントのホントに大好きですニャよ」
「ううぅうう!」
唸
うな
りながら、ウツシが立ち上がる。
彼は、叫びたい気持ちを抑えていた。
きっと俺も、愛する彼女が思っている以上に、ずっとずっと、心の底から溢れんばかりの想いが
迸
ほとばし
りそうなほど、彼女が大好きで、愛していると。
勢い良く立ち上がったウツシは、オトモたちの方に振り返り「ありがとう!」と告げ、小屋の裏手に向かった娘を、追い弾け飛ぶように外へ駆け出した。
彼女のオトモアイルーとガルクは、顔を見合わせ、やれやれ、とばかりに首を横に振って、また同じところで丸くなった。
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